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後日譚
後日譚100.事なかれ主義者は一部屋は与えたい
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出産直後の体で仕事をしようとしたランチェッタさんをディアーヌさんと一緒に注意した後、部屋を後にしてそのまま子どもたちの部屋へと向かった。
入ろうとしたところで、ドアノブに掛けられていた物に気付いた。
「あ、授乳中みたい。ちょっと待とうか」
「レモン?」
「入らないの?」
「入ればいいのに~」
「駄目だよ。お嫁さんの誰かだったらまだいいかもしれないけど、乳母の人がしてるかもしれないじゃん」
僕の体に引っ付いているドライアドたちから文句を言われるけど、避けられる事故は避けるべきだと思うんです。
窓を突いて、窓に張り付いていたドライアドたちと遊んでいるとあっという間に時間は過ぎていき、部屋の扉が開かれた。
中から出てきたのは狐人族のエミリーだ。
普段はメイド服を着ている彼女だが、今はお腹を締め付けないためにゆったりとした服を着ている。
どうやら今回は乳母の方々が授乳の対応をしてくれていたらしい。入らなくてよかった。
「お待たせしました、シズト様。もう入って大丈夫ですよ」
「ありがと、エミリー。体調はどう?」
エミリーはあと一ヵ月後くらいが予定日だ。
大地の神様にお祈りを欠かさないおかげかは分からないが、今のところ安定している。
出産予定日丁度に産まれれば加護を授かっている可能性は高いそうだけど、彼女の身内に加護持ちはいなかったそうなので神様の気まぐれ次第だろう。
「問題ありませんよ。何回聞くんですか」
「何回でも聞くよ。心配だもん」
「そうですか。じゃあ何回でも答えなくちゃいけないですね」
嬉しそうに尻尾を振りながら笑みを浮かべる彼女から部屋の奥へと視線を向ける。
「あれ? ベッド減った?」
「はい。流石に手狭になってきたので、午前中に半分ほど隣の部屋にお引越ししました」
「あ、そうだったんだ」
よくよく見れば隣の部屋のドアノブにも同じ物が掛けられていた。
室内に魔道具『遮音結界』を設置している事もあって外に音が漏れる事はないので気づかなかったけど、ドライアドたちは知っているようだ。そちらの部屋の扉の正面にある窓にもドライアドたちが張り付いている。
僕がいたから集まっていたと思っていたけど、自意識過剰だったようだ。
「チエコの様子を見に来たんですか? それなら向こうの部屋ですが……」
「千恵子の様子も気になるけど、千恵子だけが目的じゃないよ。レモンちゃんたち、引っ付いているのは良いけど大人しくしててね」
「は~い」
「わかった~」
「レモン!」
「返事は良いんだよなぁ」
背中に引っ付いている子は僕が見えない事を良い事に、そろ~っと髪の毛を伸ばして赤ちゃんたちにちょっかいをかけようとする事があるので気を付けないと。
エミリーが開けてくれた扉をくぐって部屋の中へ一歩踏み出すと、途端に騒がしくなった。どうやら育生がぐずっているようだ。
乳母の一人が育生を抱っこしてあやしている。窓際であやしているから窓の外のドライアドたちは髪の毛をわさわさと動かして気を引こうとしている様だった。
「逆効果な気がするんだけど…………カーテン閉めた方が良いんじゃない?」
「ドライアドたちが子どもたちを泣き止ませるのに一役買ってくれる時も多々あるので悩ましいですね」
「なるほど……」
あやしてくれていた乳母から育生を預かって抱っこするとさらに泣き声が大きくなったけれど、それも一時の事だった。
生後五ヵ月も経つと、目もはっきりと見えてくるようで、僕の頭の上にいるレモンちゃんや、肩からひょこっと顔出したドライアドたちをきょとんとした様子で見ている。
「あー」
「こんにちは~」
「こんちは!」
「レモン!」
「ばばば」
「れももも!」
「握手するの~?」
「一緒に遊ぶんじゃない?」
「駄目だよ」
泣き止んだ育生をベッドに戻してから他の子の様子を見て回る。
どうやら月齢順に分けたようで、同じ部屋には他に千与と真がいた。
千与も真もあまり泣かないけれど、女の子だからとかじゃなくて普通にそういう子なんだと思う。
もう少し成長したら育生のように抱っこしたら泣かれてしまうかもしれないなぁ、なんて思いながら二人もそれぞれ抱っこした。
おむつの交換はついさっきしたばかりだったとの事で、三人共必要なさそうだ。
離乳食が始まるまで食事のお手伝いはできないけれど、子どもの成長は早いし食事の手伝いができるのもすぐだろう。
それまでに離乳食についてと、食べさせ方を学んでおかないと……なんて事を思いながらエミリーと一緒に部屋を移動した。
すぐ隣の部屋は蘭加と静流、龍斗の三人に加えて生まれたばかりの千恵子がいた。
千恵子はランチェッタさんがつい昨日産んだ女の子だ。
乳児用のベッドとはいえ、四人分あるとだいぶ部屋が狭く感じる。
「三部屋に分けても良かったんですけど、面倒の見やすさなども勘案して一先ず二部屋にしたんです」
「なるほどね。……大きくなった時の事を考えると、部屋数が足りなくなるかな」
「一人一部屋用意するのなら足りなくなりますね。私たちの村では子どもに部屋を与えるのは領主か村の長くらいでしたけど」
まあ、平民はそうなんだろうね。
獣人は特に子どもが多い家庭が多いらしいから一人一部屋準備してたら土地が足らなさそうだし。
「お金は有り余ってるし、増築なり改築なりしてもらおうかなぁ」
「新しく建てないんですか?」
「んー……設置型の魔道具はまだ何とかなるけど、お風呂場はどうしようもないからねぇ」
「……なるほど」
お風呂の時だけこっちに来るのも面倒だしなぁ、なんて事を考えながらそれぞれの様子を見て回った。
特に問題はなさそうで一安心したけれど、ドライアドたちがちょっかいをかけようとするから止めるのが大変だった。
入ろうとしたところで、ドアノブに掛けられていた物に気付いた。
「あ、授乳中みたい。ちょっと待とうか」
「レモン?」
「入らないの?」
「入ればいいのに~」
「駄目だよ。お嫁さんの誰かだったらまだいいかもしれないけど、乳母の人がしてるかもしれないじゃん」
僕の体に引っ付いているドライアドたちから文句を言われるけど、避けられる事故は避けるべきだと思うんです。
窓を突いて、窓に張り付いていたドライアドたちと遊んでいるとあっという間に時間は過ぎていき、部屋の扉が開かれた。
中から出てきたのは狐人族のエミリーだ。
普段はメイド服を着ている彼女だが、今はお腹を締め付けないためにゆったりとした服を着ている。
どうやら今回は乳母の方々が授乳の対応をしてくれていたらしい。入らなくてよかった。
「お待たせしました、シズト様。もう入って大丈夫ですよ」
「ありがと、エミリー。体調はどう?」
エミリーはあと一ヵ月後くらいが予定日だ。
大地の神様にお祈りを欠かさないおかげかは分からないが、今のところ安定している。
出産予定日丁度に産まれれば加護を授かっている可能性は高いそうだけど、彼女の身内に加護持ちはいなかったそうなので神様の気まぐれ次第だろう。
「問題ありませんよ。何回聞くんですか」
「何回でも聞くよ。心配だもん」
「そうですか。じゃあ何回でも答えなくちゃいけないですね」
嬉しそうに尻尾を振りながら笑みを浮かべる彼女から部屋の奥へと視線を向ける。
「あれ? ベッド減った?」
「はい。流石に手狭になってきたので、午前中に半分ほど隣の部屋にお引越ししました」
「あ、そうだったんだ」
よくよく見れば隣の部屋のドアノブにも同じ物が掛けられていた。
室内に魔道具『遮音結界』を設置している事もあって外に音が漏れる事はないので気づかなかったけど、ドライアドたちは知っているようだ。そちらの部屋の扉の正面にある窓にもドライアドたちが張り付いている。
僕がいたから集まっていたと思っていたけど、自意識過剰だったようだ。
「チエコの様子を見に来たんですか? それなら向こうの部屋ですが……」
「千恵子の様子も気になるけど、千恵子だけが目的じゃないよ。レモンちゃんたち、引っ付いているのは良いけど大人しくしててね」
「は~い」
「わかった~」
「レモン!」
「返事は良いんだよなぁ」
背中に引っ付いている子は僕が見えない事を良い事に、そろ~っと髪の毛を伸ばして赤ちゃんたちにちょっかいをかけようとする事があるので気を付けないと。
エミリーが開けてくれた扉をくぐって部屋の中へ一歩踏み出すと、途端に騒がしくなった。どうやら育生がぐずっているようだ。
乳母の一人が育生を抱っこしてあやしている。窓際であやしているから窓の外のドライアドたちは髪の毛をわさわさと動かして気を引こうとしている様だった。
「逆効果な気がするんだけど…………カーテン閉めた方が良いんじゃない?」
「ドライアドたちが子どもたちを泣き止ませるのに一役買ってくれる時も多々あるので悩ましいですね」
「なるほど……」
あやしてくれていた乳母から育生を預かって抱っこするとさらに泣き声が大きくなったけれど、それも一時の事だった。
生後五ヵ月も経つと、目もはっきりと見えてくるようで、僕の頭の上にいるレモンちゃんや、肩からひょこっと顔出したドライアドたちをきょとんとした様子で見ている。
「あー」
「こんにちは~」
「こんちは!」
「レモン!」
「ばばば」
「れももも!」
「握手するの~?」
「一緒に遊ぶんじゃない?」
「駄目だよ」
泣き止んだ育生をベッドに戻してから他の子の様子を見て回る。
どうやら月齢順に分けたようで、同じ部屋には他に千与と真がいた。
千与も真もあまり泣かないけれど、女の子だからとかじゃなくて普通にそういう子なんだと思う。
もう少し成長したら育生のように抱っこしたら泣かれてしまうかもしれないなぁ、なんて思いながら二人もそれぞれ抱っこした。
おむつの交換はついさっきしたばかりだったとの事で、三人共必要なさそうだ。
離乳食が始まるまで食事のお手伝いはできないけれど、子どもの成長は早いし食事の手伝いができるのもすぐだろう。
それまでに離乳食についてと、食べさせ方を学んでおかないと……なんて事を思いながらエミリーと一緒に部屋を移動した。
すぐ隣の部屋は蘭加と静流、龍斗の三人に加えて生まれたばかりの千恵子がいた。
千恵子はランチェッタさんがつい昨日産んだ女の子だ。
乳児用のベッドとはいえ、四人分あるとだいぶ部屋が狭く感じる。
「三部屋に分けても良かったんですけど、面倒の見やすさなども勘案して一先ず二部屋にしたんです」
「なるほどね。……大きくなった時の事を考えると、部屋数が足りなくなるかな」
「一人一部屋用意するのなら足りなくなりますね。私たちの村では子どもに部屋を与えるのは領主か村の長くらいでしたけど」
まあ、平民はそうなんだろうね。
獣人は特に子どもが多い家庭が多いらしいから一人一部屋準備してたら土地が足らなさそうだし。
「お金は有り余ってるし、増築なり改築なりしてもらおうかなぁ」
「新しく建てないんですか?」
「んー……設置型の魔道具はまだ何とかなるけど、お風呂場はどうしようもないからねぇ」
「……なるほど」
お風呂の時だけこっちに来るのも面倒だしなぁ、なんて事を考えながらそれぞれの様子を見て回った。
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