上 下
837 / 1,023
後日譚

後日譚25.事なかれ主義者は一緒にお昼寝をしようと決意した

しおりを挟む
 レヴィさんの出産が終わったかと思えば、一週間後にはモニカが産気づいた。
 二度目だろうが何度目だろうが落ち着く事はなく、産婆のリーダー格であるお婆さんからは部屋から追い出されてしまった。
 今回はモニカの出産という事で、リヴァイさんたちは来ていなかった。
 少し前までは孫の周りをウロチョロしていたんだけど、流石に一週間も仕事をあんまりしない、となるのはまずいという事でパールさんに引きずられながらリヴァイさんは帰って行った。
 すべてを諦めた様なリヴァイさんの表情が脳裏にこびりついている。

「無事に産まれたみたいですわね」

 産声が聞こえてきたと同時にレヴィさんが呟いた。
 まだ本調子ではないから安静にしておくように、と釘を刺されたレヴィさんは、ロッキングチェアを持ってきてモニカの部屋の前で座っていた。
 僕たちの子どもである育生は、二階にあった空き室の一つで過ごしている。
 その内、避けきれない相手と結婚する事になってこの部屋も埋まっていくのかな、と諦めかけていた二階の空き部屋だったけど、子ども部屋として有効活用されそうだった。
 産婆さんの案内の元、モニカの部屋に入ると、ぐったりとした様子のモニカがベッドに横たわっていた。

「大丈夫……なわけないよね、モニカ。ゆっくり休んでてね」
「……はい」

 か細い声で返事をした彼女はそっとまぶたを閉じると静かになった。時刻は深夜0時を回っている。正直僕も眠たいし、頭の上にいつものごとくしがみ付いているレモンちゃんはぐっすり寝ている。
 前回の時のように抱っこしている際にねだられないからまあいいか、とそのまま寝かせておいて、新しく生まれた女の子を抱き上げた。

「名前は何デスか?」

 僕に抱かれた女の子の顔をまじまじと見ながらパメラが尋ねてきた。
 そんな顔近づけると泣かれないかな、とちょっと心配になったけどそもそも見えてないから問題なかった。

「モニカと相談して『千与』っていう名前にしだんた」
「チヨ……エント様の加護である『付与』からもじっているんですね?」

 狐人族のエミリーが尻尾をパタパタと振りながら僕の隣に立って覗き込んでいるエミリーが聞いてきたので頷く。

「うん。事前に授かっているって事は分かってたからね」
「いいと思うじゃん。呼びやすさ大事じゃん」

 略称で呼ばれる事が多いシンシーラはうんうんと頷いている。
 日本人の感覚で名付けると短めになっちゃうだけで、呼びやすさとかはあんまり考えてなかった。
 その後は真夜中だけど起きていた皆が順番に赤ん坊を一度抱いてお開きとなった。
 お開きとなったらそのまま皆でぞろぞろと移動して、セシリアさんがいる部屋をそっと開け――ようとしたらセシリアさんが内側から扉を静かに少しだけ開けた。

「眠ってます」
「あ、はい」

 起こしてはダメだから入るのは諦めよう、とみんな再びぞろぞろと移動を始めた。
 僕も移動するか、と思ったけどまだ扉を少しだけ開けてセシリアさんがこっちを見ていた事に気付いた。

「育生は大丈夫?」
「はい。乳母もいますから大丈夫です」
「セシリアさんは? 休めてる?」
「はい。乳母がいますから。そろそろよろしいでしょうか?」
「うん。無理しないようにね。なんかあったらすぐ変わるから」

 セシリアさんは黙って微笑むと、そっと扉を閉めた。
 子育てで寝不足、も覚悟していたけど義母であるパールさんが選定し派遣してくれた乳母のおかげで僕とレヴィさんは夜はすやすやと眠ることが出来ている。
 僕は最初、抵抗があったけどレヴィさんに「これから生まれてくる子全員をシズトが頑張って面倒を見るのは無理ですわ」と言われたのでそういうものなんだろうと無理矢理納得した。
 ただ、気が付いたら父親であると認識してもらえなくなってしまった、という状況にはなりたくないので朝の日課を済ませたらできるだけ育生の近くにいるようにしている。
 セシリアさんや乳母の女性には時々「そわそわするなら出て行ってください」と追い出される事もあるけど……。

「……あれ、皆も談話室行くの?」
「モニカの様子が気になるからここで待機するのですわ」
「レヴィアは寝た方が良いんじゃないかしら?」
「それはランチェッタ様にも言える事ですよ」
「あら、私はまだ産んでないわよ?」

 ディアーヌさんの指摘にランチェッタさんは不思議そうに首を傾げた。
 ランチェッタさんの出産時期はまだまだ先だけど、それでも妊娠しているのだから生活リズムには気を付けて欲しい。
 その思いはランチェッタさんの付き人であるディアーヌさんも同じようで、早く寝るように促していた。
 ただ結局、モニカの事が心配だから、と談話室で過ごす事になった。

「一日くらい徹夜しても大丈夫よ」
「その分政務の時間を削りますからね。寝不足で倒れられてお腹の子にもしもの事があったら悔やんでも悔やみきれません」
「…………仕方ないわね」

 …………皆も寝不足だと危ないし、お昼寝させよう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...