845 / 1,094
後日譚
後日譚33.ロリエルフは何に使うかよく分からなかった
しおりを挟む
お供え物を準備した後、日課の祈りを捧げたジューロは、いつも通りシズトたちが生活している本館に足を向けた。
もちろんジュリーニはついて来たし、リーヴィアも恋敵と二人っきりにはさせない! と追いかけている。
本館の周りには煌びやかな鎧を身にまとった兵士たちが等間隔に立っていて、周辺の警戒をしていた。
そんな彼らに纏わりついているドライアドもいたが兵士はピクリとも動かない。
彼らはレヴィアが出産するまでは、鎧を脱いで一緒に農作業をしていたのだが、今は本来の役割を全うしようとしている。
ただ、ドライアドは彼らの事情を気にした様子もない。
「人間さん、今日もお仕事しないの?」
「しない」
「どうしてしないの~」
「警護をしなければならんのだ」
「じゃあ私たちがしちゃっていいの~?」
「ああ」
「そっか~。でも私たちもしたい事があるんだ~。人間さん、代わりにしておいて?」
「無理だ」
「なんで~~」
「警護をしなければならんのだ」
纏わりつかれた兵士とドライアドの話は平行線で終わりがなさそうだ、なんて事を思いながらジューロは近衛兵によって開かれた扉をくぐった。
その後をジュリーニとリーヴィアが続き、さらに窓の中をジッと覗き込んでいたドライアドたちがわらわらと続こうとしていたが、彼女たちが入る前に扉は閉ざされてしまった。
「閉まっちゃったね~」
「開かないね~」
「困ったね~」
ジッと扉の開け閉めをしている近衛兵を見るドライアドたちだったが、近衛兵は視線を合わせようとしなかった。
中に入ったジューロは階段をそのまま上がっていき、三階にある目的地まで一気に移動した。
そうして開け放たれた扉から中に入ると、人族の男性とドワーフの女性、それからハーフエルフの女性の三人がいた。
少し前までは魔道具師見習いの子がたくさんいたのだが、今は別館で別の作業に従事している。
「ノエル様、今日もここで作業をしていいですか?」
「別に好きにすればいいっすよ」
視線をジューロに向ける事無くそう答えたのはノエルというハーフエルフの女性だ。
癖毛なのか、単純に手入れをしていないのか金色の髪は波打っていてボサボサだった。髪の隙間からちょこんと出ている細長く、先の方が尖った耳はエルフと比べると若干短い。だが、緑色の瞳も含めて彼女にエルフの血が混じっている事を証明していた。
他の配偶者同様、シズトの子を身籠った彼女のお腹は、膨らみが分かるくらいには大きくなっていた。
毎日の日課となりつつある地母神であり、大地の神でもあるアイアの教会に祈りを捧げに行っているおかげか、そこまで酷い妊娠の症状は出ていなかった。
「それじゃあ、お邪魔します」
彼女たちがいる部屋は一応ノエルの私室でもあるので、ジューロは許可を貰ってから部屋の奥に進んだ。
ノエルのすぐ近くに置かれていた作業台に腰かけたジューロは、早速作業に取り掛かった。
手持無沙汰になったリーヴィアはジュリーニに色々話しかけるが、ジュリーニの反応は素っ気ないものだった。
リーヴィアの好意に気付かないふりをするためというのもあるが、それ以上に好きな人が普段とは違った真剣な顔つきで魔道具製作をしているからそれに見惚れていたから適当に聞き流していたのだろう。
次第に話のネタが無くなってきたリーヴィアは、ジューロの手が止まったところで話しかけた。
「……ねぇ、ジューロ。今は何を作ってんの?」
「私もよく分かんないんだけど、シズト様にお願いされた物を作ってるの」
彼女が作っているのはベッドメリーと呼ばれる物だった。
だが、シズトのおぼろげな知識の中に商品の正式名称なんて残っている訳もなく、誰もジューロが作っている物の名前を知る者はいない。
回転する魔道具の研究者となりつつあるジューロは、シズトに依頼された通り魔法陣を刻んだ。
「ん、これで良し」
「できたの?」
「試作品だけどね。ジュリーニくん、これ持って魔力流してもらってもいい?」
「分かった」
ベッドに取り付けるためのアームをジュリーニに持たせたジューロは、念のため少し離れるようにジュリーニに指示を出した。
ジュリーニはベッドメリーを持ったまま部屋の中央へと移動すると、ジューロを見る。
彼女が頷いたのを確認してから彼は魔力を流し始めた。
ゆらゆらと揺れながらくるくると回転し始めたそれをノエルはチラッと見ていたが、すぐに興味を無くしたのか魔道具作りに戻った。
「……これでいいの?」
「たぶん……?」
ジュリーニの問いかけに、自信なさそうに答えるジューロは、魔石で動くように多少手直しした後、シズトの所へ持って行く事にした。
最近のシズトはだいたい赤ちゃんのいる部屋で過ごしているので、魔力探知を使わずとも見つける事が容易だった。
「シズト様、これでよかったですか?」
リーヴィアに持って貰っていたベッドメリーをシズトに見せると、彼は「そうそうこんな感じだった気がする!」と喜んだ。
ただ、まだ一つしかなかったのでイクオのベッドに取り付けるか、千与のベッドに取り付けるか悩み始めたので、慌ててジューロはもう一つ作る羽目になるのだった。
もちろんジュリーニはついて来たし、リーヴィアも恋敵と二人っきりにはさせない! と追いかけている。
本館の周りには煌びやかな鎧を身にまとった兵士たちが等間隔に立っていて、周辺の警戒をしていた。
そんな彼らに纏わりついているドライアドもいたが兵士はピクリとも動かない。
彼らはレヴィアが出産するまでは、鎧を脱いで一緒に農作業をしていたのだが、今は本来の役割を全うしようとしている。
ただ、ドライアドは彼らの事情を気にした様子もない。
「人間さん、今日もお仕事しないの?」
「しない」
「どうしてしないの~」
「警護をしなければならんのだ」
「じゃあ私たちがしちゃっていいの~?」
「ああ」
「そっか~。でも私たちもしたい事があるんだ~。人間さん、代わりにしておいて?」
「無理だ」
「なんで~~」
「警護をしなければならんのだ」
纏わりつかれた兵士とドライアドの話は平行線で終わりがなさそうだ、なんて事を思いながらジューロは近衛兵によって開かれた扉をくぐった。
その後をジュリーニとリーヴィアが続き、さらに窓の中をジッと覗き込んでいたドライアドたちがわらわらと続こうとしていたが、彼女たちが入る前に扉は閉ざされてしまった。
「閉まっちゃったね~」
「開かないね~」
「困ったね~」
ジッと扉の開け閉めをしている近衛兵を見るドライアドたちだったが、近衛兵は視線を合わせようとしなかった。
中に入ったジューロは階段をそのまま上がっていき、三階にある目的地まで一気に移動した。
そうして開け放たれた扉から中に入ると、人族の男性とドワーフの女性、それからハーフエルフの女性の三人がいた。
少し前までは魔道具師見習いの子がたくさんいたのだが、今は別館で別の作業に従事している。
「ノエル様、今日もここで作業をしていいですか?」
「別に好きにすればいいっすよ」
視線をジューロに向ける事無くそう答えたのはノエルというハーフエルフの女性だ。
癖毛なのか、単純に手入れをしていないのか金色の髪は波打っていてボサボサだった。髪の隙間からちょこんと出ている細長く、先の方が尖った耳はエルフと比べると若干短い。だが、緑色の瞳も含めて彼女にエルフの血が混じっている事を証明していた。
他の配偶者同様、シズトの子を身籠った彼女のお腹は、膨らみが分かるくらいには大きくなっていた。
毎日の日課となりつつある地母神であり、大地の神でもあるアイアの教会に祈りを捧げに行っているおかげか、そこまで酷い妊娠の症状は出ていなかった。
「それじゃあ、お邪魔します」
彼女たちがいる部屋は一応ノエルの私室でもあるので、ジューロは許可を貰ってから部屋の奥に進んだ。
ノエルのすぐ近くに置かれていた作業台に腰かけたジューロは、早速作業に取り掛かった。
手持無沙汰になったリーヴィアはジュリーニに色々話しかけるが、ジュリーニの反応は素っ気ないものだった。
リーヴィアの好意に気付かないふりをするためというのもあるが、それ以上に好きな人が普段とは違った真剣な顔つきで魔道具製作をしているからそれに見惚れていたから適当に聞き流していたのだろう。
次第に話のネタが無くなってきたリーヴィアは、ジューロの手が止まったところで話しかけた。
「……ねぇ、ジューロ。今は何を作ってんの?」
「私もよく分かんないんだけど、シズト様にお願いされた物を作ってるの」
彼女が作っているのはベッドメリーと呼ばれる物だった。
だが、シズトのおぼろげな知識の中に商品の正式名称なんて残っている訳もなく、誰もジューロが作っている物の名前を知る者はいない。
回転する魔道具の研究者となりつつあるジューロは、シズトに依頼された通り魔法陣を刻んだ。
「ん、これで良し」
「できたの?」
「試作品だけどね。ジュリーニくん、これ持って魔力流してもらってもいい?」
「分かった」
ベッドに取り付けるためのアームをジュリーニに持たせたジューロは、念のため少し離れるようにジュリーニに指示を出した。
ジュリーニはベッドメリーを持ったまま部屋の中央へと移動すると、ジューロを見る。
彼女が頷いたのを確認してから彼は魔力を流し始めた。
ゆらゆらと揺れながらくるくると回転し始めたそれをノエルはチラッと見ていたが、すぐに興味を無くしたのか魔道具作りに戻った。
「……これでいいの?」
「たぶん……?」
ジュリーニの問いかけに、自信なさそうに答えるジューロは、魔石で動くように多少手直しした後、シズトの所へ持って行く事にした。
最近のシズトはだいたい赤ちゃんのいる部屋で過ごしているので、魔力探知を使わずとも見つける事が容易だった。
「シズト様、これでよかったですか?」
リーヴィアに持って貰っていたベッドメリーをシズトに見せると、彼は「そうそうこんな感じだった気がする!」と喜んだ。
ただ、まだ一つしかなかったのでイクオのベッドに取り付けるか、千与のベッドに取り付けるか悩み始めたので、慌ててジューロはもう一つ作る羽目になるのだった。
63
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪
紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。
4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる