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後日譚
後日譚81.事なかれ主義者は話題を考えた
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料理大会の決勝戦まで勝ち進んだエルフは四人だけだったのでなんとか出されたものは完食する事ができた。
例の如く総評はよく分からないので今日はランチェッタさんにお願いして僕は聞き役に徹した。
大会が終わる頃には日が暮れ始めていたけど、円形闘技場の外でのお祭り騒ぎは夜遅くまで続きそうだ。
「見て回ろうかなぁ」
「駄目です。次の予定があります」
「……はい」
セシリアさんが僕の希望をきっぱりと断った。
逃げ出しそうと思われているのか、モニカと協力して僕の両手を塞いでいる。
両手に花状態だけど、これからの事を考えると憂鬱だ。
「レヴィさんたちは?」
「ミスティア大陸からいらした方々と一緒に先に迎賓館に向かっているようです」
「えっと、私も同席するのでしょうか?」
「ええ。元貴族令嬢として何か気になった事があったら教えてください」
「セシリア様のような方と違って社交界に出た事もあまりないのですが……」
「大丈夫です。私も実家の身分は高いですが、レヴィア様の侍女としてお仕えする事になってからは社交界に出る事はめっきりと減りましたから。経験値でいうのなら同じくらいだと思いますよ」
没落令嬢と高位貴族での令嬢では全然違うと思うけれど、モニカはそれ以上特に何か言う事はなく、馬車に乗り込んだ。
その後をセシリアさんに促された僕が続いて、最後にセシリアさんが乗ってきて扉を閉めた。
僕は一人で席に座り、進行方向に背を向ける形の長椅子にモニカとセシリアさんが横並びで座った。
セシリアさんはアイテムバッグと化しているポーチから数枚の紙を取り出した。
「イルミンスールで働いてくださっているタカノリ様から今回ミスティア大陸からいらっしゃった方々の情報を頂きました。タカノリ様だけではなく、アビゲイル様の視点からも書かれているようなのである程度信頼できる情報かと思います」
「これから会うんでしょ? その時に聞けばいいんじゃない?」
僕の疑問に答えてくれたのはモニカだった。
「相手の事を知っておいて損はないと思いますよ。困った時に会話のきっかけになります」
「なるほど」
「大会の審査員を頼んだ事自体が急な事だったので致し方ない部分はあるかと思いますが、相手側の情報が少ないのは事実です。会話の糸口にして頂いてより多くの情報を引き出していただけたらと思います」
「…………善処します」
今回はレヴィさんとランチェッタさんも同席してくれるそうなので彼女たちに任せてもいいような気もするけれど、ちょっとずつ頑張ると決めたんだから覚えるだけ覚えよう。
そう思ってセシリアさんが読み上げる報告書の内容に集中する事にした。
セシリアさんはそんな僕の様子を見て満足そうに一度頷くと、報告書に視線を移して少し経ってから口を開いた。
「まずはアビゲイル・バンフィールド様から。御存知の通り、ウィズダム魔法王国のバンフィールド公爵家の御息女であり、元知の勇者タカノリ様の奥様です。タカノリ様との関係も良好でシズト様との婚約を申し出る事はあり得ませんが、子どもを使って繋がりを作るように、とウィズダム魔法王国から言われていても不思議ではありません。付与の加護を授かっているチヨとの婚約を考えているのではないかと思われます」
「それは断固拒否するから大丈夫」
自由恋愛推奨派だから、自然とそういう関係になったとかならいいけど外交の道具にはするつもりはない。
こちらが使える手札は今の所潤沢だから子どもを使う必要はないというのもある……と思うけど、これは言い訳だな。うん。娘はまだやれん。
「左様でございますか。アビゲイル様はタカノリ様との関係はとても良好ですから、タカノリ様のお話をしておけば大丈夫かと思われます。あとはシズト様たちの故郷の話にも興味を示すと思いますよ」
「そうですね。勇者様たちの世界の話は場を繋ぐ意味ではよく使えると思います」
黙って聞いていたモニカもこくこくと頷いた。
最近は夫婦の営みはないけれど、お世話係の日に一緒に寝る際は僕の世界の話をする時もあるからその時の事を思い出したのかもしれない。
「次はダークエルフの国ノルマノンからいらっしゃった方についてです。お名前はジャンヌ・マルトノ様。人族の国の地位で言うと公爵家になるそうです。王族の血を引いている御方で、領地は大樹海と他国に隣接する場所だそうです」
「あー……大樹海が広がっている、っていう問題を抱えている国だっけ?」
「そうですね。ただ、大樹海問題については大樹海と隣接している国すべてが同様に抱えています」
「なるほど。ドライアドを派遣したら何とかならないかなぁ」
「レモン?」
「悪化する未来が見えますが?」
「……そっすね」
「レモン!」
僕の肩の上で大人しくしていたレモンちゃんが抗議をしてくるけれど、いつものレモンちゃんたちを見ているとそう思っても仕方ないと思う。
それに、派遣するとしたらイルミンスールにいる子たちになるだろうけど、あの子たちは眠る事が好きなのんびり屋さんばかりだしなぁ。
……大樹海問題については僕にはどうしようもないけど、話題として覚えておこう。
「長命種故にシズト様やお子様との婚約を申し込む方は少ないと思いますが、接点を持つという意味で提案される可能性はあります」
「なるほど。油断しすぎないように心構えしといた方が良いって事だね」
「そういう事です。次はドワーフの国ルンベルクから来た方ですね。エルメンガルト・ロンメル様も王家の血筋を引いている公爵家の方です」
「公爵家の人が多いんだね」
「そのくらいシズト様との関係を重要視されているのでしょう。王家の方が来なかったのは急な連絡だったからだと思われます」
「……今度から急な連絡にしようかな」
「あまり推奨はしません」
まあ、そうだよね。
向こうにも準備とか色々あるだろうし……まあ、思い付きで行動しちゃうところがあるから今後も時々あるかもしれないけど。
失礼な事に当たるだろうし、今後は身内だけで済ませるのもありかなぁ。
例の如く総評はよく分からないので今日はランチェッタさんにお願いして僕は聞き役に徹した。
大会が終わる頃には日が暮れ始めていたけど、円形闘技場の外でのお祭り騒ぎは夜遅くまで続きそうだ。
「見て回ろうかなぁ」
「駄目です。次の予定があります」
「……はい」
セシリアさんが僕の希望をきっぱりと断った。
逃げ出しそうと思われているのか、モニカと協力して僕の両手を塞いでいる。
両手に花状態だけど、これからの事を考えると憂鬱だ。
「レヴィさんたちは?」
「ミスティア大陸からいらした方々と一緒に先に迎賓館に向かっているようです」
「えっと、私も同席するのでしょうか?」
「ええ。元貴族令嬢として何か気になった事があったら教えてください」
「セシリア様のような方と違って社交界に出た事もあまりないのですが……」
「大丈夫です。私も実家の身分は高いですが、レヴィア様の侍女としてお仕えする事になってからは社交界に出る事はめっきりと減りましたから。経験値でいうのなら同じくらいだと思いますよ」
没落令嬢と高位貴族での令嬢では全然違うと思うけれど、モニカはそれ以上特に何か言う事はなく、馬車に乗り込んだ。
その後をセシリアさんに促された僕が続いて、最後にセシリアさんが乗ってきて扉を閉めた。
僕は一人で席に座り、進行方向に背を向ける形の長椅子にモニカとセシリアさんが横並びで座った。
セシリアさんはアイテムバッグと化しているポーチから数枚の紙を取り出した。
「イルミンスールで働いてくださっているタカノリ様から今回ミスティア大陸からいらっしゃった方々の情報を頂きました。タカノリ様だけではなく、アビゲイル様の視点からも書かれているようなのである程度信頼できる情報かと思います」
「これから会うんでしょ? その時に聞けばいいんじゃない?」
僕の疑問に答えてくれたのはモニカだった。
「相手の事を知っておいて損はないと思いますよ。困った時に会話のきっかけになります」
「なるほど」
「大会の審査員を頼んだ事自体が急な事だったので致し方ない部分はあるかと思いますが、相手側の情報が少ないのは事実です。会話の糸口にして頂いてより多くの情報を引き出していただけたらと思います」
「…………善処します」
今回はレヴィさんとランチェッタさんも同席してくれるそうなので彼女たちに任せてもいいような気もするけれど、ちょっとずつ頑張ると決めたんだから覚えるだけ覚えよう。
そう思ってセシリアさんが読み上げる報告書の内容に集中する事にした。
セシリアさんはそんな僕の様子を見て満足そうに一度頷くと、報告書に視線を移して少し経ってから口を開いた。
「まずはアビゲイル・バンフィールド様から。御存知の通り、ウィズダム魔法王国のバンフィールド公爵家の御息女であり、元知の勇者タカノリ様の奥様です。タカノリ様との関係も良好でシズト様との婚約を申し出る事はあり得ませんが、子どもを使って繋がりを作るように、とウィズダム魔法王国から言われていても不思議ではありません。付与の加護を授かっているチヨとの婚約を考えているのではないかと思われます」
「それは断固拒否するから大丈夫」
自由恋愛推奨派だから、自然とそういう関係になったとかならいいけど外交の道具にはするつもりはない。
こちらが使える手札は今の所潤沢だから子どもを使う必要はないというのもある……と思うけど、これは言い訳だな。うん。娘はまだやれん。
「左様でございますか。アビゲイル様はタカノリ様との関係はとても良好ですから、タカノリ様のお話をしておけば大丈夫かと思われます。あとはシズト様たちの故郷の話にも興味を示すと思いますよ」
「そうですね。勇者様たちの世界の話は場を繋ぐ意味ではよく使えると思います」
黙って聞いていたモニカもこくこくと頷いた。
最近は夫婦の営みはないけれど、お世話係の日に一緒に寝る際は僕の世界の話をする時もあるからその時の事を思い出したのかもしれない。
「次はダークエルフの国ノルマノンからいらっしゃった方についてです。お名前はジャンヌ・マルトノ様。人族の国の地位で言うと公爵家になるそうです。王族の血を引いている御方で、領地は大樹海と他国に隣接する場所だそうです」
「あー……大樹海が広がっている、っていう問題を抱えている国だっけ?」
「そうですね。ただ、大樹海問題については大樹海と隣接している国すべてが同様に抱えています」
「なるほど。ドライアドを派遣したら何とかならないかなぁ」
「レモン?」
「悪化する未来が見えますが?」
「……そっすね」
「レモン!」
僕の肩の上で大人しくしていたレモンちゃんが抗議をしてくるけれど、いつものレモンちゃんたちを見ているとそう思っても仕方ないと思う。
それに、派遣するとしたらイルミンスールにいる子たちになるだろうけど、あの子たちは眠る事が好きなのんびり屋さんばかりだしなぁ。
……大樹海問題については僕にはどうしようもないけど、話題として覚えておこう。
「長命種故にシズト様やお子様との婚約を申し込む方は少ないと思いますが、接点を持つという意味で提案される可能性はあります」
「なるほど。油断しすぎないように心構えしといた方が良いって事だね」
「そういう事です。次はドワーフの国ルンベルクから来た方ですね。エルメンガルト・ロンメル様も王家の血筋を引いている公爵家の方です」
「公爵家の人が多いんだね」
「そのくらいシズト様との関係を重要視されているのでしょう。王家の方が来なかったのは急な連絡だったからだと思われます」
「……今度から急な連絡にしようかな」
「あまり推奨はしません」
まあ、そうだよね。
向こうにも準備とか色々あるだろうし……まあ、思い付きで行動しちゃうところがあるから今後も時々あるかもしれないけど。
失礼な事に当たるだろうし、今後は身内だけで済ませるのもありかなぁ。
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