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後日譚
後日譚110.元引きこもり王女は特に言わなかった
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レヴィア・フォン・ドラゴニアには『読心』という加護を神から授かっていた。
その加護は常時発動型の加護で、周りに人が大勢いるとその者たち全員の考えが一気に脳内に入ってくるので幼少期はパーティーが苦手だった。大人の下心を聞くのもそうだったが、魔力消費が跳ね上がって倒れる事も多々あったからだ。
だが、今では魔道具『加護無しの指輪』を嵌めれば加護の使用を止める事ができる。力を使うか使わないか自分で選べるようになった事だけでもシズトにはとても感謝していた。
だからこそ、恩返しのために加護をフル活用して周りの人の心の内を覗き込む事に抵抗はなかった。危険が潜んでいる可能性が高いエンジェリア帝国の城内だったら猶更だ。
(私の加護は伝わってないのですわ?)
レヴィアがそう思ってしまうほどに、城内をすれ違う者たちの思考は駄々洩れだった。
自分に向けられる劣情やら、目の前を歩く紺色の髪の女性――オクタビア・デ・エンジェリアに対する敵意などは余裕で我慢できた。シズトに向けられる嫌悪や軽蔑、嫉妬などの負の感情についてもぎりぎり耐える事ができた。
(自分の事は簡単に我慢できるのに、不思議ですわ)
シズトとエミリーやパメラなど人族以外の配偶者との間に生まれた子どもに対する考えが伝わってきた時には流石に怒りが魔力と共に漏れてしまったが、戦闘職でもないレヴィアが怒ったところで大した問題は起きなかった。
せいぜいドライアドたちにレヴィアの怒りが伝播して、いきなり髪をわさわさしながら威嚇を始め、シズトが驚いた事くらいだ。
「どうぞ、おかけください」
シズトが座ると、座るように促したオクタビアはシズトの正面になる位置にあった椅子に腰かけた。
レヴィアは自分用に用意されていたシズトの隣の椅子に腰かけようとしたが、ドライアドたちがそこに座っていたのでひょいっと持ち上げて傍で控えていたセシリアに渡した。そしてセシリアはというと、流れ作業的な感じでジュリウスにドライアドたちを引っ付けていた。
「急に来てしまってすみません。予定とかは大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です。仕事は優秀な配下に任せてますから」
(任せている、というよりかは回されていないというのが実情なのですわね)
目の前にいるオクタビアもまたレヴィアの加護を知らないのだろうか、と思うくらい心の声が駄々洩れだった。
どうしたものか、と思案したレヴィアだったが、同席を許されたのならば先に言っておこう、と口を開いた。
「二カ月経っても劇的な変化は見られないみたいですわね。加護で周りの心を読まなくとも、異種族との間に子どもを設けたシズトに対する嫌悪感をひしひしと感じたのですわ」
実際は表情には取り繕っている者は多かったのだが、それでもまだまだ根底には人族至上主義の考え方が残っている者が多かった。
その事を触れながら、加護で心を読む事ができるぞ、と伝えたつもりのレヴィアだったが、オクタビアは申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。
「お恥ずかしい話、政務にはほとんど関わる事が出来てないんです。今までの考え方を変えるために奴隷の扱いに関する法律などを制定しても状況はそれほど変わってないですし……」
「奴隷の扱い?」
シズトが怪訝そうに首を傾げると顔には出さないが、しまった! というオクタビアの心の叫びはレヴィアに届いていた。
(私には隠す事は何もない、と思っているのかそれとも……)
判断が難しい所であるが、言葉に詰まってしまったオクタビアの代わりに自分が答えるか、とレヴィアはシズトの方を見た。
「他種族を排斥しているような国だと他種族の奴隷の扱いは相当ひどいものになるのは当然なのですわ。その状況を憂いて、なかなか身動きができない中、行動に移されたオクタビア様は流石なのですわ。今までのエンジェリアではなく、これからのエンジェリアを見てあげて欲しいのですわ」
「……それもそうか。前の王様たちが何をしていてもオクタビア様にはどうしようもなかったわけだし」
「その通りですわ~。ただ…………私たちの子どもたちに被害が及ぶ可能性がある間は、家族でエンジェリアを訪れる事はないとはっきりと明言しておくのですわ」
「肝に銘じておきます」
「…………すれ違った人たちが何か良からぬ事を考えてたの?」
深々と頭を下げるオクタビアを見たまま、顔を近づけて来たシズトがこそっと問いかけたが、レヴィアは答えず「何か飲み物が欲しいのですわ!」と言った。
オクタビアはそれで思い出したようで、せっせと紅茶を淹れる準備を始めた。
女王様でも紅茶は自分で淹れるんだなぁ、なんて事を考えながらその様子を見ているシズトには特に何も言わず、レヴィアは紅茶が淹れられるまでオクタビアとの雑談の内容で当たり障りのなさそうなものを考えるのだった。
その加護は常時発動型の加護で、周りに人が大勢いるとその者たち全員の考えが一気に脳内に入ってくるので幼少期はパーティーが苦手だった。大人の下心を聞くのもそうだったが、魔力消費が跳ね上がって倒れる事も多々あったからだ。
だが、今では魔道具『加護無しの指輪』を嵌めれば加護の使用を止める事ができる。力を使うか使わないか自分で選べるようになった事だけでもシズトにはとても感謝していた。
だからこそ、恩返しのために加護をフル活用して周りの人の心の内を覗き込む事に抵抗はなかった。危険が潜んでいる可能性が高いエンジェリア帝国の城内だったら猶更だ。
(私の加護は伝わってないのですわ?)
レヴィアがそう思ってしまうほどに、城内をすれ違う者たちの思考は駄々洩れだった。
自分に向けられる劣情やら、目の前を歩く紺色の髪の女性――オクタビア・デ・エンジェリアに対する敵意などは余裕で我慢できた。シズトに向けられる嫌悪や軽蔑、嫉妬などの負の感情についてもぎりぎり耐える事ができた。
(自分の事は簡単に我慢できるのに、不思議ですわ)
シズトとエミリーやパメラなど人族以外の配偶者との間に生まれた子どもに対する考えが伝わってきた時には流石に怒りが魔力と共に漏れてしまったが、戦闘職でもないレヴィアが怒ったところで大した問題は起きなかった。
せいぜいドライアドたちにレヴィアの怒りが伝播して、いきなり髪をわさわさしながら威嚇を始め、シズトが驚いた事くらいだ。
「どうぞ、おかけください」
シズトが座ると、座るように促したオクタビアはシズトの正面になる位置にあった椅子に腰かけた。
レヴィアは自分用に用意されていたシズトの隣の椅子に腰かけようとしたが、ドライアドたちがそこに座っていたのでひょいっと持ち上げて傍で控えていたセシリアに渡した。そしてセシリアはというと、流れ作業的な感じでジュリウスにドライアドたちを引っ付けていた。
「急に来てしまってすみません。予定とかは大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です。仕事は優秀な配下に任せてますから」
(任せている、というよりかは回されていないというのが実情なのですわね)
目の前にいるオクタビアもまたレヴィアの加護を知らないのだろうか、と思うくらい心の声が駄々洩れだった。
どうしたものか、と思案したレヴィアだったが、同席を許されたのならば先に言っておこう、と口を開いた。
「二カ月経っても劇的な変化は見られないみたいですわね。加護で周りの心を読まなくとも、異種族との間に子どもを設けたシズトに対する嫌悪感をひしひしと感じたのですわ」
実際は表情には取り繕っている者は多かったのだが、それでもまだまだ根底には人族至上主義の考え方が残っている者が多かった。
その事を触れながら、加護で心を読む事ができるぞ、と伝えたつもりのレヴィアだったが、オクタビアは申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。
「お恥ずかしい話、政務にはほとんど関わる事が出来てないんです。今までの考え方を変えるために奴隷の扱いに関する法律などを制定しても状況はそれほど変わってないですし……」
「奴隷の扱い?」
シズトが怪訝そうに首を傾げると顔には出さないが、しまった! というオクタビアの心の叫びはレヴィアに届いていた。
(私には隠す事は何もない、と思っているのかそれとも……)
判断が難しい所であるが、言葉に詰まってしまったオクタビアの代わりに自分が答えるか、とレヴィアはシズトの方を見た。
「他種族を排斥しているような国だと他種族の奴隷の扱いは相当ひどいものになるのは当然なのですわ。その状況を憂いて、なかなか身動きができない中、行動に移されたオクタビア様は流石なのですわ。今までのエンジェリアではなく、これからのエンジェリアを見てあげて欲しいのですわ」
「……それもそうか。前の王様たちが何をしていてもオクタビア様にはどうしようもなかったわけだし」
「その通りですわ~。ただ…………私たちの子どもたちに被害が及ぶ可能性がある間は、家族でエンジェリアを訪れる事はないとはっきりと明言しておくのですわ」
「肝に銘じておきます」
「…………すれ違った人たちが何か良からぬ事を考えてたの?」
深々と頭を下げるオクタビアを見たまま、顔を近づけて来たシズトがこそっと問いかけたが、レヴィアは答えず「何か飲み物が欲しいのですわ!」と言った。
オクタビアはそれで思い出したようで、せっせと紅茶を淹れる準備を始めた。
女王様でも紅茶は自分で淹れるんだなぁ、なんて事を考えながらその様子を見ているシズトには特に何も言わず、レヴィアは紅茶が淹れられるまでオクタビアとの雑談の内容で当たり障りのなさそうなものを考えるのだった。
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