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後日譚
後日譚53.事なかれ主義者は早く産まれて欲しい
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サンレーヌ国で活躍したエルフたちの職場を視察をしている間にあっという間に時間が過ぎていった。御前試合という名の参加者がエルフたちだけの大会は準備などがあるのでまだ行われていない。
パールさんは毎日夕方になるとやってきては育生の面倒を見つつ僕の練習の成果を見てダメだし……じゃなくて指導をしてくれている。
ただ、その甲斐あって歩き方はそれ相応になった……ような気がする。
まあ、一ヵ月も同じ事をやり続けたら流石にね。
移動する時も常に姿勢よく堂々と歩くように意識したし、空いている時間では王侯貴族の考え方をモニカからレクチャーしてもらった。
レヴィさんにお願いしようと思ったけど彼女は例外的存在だったらしいし、ランチェッタさんは仕事で忙しいので千与のお世話をしながら雑談をしていたけど、やっぱり上位貴族じゃなくても考え方に隔たりがあるんだよなぁ、としみじみと実感した。
これが日常に魔物やら盗賊などの危険が潜んでいるかどうかの違いからくるものなのかは分からないけど、早く考え方を理解して行動できるようにならないと子どもたちに変人だと思われてしまうかもしれない。
幸いな事に加護を失ったため、時間は有り余っている。エルフたちほどではないけど、子どものお世話の合間に色々な知識を身に着けなければ……なんて事を考えながら今日も朝の日課であるお祈りを済ませて屋敷に戻ると、何やら二階が騒がしかった。
「奥様が産気づきましたぞ!」
「…………え、早くない!? 出産予定日ってまだ二週間くらい先だよね!?」
二階って事はシンシーラだけど、今日も体調は問題ないってさっき言ってたし……。
「早産です! 旦那様、お早く!」
「わ、わかった!」
慌てて階段を駆け上がる。久々に何も考えずに動いたので違和感があるけどそんな事に構っている暇はない。
僕の動揺が伝わったのか、それとも産婆さんの一人が言った事を理解しているのか肩の上に当たり前のように乗っていて僕の頭にしがみ付いているレモンちゃんも興奮気味だ。
その興奮が窓の外のドライアドたちにも伝わっているようで髪の毛をわさわさ動かしながら窓の外を移動しているし、シンシーラの部屋の前にある窓にいつも以上に集まっていた。
シンシーラの部屋の前には慌ただしく移動し始めた産婆さんや、派遣されてきた聖女たちの気配を感じ取ったのか、お嫁さんたちが集まってきていた。ガレオールで仕事中のランチェッタさんやディアーヌさん、店番中のホムラ、ユキはいない。
「早産って事はシンシーラの子は加護を授かっていないみたいですわね」
「私の子も授かっていないのかしら?」
「分からねぇよ。アタシに聞くな」
「子どもが加護を授かってないって……安産じゃないって事!?」
「はぁーい、シズトちゃんは落ち着きましょうねぇ」
後ろからジューンさんにギュッと抱きしめられて、大きな胸が背中に当たっているけどそれどころではない。
僕の焦りがレモンちゃんにも伝わっているような気がする。レモ~ン、レモ~ンと騒いでいた。……いや、出産のときはいつもレモンレモン鳴いてたような気もするな。
「出産も司っている大地の神様の教会に、シンシーラも毎日欠かさず礼拝に行っていたので大丈夫だと思います」
「今までも安定してたもんね」
エミリーはモニカに同意するようにうんうんと頷いているし、他のお嫁さんたちも焦っている様子は見受けられない。
「万が一があっても大丈夫だと思うっすよ。そのためにエリクサーやら聖女やら集められる物は集めているんすから」
そう言うノエルは魔道具をジッと観察している。流石にここに魔道具を作る道具一式を持ってくるわけにはいかないから魔道具を研究する時間にしたんだろうけどいつも通り過ぎる。
「何があっても大丈夫デース!」
「なんかすごくフラグが立った気がするけど気のせい!?」
「気のせいですわ。後、パメラは大人しくしているのですわ」
窓の外のドライアドに、窓越しでちょっかいをかけていたパメラを注意したレヴィさんに、エミリーが「落ち着かせるなら何かゲームしてましょうか」と言った。
「何か賭けるデスか!?」
「何も賭けないわよ」
「なんでデスか!?」
「なんでって、シーラが子どもを産んでも続けそうだからよ」
「むぅ……仕方がないデスね。じゃあ、みんなでするデスか?」
「シズトちゃんはどうしますかぁ?」
「多分それどころじゃないからパスかな」
「じゃあ私もパスですぅ。シズトちゃんを落ち着かせないとですからぁ」
「いや、一人で落ち着けますけど!?」
むしろこの体勢は違う意味で落ち着かないんですけど!?
「ラオちゃんどうする?」
「まあ、やるか。シズトはジューンに任せればいいし」
「じゃあ私もするわ!」
魔力マシマシ飴を取り出した二人は、それを舐めながらパメラの相手をするようだ。
レヴィさんは既に廊下でやるためにテーブルと椅子を取りに談話室の方へと行っているのでやる気満々なのだろう。
静かに様子を見ていたドーラさんも何だかんだゲームは好きだから参加するだろう。
パメラの相手は彼女たちに任せて、僕は無事に出産できるように祈りつつひたすら待っていよう。
なんて事を思っていると、空き部屋に置いてあった椅子を持ってきたモニカが話しかけてきた。
「シズト様、ジューン様、椅子のご用意が出来ましたので一先ずお座りください」
「ありがとうございますぅ。シズトちゃん、こっちに座りましょうねぇ」
「あ、はい」
「…………シズト様、姿勢が悪いですよ」
肩車状態のレモンちゃんを抱っこ状態に変更してから椅子に座ると、モニカがぼそりと僕の耳元で呟いた。
僕は慌てて背筋を伸ばして座ったけど……この状態でずっと待機って割ときついのでは?
「慣れです」
「頑張りましょうねぇ」
…………早く産まれて欲しいなぁ。
パールさんは毎日夕方になるとやってきては育生の面倒を見つつ僕の練習の成果を見てダメだし……じゃなくて指導をしてくれている。
ただ、その甲斐あって歩き方はそれ相応になった……ような気がする。
まあ、一ヵ月も同じ事をやり続けたら流石にね。
移動する時も常に姿勢よく堂々と歩くように意識したし、空いている時間では王侯貴族の考え方をモニカからレクチャーしてもらった。
レヴィさんにお願いしようと思ったけど彼女は例外的存在だったらしいし、ランチェッタさんは仕事で忙しいので千与のお世話をしながら雑談をしていたけど、やっぱり上位貴族じゃなくても考え方に隔たりがあるんだよなぁ、としみじみと実感した。
これが日常に魔物やら盗賊などの危険が潜んでいるかどうかの違いからくるものなのかは分からないけど、早く考え方を理解して行動できるようにならないと子どもたちに変人だと思われてしまうかもしれない。
幸いな事に加護を失ったため、時間は有り余っている。エルフたちほどではないけど、子どものお世話の合間に色々な知識を身に着けなければ……なんて事を考えながら今日も朝の日課であるお祈りを済ませて屋敷に戻ると、何やら二階が騒がしかった。
「奥様が産気づきましたぞ!」
「…………え、早くない!? 出産予定日ってまだ二週間くらい先だよね!?」
二階って事はシンシーラだけど、今日も体調は問題ないってさっき言ってたし……。
「早産です! 旦那様、お早く!」
「わ、わかった!」
慌てて階段を駆け上がる。久々に何も考えずに動いたので違和感があるけどそんな事に構っている暇はない。
僕の動揺が伝わったのか、それとも産婆さんの一人が言った事を理解しているのか肩の上に当たり前のように乗っていて僕の頭にしがみ付いているレモンちゃんも興奮気味だ。
その興奮が窓の外のドライアドたちにも伝わっているようで髪の毛をわさわさ動かしながら窓の外を移動しているし、シンシーラの部屋の前にある窓にいつも以上に集まっていた。
シンシーラの部屋の前には慌ただしく移動し始めた産婆さんや、派遣されてきた聖女たちの気配を感じ取ったのか、お嫁さんたちが集まってきていた。ガレオールで仕事中のランチェッタさんやディアーヌさん、店番中のホムラ、ユキはいない。
「早産って事はシンシーラの子は加護を授かっていないみたいですわね」
「私の子も授かっていないのかしら?」
「分からねぇよ。アタシに聞くな」
「子どもが加護を授かってないって……安産じゃないって事!?」
「はぁーい、シズトちゃんは落ち着きましょうねぇ」
後ろからジューンさんにギュッと抱きしめられて、大きな胸が背中に当たっているけどそれどころではない。
僕の焦りがレモンちゃんにも伝わっているような気がする。レモ~ン、レモ~ンと騒いでいた。……いや、出産のときはいつもレモンレモン鳴いてたような気もするな。
「出産も司っている大地の神様の教会に、シンシーラも毎日欠かさず礼拝に行っていたので大丈夫だと思います」
「今までも安定してたもんね」
エミリーはモニカに同意するようにうんうんと頷いているし、他のお嫁さんたちも焦っている様子は見受けられない。
「万が一があっても大丈夫だと思うっすよ。そのためにエリクサーやら聖女やら集められる物は集めているんすから」
そう言うノエルは魔道具をジッと観察している。流石にここに魔道具を作る道具一式を持ってくるわけにはいかないから魔道具を研究する時間にしたんだろうけどいつも通り過ぎる。
「何があっても大丈夫デース!」
「なんかすごくフラグが立った気がするけど気のせい!?」
「気のせいですわ。後、パメラは大人しくしているのですわ」
窓の外のドライアドに、窓越しでちょっかいをかけていたパメラを注意したレヴィさんに、エミリーが「落ち着かせるなら何かゲームしてましょうか」と言った。
「何か賭けるデスか!?」
「何も賭けないわよ」
「なんでデスか!?」
「なんでって、シーラが子どもを産んでも続けそうだからよ」
「むぅ……仕方がないデスね。じゃあ、みんなでするデスか?」
「シズトちゃんはどうしますかぁ?」
「多分それどころじゃないからパスかな」
「じゃあ私もパスですぅ。シズトちゃんを落ち着かせないとですからぁ」
「いや、一人で落ち着けますけど!?」
むしろこの体勢は違う意味で落ち着かないんですけど!?
「ラオちゃんどうする?」
「まあ、やるか。シズトはジューンに任せればいいし」
「じゃあ私もするわ!」
魔力マシマシ飴を取り出した二人は、それを舐めながらパメラの相手をするようだ。
レヴィさんは既に廊下でやるためにテーブルと椅子を取りに談話室の方へと行っているのでやる気満々なのだろう。
静かに様子を見ていたドーラさんも何だかんだゲームは好きだから参加するだろう。
パメラの相手は彼女たちに任せて、僕は無事に出産できるように祈りつつひたすら待っていよう。
なんて事を思っていると、空き部屋に置いてあった椅子を持ってきたモニカが話しかけてきた。
「シズト様、ジューン様、椅子のご用意が出来ましたので一先ずお座りください」
「ありがとうございますぅ。シズトちゃん、こっちに座りましょうねぇ」
「あ、はい」
「…………シズト様、姿勢が悪いですよ」
肩車状態のレモンちゃんを抱っこ状態に変更してから椅子に座ると、モニカがぼそりと僕の耳元で呟いた。
僕は慌てて背筋を伸ばして座ったけど……この状態でずっと待機って割ときついのでは?
「慣れです」
「頑張りましょうねぇ」
…………早く産まれて欲しいなぁ。
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