【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
847 / 1,094
後日譚

後日譚35.事なかれ主義者は相談する事にした

しおりを挟む
 モニカが出産してから二週間ほどが過ぎた。
 一週間ほどは休んでいる事が多かったモニカだったけど、回復役のおかげかちょっとずつ本調子に戻りつつあるようだ。
 レヴィさんのように産後一週間で「畑が心配なのですわ~」と言って外に出ようとするのは心配だけど、モニカのように休んでいる事の方が多いのも心配だ。
 これから出産を控えている皆も無事に出産を終える事ができたらいいんだけどな、と思いつつ祠へのお祈りを済ませた。

「今日も千与と育生の様子でも見てようかなぁ」

 子どもの成長は早いって言うし、最近やっとおしめを換えたり、お風呂に入れて上げたりするのができる気がしてきたのだ。あと二週間ほど観察と聞き取りを繰り返せばできる気がする!
 そうと決まれば早速屋敷に戻らないと……と思ったけど、転移陣を置いてある場所にドライアドたちがわらわらと集まっているのが気になった。
 ドライアドたちは転移陣が使われる時はああいう風に集まるんだよなぁ。縄張りに誰かが入ってくるのに敏感なのだろう。

「でも、あんなところに転移陣を設置したっけ? ジュリウス、どこに繋がっているか覚えてる?」
「はい」
「どこに繋がってるの?」
「それは――」

 僕の身辺警護をするために近くに控えていたジュリウスに問いかけるとすぐに彼は答えようとしていた。
 ただ、それよりも早く転移陣が光り輝き、誰かが転移してきた。
 ガレオール人特有のこんがりと焼けた肌に、大きな帽子を見て、僕は首を傾げた。

「バーナンドさん?」
「坊主! 丁度いい所に……エルフたちを止めてくれ!」

 慌てた様子のバーナンドさんが一歩転移陣から降りてこっちに向かって来ようとしたが、ジュリウスが割って入る前にドライアドたちが彼をぐるぐる巻きにしてしまった。

「知らない人なの!」
「怪しい人~」
「知ってる人です!」
「そうだっけ?」
「知ってる人なの?」
「知ってる人ですよ~」

 彼をぐるぐる巻きにしているのはユグドラシルとトネリコ出身のドライアドたちで、彼を知っていると言っているのはいつの間にかここにも現れるようになったフソー出身のドライアドたちだ。肌の色がそれぞれ黒、白、黄色と見分けやすい。

「なんでお菊ちゃんのとこの子たちがバーナンドさんのこと知ってるの?」
「魔動船の荷物の中に見覚えのある植木鉢があると報告がありました。害はないとの事で放置はしておりましたが、それがきっと世界樹フソーの根元で暮らしているドライアドたちの誰かのものだったのでしょう」
「そうですよ~」
「冒険楽しいです!」
「海の上はちょっと具合が悪くなっちゃうけど」
「「「ね~~」」」

 小柄なドライアドたちが船に植木鉢を紛れ込ませた事に関しては別に今更驚く事じゃない。
 ここの子たちを見ているとファマリアに行ってはそこら辺に植木鉢を置いてるし、中には馬車に乗せている子もいた。
 以前からそういう習性があるかもしれない、とレヴィさんの妹でありドライアド研究の第一人者であるラピスさんが言っていた。
 なので、今はそんな事よりも助けてくれと目で訴えてくるバーナンドさんを解放してもらう事が先決だろう。
 肩の上でのんびりしていたレモンちゃんにも説得に加わってもらって、バーナンドさんに纏わりついているドライアドたちの髪を解いた。

「それで、どうしたの?」
「面倒な事になっちまったんだよ。今にも戦争が起きても不思議じゃねぇんだ! とにかく、エルフたちを止めてくれよ」
「……どういう事?」

 ジュリウスにジトッとした目を向けると、彼は何食わぬ顔でスラスラと報告を始めた。

「現在、サンレーヌ国との交渉を終えたキャプテン・バーナンド率いるガレオールの交易船団は、魔動船に目をつけられて海上封鎖されており、出港する事ができない状況との事でした。魔動船は無傷で手に入れたい、という思惑があるのでしょう。出港さえしなければ何もしない、と暗に言われているそうです。サンレーヌとのやり取りなどは全て現場の判断に任せる、という事でしたので現場のエルフに求められるまま増員を派遣しておりました。先遣隊は船内に展開済みですので、順次制圧に必要と思われる戦力を転移陣を通じて投入していく予定です」
「いや、現場に任せるって言ったけどそれは交渉とかの事で……」
「これも交渉の一種ですよ、シズト様。向こうは魔動船を手に入れるためだけに、こちらとの今後の関係を捨てるつもりのようですが……まあ、今まで交流がなかった国ですし、切り捨てても問題ないと判断したのかもしれません」
「領主が暴走しているとかないかな? 上の人に話をすれば……」
「一領主があれだけの軍船を揃える事ができるとは到底思えません……が、可能性はあるかもしれません。ただ、その間に鹵獲され、調べるための時間稼ぎなどをしてくる可能性はあります」
「魔動船って僕が作った奴でしょ? 調べられたところで作れないんじゃないかな?」
「そのままを作るのは不可能でしょうが、ジューロのように廉価版は作れる可能性は高いでしょう。また、サンレーヌ国は海軍が突出した強さを持っているとの事です。軍事転用をするために全力で研究に励むでしょうから、ジューロよりも高性能の物を作る可能性はあります」
「…………なるほど?」

 これは僕の手に余る案件ですわ。
 今回の交易船団は僕の船を使っているという事である程度任されてたけど、ガレオールやアトランティアにも関わる事だし、ランチェッタさんにも考えてもらおう。
 あんまり妊娠中にストレスになるような話題は避けたかったんだけど、仕方がないよなぁ。

「とりあえず、船の防衛のためだけに戦力を投入して。間違っても街を制圧とかしないように。専守防衛に努める事」
「かしこまりました」
「バーナンドさんは僕と一緒に来て。僕だけで判断できることを超えちゃってるだろうから、ランチェッタさんに話しに行くけど、その時に状況説明できるようにしておいてね」
「女王陛下と話すのか……言葉遣い気をつけねぇと……」
「レモンちゃん、ガレオールに繋がる転移陣起動して」
「レモーン!」

 肩の上で成り行きをじっと見守っていたレモンちゃんが叫ぶと、肌が白いドライアドたちに僕のしてほしい事が伝わったようでわらわら動き始めた。
 加護があれば話は早かったんだけど……今後も起こる可能性がある事だし、しっかり考えないと。
 そんな事を考えながら、僕はジュリウスとバーナンドさん、それから肩の上のレモンちゃんを連れてガレオールへと転移した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...