862 / 1,023
後日譚
後日譚50.敗残兵たちは愚痴を言う
しおりを挟む
突如大勢で現れたエルフたちの集団が蹂躙したのはサンレーヌ国でも西側の一帯だった。
国内交易路の拠点であった大きな港街では、復興に向けて若い男たちが街中を行き交っている。
特に損傷がひどいのは東と南の門だった。
東の門は巨大な門が綺麗に切断されている。巨大な刃物で切り裂いたかのような滑らかな切断面を見て、何かに流用できるんじゃないか、と何やら話をしているお偉いさんたちを横目に、兵士たちは協力して邪魔な置物と化してしまった城門はせっせと城壁の外へと出していた。
「ったく、なんでこんな重い物を運ばなくちゃいけないんだろうな」
「馬車が通るのに邪魔だからだろ」
「んな事は分かってるわ! はぁ。こんな重労働をさせられるんだったら、捕虜でいた方が楽だったぜ」
兵士の一人がぼやいたが、それを咎める者はいなかった。
城門が破られ、大勢のエルフが街の中になだれ込んでしまった際に、誰よりも早く降伏の決断を下したおかげで彼らは生きていた。
ただ、その後は捕虜となって拷問されたり、どこかに連れられて強制労働させられるんだろうと諦めていた兵士たちだったが、捕虜となった際の生活は悪いものじゃなかった。
ある程度行動に制限は設けられていたが、街の中であれば自由に出歩いてよかったし、人質として捕えられていたはずの民衆たちと同じ物だったが、朝昼晩の食事まで用意されていた。
調理に協力した民衆は報酬を受け取っていた。
報酬を受け取っていたのは調理に協力した民衆だけではない。いつも通り店を営むように言われた商人や、普段通り街の治安維持を命じられた兵士もまた、多かれ少なかれ報酬を貰っていた。
もちろん、街を占領しているエルフたちに反抗した者や都市奪還作戦を企てた者たちはエルフたちによって捕えられ、見せしめとして刑を執行されたが大人しくしていれば害はなかった。
普段の生活をするだけでそれ相応の金が貰えるし、野菜などの具材をふんだんに使われた食事は普段食べている物よりも豪華で、捕虜になる前よりもぜいたくな暮らしをしていた者も少なくない。
だからこそ、普段の業務ではない事をさせられて、それの特別手当も出ない事に他の兵士たちも不満を抱いていたので咎められなかったのだろう。
「まあ、お前の言いたい事も分かるけどよ。文句言っていたら南門の方に回されるぞ?」
「それはマジ勘弁」
「だろ? だったら黙ってやろうぜ。文句言ってても終わる物も終わらねぇし、早くしねぇと商人たちの不満が爆発するからな」
普段は東門から出入りしているはずの商人たちは現在、唯一無事だった北門を使っているがどうしても遠回りをしなければならず、商人たちも少なからず不満を感じているだろう。
ただ、それも南門を利用していた商人と比べると少ないはずだ。不満の声を上げる者も時間が経つにつれて増えてくるだろう。
そういった意味でも南門の修繕をさせられるのはごめんだ、と兵士は独り言ちた。
南門は外側から強烈な衝撃を受けて城壁諸共内側に吹き飛んでいた。
大きな手形のような跡がくっきりと残っている城門は、内側にあった家屋や道路を破壊して街の中央付近に転がっていた。
また、城門の周りにあった城壁も余波で内側に飛散していたため、城門近くに被害は甚大だった。
兵士たちだけではなく、奴隷なども含めて復旧作業に当たっているが、元に戻すのにまだまだかかりそうだった。
「ったく、誰だよこんな豪快に壊した奴。修繕する者の事全く考えてねぇじゃねぇか」
「あの面倒臭がりの『迅雷』だよ」
「ああ、あいつか。…………まあ、あいつの事は良いや。それよりもエルフたちだ。どうせ死体を回収するならがれきの撤去もしてくれても良かったのにな」
「丁寧に埋葬までしてくれたんだからこれ以上文句を言うと罰が当たるぞ」
「そうですね。それに普通の戦争だったら僕たち、こうして五体満足でお喋りできませんからね? この程度の作業で済んでるんですから神様に感謝しないと今度こそ見捨てられますよ?」
「でもよぉ……」
文句を言いながらも手は休める事無く兵士は作業をしている。小声で文句を言っているため、監督官には気づかれていないようだった。
「この作業に関して特別手当は出ないんだぜ? 昼夜問わず作業を続けるのによぉ」
「昼夜問わず作業を続けるかは今俺たちがどれだけ頑張れるか次第じゃないか? まあ、手当が出ない事にはやる気はでねぇけどな」
「それよりも、あの美味しいご飯も食べられないのが残念です」
「まあな。それに味は落ちてるのに金はかかるしな。料理する奴は変わってねぇはずだから、食材が良かったんだろう、って話だったけど……エルフたちっていつもあんないいもん食ってんかな? ずるくね?」
「それに関しては俺も同感だな」
「今後、あのエルフたちの国の野菜も交易で市場に出回らねぇかな?」
「それは難しいでしょう。上官の方々も漏れなく食べてましたから、出回ったとしても、王侯貴族用の食品としてですよ、きっと」
「お前、どっかの貴族の三男坊だろ? どうにかして手に入んねぇかな?」
「無茶言わないでくださいよ。内地にしか領地を持てない貧乏貴族なんですから」
「まあ、そういうのは海に面した領地を持つお貴族様が独占するだろうなぁ」
駄弁っていた三人の兵士は同時にため息を吐いたが、これ以上食事の話をし続けると余計に辛くなる、と話題を変えるのだった。
国内交易路の拠点であった大きな港街では、復興に向けて若い男たちが街中を行き交っている。
特に損傷がひどいのは東と南の門だった。
東の門は巨大な門が綺麗に切断されている。巨大な刃物で切り裂いたかのような滑らかな切断面を見て、何かに流用できるんじゃないか、と何やら話をしているお偉いさんたちを横目に、兵士たちは協力して邪魔な置物と化してしまった城門はせっせと城壁の外へと出していた。
「ったく、なんでこんな重い物を運ばなくちゃいけないんだろうな」
「馬車が通るのに邪魔だからだろ」
「んな事は分かってるわ! はぁ。こんな重労働をさせられるんだったら、捕虜でいた方が楽だったぜ」
兵士の一人がぼやいたが、それを咎める者はいなかった。
城門が破られ、大勢のエルフが街の中になだれ込んでしまった際に、誰よりも早く降伏の決断を下したおかげで彼らは生きていた。
ただ、その後は捕虜となって拷問されたり、どこかに連れられて強制労働させられるんだろうと諦めていた兵士たちだったが、捕虜となった際の生活は悪いものじゃなかった。
ある程度行動に制限は設けられていたが、街の中であれば自由に出歩いてよかったし、人質として捕えられていたはずの民衆たちと同じ物だったが、朝昼晩の食事まで用意されていた。
調理に協力した民衆は報酬を受け取っていた。
報酬を受け取っていたのは調理に協力した民衆だけではない。いつも通り店を営むように言われた商人や、普段通り街の治安維持を命じられた兵士もまた、多かれ少なかれ報酬を貰っていた。
もちろん、街を占領しているエルフたちに反抗した者や都市奪還作戦を企てた者たちはエルフたちによって捕えられ、見せしめとして刑を執行されたが大人しくしていれば害はなかった。
普段の生活をするだけでそれ相応の金が貰えるし、野菜などの具材をふんだんに使われた食事は普段食べている物よりも豪華で、捕虜になる前よりもぜいたくな暮らしをしていた者も少なくない。
だからこそ、普段の業務ではない事をさせられて、それの特別手当も出ない事に他の兵士たちも不満を抱いていたので咎められなかったのだろう。
「まあ、お前の言いたい事も分かるけどよ。文句言っていたら南門の方に回されるぞ?」
「それはマジ勘弁」
「だろ? だったら黙ってやろうぜ。文句言ってても終わる物も終わらねぇし、早くしねぇと商人たちの不満が爆発するからな」
普段は東門から出入りしているはずの商人たちは現在、唯一無事だった北門を使っているがどうしても遠回りをしなければならず、商人たちも少なからず不満を感じているだろう。
ただ、それも南門を利用していた商人と比べると少ないはずだ。不満の声を上げる者も時間が経つにつれて増えてくるだろう。
そういった意味でも南門の修繕をさせられるのはごめんだ、と兵士は独り言ちた。
南門は外側から強烈な衝撃を受けて城壁諸共内側に吹き飛んでいた。
大きな手形のような跡がくっきりと残っている城門は、内側にあった家屋や道路を破壊して街の中央付近に転がっていた。
また、城門の周りにあった城壁も余波で内側に飛散していたため、城門近くに被害は甚大だった。
兵士たちだけではなく、奴隷なども含めて復旧作業に当たっているが、元に戻すのにまだまだかかりそうだった。
「ったく、誰だよこんな豪快に壊した奴。修繕する者の事全く考えてねぇじゃねぇか」
「あの面倒臭がりの『迅雷』だよ」
「ああ、あいつか。…………まあ、あいつの事は良いや。それよりもエルフたちだ。どうせ死体を回収するならがれきの撤去もしてくれても良かったのにな」
「丁寧に埋葬までしてくれたんだからこれ以上文句を言うと罰が当たるぞ」
「そうですね。それに普通の戦争だったら僕たち、こうして五体満足でお喋りできませんからね? この程度の作業で済んでるんですから神様に感謝しないと今度こそ見捨てられますよ?」
「でもよぉ……」
文句を言いながらも手は休める事無く兵士は作業をしている。小声で文句を言っているため、監督官には気づかれていないようだった。
「この作業に関して特別手当は出ないんだぜ? 昼夜問わず作業を続けるのによぉ」
「昼夜問わず作業を続けるかは今俺たちがどれだけ頑張れるか次第じゃないか? まあ、手当が出ない事にはやる気はでねぇけどな」
「それよりも、あの美味しいご飯も食べられないのが残念です」
「まあな。それに味は落ちてるのに金はかかるしな。料理する奴は変わってねぇはずだから、食材が良かったんだろう、って話だったけど……エルフたちっていつもあんないいもん食ってんかな? ずるくね?」
「それに関しては俺も同感だな」
「今後、あのエルフたちの国の野菜も交易で市場に出回らねぇかな?」
「それは難しいでしょう。上官の方々も漏れなく食べてましたから、出回ったとしても、王侯貴族用の食品としてですよ、きっと」
「お前、どっかの貴族の三男坊だろ? どうにかして手に入んねぇかな?」
「無茶言わないでくださいよ。内地にしか領地を持てない貧乏貴族なんですから」
「まあ、そういうのは海に面した領地を持つお貴族様が独占するだろうなぁ」
駄弁っていた三人の兵士は同時にため息を吐いたが、これ以上食事の話をし続けると余計に辛くなる、と話題を変えるのだった。
53
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる