【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚27.元引きこもり王女は不安な事がいっぱい

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 ドラゴニア王国の王女であり、異世界転移者であるシズトの正妻でもあるレヴィア・フォン・ドラゴニアは無事に出産して一安心していた。
 邪神が現世から神の世界へと帰されても、背中には呪いを受けた後遺症が残っていた。そのため、出産するまでは何が起こるか分からない、と神経を尖らせていた。
 例え邪神がいなくなろうと、この世から『呪い』が消える訳ではない、と理解していたからだ。
 彼女は万全な状態で出産の日を迎える事ができた事をシズトと母であるパール・フォン・ドラゴニアに感謝した。
 シズトがいなければエリクサーなどの回復役が潤沢にある状況にはならなかっただろう。
 母親がいなければ経験豊富で、余計な紐がついていない産婆を手配するのに苦労した事だろう。
 呪いを受けてしまった過去の事もひっくるめても、自分は恵まれている方だと思いながら出産に挑んだ。
 幾らお腹の中の子が加護を授かっていようと、痛いものは痛い。

(勇者様の世界では痛くない出産もあるって、何かで読んだ気がするのですわ)

 シズトがまだ加護を授かっている状態だったら、痛みを感じなくなる魔道具を作ってくれただろうか?
 いや、そんな代物を作ってしまったら戦争に利用されてしまうか、と自分の考えをすぐに否定した彼女は、何とかお腹の中にいた子を産む事ができた。

「セシリア……呪いは……?」
「ご安心ください、レヴィア様。体のどこにも異常は見受けられません」
「良かった、ですわ……」

 万が一、痣のような文様が我が子にもあったらどうしようか、と悩んでいたレヴィアはホッと胸を撫で下ろした。
 愛しい我が子を抱き、何とも言えない幸福感を感じていると扉が開いて黒髪の少年が肩の上に小柄なドライアドを乗せたまま入ってきた。

「レヴィさん、お疲れ様」

 優し気な笑みを浮かべた少年はまず第一にレヴィアに話しかけた。
 肩の上のドライアドはレヴィアが抱いている赤子が気になるのか、ジッと見ていた。

「心配をかけたのですわ、シズト」

 加護無しの指輪を外していたレヴィアは、廊下でそわそわしているシズトの様子が手に取るように分かっていた。
 シズトのためにも頑張らねば、と奮起したおかげで早く終わったのかもしれない。

「抱いてあげて欲しいのですわ」
「う、うん。分かった」

 緊張と不安をシズトから感じたレヴィアはそっと微笑んで「シズトならできるのですわ」と言った。
 ベッドに腰かけるように言われたシズトは、レヴィアが横たわっていたベッドにちょこんと腰かけると、産婆さんから赤子を慎重な手つきで受け取った。

「…………ちっちゃいね」
「これでも大きい方らしいのですわ」
「だよね。加護を持っている子は安産だって言ってたし……。でも、ちっちゃいねぇ。可愛いねぇ……」

 しみじみと言いながらシズトは、元気に泣いている赤ん坊の顔を見ていた。

「れもん!」
「ん、どうしたのレモンちゃん」
「れももも! れも~ん!」

 伸縮自在の髪の毛をわさわさと動かしてシズトの頭にしがみ付き、覗き込むようにして見ていたドライアドがシズトに何やら訴えている。

「どうやらシズトが抱っこしているのを見て、レモンちゃんもしたいと思っちゃったみたいですわ」
「あー、なるほどね」
「レモン!」
「ちょ、髪の毛わさわさしないで。くすぐったいから!」

 赤ん坊だからか勝手に触る事はしないが、それでもシズトの体に髪の毛を這わせて主張するレモンちゃん。
 どうしたものか、とシズトに視線を向けられたレヴィアは「まあ、いきなり手を出されるよりはしっかりと見てる時にしてもらった方が安心するのですわ」と言った。
 しばらく悩んでいる様子だったシズトだったが、赤ん坊に髪の毛を伸ばし始めたドライアドを見て、しょうがない、と許可を出していた。

「優しく抱っこしてね」
「レモン!」

 ドライアドは肩の上から降りる気はないようだ。器用に髪の毛を使って布に包まれた赤子を持ち上げた。その動きは随分と慎重でゆっくりとした動作だった。
 シズトの顔辺りまで持ち上げたドライアドは、髪の毛を使って抱っこしながら元気に泣いている赤子の顔をジーッと眺めた。

「……そろそろいいかな? 次の人が待ってるから」
「………」
「レモンちゃん?」
「………」
「無心で見ているみたいですわ」
「……そっか」

 その後、諦めたシズトはドライアドが満足するまでレヴィアの様子を気にしながらも名前の事などを話した。
 レヴィアはそれを聞きながらも、今度は別の不安が頭をよぎっていた。
 呪われた後遺症が残っている子の体で授乳した時に何か悪影響が出ないだろうか、と。
 結局、何もなかったのだが、初めて授乳させるまで胸の内に不安を抱えて過ごすレヴィアだった。
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