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後日譚
後日譚139.事なかれ主義者はいったん保留にした
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新しく用意されたお茶菓子をレモンちゃんにあげながら味わっていると再び扉がノックされた。
部屋付きのメイドさんがゆっくりと扉の方に向かって行ってくれたおかげで飲み込んで姿勢を正す事も出来た。
マルセルさんが連れてきたのは複数人いたが、誰が代表なのだろうか?
マルセルさんに視線を向けると、彼は連れてきた人たちの紹介を始めた。
「彼らは海を渡ってサンレーヌ国にやってきたタルガリア大陸の者たちです。タルガリア大陸の現状は既にお耳に入っているでしょうか?」
「まあ、多少は……」
タルガリア大陸は呪いの信奉者たちに好き勝手荒らされまくった大陸らしい。
自業自得ではあるのだけど、チャム様の布教をするうえで障壁となるであろう場所の一つだ。
「彼らはタルガリア大陸の国々の代表者です。滅んでしまった国オールダムの者もおります」
ぺこりと頭を下げた褐色肌の女性に、僕はとりあえず目礼で返した。つい頭を下げそうになるけど、基本的に頭を下げるのは良くないらしい。気を付けないと。
「彼らの大陸では邪神から加護を授かった邪神の信奉者たちが広範囲で活動し、各国を混乱に陥れておりました。シズト様のおかげで邪神の信奉者は姿を見せなくなりましたが、呪われた者や土地は呪われたままです」
「土地が呪われる……?」
「ご存じありませんか? 邪神の信奉者の中には触れたものを呪う力を持った者もいました。その者たちによって田畑が呪われ、作物が育つどころか、立ち入る事も出来なくなってしまった所が多々あります」
「最高神様の神託によると、シズト様が治めている土地に生えている花を植えれば呪われた土地が元に戻ると聞きました! 是非、その花を譲って欲しいのです!」
「是非私の国に譲ってください! お金ならいくらでも払います!」
「いや、我の国に頼む! 望む物は金でも人でもできるだけ用意しよう」
「我が国には大陸一と謳われている美しい姫がおりまする! 金銀財宝と共に姫も――」
「あ、そういうのは結構です」
……つい話を遮って断ってしまったけれど、可哀想な事をしたかもしれない、と思うくらいには提案していた人の顔がみるみる青ざめてしまった。
そんな彼の前にスッと割って入ったのは様子を傍観していたマルセルさんだ。彼は頼み込んでいた人たちと同じように膝をつき頭を垂れて話し始めた。
「ご気分を害されたら申し訳ございません。タルガリアでは食糧危機に陥るくらい畑が汚染されてしまっているのです。特に農業に力を入れていた者たちにとってはそれは死活問題なので、皆必死なのです。我々も支援はしておりますが焼け石に水の状況で……どうか、ご再考をお願い致します」
「断るつもりは元々ないですよ。もうお嫁さんは十分すぎるほどいるからついそういうのは要らないと言いたかっただけで……。ただ、申し訳ありませんが思い返してみても僕には皆様が欲しているものがどんな物か皆目見当がつかなくて……本当に最高神様が僕の治めている領地に生えている花が解決策になると仰っていたのですか?」
「それは間違いありません。各国の最高神様を祀っている教会の司祭が口を揃えて同じ事を言っていました」
顔が青ざめていた人を押しのけて女性が主張してくるけど、正直どれの事か分からん。
「なるほど……? どれの事かな。ドライアドたちが隠れて育ててるものだったら分かんないけど……。花の名前は分かりますか?」
「これまで下界には存在しなかった花だから名前はないそうです。ただ、シズト様が加護を神々に返還した際、ファマ神が咲かせたものだ、と最高神様は仰っていたそうです」
「あー、あれか」
どういう植物か分からないから調査してもらっていたけど、そういう力があるのか。
……呪われた土地を浄化する、なんてピンポイントな効能、調べ続けても分からないのは仕方ないのでは?
調べている段階で教えてくれてもいいのに、なんて事を思いつつタルガリア大陸の各国の使者たちの訴えを聞き続けた。
食糧問題とかは転移門を設置出来ればよかったんだけど、門の方は確か予備はなかった気がする。
転移陣であればダンジョン攻略する時の事も考えていくつか予備は作っていたけれど、あれは大勢を一気に運ぶ事に適してはいない。精々アイテムバッグの中に大量の食糧を詰め込んだ承認を送り付けるくらいかな。
ただ、食料の援助とか新種の花の取引だとかは僕の手に余る、という事でいったん保留にさせてもらった。
出来るだけ早く対応して欲しい、との事だったので明日再び会う事を約束し、一先ず退室してもらった。
その後も面会を希望する者たちがやってきたが、魔道具の取引に関する事やガレオール主導の交易船団に対する口利きのお願いなどの緊急性の高いものじゃなかったのですべて保留にして後日書面で答える事を約束してお帰り頂いた。
ただ、縁談の申し込みについては相手が僕だろうが僕の子どもだろうがその場でお断りさせていただいた。ジュリウスが何も言わなかったので問題ないだろう。……たぶん。
部屋付きのメイドさんがゆっくりと扉の方に向かって行ってくれたおかげで飲み込んで姿勢を正す事も出来た。
マルセルさんが連れてきたのは複数人いたが、誰が代表なのだろうか?
マルセルさんに視線を向けると、彼は連れてきた人たちの紹介を始めた。
「彼らは海を渡ってサンレーヌ国にやってきたタルガリア大陸の者たちです。タルガリア大陸の現状は既にお耳に入っているでしょうか?」
「まあ、多少は……」
タルガリア大陸は呪いの信奉者たちに好き勝手荒らされまくった大陸らしい。
自業自得ではあるのだけど、チャム様の布教をするうえで障壁となるであろう場所の一つだ。
「彼らはタルガリア大陸の国々の代表者です。滅んでしまった国オールダムの者もおります」
ぺこりと頭を下げた褐色肌の女性に、僕はとりあえず目礼で返した。つい頭を下げそうになるけど、基本的に頭を下げるのは良くないらしい。気を付けないと。
「彼らの大陸では邪神から加護を授かった邪神の信奉者たちが広範囲で活動し、各国を混乱に陥れておりました。シズト様のおかげで邪神の信奉者は姿を見せなくなりましたが、呪われた者や土地は呪われたままです」
「土地が呪われる……?」
「ご存じありませんか? 邪神の信奉者の中には触れたものを呪う力を持った者もいました。その者たちによって田畑が呪われ、作物が育つどころか、立ち入る事も出来なくなってしまった所が多々あります」
「最高神様の神託によると、シズト様が治めている土地に生えている花を植えれば呪われた土地が元に戻ると聞きました! 是非、その花を譲って欲しいのです!」
「是非私の国に譲ってください! お金ならいくらでも払います!」
「いや、我の国に頼む! 望む物は金でも人でもできるだけ用意しよう」
「我が国には大陸一と謳われている美しい姫がおりまする! 金銀財宝と共に姫も――」
「あ、そういうのは結構です」
……つい話を遮って断ってしまったけれど、可哀想な事をしたかもしれない、と思うくらいには提案していた人の顔がみるみる青ざめてしまった。
そんな彼の前にスッと割って入ったのは様子を傍観していたマルセルさんだ。彼は頼み込んでいた人たちと同じように膝をつき頭を垂れて話し始めた。
「ご気分を害されたら申し訳ございません。タルガリアでは食糧危機に陥るくらい畑が汚染されてしまっているのです。特に農業に力を入れていた者たちにとってはそれは死活問題なので、皆必死なのです。我々も支援はしておりますが焼け石に水の状況で……どうか、ご再考をお願い致します」
「断るつもりは元々ないですよ。もうお嫁さんは十分すぎるほどいるからついそういうのは要らないと言いたかっただけで……。ただ、申し訳ありませんが思い返してみても僕には皆様が欲しているものがどんな物か皆目見当がつかなくて……本当に最高神様が僕の治めている領地に生えている花が解決策になると仰っていたのですか?」
「それは間違いありません。各国の最高神様を祀っている教会の司祭が口を揃えて同じ事を言っていました」
顔が青ざめていた人を押しのけて女性が主張してくるけど、正直どれの事か分からん。
「なるほど……? どれの事かな。ドライアドたちが隠れて育ててるものだったら分かんないけど……。花の名前は分かりますか?」
「これまで下界には存在しなかった花だから名前はないそうです。ただ、シズト様が加護を神々に返還した際、ファマ神が咲かせたものだ、と最高神様は仰っていたそうです」
「あー、あれか」
どういう植物か分からないから調査してもらっていたけど、そういう力があるのか。
……呪われた土地を浄化する、なんてピンポイントな効能、調べ続けても分からないのは仕方ないのでは?
調べている段階で教えてくれてもいいのに、なんて事を思いつつタルガリア大陸の各国の使者たちの訴えを聞き続けた。
食糧問題とかは転移門を設置出来ればよかったんだけど、門の方は確か予備はなかった気がする。
転移陣であればダンジョン攻略する時の事も考えていくつか予備は作っていたけれど、あれは大勢を一気に運ぶ事に適してはいない。精々アイテムバッグの中に大量の食糧を詰め込んだ承認を送り付けるくらいかな。
ただ、食料の援助とか新種の花の取引だとかは僕の手に余る、という事でいったん保留にさせてもらった。
出来るだけ早く対応して欲しい、との事だったので明日再び会う事を約束し、一先ず退室してもらった。
その後も面会を希望する者たちがやってきたが、魔道具の取引に関する事やガレオール主導の交易船団に対する口利きのお願いなどの緊急性の高いものじゃなかったのですべて保留にして後日書面で答える事を約束してお帰り頂いた。
ただ、縁談の申し込みについては相手が僕だろうが僕の子どもだろうがその場でお断りさせていただいた。ジュリウスが何も言わなかったので問題ないだろう。……たぶん。
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