【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚140.勇者たちは再び共に活動するらしい

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 ドラゴニア王国の最南端を治めるドラン公爵の領都ドランには、先代公爵が囲っていた妾のために建てた屋敷が集まっている区画がある。
 その区画にある立派な屋敷の一つを借りる形で、シグニール大陸の今代の勇者たちは暮らしていた。
 今代の勇者は三人いて、その内の一人である金田陽太は朝日が昇ってしばらく経っていてもまだ布団の中で微睡んでいた。屋敷に女性を連れ込む事を禁止されていた彼は、夜な夜な護衛兼監視役でもあるラックという男性と一緒に色街に出かけては夜遅くに帰ってくる生活を繰り返していた。エンジェリア帝国で味わった快楽をいまだに忘れる事ができていないようで、冒険者として稼いだお金の多くが女に使われていた。

「陽太。そろそろ朝ご飯ですよ」

 陽太が使っている部屋の扉の向こう側から誰かの声がしたが、陽太は起きる気配がない。
 当然、そうなる事は扉の外の人物は分かっていたようで、魔法を使って鍵を開けると勝手に扉を開けた。
 部屋の中に入ってきたのは中性的な顔立ちの少年だった。名前を黒川明という。彼もまた、陽太と同じくシグニール大陸に転移してきた今代の勇者だった。今年で二十歳となるのだが、幼さの残る顔立ちをしており、目は大きく長い睫で縁取られている。目と同色の黒い髪は肩に着かない程度に切り揃えられているが、ちょっとボーイッシュな女の子に見えなくもない。体の細さを誤魔化すためか、室内なのに魔法使いが切るようなローブを身に着け、すっぽりと体を覆っていた。
 彼は「朝ご飯の時に話したい事があるって言ってたのは陽太ですよね? さっさと起きてください」と言いながらカーテンを開けて、日光を室内に入れる。金髪の男は掛布団に包まったが、頭頂部だけは布団の隙間から少しだけ出ていた。

「別に話す気がないなら僕たちは構いませんよ。陽太に時間を使っているほど僕は暇じゃないので、朝ご飯は後で食べて片付けも含めてやっておいてください」

 明は陽太の布団を引っぺがす事もせず、部屋から出て行った。
 しばらくすると陽太は唸りながら布団から這い出ると、パンツ一丁のまま部屋を出て彼の後を追う。数々の冒険や鍛錬によって手に入れた引き締まった四肢を隠す事もなく、階段を下りていく。そしてそのまま廊下を進み食堂に着くと、何のためらいもなく扉を開けて中に入った。
 当然、中にいた人たちの視線を集める事になったのだが、彼の姿を見た茶髪の女性は彫刻のように整った筋肉を見惚れる事もなく、眉をひそめた。

「ちょっと陽太、下着姿でうろつくなって言ってるでしょ!」
「うっせぇなぁ、俺がどんな格好で家を歩いていようと俺の勝手だろ」
「ここは姫花の家でもあるんだからね! 強要の場所では服を着て!」

 自分の事を姫花と呼んだのは茶木姫花。この世界にシズトと一緒に転移させられた最後の一人だ。
 普段は茶色の髪を後ろでひとまとめにしてポニーテールにしているのだが、今はまだ下ろしたままだ。
 彼女の手には明が作ったパンにたっぷりのジャムが塗られたものがあり、それを小さな口を開けて一口食べた。
 陽太は文句を言いつつも一度部屋に戻って着替えを済ませ、再び食堂に戻ってきた。
 戻ってくる頃には明は既に食事を終えていたのだが、紅茶を飲みながら本を読んで陽太を待っていた。

「それで、話って何ですか?」

 陽太が席に座り、食前の挨拶を済ませたところで明が本を読みながら話しかけた。どうやら今は過去の勇者の記録について書かれた本を読んでいる様だ。

「これからの俺たちの事だよ」

 陽太はぶっきらぼうに言いながらジャムをパンに塗りたくると、大きく口を開けてパンを齧った。
 姫花はゆっくりとサラダを食べていた手を止め、陽太の方を見た。

「これからの俺たち? その『たち』には姫花たちの事も入ってんの? それともラックさんとの事?」
「俺とお前たちの事に決まってんだろ」
「いや、別に決まってないですけど……まあそこは良いです。人を待たせているので用件は手短にお願いします。あと、姫花は好き嫌いせずに全部食べてください」
「え~、姫花トマト嫌いなんですけどー」
「知ってますよ。だから少なめにしてるんです」

 陽太は口の周りにジャムをつけながらもパンを一気に食べ終わったので目の前にあったソーセージやサラダに手を付け始めた。

「ぶっちゃけ、俺たちの道は今後別れていくよな」
「そうですね。姫花は聖女として、僕は賢者としての道を歩むつもりです。陽太は……冒険者を続けるんですよね?」
「それが一番手っ取り早く金を手に入れながら強くなる方法みてぇだからな」
「だったら新しいパーティーメンバーを本気で探し始めた方が良いんじゃないですか?」
「臨時パーティーに入れてもらっては問題起こしてんでしょ? ラックさんかわいそー」
「ラックが原因もあっからな、それ」

 ラックは名前に反して今まで見た事がないくらい不運な男である、という事は三人の共通認識のようで、陽太の弁明に対して否定する者はいない。

「臨時パーティーを組むのも限界があるのは事実だけどな。だからパーティー募集してるわけだが……やっぱお前らと組んだ方が手っ取り早いって思ってな」
「姫花、聖女としての仕事があるんですけど?」
「使いっぱしりじゃねぇか」
「それでも加護を使っていけば習熟度が上がるんですぅー。それに、シズトのお嫁さんたちの出産の手伝いをしたからそこそこのお金も貰えたし? 冒険者にならなくちゃいけない程切羽詰まってないし?」
「シズト絡みの仕事も一段落したんだろ? だったら半年間くらい冒険者をすればいいだろ。魔物を倒せばなんか強くなるしな」
「残留魔力が関係しているかもしれない、と研究ではありましたね。魔力の元である魔素という概念もあるようですが……」
「そんな事どーでもいいし。危険に身を置く必要性が今はないから冒険者にはならないからね」

 断固として拒否する構えの姫花だったが、明は少し本から視線を話して陽太を見た後、口を開いた。

「悪い話じゃないかもしれませんよ。少なくとも、今の姫花は重症の人を回してもらっているわけではないんですよね?」
「……まあ、そうだけど」

 彼らがいるドランの街にも姫花に加護を授けた神の教会はある。そこに姫花は所属していて仕事を斡旋してもらっているのだが、日々治しているのは比較的怪我が軽い者たちだった。
 勇者の子孫やたまたま加護を授かった者の中には何十年も研鑽を重ね、重症患者を一瞬で直す事ができる聖女もいる。戦争やスタンピードが起これば話は別だが、その者たちで治療は十分できているので姫花の出る幕はない。むしろ、魔力がこちらの世界の住人よりもはるかに多いため、重症患者よりもたくさんいる軽症患者を治した方が効率が良いと判断されたようだ。
 たくさん怪我をした者たちを治せば治すほど習熟度は上がるが、やはり治す怪我の度合いによって使う魔法は異なるので、万が一の時のために重症患者も治したい、と思っていた姫花は強く反論できなかった。

「ダンジョンの中でたまたまであった冒険者たちを治療するのは違法ではありませんし、むしろ推奨されてます。陽太にくっついていってそういう者たちを治せば怪我の度合いが酷い者たちを治す事はできるでしょう」
「そういう事だ。明は俺が理由を言わなくても分かってくれるよな?」
「……まあ、冒険者として活動した経験も何かしらの知識にはなるでしょうし良いですよ。ただ、あくまでシズトの子どもたちの教育係が募集されるまでの間、ですからね」
「わーってるよ。んじゃ、そうと決まれば早速今日から行くぞ」
「行けるわけないでしょ! 今日も教会で仕事があるんだから」
「僕も今日は予定があるので無理です」
「予定っつってもデートだろ」
「デートも大事な予定ですよ。生涯独身の予定の陽太には分からないかもしれませんが……」

 やれやれ、と言った感じで首を振った明。それを見て陽太が切れたのは言うまでもない事だった。
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