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後日譚
後日譚128.連れ戻されし神は時間稼ぎをしていた
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まじないの神チャムは長らく下界を混乱に陥れた罰として、最高神の手伝いをする日々が続いていた。
下界で過ごしていた時も神力を使って外の様子を同時に見ていたチャムにとって下界に異常がないか監視するのは、息をするのと同じくらい簡単な事だった。
むしろ昼の間に行っている最高神の手伝いが終わった後の方が苦行だったりするのだが、最高神は全てを知っているはずなのに下界の様子を実況しろという事はなかった。その代わり、最高神の話に適当に相槌をするだけでよかった。
そろそろ今日の分も終わるのか、とこの後の事を想像してため息を吐いたチャムだったが、ふと気になっていた事を思い出して最高神の方を見た。
「そういえば、どこまでアンタの思い通りだったわけ?」
最高神は座布団の上で正座をして茶を啜っていたのだが、チャムに話しかけられたので茶を飲むのを止めた。
「はて、何の事かのう?」
「シズトの事だよ。僕がいる場所をある程度絞って、勇者じゃない奴らを送り込んできてたんでしょ?」
「バレておったか」
「僕の情報収集能力を舐めないでよね」
「舐めておらんとも。下界の様子を監視するのにチャムだけで十分とは思わなかったからのう。下界に降りた事はとても褒められる事ではないが……世界を見通す目を養うには良いのかもしれんのう」
「いや、修行って言って下界に降ろしても僕みたいな事はできるようにはならないんじゃない? そこそこの年月をかけたっていうのもあるけど、ずっと一人で引き籠って外を眺めて過ごしてたからできるだけで、同じ事をさせたら気が狂うと思うよ?」
ただでさえ神々の世界で暮らしている者たちは暇を持て余している。
その暇つぶしで下界を覗き、遊びを学んだり、見どころのある者に加護を与えて様子を見たりしているのだ。
最高神から見つからないように暗闇に潜み、外に出る事もせずに周りの様子を見て過ごし続けたチャムだからこそ今の境地に至れているのだろう。
「っていうか、話逸らさないでくれる?」
「逸らしておらんよ。別に隠す事でもないしのう。じゃが、どこまでが儂の思い通りだったか、と問われると答えに困るのう。偶然が重なっただけじゃったしな」
チャムは下界の監視をするために視線を最高神に向ける事はなかったが、癖になっていた独り言を止めているので最高神は話を続けた。
「世界に求められる勇者以外をこの世界に呼び寄せたのは、世界の発展を促すため、というのは周知の事実ではあるが、未来を見た運命の神からの報告で意図的に送り込む事もある。じゃが、お主は神からの干渉を受けないように潜んでおったから未来視をできなかったようじゃからな。確信があったわけではない。どちらかというと、シズトは世界の発展を促すために勇者のついでに地球の神から預かったんじゃよ。まあ、もちろん潜んでいそうな場所は目星がついておったから順番に送り込んでいたわけじゃが……どこに送り込んでいたとしても時間の問題だったじゃろうな」
「偶然にしては随分とメタられていたような気がするんだけど? 神々でも壊せぬ金属を加工する力に、神の世界に返す魔法具を生み出す力、事後処理として神力で育つ花々を成長させる力って、偶然というには出来過ぎじゃない?」
「組み合わせは儂が選んだわけじゃなくて立候補じゃったからのう。運が悪かったとしかいいようがないわい」
最高神がシズトに促したのは『付与』だけだった。それにたまたま『加工』と『生育』がプラスされただけだ。
生育の加護に関してはチャムがエルフたちの信仰を歪ませるのに一役買っていたのも原因の一つだったわけだが、二柱ともそれには触れなかった。
その後も最高神と駄弁りながらお勤めをし続けたチャムだったが、定刻になっても帰る素振りがなかった。
最高神としては別に困る事はなかったので話し相手になっていたのだが、それも少しの間だけだった。
「チャム! 帰る時間だよ~」
「む、迎えに来たんだなぁ~」
「一緒に帰ろうね……?」
「げっ」
「そ、そんな顔するなんてひどいんだなぁ」
「ほらほら、早く帰るよ!」
「今日もシズトくんの様子を教えて欲しいな……?」
「いや、ちょっとまだ残業があるから」
「そうなの……? じゃあ私もお手伝いしてあげるね……?」
「一緒にやればすぐだもんね!」
「が、頑張るんだなぁ」
「これこれ、嘘は良くないぞ」
「あ、最高神様! こんにちは! こんばんは?」
「ひ、日が暮れ始めてるからこんばんはでいいと思うんだなぁ」
「最高神様、こんばんは……?」
「嘘って何の事?」
「チャムはもう今日の御勤めは終わっておるよ。さっきまで儂と他愛もない話をしておっただけじゃ」
「そうなの? お仕事終わったらすぐに帰ってくるって約束したじゃん!」
「そ、そうなんだなぁ」
「あ~もう、うるさいなぁ。僕がいつ帰ろうと僕の勝手でしょ!」
「そうだね……? だから私たちも迎えに来たんだよ……?」
「い、一緒に帰るんだなぁ」
「早くシズトの様子見に行こ!」
「はぁ。めんどくさいなぁ」
口ではそうは言っていても抵抗しない所を見ると止める必要はなさそうだ、と最高神は判断した。そして、尻尾を三柱に抱えられ、引き摺られていくチャムを笑顔で見送るのだった。
下界で過ごしていた時も神力を使って外の様子を同時に見ていたチャムにとって下界に異常がないか監視するのは、息をするのと同じくらい簡単な事だった。
むしろ昼の間に行っている最高神の手伝いが終わった後の方が苦行だったりするのだが、最高神は全てを知っているはずなのに下界の様子を実況しろという事はなかった。その代わり、最高神の話に適当に相槌をするだけでよかった。
そろそろ今日の分も終わるのか、とこの後の事を想像してため息を吐いたチャムだったが、ふと気になっていた事を思い出して最高神の方を見た。
「そういえば、どこまでアンタの思い通りだったわけ?」
最高神は座布団の上で正座をして茶を啜っていたのだが、チャムに話しかけられたので茶を飲むのを止めた。
「はて、何の事かのう?」
「シズトの事だよ。僕がいる場所をある程度絞って、勇者じゃない奴らを送り込んできてたんでしょ?」
「バレておったか」
「僕の情報収集能力を舐めないでよね」
「舐めておらんとも。下界の様子を監視するのにチャムだけで十分とは思わなかったからのう。下界に降りた事はとても褒められる事ではないが……世界を見通す目を養うには良いのかもしれんのう」
「いや、修行って言って下界に降ろしても僕みたいな事はできるようにはならないんじゃない? そこそこの年月をかけたっていうのもあるけど、ずっと一人で引き籠って外を眺めて過ごしてたからできるだけで、同じ事をさせたら気が狂うと思うよ?」
ただでさえ神々の世界で暮らしている者たちは暇を持て余している。
その暇つぶしで下界を覗き、遊びを学んだり、見どころのある者に加護を与えて様子を見たりしているのだ。
最高神から見つからないように暗闇に潜み、外に出る事もせずに周りの様子を見て過ごし続けたチャムだからこそ今の境地に至れているのだろう。
「っていうか、話逸らさないでくれる?」
「逸らしておらんよ。別に隠す事でもないしのう。じゃが、どこまでが儂の思い通りだったか、と問われると答えに困るのう。偶然が重なっただけじゃったしな」
チャムは下界の監視をするために視線を最高神に向ける事はなかったが、癖になっていた独り言を止めているので最高神は話を続けた。
「世界に求められる勇者以外をこの世界に呼び寄せたのは、世界の発展を促すため、というのは周知の事実ではあるが、未来を見た運命の神からの報告で意図的に送り込む事もある。じゃが、お主は神からの干渉を受けないように潜んでおったから未来視をできなかったようじゃからな。確信があったわけではない。どちらかというと、シズトは世界の発展を促すために勇者のついでに地球の神から預かったんじゃよ。まあ、もちろん潜んでいそうな場所は目星がついておったから順番に送り込んでいたわけじゃが……どこに送り込んでいたとしても時間の問題だったじゃろうな」
「偶然にしては随分とメタられていたような気がするんだけど? 神々でも壊せぬ金属を加工する力に、神の世界に返す魔法具を生み出す力、事後処理として神力で育つ花々を成長させる力って、偶然というには出来過ぎじゃない?」
「組み合わせは儂が選んだわけじゃなくて立候補じゃったからのう。運が悪かったとしかいいようがないわい」
最高神がシズトに促したのは『付与』だけだった。それにたまたま『加工』と『生育』がプラスされただけだ。
生育の加護に関してはチャムがエルフたちの信仰を歪ませるのに一役買っていたのも原因の一つだったわけだが、二柱ともそれには触れなかった。
その後も最高神と駄弁りながらお勤めをし続けたチャムだったが、定刻になっても帰る素振りがなかった。
最高神としては別に困る事はなかったので話し相手になっていたのだが、それも少しの間だけだった。
「チャム! 帰る時間だよ~」
「む、迎えに来たんだなぁ~」
「一緒に帰ろうね……?」
「げっ」
「そ、そんな顔するなんてひどいんだなぁ」
「ほらほら、早く帰るよ!」
「今日もシズトくんの様子を教えて欲しいな……?」
「いや、ちょっとまだ残業があるから」
「そうなの……? じゃあ私もお手伝いしてあげるね……?」
「一緒にやればすぐだもんね!」
「が、頑張るんだなぁ」
「これこれ、嘘は良くないぞ」
「あ、最高神様! こんにちは! こんばんは?」
「ひ、日が暮れ始めてるからこんばんはでいいと思うんだなぁ」
「最高神様、こんばんは……?」
「嘘って何の事?」
「チャムはもう今日の御勤めは終わっておるよ。さっきまで儂と他愛もない話をしておっただけじゃ」
「そうなの? お仕事終わったらすぐに帰ってくるって約束したじゃん!」
「そ、そうなんだなぁ」
「あ~もう、うるさいなぁ。僕がいつ帰ろうと僕の勝手でしょ!」
「そうだね……? だから私たちも迎えに来たんだよ……?」
「い、一緒に帰るんだなぁ」
「早くシズトの様子見に行こ!」
「はぁ。めんどくさいなぁ」
口ではそうは言っていても抵抗しない所を見ると止める必要はなさそうだ、と最高神は判断した。そして、尻尾を三柱に抱えられ、引き摺られていくチャムを笑顔で見送るのだった。
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