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後日譚
後日譚82.事なかれ主義者はできれば大人しくしててほしかった
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「話がそれちゃったけど、ドワーフの国から来たエルメン……」
「エルメンガルト様です」
名前を言い淀んだ際にモニカがすぐに教えてくれた。
彼女も今回初めて聞いた名前のはずなのに覚えるの早いなぁ。
「そうだったね。そのエルメンガルトさんとはどんな話をすればいいかな? やっぱりお酒?」
「ドワーフと言えばお酒、というイメージは否定しきれませんが、女性は男性ほど飲まないそうです」
「じゃあ鍛冶の話……は、男の人がするんだっけ?」
「そうですね。ドワーフの国では男女で明確に役割が別れているので鍛冶の話をしてもいい反応は帰ってこないでしょう。ルンベルクにはたくさんのダンジョンがあり、そこから産出される鍛冶で使わない石などを加工するのを女性たちがしているそうです」
「じゃあアクセサリーの話とか振っておけばいいって事かな?」
「そうですね。プレゼントを探したい、と言えば売り込みが始まる可能性は高いと思います。身に着けていた宝飾品も自国で生産したものでしょうからね」
そういえばドワーフの女性はアクセサリーを他の人より多く身に着けていたな。
話のきっかけづくりという意味合いもあるけど、僕の目に留まれば発注してもらえる、という考えもあったのかもしれない。
「次で最後となります。最近都市国家イルミンスールと繋がる転移門を設置し終えた遊びの国ギャンバラからいらした方で、レベッカ・ガルムステット公爵です」
「……えっと、御息女とかじゃなくて?」
「はい、公爵です。最近代替わりしたそうですが、今回の事に合わせてきた、という事ではないでしょうね」
「なるほど。ギャンバラというと、最近ボードゲームを取り寄せている国だよね?」
「はい、その通りです。何かしら問題が起きると賭け事で勝敗を決めたり、国営のカジノがあったりする国です」
「パメラは行かせられないですね」
「そうだね。すっからかんになるのが目に見えてるからね」
ため息交じりで呟いたモニカに苦笑しながら同意すると、彼女も苦笑いを浮かべた。
お腹の中に子がいる状態で駄々をこねられるのは怖いので、ギャンバラの事はパメラには秘密にしておこう。
「パメラの話は置いといて、話題はゲームの事で良いかな?」
「そうですね。ギャンバラで人気の物は既に手元にあると思いますが、これから流行りそうな物や新しく出た物などを聞いてみるのもいいかもしれません。ただ、国民性として賭け事が日常にある方々なので、何かしら賭けを申し込まれる可能性もあります。ご注意ください」
「婚約を賭けて何かしらゲームをする可能性もありそうですよね」
「モニカさんモニカさん、フラグ立てないで」
そういうのはもうしたくないので。
モニカはきょとんとした様子で首を傾げた。
流石に初めて会う相手にそんな事をしてくるとは思えないけど、気を付けておこう。
迎賓館に到着すると、先にこちらに来ていたレヴィさんとランチェッタさんが出迎えてくれた。
ミスティア大陸の方々はアビゲイルさんと歓談中らしい。
「ここからはわたくしたちが案内するわ」
「セシリア、モニカ、お疲れ様ですわ!」
セシリアさんとモニカの手が僕から離れたかと思えば、今度はランチェッタさんとレヴィさんに捕まった。
レヴィさんは既に魔道具『加護無しの指輪』を外していて首から下げている。
「ランチェッタさんは無理してなさそう?」
「ちょっと、どうしてわたくしじゃなくてレヴィアに聞くのよ」
「いや、本当の事言わなさそうだし」
「大丈夫ですわ! と、言いたいところですけれど、考えないようにされたら心を読んでいても分からないのですわ。そういうの、ランチェッタは上手なのですわ」
「だから、本当に大丈夫って言っているでしょ?」
「日頃の行いが悪いから信じてもらえないんですよ?」
ランチェッタさんとレヴィさんの後ろに控えていた褐色肌の侍女ディアーヌさんがボソッと言った言葉が聞こえた様子で彼女を睨むランチェッタさんだけど、その通りだから擁護できない。
出産予定日まで残り一ヵ月ほどなのに仕事の量は減らさないし、今回の対応も引き受けるしで本当に大丈夫なのか心配になる。
いくら出産も司っている神様に大量の寄進をしながらお祈りをしていると言っても安心はできない。
女王ともなるとなかなか他の人に任せられない事も出てくると思うけど、今回のこれに関してはジューンさんにお願いするとかいろいろやりようはあった気がする。
ただ「ガレオールの女王としてミスティア大陸との繋がりが欲しい」とお願いされてしまったら断り切れなかった。
国の上層部の考え方を学んでいる最中なのでそういう物だと言われたら止め辛かった。タイミングが悪かったなぁ。
姫花などの『聖女』の加護を持つ女性や、産婆さんたちを引き連れて行動する事や、産婆さんたちから止められたらそこでおしまいにする、という条件を出して承認したけど……やっぱり不安は残る。
もう誰から見ても妊娠している、というほど大きくなったお腹を、空いた手で撫でているランチェッタさんを注意深く見守りながら、ゆっくりとした歩調でミスティア大陸の方々が待っている部屋へと向かった。
「エルメンガルト様です」
名前を言い淀んだ際にモニカがすぐに教えてくれた。
彼女も今回初めて聞いた名前のはずなのに覚えるの早いなぁ。
「そうだったね。そのエルメンガルトさんとはどんな話をすればいいかな? やっぱりお酒?」
「ドワーフと言えばお酒、というイメージは否定しきれませんが、女性は男性ほど飲まないそうです」
「じゃあ鍛冶の話……は、男の人がするんだっけ?」
「そうですね。ドワーフの国では男女で明確に役割が別れているので鍛冶の話をしてもいい反応は帰ってこないでしょう。ルンベルクにはたくさんのダンジョンがあり、そこから産出される鍛冶で使わない石などを加工するのを女性たちがしているそうです」
「じゃあアクセサリーの話とか振っておけばいいって事かな?」
「そうですね。プレゼントを探したい、と言えば売り込みが始まる可能性は高いと思います。身に着けていた宝飾品も自国で生産したものでしょうからね」
そういえばドワーフの女性はアクセサリーを他の人より多く身に着けていたな。
話のきっかけづくりという意味合いもあるけど、僕の目に留まれば発注してもらえる、という考えもあったのかもしれない。
「次で最後となります。最近都市国家イルミンスールと繋がる転移門を設置し終えた遊びの国ギャンバラからいらした方で、レベッカ・ガルムステット公爵です」
「……えっと、御息女とかじゃなくて?」
「はい、公爵です。最近代替わりしたそうですが、今回の事に合わせてきた、という事ではないでしょうね」
「なるほど。ギャンバラというと、最近ボードゲームを取り寄せている国だよね?」
「はい、その通りです。何かしら問題が起きると賭け事で勝敗を決めたり、国営のカジノがあったりする国です」
「パメラは行かせられないですね」
「そうだね。すっからかんになるのが目に見えてるからね」
ため息交じりで呟いたモニカに苦笑しながら同意すると、彼女も苦笑いを浮かべた。
お腹の中に子がいる状態で駄々をこねられるのは怖いので、ギャンバラの事はパメラには秘密にしておこう。
「パメラの話は置いといて、話題はゲームの事で良いかな?」
「そうですね。ギャンバラで人気の物は既に手元にあると思いますが、これから流行りそうな物や新しく出た物などを聞いてみるのもいいかもしれません。ただ、国民性として賭け事が日常にある方々なので、何かしら賭けを申し込まれる可能性もあります。ご注意ください」
「婚約を賭けて何かしらゲームをする可能性もありそうですよね」
「モニカさんモニカさん、フラグ立てないで」
そういうのはもうしたくないので。
モニカはきょとんとした様子で首を傾げた。
流石に初めて会う相手にそんな事をしてくるとは思えないけど、気を付けておこう。
迎賓館に到着すると、先にこちらに来ていたレヴィさんとランチェッタさんが出迎えてくれた。
ミスティア大陸の方々はアビゲイルさんと歓談中らしい。
「ここからはわたくしたちが案内するわ」
「セシリア、モニカ、お疲れ様ですわ!」
セシリアさんとモニカの手が僕から離れたかと思えば、今度はランチェッタさんとレヴィさんに捕まった。
レヴィさんは既に魔道具『加護無しの指輪』を外していて首から下げている。
「ランチェッタさんは無理してなさそう?」
「ちょっと、どうしてわたくしじゃなくてレヴィアに聞くのよ」
「いや、本当の事言わなさそうだし」
「大丈夫ですわ! と、言いたいところですけれど、考えないようにされたら心を読んでいても分からないのですわ。そういうの、ランチェッタは上手なのですわ」
「だから、本当に大丈夫って言っているでしょ?」
「日頃の行いが悪いから信じてもらえないんですよ?」
ランチェッタさんとレヴィさんの後ろに控えていた褐色肌の侍女ディアーヌさんがボソッと言った言葉が聞こえた様子で彼女を睨むランチェッタさんだけど、その通りだから擁護できない。
出産予定日まで残り一ヵ月ほどなのに仕事の量は減らさないし、今回の対応も引き受けるしで本当に大丈夫なのか心配になる。
いくら出産も司っている神様に大量の寄進をしながらお祈りをしていると言っても安心はできない。
女王ともなるとなかなか他の人に任せられない事も出てくると思うけど、今回のこれに関してはジューンさんにお願いするとかいろいろやりようはあった気がする。
ただ「ガレオールの女王としてミスティア大陸との繋がりが欲しい」とお願いされてしまったら断り切れなかった。
国の上層部の考え方を学んでいる最中なのでそういう物だと言われたら止め辛かった。タイミングが悪かったなぁ。
姫花などの『聖女』の加護を持つ女性や、産婆さんたちを引き連れて行動する事や、産婆さんたちから止められたらそこでおしまいにする、という条件を出して承認したけど……やっぱり不安は残る。
もう誰から見ても妊娠している、というほど大きくなったお腹を、空いた手で撫でているランチェッタさんを注意深く見守りながら、ゆっくりとした歩調でミスティア大陸の方々が待っている部屋へと向かった。
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