【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
845 / 1,097
後日譚

後日譚33.ロリエルフは何に使うかよく分からなかった

しおりを挟む
 お供え物を準備した後、日課の祈りを捧げたジューロは、いつも通りシズトたちが生活している本館に足を向けた。
 もちろんジュリーニはついて来たし、リーヴィアも恋敵と二人っきりにはさせない! と追いかけている。
 本館の周りには煌びやかな鎧を身にまとった兵士たちが等間隔に立っていて、周辺の警戒をしていた。
 そんな彼らに纏わりついているドライアドもいたが兵士はピクリとも動かない。
 彼らはレヴィアが出産するまでは、鎧を脱いで一緒に農作業をしていたのだが、今は本来の役割を全うしようとしている。
 ただ、ドライアドは彼らの事情を気にした様子もない。

「人間さん、今日もお仕事しないの?」
「しない」
「どうしてしないの~」
「警護をしなければならんのだ」
「じゃあ私たちがしちゃっていいの~?」
「ああ」
「そっか~。でも私たちもしたい事があるんだ~。人間さん、代わりにしておいて?」
「無理だ」
「なんで~~」
「警護をしなければならんのだ」

 纏わりつかれた兵士とドライアドの話は平行線で終わりがなさそうだ、なんて事を思いながらジューロは近衛兵によって開かれた扉をくぐった。
 その後をジュリーニとリーヴィアが続き、さらに窓の中をジッと覗き込んでいたドライアドたちがわらわらと続こうとしていたが、彼女たちが入る前に扉は閉ざされてしまった。

「閉まっちゃったね~」
「開かないね~」
「困ったね~」

 ジッと扉の開け閉めをしている近衛兵を見るドライアドたちだったが、近衛兵は視線を合わせようとしなかった。
 中に入ったジューロは階段をそのまま上がっていき、三階にある目的地まで一気に移動した。
 そうして開け放たれた扉から中に入ると、人族の男性とドワーフの女性、それからハーフエルフの女性の三人がいた。
 少し前までは魔道具師見習いの子がたくさんいたのだが、今は別館で別の作業に従事している。

「ノエル様、今日もここで作業をしていいですか?」
「別に好きにすればいいっすよ」

 視線をジューロに向ける事無くそう答えたのはノエルというハーフエルフの女性だ。
 癖毛なのか、単純に手入れをしていないのか金色の髪は波打っていてボサボサだった。髪の隙間からちょこんと出ている細長く、先の方が尖った耳はエルフと比べると若干短い。だが、緑色の瞳も含めて彼女にエルフの血が混じっている事を証明していた。
 他の配偶者同様、シズトの子を身籠った彼女のお腹は、膨らみが分かるくらいには大きくなっていた。
 毎日の日課となりつつある地母神であり、大地の神でもあるアイアの教会に祈りを捧げに行っているおかげか、そこまで酷い妊娠の症状は出ていなかった。

「それじゃあ、お邪魔します」

 彼女たちがいる部屋は一応ノエルの私室でもあるので、ジューロは許可を貰ってから部屋の奥に進んだ。
 ノエルのすぐ近くに置かれていた作業台に腰かけたジューロは、早速作業に取り掛かった。
 手持無沙汰になったリーヴィアはジュリーニに色々話しかけるが、ジュリーニの反応は素っ気ないものだった。
 リーヴィアの好意に気付かないふりをするためというのもあるが、それ以上に好きな人が普段とは違った真剣な顔つきで魔道具製作をしているからそれに見惚れていたから適当に聞き流していたのだろう。
 次第に話のネタが無くなってきたリーヴィアは、ジューロの手が止まったところで話しかけた。

「……ねぇ、ジューロ。今は何を作ってんの?」
「私もよく分かんないんだけど、シズト様にお願いされた物を作ってるの」

 彼女が作っているのはベッドメリーと呼ばれる物だった。
 だが、シズトのおぼろげな知識の中に商品の正式名称なんて残っている訳もなく、誰もジューロが作っている物の名前を知る者はいない。
 回転する魔道具の研究者となりつつあるジューロは、シズトに依頼された通り魔法陣を刻んだ。

「ん、これで良し」
「できたの?」
「試作品だけどね。ジュリーニくん、これ持って魔力流してもらってもいい?」
「分かった」

 ベッドに取り付けるためのアームをジュリーニに持たせたジューロは、念のため少し離れるようにジュリーニに指示を出した。
 ジュリーニはベッドメリーを持ったまま部屋の中央へと移動すると、ジューロを見る。
 彼女が頷いたのを確認してから彼は魔力を流し始めた。
 ゆらゆらと揺れながらくるくると回転し始めたそれをノエルはチラッと見ていたが、すぐに興味を無くしたのか魔道具作りに戻った。

「……これでいいの?」
「たぶん……?」

 ジュリーニの問いかけに、自信なさそうに答えるジューロは、魔石で動くように多少手直しした後、シズトの所へ持って行く事にした。
 最近のシズトはだいたい赤ちゃんのいる部屋で過ごしているので、魔力探知を使わずとも見つける事が容易だった。

「シズト様、これでよかったですか?」

 リーヴィアに持って貰っていたベッドメリーをシズトに見せると、彼は「そうそうこんな感じだった気がする!」と喜んだ。
 ただ、まだ一つしかなかったのでイクオのベッドに取り付けるか、千与のベッドに取り付けるか悩み始めたので、慌ててジューロはもう一つ作る羽目になるのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

処理中です...