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後日譚

後日譚138.事なかれ主義者は優しくしようと改めて思った

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 用意された紅茶もお菓子も美味しかった。ただ、魔道具で淹れたお茶の方が美味しいような気もする。好みの問題かもしれない。

「お菓子はエミリーとジューンさんが作ってくれたのが美味しい気はするけど……これも好みの問題かな」
「れもん」

 肩の上に乗ったままのレモンちゃんにお裾分けをしながら小声でお喋りをしていると、扉がノックされた。レモンちゃんと一緒にシャキッとした姿勢になったところで、部屋にいたメイドさんが扉を開けた。
 こちらの方が立場的には上……なのかな? とりあえず座って出迎えるとマルセルさんと共に部屋に入ってきたのはエルフの御一行だった。金色の髪に緑色の瞳なのはどこのエルフも共通なのだろう。人族のように多種多様じゃないのは何か理由があるのか気になるところだ。
 ただ、今は現実逃避していても戻してくれる人はいないので自分で切り替えて目の前に並んで跪いたエルフたちを見下ろした。

「面を上げてください」

 そう言うと先程まで顔を伏せていたエルフたちが一斉に顔を上げた。視線が一瞬、僕の頭の上に行った気がするけど特に何も言われなかった。
 一歩前に出てきたエルフの……たぶん男性が口を開いた。

「使節団代表のラゼルと申します。都市国家カラバから参りました。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます」

 ラゼルさんとその後ろの方々はほぼ同時に頭を下げて、上げた。少しの間があった後、ラゼルさんが再び話し始める。

「カラバの現状は既にご存知でしょうか?」
「世界樹を切ろうとしてドライアドが怒っている事は知ってます」
「お恥ずかしい限りです。世界樹を育む者であるはずの世界樹の使徒が『もう枯れてしまっているだろうから』と枝を切ったばかりにこのような事態になってしまいました。実行した者や命じた者は既にドライアドや世界樹に住み着いていた魔物によって命を落としております故、責任を取る者が残っておりません。ドライアドと親密のご関係のようですし、是非とも関係の再構築のための橋渡し役となって頂けないでしょうか?」
「んー……無理じゃないかなぁ、どう思う? レモンちゃん」
「れも」
「なんて言っているか分かんないけど……この肩の上に乗っているドライアドは世界樹ユグドラシル周辺で暮らしていたドライアドなんですよ。他の世界樹で暮らしているドライアドたちとも会わせましたけど、なんというか……別種だから意志が共有されてないんですよね。ある程度関係を構築出来ている子たちとは仲良くできますけど、初めましてのドライアドからしてみると僕はそこら辺の人間と区別はつかないから話し合いに持っていけるかすらわからないです。ただ……世界樹を育てる力を授かっている人に協力を打診するくらいはできます」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「あくまで打診ですからね? 協力の確約はできませんからね?」
「それだけでも十分助かります! 我々では他の大陸にいらっしゃる世界樹の使徒様に会う事すらままなりませんから。大陸を自力で渡る事も考えましたが、協力を得られて連れて帰る事ができたとしてもその時に国が残っているか分かりませんから」
「それほど大変な事態になっているんですか?」
「はい。どうやらドライアドたちの力で世界樹を囲う森がどんどんと広がっているんです。街も世界樹の森に近かったところは吞まれてしまい、住処を失ったエルフたちが宿屋で一時的に暮らしているのが現状です」

 思った以上にやばそうだ。やっぱりドライアドは怒らせない方が良さそうだなぁ。

「ギュスタン様がどうするのか次第ではあるけど、いつでも向こうへ行けるようにした方が良いかもしれないね。ジュリウス、船にドライアドっているよね?」
「はい。植木鉢が置かれているので間違いないかと」
「じゃあその子たちが来た時にお願いして、カラバに向かってもらおっか」
「れもん!」
「レモンちゃんでもいいけど、どういう状況か分からないし、会話できる子が良いんだよ」
「…………れもん」
「ごめんね。そういう訳だから、ジュリウスお願い」
「かしこまりました」

 僕たちが小声で話をしている内容は向こうにも聞こえているようだけど、若干緊張した面持ちになっているのはドライアドと一緒に旅をする事を察しているからだろうか?

「聞こえていたかと思いますが、この町からそちらの国まで時間を掛けて移動するほど『生育』の加護持ちは暇ではありません。移動時間の短縮のためにドライアドに協力をしてもらいます。申し訳ありませんがお渡しする植木鉢を載せて世界樹カラバの近くまで運んでください。これがカラバのドライアドたちを鎮める最低条件です。お受けして頂けないようであれば、僕たちにできる事はありませんのでどうぞお引き取りください」
「いえ、大丈夫です! 問題ありません」
「そうですか、それはよかった。ドライアドたちを鎮めた際の報酬は別途頂きますのでご承知おきください。あ、それと……ないとは思いますが、くれぐれもお渡しする植木鉢を傷つけたり、枯れさせたりしないようにご注意ください。理由は、ご存知ですよね?」

 重々しく頷いたエルフたちと話す事は今はこれ以上ないので退出してもらった。
 マルセルさんは次の面会希望者を呼びに行くために再び部屋から出ていく。
 紅茶を飲み干すと綺麗なメイドさんがすぐに寄ってきてお代わりを入れてくれたのでお礼を言っておく。

「それにしても、国の象徴みたいなものを傷つけるなんて……相当追い込まれていたのかな?」
「私にはわかりかねます」
「だよね」

 場所が違えば周辺諸国との関係性も変わってくる。滅ぼされたフソーも、滅ぼした側の国が世界樹に近づく事ができていたら切っていたかもしれない。鎖国をしていたイルミンスールは切る事はなかったかもしれないけれど、他国からの圧力はあっただろう。
 たまたま同じ大陸だったからユグドラシルとトネリコは早期に解決できたけれど、僕がいなかったらどうなっていたか……考えても分からないけれどいい結末にはどこもなっていなかっただろう。
 もう亡くなっている人に当時の事を聞く事は出来ないけれど、こういう事もある、という事をしっかりとドライアド研究の第一人者であるラピスさんに伝えて研究を進めてもらおう。
 そんな事を思いながらしょんぼりしているレモンちゃんを優しく撫でた。
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