上 下
942 / 1,023
後日譚

後日譚130.事なかれ主義者は赤ちゃんたちを見て回った

しおりを挟む
 本館が増築されてから一週間ほどが過ぎた。
 イクオだけではなく、モニカとの間に生まれた千与と、シンシーラとの間に生まれた真もハイハイをして動き回るようになった。真はまだ産まれてから半年も経っていないんだけどこれが普通なのだろうか?
 そんな疑問を抱くけれど、すくすくと健やかに成長しているのなら文句はない。文句はないんだけど、子どもたちが遊ぶために設けた二階の広い和室は塵一つ落ちてないように細心の注意を払っている。
 部屋の四隅に設置してある魔道具『埃吸い吸い箱』のおかげで埃なんて落ちているわけがないんだけど、子どもたちが遊ぶ前には和室に集まってゴロゴロとしているドライアドたちにお願いして乾拭きをしてもらっている。

「よーい、どん!」
「うおおおぉぉぉ」
「負けないぞー」
「これどこまですればいいの~」
「全部って言ってたよー」
「何回するの~」
「ちっちゃい人間さんたちが来るまでだってー」
「みんな呼ぶ~?」
「それもありだねー」
「いや、これ以上人手は要らないから!」

 ドライアドたちに釘を刺しておかないと増援が大量にやってきてしまう。丁重にお断りして、僕もドライアドたちに混じって雑巾がけをするのが最近の朝の日課に加わっている。
 部屋を何度も往復し終える頃には子どもたちを連れたお嫁さんたちがやってくる。ハイハイができる三人だけではなく、他の子たちも全員勢揃いだ。
 当然のようにお嫁さんたちと一緒に部屋に入ってきた義母のパールさんは触れない方が良いのだろうか。
 そんな事を思いつつそれぞれ思い思いの場所でくつろぎ始めた母子の様子を見て回る。
 育生は今日もモリモリと離乳食を食べたはずなのに、ドライアドたちに果物で釣られそうになっている。よく泣く子で人見知りもするのにご飯大好きな子になってしまったのはファマ様の加護も関係があるのだろうか? 体重の増加スピードはだんだん落ちているそうだけど、このままだと真ん丸な子にならないかちょっと心配している。
 まあそれはそれで健康的だから僕は良いんだけど……この世界の価値観としてはあんまりよろしくないみたいだし、これからも運動をしっかりさせよう。最悪太ってしまったら脂肪燃焼腹巻があるからあんまり深く考えなくても良いだろうけど。

「千与は今日も大人しいねぇ」
「私や乳母の後はついて回るんですよ」
「何それずるい」
「母親の特権です」
「もっと関わる時間を増やさなくちゃいけないかなぁ」
「布教活動に支障が出ないようにしてくださいね」

 クスクスと笑うモニカの膝の上で大人しくしている女の子が千与だ。
 モニカと僕の間の子だから目と髪の毛は黒い。育生はレヴィさんに紙の毛と目の色が似ているので名前を海外の人っぽくするべきだったかと思う所はあるけれど、こっちの世界の貴族たちの間では異世界人っぽい名前を付ける事はたまにあるからそこまで気にする事はないそうだ。

「今日はこの後ドワーフの国へ行くんですよね? 千与と一緒にお留守番しておきますので頑張ってください」
「頑張るけどさあぁ。早く千与に覚えてもらいたいんだよぉ」
「だいぶ覚えている方だと思いますけど……」
「そうかなぁ」
「そうですよ。ほら、千与、パパですよー」

 モニカは千与を抱っこした状態で立ち上がると、そのまま僕に差し出されてきた。
 つぶらな瞳にジッと見られる。

「う?」
「はい、かわいい。首を傾げる所があざといね~」

 モニカが近くにいるからギャン泣きされる事はないけど、やっぱり抱っこをすると僕ではなくモニカの方を見て手を伸ばす。
 あんまりこの状態が続くと泣き始めるので早々にモニカに返した。

「わー、にげろ~」
「こっちおいで~」

 ドライアドたちが騒がしいのでそちらに視線を向けると、栗毛色の尻尾をブンブンと振りながらドライアドたちを追いかけまわしている真がいた。女の子だから大人しいとかはないんだなぁ、とか思いながらシンシーラから離れすぎている真をひょいっと持ち上げても、彼女はきょとんとするだけで泣く様子はない。

「もうちょっとこっちで遊んでねー」
「うー」
「そんな心配しなくてもこの部屋だったら大丈夫じゃん」
「もしかしたら人にぶつかるかもしれないでしょ?」
「そこらへん含めても大丈夫じゃん」

 シンシーラは割と放任主義みたいなところがある。放任というより信じて成長を見守っているのかもしれないけど、真がどんな事をしてもとりあえず見守る事が多い。
 僕に真を渡されてもすぐに畳の上に降ろして様子を見守っている。
 真は動くものに強く興味を示す子で、シンシーラがぶんぶんと嬉しそうに振っている尻尾を見て捕まえようとし始めている。時々自分の尻尾を見て捕まえようとするところを見ると狼じゃなくて猫なんじゃないかと思う時もあるけど……イメージの問題かもしれないなぁ。
 そんな事を思っている間に、髪の毛をわさわさと動かしていたドライアドたちに興味が移ったのか、また真がハイハイで遠くへ行ってしまった。
 人見知りしすぎるのも、全くしないのも考えものだなぁ。
 そんな事を思いつつ、まだ人見知りをしない子たちを見て回った。
 ノエルとパメラは赤ん坊を抱いて入るけれど自分の興味を優先しているからちょっと心配だけど、きっと乳母の方々が何とかしてくれるだろう。
 一通り見て回っている間に時間が来てしまったので行きたくないけど僕は部屋を後にするのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...