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後日譚
後日譚54.事なかれ主義者は心配性
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シンシーラは日が暮れて少し経った頃に無事に出産を終えた。
聖女の加護を授かっているから助っ人として来てもらった姫花は「良い事なんだけど、やる事がないと暇なのよね」と言っていた。
姫花からしたら活躍の場があった方が王妃様へのアピールにもなるんだろうけど、僕たちにとっては何事もないのが一番いい。
今後も何事もない事を神様に祈りつつ、新しく産まれた子を皆でぞろぞろと見に行く事にしたんだけど、いつもの魔法使い然とした格好のホムラに止められた。どうやら魔道具店『サイレンス』の店番を終えて戻ってきたばかりのようだ。
「眠いようですので外に連れて行きます、マスター」
「あ、ほんと? じゃあお願いしようかな」
「…………れも」
日が暮れたらドライアドたちは基本的に眠る。
当然、僕の頭にしがみ付いていたレモンちゃんも舟を漕いでいて、そのうち落ちそうで怖かった。あとたまによだれを垂らして眠るのでそこまで害はないけど気になってしまうのでできれば下ろしたかったのもある。
レモンちゃんは抵抗する事もなくホムラに回収されたので、僕は先にシンシーラと赤ん坊が待つ部屋に入った。
室内に待機している産婆さんや聖女の加護を授かった女性たちは人数が少なくなっていたけど、この後にもやる事があるのでまだ数人残っていた。その中に、姫花もいた。
シンシーラはベッドに横たわっていた。自分の部屋が一番落ち着くから、と自室で出産を迎えた彼女は僕に気が付くとその茶色の目を僕に向けてきた。尻尾がパタパタと元気よく振られている。
「お疲れ様、シンシーラ」
「だいぶ疲れたじゃん」
「どのくらい疲れたデスか?」
暇を持て余していた翼人族のパメラが僕とシンシーラの話に割って入った。
すぐ横をすり抜けて行ったので黒い翼が腕に触れてくすぐったかった。
「どのくらいって、比較が難しいじゃん。でも疲れたから静かにしててほしいじゃん」
「分かったデース!」
「全然わかってないじゃん……」
「大丈夫よ、シーラ。私が見張っておくわ」
再び僕のすぐ近くをすり抜けてベッドに近寄ったのは狐人族のエミリーだ。
彼女の自慢のモフモフの尻尾が僕の腕をくすぐった。……パメラはわざとじゃないけどエミリーはわざとだな。
エミリーは元気いっぱいのパメラを捕まえるとベッドから離していく。
「頼んだじゃん……ちょっと休むじゃん……」
シンシーラはだいぶ疲れていたようで、ペタッと狼の耳も垂れていた。
彼女が目を瞑ると近くに控えていた姫花が「姫花がちゃんと見てるから赤ちゃんの方に行きなさいよ」と言ってきたので厚意に甘える事にした。
赤ちゃんが寝かされている台の方へ向かい始めたところで、扉が開かれてホムラが戻ってきた。
「戻りました、マスター」
「早くない? ちゃんと帰したの?」
「はい、マスター。何事も問題はございません」
何かホムラの視線が泳いでいるような気がするけど、今は追及するよりも優先すべき事がある。
みんなに囲まれているであろう台の方へと向かうと、ホムラも僕の後ろをついて来た。
「人間の赤ちゃんとあんまり変わんないのですわ」
「でも尻尾も耳もあるのね。ねぇジュリウスくん、この子に加護は授けられてるのかしら?」
「いえ、やはり授けられていないようです」
レヴィさんと一緒に赤ん坊を覗き込んでいたルウさんが尋ねると、ジュリウスは鑑定眼鏡をしまいながら答えた。
みんな何とも言えない複雑な表情になったけど、ラオさんが「面倒事に巻き込まれにくくなるって考えりゃいい事じゃねぇか?」と言った。僕もその通りだと思う。
「それよりも、名前は何になったんだ?」
「真だよ。どっちの性別でもいいように決めてたんだ」
「マコトデスか。シンシーラの名前が入ってないデスね?」
「いろいろ組み合わせ考えたんだけど、ピンとくるのがなかったから読み方を変えたんだよ。漢字で書くとシンシーラのシンを使ってるんだよ?」
みんなピンときていないけど、これでいいんだと思う。呪いの神様は神様たちの世界に帰ったけど、呪いという概念がなくなったわけじゃないし、漢字を使ったフルネームは知っている人は少ない方が良いだろう。
シンシーラにはちゃんと漢字も伝えた上で納得してもらったし、何も問題はない……はずだ。
「ホムラちゃんとぉ、ユキちゃんはぁ、どのような字か分かりますかぁ?」
「大体は予想がつきます」
「ただ、シンとも読む字はたくさんあるからねぇ。どれか断言できないし、私たちが知らなくてもいい事だと思うわ」
ホムラと一緒に気だるそうに質問に答えたユキは「そうよね、ご主人様?」と聞いてきたので頷いておく。
…………ただ、やっぱり名付けって大変なんだよな。命名辞典、みたいな魔道具を作っておけばよかった。今後は呪いのリスクも踏まえたうえで、ホムンクルスの誰かに相談するのはありかもしれない。
そんな事を思いながら、産婆さんに促されるまま新しく産まれた真を抱き上げた。
その後、政務を終えたランチェッタさんが戻ってきて皆が一通り真を抱き終えるとシンシーラの部屋を後にした。
「やっぱり加護を授かっていない子もいるみたいだし、もう少しエリクサーとか用意しておこうか」
「かしこまりました、マスター」
「ありすぎても使わねぇだろ」
「補充したいときにないと困るから先に補充しておくんだよ!」
ラオさんが呆れたように見てきたけど、万が一の事を考えると万全の準備をしておいた方が良いだろう、という事でホムラやユキ、ジュリウスに命じて秘薬と言われる代物を確保してもらうのだった。
聖女の加護を授かっているから助っ人として来てもらった姫花は「良い事なんだけど、やる事がないと暇なのよね」と言っていた。
姫花からしたら活躍の場があった方が王妃様へのアピールにもなるんだろうけど、僕たちにとっては何事もないのが一番いい。
今後も何事もない事を神様に祈りつつ、新しく産まれた子を皆でぞろぞろと見に行く事にしたんだけど、いつもの魔法使い然とした格好のホムラに止められた。どうやら魔道具店『サイレンス』の店番を終えて戻ってきたばかりのようだ。
「眠いようですので外に連れて行きます、マスター」
「あ、ほんと? じゃあお願いしようかな」
「…………れも」
日が暮れたらドライアドたちは基本的に眠る。
当然、僕の頭にしがみ付いていたレモンちゃんも舟を漕いでいて、そのうち落ちそうで怖かった。あとたまによだれを垂らして眠るのでそこまで害はないけど気になってしまうのでできれば下ろしたかったのもある。
レモンちゃんは抵抗する事もなくホムラに回収されたので、僕は先にシンシーラと赤ん坊が待つ部屋に入った。
室内に待機している産婆さんや聖女の加護を授かった女性たちは人数が少なくなっていたけど、この後にもやる事があるのでまだ数人残っていた。その中に、姫花もいた。
シンシーラはベッドに横たわっていた。自分の部屋が一番落ち着くから、と自室で出産を迎えた彼女は僕に気が付くとその茶色の目を僕に向けてきた。尻尾がパタパタと元気よく振られている。
「お疲れ様、シンシーラ」
「だいぶ疲れたじゃん」
「どのくらい疲れたデスか?」
暇を持て余していた翼人族のパメラが僕とシンシーラの話に割って入った。
すぐ横をすり抜けて行ったので黒い翼が腕に触れてくすぐったかった。
「どのくらいって、比較が難しいじゃん。でも疲れたから静かにしててほしいじゃん」
「分かったデース!」
「全然わかってないじゃん……」
「大丈夫よ、シーラ。私が見張っておくわ」
再び僕のすぐ近くをすり抜けてベッドに近寄ったのは狐人族のエミリーだ。
彼女の自慢のモフモフの尻尾が僕の腕をくすぐった。……パメラはわざとじゃないけどエミリーはわざとだな。
エミリーは元気いっぱいのパメラを捕まえるとベッドから離していく。
「頼んだじゃん……ちょっと休むじゃん……」
シンシーラはだいぶ疲れていたようで、ペタッと狼の耳も垂れていた。
彼女が目を瞑ると近くに控えていた姫花が「姫花がちゃんと見てるから赤ちゃんの方に行きなさいよ」と言ってきたので厚意に甘える事にした。
赤ちゃんが寝かされている台の方へ向かい始めたところで、扉が開かれてホムラが戻ってきた。
「戻りました、マスター」
「早くない? ちゃんと帰したの?」
「はい、マスター。何事も問題はございません」
何かホムラの視線が泳いでいるような気がするけど、今は追及するよりも優先すべき事がある。
みんなに囲まれているであろう台の方へと向かうと、ホムラも僕の後ろをついて来た。
「人間の赤ちゃんとあんまり変わんないのですわ」
「でも尻尾も耳もあるのね。ねぇジュリウスくん、この子に加護は授けられてるのかしら?」
「いえ、やはり授けられていないようです」
レヴィさんと一緒に赤ん坊を覗き込んでいたルウさんが尋ねると、ジュリウスは鑑定眼鏡をしまいながら答えた。
みんな何とも言えない複雑な表情になったけど、ラオさんが「面倒事に巻き込まれにくくなるって考えりゃいい事じゃねぇか?」と言った。僕もその通りだと思う。
「それよりも、名前は何になったんだ?」
「真だよ。どっちの性別でもいいように決めてたんだ」
「マコトデスか。シンシーラの名前が入ってないデスね?」
「いろいろ組み合わせ考えたんだけど、ピンとくるのがなかったから読み方を変えたんだよ。漢字で書くとシンシーラのシンを使ってるんだよ?」
みんなピンときていないけど、これでいいんだと思う。呪いの神様は神様たちの世界に帰ったけど、呪いという概念がなくなったわけじゃないし、漢字を使ったフルネームは知っている人は少ない方が良いだろう。
シンシーラにはちゃんと漢字も伝えた上で納得してもらったし、何も問題はない……はずだ。
「ホムラちゃんとぉ、ユキちゃんはぁ、どのような字か分かりますかぁ?」
「大体は予想がつきます」
「ただ、シンとも読む字はたくさんあるからねぇ。どれか断言できないし、私たちが知らなくてもいい事だと思うわ」
ホムラと一緒に気だるそうに質問に答えたユキは「そうよね、ご主人様?」と聞いてきたので頷いておく。
…………ただ、やっぱり名付けって大変なんだよな。命名辞典、みたいな魔道具を作っておけばよかった。今後は呪いのリスクも踏まえたうえで、ホムンクルスの誰かに相談するのはありかもしれない。
そんな事を思いながら、産婆さんに促されるまま新しく産まれた真を抱き上げた。
その後、政務を終えたランチェッタさんが戻ってきて皆が一通り真を抱き終えるとシンシーラの部屋を後にした。
「やっぱり加護を授かっていない子もいるみたいだし、もう少しエリクサーとか用意しておこうか」
「かしこまりました、マスター」
「ありすぎても使わねぇだろ」
「補充したいときにないと困るから先に補充しておくんだよ!」
ラオさんが呆れたように見てきたけど、万が一の事を考えると万全の準備をしておいた方が良いだろう、という事でホムラやユキ、ジュリウスに命じて秘薬と言われる代物を確保してもらうのだった。
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