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後日譚
後日譚33.ロリエルフは何に使うかよく分からなかった
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お供え物を準備した後、日課の祈りを捧げたジューロは、いつも通りシズトたちが生活している本館に足を向けた。
もちろんジュリーニはついて来たし、リーヴィアも恋敵と二人っきりにはさせない! と追いかけている。
本館の周りには煌びやかな鎧を身にまとった兵士たちが等間隔に立っていて、周辺の警戒をしていた。
そんな彼らに纏わりついているドライアドもいたが兵士はピクリとも動かない。
彼らはレヴィアが出産するまでは、鎧を脱いで一緒に農作業をしていたのだが、今は本来の役割を全うしようとしている。
ただ、ドライアドは彼らの事情を気にした様子もない。
「人間さん、今日もお仕事しないの?」
「しない」
「どうしてしないの~」
「警護をしなければならんのだ」
「じゃあ私たちがしちゃっていいの~?」
「ああ」
「そっか~。でも私たちもしたい事があるんだ~。人間さん、代わりにしておいて?」
「無理だ」
「なんで~~」
「警護をしなければならんのだ」
纏わりつかれた兵士とドライアドの話は平行線で終わりがなさそうだ、なんて事を思いながらジューロは近衛兵によって開かれた扉をくぐった。
その後をジュリーニとリーヴィアが続き、さらに窓の中をジッと覗き込んでいたドライアドたちがわらわらと続こうとしていたが、彼女たちが入る前に扉は閉ざされてしまった。
「閉まっちゃったね~」
「開かないね~」
「困ったね~」
ジッと扉の開け閉めをしている近衛兵を見るドライアドたちだったが、近衛兵は視線を合わせようとしなかった。
中に入ったジューロは階段をそのまま上がっていき、三階にある目的地まで一気に移動した。
そうして開け放たれた扉から中に入ると、人族の男性とドワーフの女性、それからハーフエルフの女性の三人がいた。
少し前までは魔道具師見習いの子がたくさんいたのだが、今は別館で別の作業に従事している。
「ノエル様、今日もここで作業をしていいですか?」
「別に好きにすればいいっすよ」
視線をジューロに向ける事無くそう答えたのはノエルというハーフエルフの女性だ。
癖毛なのか、単純に手入れをしていないのか金色の髪は波打っていてボサボサだった。髪の隙間からちょこんと出ている細長く、先の方が尖った耳はエルフと比べると若干短い。だが、緑色の瞳も含めて彼女にエルフの血が混じっている事を証明していた。
他の配偶者同様、シズトの子を身籠った彼女のお腹は、膨らみが分かるくらいには大きくなっていた。
毎日の日課となりつつある地母神であり、大地の神でもあるアイアの教会に祈りを捧げに行っているおかげか、そこまで酷い妊娠の症状は出ていなかった。
「それじゃあ、お邪魔します」
彼女たちがいる部屋は一応ノエルの私室でもあるので、ジューロは許可を貰ってから部屋の奥に進んだ。
ノエルのすぐ近くに置かれていた作業台に腰かけたジューロは、早速作業に取り掛かった。
手持無沙汰になったリーヴィアはジュリーニに色々話しかけるが、ジュリーニの反応は素っ気ないものだった。
リーヴィアの好意に気付かないふりをするためというのもあるが、それ以上に好きな人が普段とは違った真剣な顔つきで魔道具製作をしているからそれに見惚れていたから適当に聞き流していたのだろう。
次第に話のネタが無くなってきたリーヴィアは、ジューロの手が止まったところで話しかけた。
「……ねぇ、ジューロ。今は何を作ってんの?」
「私もよく分かんないんだけど、シズト様にお願いされた物を作ってるの」
彼女が作っているのはベッドメリーと呼ばれる物だった。
だが、シズトのおぼろげな知識の中に商品の正式名称なんて残っている訳もなく、誰もジューロが作っている物の名前を知る者はいない。
回転する魔道具の研究者となりつつあるジューロは、シズトに依頼された通り魔法陣を刻んだ。
「ん、これで良し」
「できたの?」
「試作品だけどね。ジュリーニくん、これ持って魔力流してもらってもいい?」
「分かった」
ベッドに取り付けるためのアームをジュリーニに持たせたジューロは、念のため少し離れるようにジュリーニに指示を出した。
ジュリーニはベッドメリーを持ったまま部屋の中央へと移動すると、ジューロを見る。
彼女が頷いたのを確認してから彼は魔力を流し始めた。
ゆらゆらと揺れながらくるくると回転し始めたそれをノエルはチラッと見ていたが、すぐに興味を無くしたのか魔道具作りに戻った。
「……これでいいの?」
「たぶん……?」
ジュリーニの問いかけに、自信なさそうに答えるジューロは、魔石で動くように多少手直しした後、シズトの所へ持って行く事にした。
最近のシズトはだいたい赤ちゃんのいる部屋で過ごしているので、魔力探知を使わずとも見つける事が容易だった。
「シズト様、これでよかったですか?」
リーヴィアに持って貰っていたベッドメリーをシズトに見せると、彼は「そうそうこんな感じだった気がする!」と喜んだ。
ただ、まだ一つしかなかったのでイクオのベッドに取り付けるか、千与のベッドに取り付けるか悩み始めたので、慌ててジューロはもう一つ作る羽目になるのだった。
もちろんジュリーニはついて来たし、リーヴィアも恋敵と二人っきりにはさせない! と追いかけている。
本館の周りには煌びやかな鎧を身にまとった兵士たちが等間隔に立っていて、周辺の警戒をしていた。
そんな彼らに纏わりついているドライアドもいたが兵士はピクリとも動かない。
彼らはレヴィアが出産するまでは、鎧を脱いで一緒に農作業をしていたのだが、今は本来の役割を全うしようとしている。
ただ、ドライアドは彼らの事情を気にした様子もない。
「人間さん、今日もお仕事しないの?」
「しない」
「どうしてしないの~」
「警護をしなければならんのだ」
「じゃあ私たちがしちゃっていいの~?」
「ああ」
「そっか~。でも私たちもしたい事があるんだ~。人間さん、代わりにしておいて?」
「無理だ」
「なんで~~」
「警護をしなければならんのだ」
纏わりつかれた兵士とドライアドの話は平行線で終わりがなさそうだ、なんて事を思いながらジューロは近衛兵によって開かれた扉をくぐった。
その後をジュリーニとリーヴィアが続き、さらに窓の中をジッと覗き込んでいたドライアドたちがわらわらと続こうとしていたが、彼女たちが入る前に扉は閉ざされてしまった。
「閉まっちゃったね~」
「開かないね~」
「困ったね~」
ジッと扉の開け閉めをしている近衛兵を見るドライアドたちだったが、近衛兵は視線を合わせようとしなかった。
中に入ったジューロは階段をそのまま上がっていき、三階にある目的地まで一気に移動した。
そうして開け放たれた扉から中に入ると、人族の男性とドワーフの女性、それからハーフエルフの女性の三人がいた。
少し前までは魔道具師見習いの子がたくさんいたのだが、今は別館で別の作業に従事している。
「ノエル様、今日もここで作業をしていいですか?」
「別に好きにすればいいっすよ」
視線をジューロに向ける事無くそう答えたのはノエルというハーフエルフの女性だ。
癖毛なのか、単純に手入れをしていないのか金色の髪は波打っていてボサボサだった。髪の隙間からちょこんと出ている細長く、先の方が尖った耳はエルフと比べると若干短い。だが、緑色の瞳も含めて彼女にエルフの血が混じっている事を証明していた。
他の配偶者同様、シズトの子を身籠った彼女のお腹は、膨らみが分かるくらいには大きくなっていた。
毎日の日課となりつつある地母神であり、大地の神でもあるアイアの教会に祈りを捧げに行っているおかげか、そこまで酷い妊娠の症状は出ていなかった。
「それじゃあ、お邪魔します」
彼女たちがいる部屋は一応ノエルの私室でもあるので、ジューロは許可を貰ってから部屋の奥に進んだ。
ノエルのすぐ近くに置かれていた作業台に腰かけたジューロは、早速作業に取り掛かった。
手持無沙汰になったリーヴィアはジュリーニに色々話しかけるが、ジュリーニの反応は素っ気ないものだった。
リーヴィアの好意に気付かないふりをするためというのもあるが、それ以上に好きな人が普段とは違った真剣な顔つきで魔道具製作をしているからそれに見惚れていたから適当に聞き流していたのだろう。
次第に話のネタが無くなってきたリーヴィアは、ジューロの手が止まったところで話しかけた。
「……ねぇ、ジューロ。今は何を作ってんの?」
「私もよく分かんないんだけど、シズト様にお願いされた物を作ってるの」
彼女が作っているのはベッドメリーと呼ばれる物だった。
だが、シズトのおぼろげな知識の中に商品の正式名称なんて残っている訳もなく、誰もジューロが作っている物の名前を知る者はいない。
回転する魔道具の研究者となりつつあるジューロは、シズトに依頼された通り魔法陣を刻んだ。
「ん、これで良し」
「できたの?」
「試作品だけどね。ジュリーニくん、これ持って魔力流してもらってもいい?」
「分かった」
ベッドに取り付けるためのアームをジュリーニに持たせたジューロは、念のため少し離れるようにジュリーニに指示を出した。
ジュリーニはベッドメリーを持ったまま部屋の中央へと移動すると、ジューロを見る。
彼女が頷いたのを確認してから彼は魔力を流し始めた。
ゆらゆらと揺れながらくるくると回転し始めたそれをノエルはチラッと見ていたが、すぐに興味を無くしたのか魔道具作りに戻った。
「……これでいいの?」
「たぶん……?」
ジュリーニの問いかけに、自信なさそうに答えるジューロは、魔石で動くように多少手直しした後、シズトの所へ持って行く事にした。
最近のシズトはだいたい赤ちゃんのいる部屋で過ごしているので、魔力探知を使わずとも見つける事が容易だった。
「シズト様、これでよかったですか?」
リーヴィアに持って貰っていたベッドメリーをシズトに見せると、彼は「そうそうこんな感じだった気がする!」と喜んだ。
ただ、まだ一つしかなかったのでイクオのベッドに取り付けるか、千与のベッドに取り付けるか悩み始めたので、慌ててジューロはもう一つ作る羽目になるのだった。
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