886 / 1,094
後日譚
後日譚74.事なかれ主義者は堪えた
しおりを挟む
ファマリアの南区には円形闘技場をはじめとした大きな施設が区画整理によって作られている。
徒歩で移動するのはいろいろと問題があるので馬車を使って会場入りした。
馬車から降りるとたくさんの視線を感じたけど、熱烈な歓迎ムードが苦手だと知れ渡っているのでチラチラと見てくる程度だ。
「レモンちゃん、じっとしててね」
「れもん」
義母のパールさんによる指導のおかげで、レモンちゃんを肩車した状態でも姿勢を保っていられるけど、流石に肩の上で動き回られたら維持できないからね。
レモンちゃんもピシッと背筋を伸ばして微動だにしなくなったのを感じつつ、馬車から出てきたレヴィさんに手を差し出す。
いつもの農作業用のオーバーオールではなく、豪華なフリフリなどもついたドレスを身にまとっていて、いつも以上に綺麗だった。
金色の髪は太陽の光を浴びて煌めき、青い瞳は宝石のようだ。胸元は大きく開いていて、魔道具によって作られた大きな胸が目立つ。
視線が胸の方に吸い寄せられないように気を付けつつ彼女を連れて会場に入った。
「…………? 静かすぎない?」
「そうですわね。きっとシズトを待っているのですわ」
「れもーん。れも~~ん」
普段なら駐屯しているドラン軍の人たちが訓練場として使っているから建物内の廊下を歩いていても声が聞こえてくるけど、今は僕たちの足音と声しか聞こえない。
レモンちゃんは微動だにしないまま声が響く廊下で遊んでいるようだ。
メイド服姿で静かに僕たちの案内をしているセシリアさんの後をついて階段をあがったり廊下を進んだりしていると、時折警備の人っぽい人族の兵士さんとすれ違う。
レモンちゃんを肩車しているのはいつもの事だからか分からないけど、誰も微動だにしない。
僕も彼らを見かける度にシャキッとするのを意識するので、何とか今のところぼろは出ていない……はず。
「れも~~~~~ん」
「そろそろ到着します。お静かにお願いします」
「…………もん」
セシリアさんに注意されたレモンちゃんの事は置いといて、周りに気付かれないように気を付けつつ深呼吸した。
大きな扉が見えてくる。アレがVIP席に繋がる扉だったはず。
両開きの扉のすぐ近くには先程からすれ違っていた兵士の装備よりも豪華な鎧を身に着けた者たちが立っていた。
……あの人たちって普段レヴィさんに扱き使われている近衛兵だった気がする。本来の仕事をしているはずなのに何だか違和感を感じるなぁ、なんてどうでもいい考えが頭をよぎったのを見透かされたのか、ギュッと強く手を握られた。
「準備はよろしいでしょうか?」
「問題ないのですわ~」
「うん、大丈夫」
「レモン」
「かしこまりました。ではここからは私は後ろに控えております。何かございましたらお申し付けください」
「分かった。……あ、入る前にちょっと一個だけいい?」
「なんなりと」
「念のため一回試してほしい」
何をとは言わなかったけどそれだけでセシリアさんは察したようだ。
隣にいたレヴィさんも察しているようだけど特に動きはない。
セシリアさんがサッと動いた。
レモンちゃんの髪の毛も同時に僕に巻きついた。
「…………引っ張った方がよろしいでしょうか?」
「結果は分かってるから結構です」
一度肩の上に乗るとそうそう離れないから仕方ないよね。
レモンちゃんを下ろす事は諦めて姿勢を正して扉の前で立つと、近衛兵の方々が扉を開けてくれた。
ゆっくりと歩く事を意識しながら扉をくぐると、太陽の光が僕たちを照らす。
そして、眼下に広がる光景が目に入ってきた。
円形闘技場の観客席を埋め尽くすほどエルフたちが大量にいる。席に座れなかったエルフたちは立ち見をするつもりなのか、通路にもぎっしりと詰まっていたし、空にもぷかぷか浮いている人たちもいた。……いや、あれは警備の人か? 仮面をつけているようにも見える。
スタジアムには既に選りすぐりの選手たちが列を成していた。今日行われる大会だけではなく、明日以降の出番の人たちもいるようだけど、全員エルフの正装である真っ白な布地の服を着ていた。
「…………めっちゃいるじゃん」
僕の小さな声は、大歓声によってかき消された。
彼らに答えるために手を振ると、さらに声が大きくなった。
収拾がつかなくなるのではないか? と思ったけど、僕が手を振るのを止めると段々と声が小さくなっていき、再び静寂が会場を包んだ。
ゼロか百しかないのかこのエルフたちは! なんて事を思いながらもセシリアさんが目の前に用意してくれた魔道具『集音機』に魔力を流す。
会場中に設置された魔道具『拡声器』と繋がっているか、マイクテストマイクテスト、って言いそうになるのを堪えた。
「おはようございます。本日はお日柄も良く、絶好の大会日和となりました。選手の皆様は悔いのないように全力で事に当たって頂ければと思います。観客の皆様には是非選手たちの応援をしてください。それでは、よろしくお願いいたします」
最初の挨拶の相談を皆にしてみたけど、僕の言いたい事を言えばいいとだけ言われたので当たり障りのない事しか言えなかった。
それでもエルフたちには満足して貰えたようで、闘技場の外にまで聞こえそうな大歓声をエルフたちが発している。
開会の挨拶とかもパールさんにご指導してもらった方が良いのかなぁ、なんて思いながらも反射的に頭を下げそうになるのを抑えた。偉い人は簡単に頭を下げないらしい。
徒歩で移動するのはいろいろと問題があるので馬車を使って会場入りした。
馬車から降りるとたくさんの視線を感じたけど、熱烈な歓迎ムードが苦手だと知れ渡っているのでチラチラと見てくる程度だ。
「レモンちゃん、じっとしててね」
「れもん」
義母のパールさんによる指導のおかげで、レモンちゃんを肩車した状態でも姿勢を保っていられるけど、流石に肩の上で動き回られたら維持できないからね。
レモンちゃんもピシッと背筋を伸ばして微動だにしなくなったのを感じつつ、馬車から出てきたレヴィさんに手を差し出す。
いつもの農作業用のオーバーオールではなく、豪華なフリフリなどもついたドレスを身にまとっていて、いつも以上に綺麗だった。
金色の髪は太陽の光を浴びて煌めき、青い瞳は宝石のようだ。胸元は大きく開いていて、魔道具によって作られた大きな胸が目立つ。
視線が胸の方に吸い寄せられないように気を付けつつ彼女を連れて会場に入った。
「…………? 静かすぎない?」
「そうですわね。きっとシズトを待っているのですわ」
「れもーん。れも~~ん」
普段なら駐屯しているドラン軍の人たちが訓練場として使っているから建物内の廊下を歩いていても声が聞こえてくるけど、今は僕たちの足音と声しか聞こえない。
レモンちゃんは微動だにしないまま声が響く廊下で遊んでいるようだ。
メイド服姿で静かに僕たちの案内をしているセシリアさんの後をついて階段をあがったり廊下を進んだりしていると、時折警備の人っぽい人族の兵士さんとすれ違う。
レモンちゃんを肩車しているのはいつもの事だからか分からないけど、誰も微動だにしない。
僕も彼らを見かける度にシャキッとするのを意識するので、何とか今のところぼろは出ていない……はず。
「れも~~~~~ん」
「そろそろ到着します。お静かにお願いします」
「…………もん」
セシリアさんに注意されたレモンちゃんの事は置いといて、周りに気付かれないように気を付けつつ深呼吸した。
大きな扉が見えてくる。アレがVIP席に繋がる扉だったはず。
両開きの扉のすぐ近くには先程からすれ違っていた兵士の装備よりも豪華な鎧を身に着けた者たちが立っていた。
……あの人たちって普段レヴィさんに扱き使われている近衛兵だった気がする。本来の仕事をしているはずなのに何だか違和感を感じるなぁ、なんてどうでもいい考えが頭をよぎったのを見透かされたのか、ギュッと強く手を握られた。
「準備はよろしいでしょうか?」
「問題ないのですわ~」
「うん、大丈夫」
「レモン」
「かしこまりました。ではここからは私は後ろに控えております。何かございましたらお申し付けください」
「分かった。……あ、入る前にちょっと一個だけいい?」
「なんなりと」
「念のため一回試してほしい」
何をとは言わなかったけどそれだけでセシリアさんは察したようだ。
隣にいたレヴィさんも察しているようだけど特に動きはない。
セシリアさんがサッと動いた。
レモンちゃんの髪の毛も同時に僕に巻きついた。
「…………引っ張った方がよろしいでしょうか?」
「結果は分かってるから結構です」
一度肩の上に乗るとそうそう離れないから仕方ないよね。
レモンちゃんを下ろす事は諦めて姿勢を正して扉の前で立つと、近衛兵の方々が扉を開けてくれた。
ゆっくりと歩く事を意識しながら扉をくぐると、太陽の光が僕たちを照らす。
そして、眼下に広がる光景が目に入ってきた。
円形闘技場の観客席を埋め尽くすほどエルフたちが大量にいる。席に座れなかったエルフたちは立ち見をするつもりなのか、通路にもぎっしりと詰まっていたし、空にもぷかぷか浮いている人たちもいた。……いや、あれは警備の人か? 仮面をつけているようにも見える。
スタジアムには既に選りすぐりの選手たちが列を成していた。今日行われる大会だけではなく、明日以降の出番の人たちもいるようだけど、全員エルフの正装である真っ白な布地の服を着ていた。
「…………めっちゃいるじゃん」
僕の小さな声は、大歓声によってかき消された。
彼らに答えるために手を振ると、さらに声が大きくなった。
収拾がつかなくなるのではないか? と思ったけど、僕が手を振るのを止めると段々と声が小さくなっていき、再び静寂が会場を包んだ。
ゼロか百しかないのかこのエルフたちは! なんて事を思いながらもセシリアさんが目の前に用意してくれた魔道具『集音機』に魔力を流す。
会場中に設置された魔道具『拡声器』と繋がっているか、マイクテストマイクテスト、って言いそうになるのを堪えた。
「おはようございます。本日はお日柄も良く、絶好の大会日和となりました。選手の皆様は悔いのないように全力で事に当たって頂ければと思います。観客の皆様には是非選手たちの応援をしてください。それでは、よろしくお願いいたします」
最初の挨拶の相談を皆にしてみたけど、僕の言いたい事を言えばいいとだけ言われたので当たり障りのない事しか言えなかった。
それでもエルフたちには満足して貰えたようで、闘技場の外にまで聞こえそうな大歓声をエルフたちが発している。
開会の挨拶とかもパールさんにご指導してもらった方が良いのかなぁ、なんて思いながらも反射的に頭を下げそうになるのを抑えた。偉い人は簡単に頭を下げないらしい。
53
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪
紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。
4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる