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後日譚
後日譚115.箱入り女帝は恋を知らない
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エンジェリア帝国の女帝であるオクタビア・デ・エンジェリアは緊張した面持ちで円卓を囲んでいた。
彼女がいるのは世界樹ファマリーの根元に建てられたシズトの家の二階にある談話室だった。
談話室には大きな円卓があり、オクタビアを含めて十数人の女性が席に着いていた。
多種多様な見た目の彼女たちは、オクタビアの様子を見ている者もいれば、オクタビアに関心を持たずに魔道具をジッと見ている者もいる。
また、窓に引っ付いて中を窺っているドライアドたちにちょっかいをかけようとして席を立っては隣に座っていた狐人族の女性に座るように指示されている翼人族の女性もいた。
オクタビアは深呼吸して自分がすべき事を思い出す。
自国内の者たちにシズトの後ろ盾がある事をアピールする事も目的だったが、シズトや彼の配偶者である女性陣と親交を深める事も目的だった。
エンジェリア帝国にシズトを招いた際には、オクタビアは学んだ事をすべて用いて自分の事は自分でできると証明したつもりだったが、どうやらまだまだ学ぶ事が多いと案内を通して痛感していた。
せめて同じ部屋にいる女性たちと仲良くならなければ、と意気込むオクタビアが口を開こうとしたところで、隣に座っていた女性が先に話し始めた。
「そんなに肩に力を入れなくても大丈夫なのですわ。ここがちょっと特殊なだけで、シズト以外の人と結婚をするのであれば十分すぎるほどの知識とスキルを持っているのですわ」
彼女の隣に座って、そう話しかけたのは金色のツインドリルがトレードマークの女性レヴィア・フォン・ドラゴニアだ。
シズトの正室であり、ドラゴニア王国の第一王女でもある彼女は、神様から『読心』という加護を授かっていた。
それを発動しないようにする魔道具『加護無しの指輪』は今は紐を通して首から下げていたため、心が読める状態だったのだろう。
オクタビアもまた、レヴィアが心を読んでいる事に特に大きなリアクションをする事もなく「そうでしょうか?」と首を傾げた。
「そうですわ。私はオクタビア様のように料理はできないのですわ。そんな事をする必要がなかったからですわ」
「それはそうでしょう。国のトップに求められる事は料理を作る事ではないもの」
レヴィアに同意したのは、オクタビアを挟んで反対側に座っていた褐色肌の女性だ。
レヴィアと同じくらい大きな胸だが、小柄で童顔なため実年齢よりも若く見られがちな彼女の名はランチェッタ・ディ・ガレオール。海洋国家ガレオールの女王だった。
「娘として求められるのは結婚相手に困らない美貌や能力、社交性であって家事スキルではないわ。そういう事は侍女や乳母に任せるのが普通よ。それなのに、自分でそういう事を学び、シズトに合わせようとする努力は偉いわね」
「あとは気持ちが伴えばなにも文句はないのですわ~」
「あら、やっぱりシズトに対するそういう感情はなさそうなのかしら? まあ、政略結婚はそういう事も不思議ではないけど……」
レヴィアとランチェッタだけではなく、二人の話を聞いていた女性陣もオクタビアを見た。
彼女は隠しても仕方がない、と思ったのか定かではないが曖昧に微笑んで「その通りです」と答えた。
「シズト様は素敵な方だと思いますが、正直今は何も感じません」
「タイプじゃないという事ですわ?」
「いえ、そうじゃありません。どんな人が好きかとか、特にないんです」
オクタビアは前皇帝によって、どこに嫁がせても大丈夫なように大事に育てていた。
他種族に対して偏見や差別意識があると問題が生じるので周囲は博愛派の侍女で固め、結婚相手を選ぶ際に見た目などで影響がでないように恋愛というものを意図的に遠ざけさせていた。
勇者の血を取り入れる事は邪神との兼ね合いで考えていなかったので、他の国々と違って勇者が活躍する本を幼い頃から読ませて憧れを抱かせる事もなかったので、この世界の者であればそのほとんどが好意的に感じるはずの黒髪黒目を見てもオクタビアは何も反応していなかった。
「好みがない、というのは良い事ですわ?」
「考え方によってはそうなんじゃないかしら? 少なくともシズトを嫌っているわけではなさそうだし」
「ただ、そういう感情がないのにシズトと結婚は残念ながらできないのですわ」
「なぜですか?」
「シズトが恋愛結婚推奨派だからですわ」
「そんな……どうすれば……」
「他の男性と関わってそういう気持ちを探っていく、という事は絶対無しですわね」
「社交界とかで関わる相手も女帝として接するからそういう事もなさそうよね」
恋愛感情について学ぶためにはどうすればいいのか、と首を傾げるレヴィアとランチェッタだったが、そっと手を挙げる女性に気付いた。
真っ白なモフモフの尻尾と耳がチャームポイントの狐人族のエミリーだ。
「とりあえず、恋愛物のお話を読んでみてはいかがでしょうか?」
「向こうの部屋にエミリーの愛読書もあるじゃん」
「シーラ、余計な事は言わないで」
茶化してきた狼人族のシンシーラに、尻尾を逆立てて怒るエミリーだったが、レヴィアとランチェッタはそれもあり、と思ったようだった。
一先ず、エミリーが推薦した本を夜にでも読む事になったのだが、その後もオクタビアを交えた女性陣の話し合いは続くのだった。
彼女がいるのは世界樹ファマリーの根元に建てられたシズトの家の二階にある談話室だった。
談話室には大きな円卓があり、オクタビアを含めて十数人の女性が席に着いていた。
多種多様な見た目の彼女たちは、オクタビアの様子を見ている者もいれば、オクタビアに関心を持たずに魔道具をジッと見ている者もいる。
また、窓に引っ付いて中を窺っているドライアドたちにちょっかいをかけようとして席を立っては隣に座っていた狐人族の女性に座るように指示されている翼人族の女性もいた。
オクタビアは深呼吸して自分がすべき事を思い出す。
自国内の者たちにシズトの後ろ盾がある事をアピールする事も目的だったが、シズトや彼の配偶者である女性陣と親交を深める事も目的だった。
エンジェリア帝国にシズトを招いた際には、オクタビアは学んだ事をすべて用いて自分の事は自分でできると証明したつもりだったが、どうやらまだまだ学ぶ事が多いと案内を通して痛感していた。
せめて同じ部屋にいる女性たちと仲良くならなければ、と意気込むオクタビアが口を開こうとしたところで、隣に座っていた女性が先に話し始めた。
「そんなに肩に力を入れなくても大丈夫なのですわ。ここがちょっと特殊なだけで、シズト以外の人と結婚をするのであれば十分すぎるほどの知識とスキルを持っているのですわ」
彼女の隣に座って、そう話しかけたのは金色のツインドリルがトレードマークの女性レヴィア・フォン・ドラゴニアだ。
シズトの正室であり、ドラゴニア王国の第一王女でもある彼女は、神様から『読心』という加護を授かっていた。
それを発動しないようにする魔道具『加護無しの指輪』は今は紐を通して首から下げていたため、心が読める状態だったのだろう。
オクタビアもまた、レヴィアが心を読んでいる事に特に大きなリアクションをする事もなく「そうでしょうか?」と首を傾げた。
「そうですわ。私はオクタビア様のように料理はできないのですわ。そんな事をする必要がなかったからですわ」
「それはそうでしょう。国のトップに求められる事は料理を作る事ではないもの」
レヴィアに同意したのは、オクタビアを挟んで反対側に座っていた褐色肌の女性だ。
レヴィアと同じくらい大きな胸だが、小柄で童顔なため実年齢よりも若く見られがちな彼女の名はランチェッタ・ディ・ガレオール。海洋国家ガレオールの女王だった。
「娘として求められるのは結婚相手に困らない美貌や能力、社交性であって家事スキルではないわ。そういう事は侍女や乳母に任せるのが普通よ。それなのに、自分でそういう事を学び、シズトに合わせようとする努力は偉いわね」
「あとは気持ちが伴えばなにも文句はないのですわ~」
「あら、やっぱりシズトに対するそういう感情はなさそうなのかしら? まあ、政略結婚はそういう事も不思議ではないけど……」
レヴィアとランチェッタだけではなく、二人の話を聞いていた女性陣もオクタビアを見た。
彼女は隠しても仕方がない、と思ったのか定かではないが曖昧に微笑んで「その通りです」と答えた。
「シズト様は素敵な方だと思いますが、正直今は何も感じません」
「タイプじゃないという事ですわ?」
「いえ、そうじゃありません。どんな人が好きかとか、特にないんです」
オクタビアは前皇帝によって、どこに嫁がせても大丈夫なように大事に育てていた。
他種族に対して偏見や差別意識があると問題が生じるので周囲は博愛派の侍女で固め、結婚相手を選ぶ際に見た目などで影響がでないように恋愛というものを意図的に遠ざけさせていた。
勇者の血を取り入れる事は邪神との兼ね合いで考えていなかったので、他の国々と違って勇者が活躍する本を幼い頃から読ませて憧れを抱かせる事もなかったので、この世界の者であればそのほとんどが好意的に感じるはずの黒髪黒目を見てもオクタビアは何も反応していなかった。
「好みがない、というのは良い事ですわ?」
「考え方によってはそうなんじゃないかしら? 少なくともシズトを嫌っているわけではなさそうだし」
「ただ、そういう感情がないのにシズトと結婚は残念ながらできないのですわ」
「なぜですか?」
「シズトが恋愛結婚推奨派だからですわ」
「そんな……どうすれば……」
「他の男性と関わってそういう気持ちを探っていく、という事は絶対無しですわね」
「社交界とかで関わる相手も女帝として接するからそういう事もなさそうよね」
恋愛感情について学ぶためにはどうすればいいのか、と首を傾げるレヴィアとランチェッタだったが、そっと手を挙げる女性に気付いた。
真っ白なモフモフの尻尾と耳がチャームポイントの狐人族のエミリーだ。
「とりあえず、恋愛物のお話を読んでみてはいかがでしょうか?」
「向こうの部屋にエミリーの愛読書もあるじゃん」
「シーラ、余計な事は言わないで」
茶化してきた狼人族のシンシーラに、尻尾を逆立てて怒るエミリーだったが、レヴィアとランチェッタはそれもあり、と思ったようだった。
一先ず、エミリーが推薦した本を夜にでも読む事になったのだが、その後もオクタビアを交えた女性陣の話し合いは続くのだった。
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