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後日譚
後日譚120.事なかれ主義者は散歩をしながら案内した
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作業を終えて、日課のお祈りをし忘れていたのでお祈りをしてから日向ぼっこをする事になった。
世界樹の根元周辺の、畑にされていない場所がいつものお昼寝スポットだ。
フェンリルが近くにいると眠れないかもしれない、と配慮して白い毛玉と化しているフェンリルがいる反対側に敷物を敷いた。
「ほら、パメラ。邪魔だから離れて」
「離れたらおやつをくれるデスか?」
「離れなくても駄目だよ。後レモンちゃんたちも降りてね」
「はーい」
「れもん」
ドライアドたちの方が聞き分けが良い件について。
まあ、彼女たちは屋敷に入る事が目的だから、僕がここで日向ぼっこをしている間は体に纏わりつく必要がないのだろう。
なかなか離れないパメラを、強引に引き剥がしたシンシーラは、彼女と共に屋敷へ戻っていった。
ずるずると引っ張られていくパメラを見ていると、僕の敷物と端っこの方が重なるように敷物を敷いていたレヴィさんが何かを思い出したかのように声を上げた。
「そういえば、オクタビア用の敷物がないのですわ」
「適当にアイテムバッグから見繕えば?」
「好みとかあるかもしれないのですわ! どんなのが良いですわ?」
「特に希望はないです」
「好きな色とかはないのですわ?」
「特別これが好きという物はないです」
特に好みがないというオクタビア様に、レヴィさんはアイテムバッグから敷物を取り出しては見せてを繰り返し始めた。これは長くなりそうだ。
自分だけ履いていた物を脱いで、ふわふわの敷物に足を踏み入れた。
「今日は人が少ないからシズトくんの隣取れちゃった。……ラオちゃんは隣じゃなくていいの?」
「別にどこでも一緒だろ」
「そんな事ないわよ!」
「隣にくるのはいいけど、くっつかないでね?」
「あら、どうして?」
「どうしてって……外で反応したら困るからに決まってるじゃん」
すぐに収まるからいいっていうものじゃない。別館で暮らしている人だって近くを通る事だってあるし、その中にはジューロちゃんやアンジェラ、リーヴィアもいる。間違っても彼女たち三人には見られないように気を付けないと。
納得していなさそうなルウさんにしっかり釘を刺しておかなければ、と思っていたら素足をどこからともなく持ってきた真っ白なタオルでごしごしと拭ったドライアドたちが僕の敷物に侵入してきた。そして、当然のように寝転がった僕の近くに集まってくる。
「……ドライアドたちはよくって、お嫁さんであるお姉ちゃんはダメなんだ?」
「いや、普通に慣れてるし、なにより幼児にくっつかれたくらいじゃ反応するわけないじゃん?」
「勇者様の中にはそういう趣味嗜好の物がいるらしいぞ」
「そうなの!? シズトくん! お姉ちゃんみたいな大きな人じゃなくて小さな子が好みなの!?」
「お嫁さんたちを見たら僕の好みくらいわかるでしょ!? ラオさんも変な事言わないで!」
「安心するのですわ、ルウ。シズトは子どもは好きだけど恋愛対象外みたいですわ。ただ、成人していれば見た目が小柄でも問題ないみたいですわ~」
「成人していればね! だからドライアドたちはくっつかれても平気なの!」
「……この子たちは人間で言うと何歳なんでしょうね?」
……オクタビア様の疑問に答える人はこの場には誰もいなかった。
そこら辺を深く考えたらまた厄介な事になりそうなので僕はとりあえず目を瞑るのだった。
お昼ご飯を食べた後はレヴィさんたちは子どもたちの面倒を見るために別行動となった。
僕もいつもは暇なときは子どもたちの様子を見ているんだけど、オクタビア様がいる間はオクタビア様の相手をするようにとレヴィさんに釘を刺されている。
あんまり情が湧くような事はしない方が良いんだろうけどなぁ、なんて事を思いつつ、特に今日は『天気祈願』をするために他国に行く予定もなかったので、ファマリアを案内する事になった。
護衛としてついて来るのはジュリウスとオクタビア様が連れてきたエンジェリアの近衛兵だ。
エンジェリアの中ではまだ差別意識が薄い人たちを選別して連れてきてくれたそうで、今の所住人とトラブルが起きたという報告は来ていない。
まあ、なんかあったら見えない所で護衛をしているであろう仮面をつけたエルフたちが何とかしてくれるだろう、と思って同行を許可した。
「シズト様、どこいくデスか?」
「オクタビア様にファマリアの案内をするんだから、とりあえずぐるっと一周するよ」
今回、ファマリアツアーに同行するのは、エミリーの前で駄々をこねていたパメラだ。エミリーからは「甘やかしちゃダメですよ」と釘を刺されている。
出産してからそれほど経っていないのに外を出歩かせるのは大丈夫なのか心配だけど、万が一の時はアイテムバッグの中にエリクサーがあるし、離れた所から『聖女』の加護を授かっている姫花がついて来ているので大丈夫だろう。…………たぶん。
「パメラ、約束覚えてるよね?」
「体調が悪くなったらすぐに言うデス!」
「もう一個あったよね?」
「勝手に飛び回らないデス!」
「よろしい。ちゃんと手を握って……って、先に行こうとしない!」
ぐいぐいと引っ張って先に行こうとしたパメラを止めながら、ゆっくりと町を歩く。
周りから視線がものすごく集まっているけど、これはオクタビア様に向けられているのか僕に向けられているのか……後者だな。
見られている事を意識して、オクタビア様のように姿勢よく歩……きたいんだけど、ぐいぐいと引っ張って先に行こうとするパメラを止めるために姿勢が崩れてしまう。
連れてきたのは失敗だったかもしれない。
そんな事を思いながら、オクタビア様にファマリアを案内して回るのだった。
世界樹の根元周辺の、畑にされていない場所がいつものお昼寝スポットだ。
フェンリルが近くにいると眠れないかもしれない、と配慮して白い毛玉と化しているフェンリルがいる反対側に敷物を敷いた。
「ほら、パメラ。邪魔だから離れて」
「離れたらおやつをくれるデスか?」
「離れなくても駄目だよ。後レモンちゃんたちも降りてね」
「はーい」
「れもん」
ドライアドたちの方が聞き分けが良い件について。
まあ、彼女たちは屋敷に入る事が目的だから、僕がここで日向ぼっこをしている間は体に纏わりつく必要がないのだろう。
なかなか離れないパメラを、強引に引き剥がしたシンシーラは、彼女と共に屋敷へ戻っていった。
ずるずると引っ張られていくパメラを見ていると、僕の敷物と端っこの方が重なるように敷物を敷いていたレヴィさんが何かを思い出したかのように声を上げた。
「そういえば、オクタビア用の敷物がないのですわ」
「適当にアイテムバッグから見繕えば?」
「好みとかあるかもしれないのですわ! どんなのが良いですわ?」
「特に希望はないです」
「好きな色とかはないのですわ?」
「特別これが好きという物はないです」
特に好みがないというオクタビア様に、レヴィさんはアイテムバッグから敷物を取り出しては見せてを繰り返し始めた。これは長くなりそうだ。
自分だけ履いていた物を脱いで、ふわふわの敷物に足を踏み入れた。
「今日は人が少ないからシズトくんの隣取れちゃった。……ラオちゃんは隣じゃなくていいの?」
「別にどこでも一緒だろ」
「そんな事ないわよ!」
「隣にくるのはいいけど、くっつかないでね?」
「あら、どうして?」
「どうしてって……外で反応したら困るからに決まってるじゃん」
すぐに収まるからいいっていうものじゃない。別館で暮らしている人だって近くを通る事だってあるし、その中にはジューロちゃんやアンジェラ、リーヴィアもいる。間違っても彼女たち三人には見られないように気を付けないと。
納得していなさそうなルウさんにしっかり釘を刺しておかなければ、と思っていたら素足をどこからともなく持ってきた真っ白なタオルでごしごしと拭ったドライアドたちが僕の敷物に侵入してきた。そして、当然のように寝転がった僕の近くに集まってくる。
「……ドライアドたちはよくって、お嫁さんであるお姉ちゃんはダメなんだ?」
「いや、普通に慣れてるし、なにより幼児にくっつかれたくらいじゃ反応するわけないじゃん?」
「勇者様の中にはそういう趣味嗜好の物がいるらしいぞ」
「そうなの!? シズトくん! お姉ちゃんみたいな大きな人じゃなくて小さな子が好みなの!?」
「お嫁さんたちを見たら僕の好みくらいわかるでしょ!? ラオさんも変な事言わないで!」
「安心するのですわ、ルウ。シズトは子どもは好きだけど恋愛対象外みたいですわ。ただ、成人していれば見た目が小柄でも問題ないみたいですわ~」
「成人していればね! だからドライアドたちはくっつかれても平気なの!」
「……この子たちは人間で言うと何歳なんでしょうね?」
……オクタビア様の疑問に答える人はこの場には誰もいなかった。
そこら辺を深く考えたらまた厄介な事になりそうなので僕はとりあえず目を瞑るのだった。
お昼ご飯を食べた後はレヴィさんたちは子どもたちの面倒を見るために別行動となった。
僕もいつもは暇なときは子どもたちの様子を見ているんだけど、オクタビア様がいる間はオクタビア様の相手をするようにとレヴィさんに釘を刺されている。
あんまり情が湧くような事はしない方が良いんだろうけどなぁ、なんて事を思いつつ、特に今日は『天気祈願』をするために他国に行く予定もなかったので、ファマリアを案内する事になった。
護衛としてついて来るのはジュリウスとオクタビア様が連れてきたエンジェリアの近衛兵だ。
エンジェリアの中ではまだ差別意識が薄い人たちを選別して連れてきてくれたそうで、今の所住人とトラブルが起きたという報告は来ていない。
まあ、なんかあったら見えない所で護衛をしているであろう仮面をつけたエルフたちが何とかしてくれるだろう、と思って同行を許可した。
「シズト様、どこいくデスか?」
「オクタビア様にファマリアの案内をするんだから、とりあえずぐるっと一周するよ」
今回、ファマリアツアーに同行するのは、エミリーの前で駄々をこねていたパメラだ。エミリーからは「甘やかしちゃダメですよ」と釘を刺されている。
出産してからそれほど経っていないのに外を出歩かせるのは大丈夫なのか心配だけど、万が一の時はアイテムバッグの中にエリクサーがあるし、離れた所から『聖女』の加護を授かっている姫花がついて来ているので大丈夫だろう。…………たぶん。
「パメラ、約束覚えてるよね?」
「体調が悪くなったらすぐに言うデス!」
「もう一個あったよね?」
「勝手に飛び回らないデス!」
「よろしい。ちゃんと手を握って……って、先に行こうとしない!」
ぐいぐいと引っ張って先に行こうとしたパメラを止めながら、ゆっくりと町を歩く。
周りから視線がものすごく集まっているけど、これはオクタビア様に向けられているのか僕に向けられているのか……後者だな。
見られている事を意識して、オクタビア様のように姿勢よく歩……きたいんだけど、ぐいぐいと引っ張って先に行こうとするパメラを止めるために姿勢が崩れてしまう。
連れてきたのは失敗だったかもしれない。
そんな事を思いながら、オクタビア様にファマリアを案内して回るのだった。
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