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後日譚
後日譚70.事なかれ主義者は婚約(仮)のつもり
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「おはようございます、シズト様」
翌日、再びオクタビア様に会うために迎賓館を訪れた。
昨日は全くオクタビア様の容姿を見て覚える余裕がなかったので、失礼にならない程度に出迎えてくれたオクタビア様を見る。
身長は僕よりも少し下くらいで、端正な顔立ちをしている。王侯貴族は特に見た目が良いのはやはりそういう人を娶っているからだろうか?
スタイルも良く、胸のあたりが大きく開いたドレスを着ていて、目のやり場に困る。あまり胸元は見ないように気をつけよう。
顔立ち的に同世代くらいに見えるけど、ジュリウスから聞いた彼女の情報によると成人したばかりの十五歳らしい。
こっちの世界の人たちは勇者の子孫じゃない人たちは基本的に大人びて見える。彼らが大人びて見える、というよりは日本人が幼く見えるんじゃないかな、なんてどうでもいい事を考えながら挨拶を返す。
「おはようございます、オクタビア王女殿下」
「お忙しい中、時間を作って頂きありがとうございます」
「いえ、大丈夫です。基本的に子どもたちのお世話をしているだけですから」
実際、朝の日課を済ませたら子どもたちがいる部屋に入り浸っているのは嘘ではない。嘘ではないけど、今回は意識的に子煩悩である事を前面に押し出す事にした。そうしたら子どもたちの縁談の提案をしにくくなるんじゃないか、という考えだ。
レヴィさんやモニカは政略結婚に対して、よくある事だから申し込まれてから考えるつもりのようだけど、僕は申し込まれる前に阻止をしたい。
「とってもかわいくて、ずっと家にいて欲しいくらいです」
「そうなんですね」
どのくらい言えばいいのか分からないので迎賓館の案内人の後をついて歩きながら最近の子どもたちの様子を話し続けた。
今回の会談場所である部屋に通されて、席に着いた後も首がすわっていない赤ちゃんの持ち方のコツや、おむつを換える際に起きてしまった悲劇の話をしてしまったけど、彼女は嫌な顔をする事なく聞いてくれた。
「シズト様、そろそろ本題に」
「あ、はい」
会談に同席してくれたリヴァイさんやコーニエルさんも止めてくれないので育児の大変さについて話しすぎてしまったけど、ジュリウスに耳打ちされてやっと本題を思い出した。
「お嫁さんたちとも話し合って結論が出ました」
本当は今でもこれでいいのか悩んでいるけれど、いくら時間を掛けたとしても悩みは尽きないだろう。
僕の答えを静かに待つオクタビア様を真っすぐに見ると、彼女もまた深い青色の目で僕を見返してきた。
「オクタビア様が皇位継承をするための後ろ盾となりましょう」
「ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「そうでしょうね。どのような条件でしょうか? 結納金、はシズト様にとってははした金でしょうし……我が国にご満足いただける物が用意できるかどうか……」
オクタビア様は綺麗な形の眉を八の字にして思案しているようだ。
「条件はそういうのじゃなくて、結婚をするのは三年後にしていただきたいのです」
「三年後、ですか?」
「はい。オクタビア様は十五歳とお聞きしておりますが、僕の故郷では結婚できるのは十八歳からなんです。ですから、それまでは仮の婚約という事で……」
「……なるほど。その間にボロボロな状態の我が国の状況を改善せよ、という事ですね! そうすればシズト様のお望みの物もご用意できるようになるかもしれませんし」
「いや、そういう訳じゃなくて……」
僕が否定すると彼女は不思議そうに小首を傾げた。
別に立て直したエンジェリアから何かを貰おうとか思ってない。
「未成年の人と結婚するのはちょっと心理的ハードルが高いんですよ。あと、お互いの事をよく知らないでしょう? この三年の間にお互いの事をよく知って、その上で結婚をするのかどうかもう一度三年後に話し合って決めれたらと思うんです」
「……なるほど、つまりその三年の間にシズト様のお隣に立つに相応しい者になれ、という事ですね!」
「いや、別にそういう訳でもなくてですね……」
思った以上に骨が折れるぞ、これ。
僕がこれを思いついた時にレヴィさんたちが微妙な顔になっていたのも何となくわかった気がする。
三年もあれば彼女の地位は盤石なものになっているだろうし、その時に婚約の件は白紙に戻せばいいかなって思ったんだけど……。
その後も懇切丁寧に未成年と結婚をするのは心理的にきついという事や、お互いの事をしっかりと知ってから結婚をするかどうか決めたい事を伝え続けた結果、お昼前には何とか理解して貰えた。
「婚約破棄されないように頑張ります」
「婚約破棄って……いや、まあ確かにそうなるのか? いやでも、話し合った結果婚約を解消するんだったら白紙に戻すとかそういう言い回しになるような……」
三年後に断った場合、彼女の経歴に傷がつくのは分かり切っている。
その後の人生に苦労しないために根回しをする必要がありそうだけど……彼女に相応しそうな男を探しておくとかそういう事をしておけばいいのだろうか?
いや、でも表面上でも婚約をする訳だし、そういうのは彼女の立場が安定してからだな、うん。
そもそもまだ即位しているわけでもないし、無事に皇位継承するとも限らない。
婚約をするのは皇位継承をする事になったら、という条件付きだし先の事はまた後で考えよう。
なんて、楽観視していたら一ヵ月でオクタビア様が皇位継承する事になった。
「……早すぎない?」
「それだけ、皇族の力が弱まっていたんでしょう。邪神とのつながりの兼ね合いで強力な加護をその地に取り込んでこなかった事も影響しているんでしょうけどね」
ジュリウスが理由を説明してくれたけど、とんとん拍子で話が進み過ぎてついていけない。
ただ、良かった事としては前の皇帝と第一王子が生きている事だろうか?
彼らはどこかに送られて余生を過ごすそうだ。
今までの生活とだいぶ違う感じになると思うけど、こちらにちょっかいをかける事無く過ごしてほしいな、と思いつつ今日も赤ちゃんのお世話をするのだった。
翌日、再びオクタビア様に会うために迎賓館を訪れた。
昨日は全くオクタビア様の容姿を見て覚える余裕がなかったので、失礼にならない程度に出迎えてくれたオクタビア様を見る。
身長は僕よりも少し下くらいで、端正な顔立ちをしている。王侯貴族は特に見た目が良いのはやはりそういう人を娶っているからだろうか?
スタイルも良く、胸のあたりが大きく開いたドレスを着ていて、目のやり場に困る。あまり胸元は見ないように気をつけよう。
顔立ち的に同世代くらいに見えるけど、ジュリウスから聞いた彼女の情報によると成人したばかりの十五歳らしい。
こっちの世界の人たちは勇者の子孫じゃない人たちは基本的に大人びて見える。彼らが大人びて見える、というよりは日本人が幼く見えるんじゃないかな、なんてどうでもいい事を考えながら挨拶を返す。
「おはようございます、オクタビア王女殿下」
「お忙しい中、時間を作って頂きありがとうございます」
「いえ、大丈夫です。基本的に子どもたちのお世話をしているだけですから」
実際、朝の日課を済ませたら子どもたちがいる部屋に入り浸っているのは嘘ではない。嘘ではないけど、今回は意識的に子煩悩である事を前面に押し出す事にした。そうしたら子どもたちの縁談の提案をしにくくなるんじゃないか、という考えだ。
レヴィさんやモニカは政略結婚に対して、よくある事だから申し込まれてから考えるつもりのようだけど、僕は申し込まれる前に阻止をしたい。
「とってもかわいくて、ずっと家にいて欲しいくらいです」
「そうなんですね」
どのくらい言えばいいのか分からないので迎賓館の案内人の後をついて歩きながら最近の子どもたちの様子を話し続けた。
今回の会談場所である部屋に通されて、席に着いた後も首がすわっていない赤ちゃんの持ち方のコツや、おむつを換える際に起きてしまった悲劇の話をしてしまったけど、彼女は嫌な顔をする事なく聞いてくれた。
「シズト様、そろそろ本題に」
「あ、はい」
会談に同席してくれたリヴァイさんやコーニエルさんも止めてくれないので育児の大変さについて話しすぎてしまったけど、ジュリウスに耳打ちされてやっと本題を思い出した。
「お嫁さんたちとも話し合って結論が出ました」
本当は今でもこれでいいのか悩んでいるけれど、いくら時間を掛けたとしても悩みは尽きないだろう。
僕の答えを静かに待つオクタビア様を真っすぐに見ると、彼女もまた深い青色の目で僕を見返してきた。
「オクタビア様が皇位継承をするための後ろ盾となりましょう」
「ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「そうでしょうね。どのような条件でしょうか? 結納金、はシズト様にとってははした金でしょうし……我が国にご満足いただける物が用意できるかどうか……」
オクタビア様は綺麗な形の眉を八の字にして思案しているようだ。
「条件はそういうのじゃなくて、結婚をするのは三年後にしていただきたいのです」
「三年後、ですか?」
「はい。オクタビア様は十五歳とお聞きしておりますが、僕の故郷では結婚できるのは十八歳からなんです。ですから、それまでは仮の婚約という事で……」
「……なるほど。その間にボロボロな状態の我が国の状況を改善せよ、という事ですね! そうすればシズト様のお望みの物もご用意できるようになるかもしれませんし」
「いや、そういう訳じゃなくて……」
僕が否定すると彼女は不思議そうに小首を傾げた。
別に立て直したエンジェリアから何かを貰おうとか思ってない。
「未成年の人と結婚するのはちょっと心理的ハードルが高いんですよ。あと、お互いの事をよく知らないでしょう? この三年の間にお互いの事をよく知って、その上で結婚をするのかどうかもう一度三年後に話し合って決めれたらと思うんです」
「……なるほど、つまりその三年の間にシズト様のお隣に立つに相応しい者になれ、という事ですね!」
「いや、別にそういう訳でもなくてですね……」
思った以上に骨が折れるぞ、これ。
僕がこれを思いついた時にレヴィさんたちが微妙な顔になっていたのも何となくわかった気がする。
三年もあれば彼女の地位は盤石なものになっているだろうし、その時に婚約の件は白紙に戻せばいいかなって思ったんだけど……。
その後も懇切丁寧に未成年と結婚をするのは心理的にきついという事や、お互いの事をしっかりと知ってから結婚をするかどうか決めたい事を伝え続けた結果、お昼前には何とか理解して貰えた。
「婚約破棄されないように頑張ります」
「婚約破棄って……いや、まあ確かにそうなるのか? いやでも、話し合った結果婚約を解消するんだったら白紙に戻すとかそういう言い回しになるような……」
三年後に断った場合、彼女の経歴に傷がつくのは分かり切っている。
その後の人生に苦労しないために根回しをする必要がありそうだけど……彼女に相応しそうな男を探しておくとかそういう事をしておけばいいのだろうか?
いや、でも表面上でも婚約をする訳だし、そういうのは彼女の立場が安定してからだな、うん。
そもそもまだ即位しているわけでもないし、無事に皇位継承するとも限らない。
婚約をするのは皇位継承をする事になったら、という条件付きだし先の事はまた後で考えよう。
なんて、楽観視していたら一ヵ月でオクタビア様が皇位継承する事になった。
「……早すぎない?」
「それだけ、皇族の力が弱まっていたんでしょう。邪神とのつながりの兼ね合いで強力な加護をその地に取り込んでこなかった事も影響しているんでしょうけどね」
ジュリウスが理由を説明してくれたけど、とんとん拍子で話が進み過ぎてついていけない。
ただ、良かった事としては前の皇帝と第一王子が生きている事だろうか?
彼らはどこかに送られて余生を過ごすそうだ。
今までの生活とだいぶ違う感じになると思うけど、こちらにちょっかいをかける事無く過ごしてほしいな、と思いつつ今日も赤ちゃんのお世話をするのだった。
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