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後日譚

後日譚46.事なかれ主義者は心に誓った

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 マルセルさんたち御一行は、三日ほどクレストラ大陸やシグニール大陸を連れ回されてから帰る事になった。
 商人たちは「一刻も早く参入しなければ!」と鼻息が荒い者もいたけど、マルセルさんはげっそりとしている様子だった。
 どうやら環境の変化についていけない人らしい。
 まあ、そういう人もいるよね、と思いながらマルセルさんたちが転移陣を使うのに立ち会った。

「この後はどう動くの?」

 一緒に見送るためにガレオールからファマリーに戻ってきていたランチェッタさんが肩をすくめた。
 彼女は今日もお腹を締め付けないタイプのドレスを着ているので、肌面積が多くて目のやり場に困る。

「向こうの兵士たちと、サンレーヌの出方次第ね。サンレーヌは音沙汰がないけど、今は混乱の真っ只中、と言った所かしら? こちらは異大陸にいるわたくしが判断していると即応性に欠けるから現場の判断に任せたけれど、この三日間だけで新たに複数の領地に戦線を拡大し、制圧したそうよ。こちらの被害も出ているけれど、それ以上に向こうの損害が大きいはずだから、そろそろ使者が来てもおかしくない頃ね」
「…………私の領地は無事なのか?」

 ランチェッタさんと僕の話が聞こえていたのだろう。マルセルさんがランチェッタさんに問いかけると、彼女は再び肩をすくめた。

「知らないわ。その目で確かめればいいんじゃないかしら? ただ、シズトに忠誠を誓っているエルフが大部分を占めているから、略奪は起きていないんじゃないかしら?」
「そうなの? ジュリウス」
「厳命しておりますので、エルフからその様な愚か者は出ていないと思われます。ただ、報告がされていないだけで、その様な事が起こっていないとは言い切れません。その目でお確かめになられた方がよろしいかと」
「んー、わざわざ向こうの街を見て回るのはなぁ……」

 赤ちゃんのお世話もやっと自信をもってできるようになってきたし、あともう少し経てばラオさんの出産予定日なので一緒にいたい。

「であれば、ランチェッタ様が仰るように、マルセル様ご自身で確認して頂くしかありませんね」
「そうよね。そうなるとムサシに一部の捕虜の行動の自由を認めてもらう必要があるわね。……シズト、わたくしたちも向こう行くわよ」
「はい」

 叱られた時に今回の事は近くで見ていて欲しい、と言われたし、なにより妊娠中のランチェッタさんの事が心配なので着いて行こう。
 おむつ替えの感覚が無くならない内に、もう一度くらいやっておきたかったんだけど、それはいつでもできるし。

「ちょっとクーを連れてくから先に行ってて」

 元々行く予定はなかったので、今はレモンちゃんが肩の上に乗っているだけだ。
 ただ、それを他のドライアドたちが見ていて、僕の体をよじ登ろうとしているのかじりじりと近づいて来ている。
 僕はその場を逃げるように立ち去って別館に行き、お昼寝をしていたクーを起こして抱っこするためにレモンちゃんに背中に移動するように伝える。

「……っていうか、肩車かおんぶが当たり前になってない?」
「れもん?」

 まあ、今更か。そんな事を思いながら両手を突き出してきたクーを抱っこした。



 携帯式転移陣を使ってサンレーヌに転移すると、先に行っていたランチェッタさんがライデンとムサシから話を聞いていたようだ。
 ライデンとムサシはどちらも身長が二メートルほどのホムンクルスだ。
 ライデンはお相撲さんをイメージしてしまったのか、横にも大きい。
 ムサシは侍をイメージしたからか引き締まった体をしているので、背は高いけど威圧感があるのはライデンの方だろう。

「丁度いいタイミングだったみたいよ?」
「なにかあったの?」
「向こうから使者がやってきているみたい」
「予想だともっとかかるって話だったけど、早い事は良い事だよね」
「流石に占領地を増やしすぎたかもしれぬでござるなぁ」
「王都に迫る勢いだったらわたくしも時間稼ぎのためにも話し合いの場を一度設けるわね」
「…………足場を固めるって話じゃなかったっけ?」
「向こうが奪還するために攻めてくるから仕方がないのでござるよ。エルフたちに追撃を任せたらそのまま街を落としてしまう事が多々あったでござる。あ、もちろん占領した土地はしっかりとセバスチャンが監視していたでござるよ」
「シズト様のお許しが出たから、面倒だったがオイラたちもそれに加勢したしなぁ」
「ホムラ殿とユキ殿、クー殿がいたら王都も落とせたかもしれぬでござるな」
「あーしがそんな面倒な事する訳ないでしょ~?」
「それもそうでござるな」

 ムサシが高らかに笑っているけど、笑い事じゃないよね?
 ランチェッタさんに視線を向けると「だからホムンクルスの扱いには気を付けた方が良いって言ってるのよ」と言われてしまった。今後もとりあえず店番やら留守居役やらを任せるだけにしておこう。

「でもまあ、今回の件はホムンクルスよりもエルフの影響が大きいから、扱いに気を付けるべきなのはエルフの方ね」
「……そうなの?」
「そりゃそうでしょう。四ヵ国分の軍事力があるんだから。サンレーヌが海軍や国境沿いに力を入れていたのもあるでしょうけど、商業に力を入れているガレオールも今回動員されたエルフたちが攻め込んで来たらガレオールの戦力だけで守り切る事は無理ね。ユグドラシルやフソーは他国と陸続きだから地上での戦闘だと止めきれないでしょうし、トネリコやイルミンスールがいるから海上での戦いもどうなるか分からないわね。他国も似たようなものじゃないかしら? ああ、でも例外を上げるとしたらドラゴニアね。あそこは竜騎兵がいるし、陸戦用の優秀な勇者の子孫が多数いるはずだから」
「人数で言えば我が国ヤマトも善戦できる、と思いたいですが……」

 静かに話を聞いていたメグミさんが言葉を濁した。
 どうやら相当ヤバイ戦力を無自覚の内に確保していたようだ。
 ホムンクルスもエルフも、今後の取り扱いには十分に注意しよう、と改めて思った。
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