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後日譚
後日譚25.事なかれ主義者は一緒にお昼寝をしようと決意した
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レヴィさんの出産が終わったかと思えば、一週間後にはモニカが産気づいた。
二度目だろうが何度目だろうが落ち着く事はなく、産婆のリーダー格であるお婆さんからは部屋から追い出されてしまった。
今回はモニカの出産という事で、リヴァイさんたちは来ていなかった。
少し前までは孫の周りをウロチョロしていたんだけど、流石に一週間も仕事をあんまりしない、となるのはまずいという事でパールさんに引きずられながらリヴァイさんは帰って行った。
すべてを諦めた様なリヴァイさんの表情が脳裏にこびりついている。
「無事に産まれたみたいですわね」
産声が聞こえてきたと同時にレヴィさんが呟いた。
まだ本調子ではないから安静にしておくように、と釘を刺されたレヴィさんは、ロッキングチェアを持ってきてモニカの部屋の前で座っていた。
僕たちの子どもである育生は、二階にあった空き室の一つで過ごしている。
その内、避けきれない相手と結婚する事になってこの部屋も埋まっていくのかな、と諦めかけていた二階の空き部屋だったけど、子ども部屋として有効活用されそうだった。
産婆さんの案内の元、モニカの部屋に入ると、ぐったりとした様子のモニカがベッドに横たわっていた。
「大丈夫……なわけないよね、モニカ。ゆっくり休んでてね」
「……はい」
か細い声で返事をした彼女はそっとまぶたを閉じると静かになった。時刻は深夜0時を回っている。正直僕も眠たいし、頭の上にいつものごとくしがみ付いているレモンちゃんはぐっすり寝ている。
前回の時のように抱っこしている際にねだられないからまあいいか、とそのまま寝かせておいて、新しく生まれた女の子を抱き上げた。
「名前は何デスか?」
僕に抱かれた女の子の顔をまじまじと見ながらパメラが尋ねてきた。
そんな顔近づけると泣かれないかな、とちょっと心配になったけどそもそも見えてないから問題なかった。
「モニカと相談して『千与』っていう名前にしだんた」
「チヨ……エント様の加護である『付与』からもじっているんですね?」
狐人族のエミリーが尻尾をパタパタと振りながら僕の隣に立って覗き込んでいるエミリーが聞いてきたので頷く。
「うん。事前に授かっているって事は分かってたからね」
「いいと思うじゃん。呼びやすさ大事じゃん」
略称で呼ばれる事が多いシンシーラはうんうんと頷いている。
日本人の感覚で名付けると短めになっちゃうだけで、呼びやすさとかはあんまり考えてなかった。
その後は真夜中だけど起きていた皆が順番に赤ん坊を一度抱いてお開きとなった。
お開きとなったらそのまま皆でぞろぞろと移動して、セシリアさんがいる部屋をそっと開け――ようとしたらセシリアさんが内側から扉を静かに少しだけ開けた。
「眠ってます」
「あ、はい」
起こしてはダメだから入るのは諦めよう、とみんな再びぞろぞろと移動を始めた。
僕も移動するか、と思ったけどまだ扉を少しだけ開けてセシリアさんがこっちを見ていた事に気付いた。
「育生は大丈夫?」
「はい。乳母もいますから大丈夫です」
「セシリアさんは? 休めてる?」
「はい。乳母がいますから。そろそろよろしいでしょうか?」
「うん。無理しないようにね。なんかあったらすぐ変わるから」
セシリアさんは黙って微笑むと、そっと扉を閉めた。
子育てで寝不足、も覚悟していたけど義母であるパールさんが選定し派遣してくれた乳母のおかげで僕とレヴィさんは夜はすやすやと眠ることが出来ている。
僕は最初、抵抗があったけどレヴィさんに「これから生まれてくる子全員をシズトが頑張って面倒を見るのは無理ですわ」と言われたのでそういうものなんだろうと無理矢理納得した。
ただ、気が付いたら父親であると認識してもらえなくなってしまった、という状況にはなりたくないので朝の日課を済ませたらできるだけ育生の近くにいるようにしている。
セシリアさんや乳母の女性には時々「そわそわするなら出て行ってください」と追い出される事もあるけど……。
「……あれ、皆も談話室行くの?」
「モニカの様子が気になるからここで待機するのですわ」
「レヴィアは寝た方が良いんじゃないかしら?」
「それはランチェッタ様にも言える事ですよ」
「あら、私はまだ産んでないわよ?」
ディアーヌさんの指摘にランチェッタさんは不思議そうに首を傾げた。
ランチェッタさんの出産時期はまだまだ先だけど、それでも妊娠しているのだから生活リズムには気を付けて欲しい。
その思いはランチェッタさんの付き人であるディアーヌさんも同じようで、早く寝るように促していた。
ただ結局、モニカの事が心配だから、と談話室で過ごす事になった。
「一日くらい徹夜しても大丈夫よ」
「その分政務の時間を削りますからね。寝不足で倒れられてお腹の子にもしもの事があったら悔やんでも悔やみきれません」
「…………仕方ないわね」
…………皆も寝不足だと危ないし、お昼寝させよう。
二度目だろうが何度目だろうが落ち着く事はなく、産婆のリーダー格であるお婆さんからは部屋から追い出されてしまった。
今回はモニカの出産という事で、リヴァイさんたちは来ていなかった。
少し前までは孫の周りをウロチョロしていたんだけど、流石に一週間も仕事をあんまりしない、となるのはまずいという事でパールさんに引きずられながらリヴァイさんは帰って行った。
すべてを諦めた様なリヴァイさんの表情が脳裏にこびりついている。
「無事に産まれたみたいですわね」
産声が聞こえてきたと同時にレヴィさんが呟いた。
まだ本調子ではないから安静にしておくように、と釘を刺されたレヴィさんは、ロッキングチェアを持ってきてモニカの部屋の前で座っていた。
僕たちの子どもである育生は、二階にあった空き室の一つで過ごしている。
その内、避けきれない相手と結婚する事になってこの部屋も埋まっていくのかな、と諦めかけていた二階の空き部屋だったけど、子ども部屋として有効活用されそうだった。
産婆さんの案内の元、モニカの部屋に入ると、ぐったりとした様子のモニカがベッドに横たわっていた。
「大丈夫……なわけないよね、モニカ。ゆっくり休んでてね」
「……はい」
か細い声で返事をした彼女はそっとまぶたを閉じると静かになった。時刻は深夜0時を回っている。正直僕も眠たいし、頭の上にいつものごとくしがみ付いているレモンちゃんはぐっすり寝ている。
前回の時のように抱っこしている際にねだられないからまあいいか、とそのまま寝かせておいて、新しく生まれた女の子を抱き上げた。
「名前は何デスか?」
僕に抱かれた女の子の顔をまじまじと見ながらパメラが尋ねてきた。
そんな顔近づけると泣かれないかな、とちょっと心配になったけどそもそも見えてないから問題なかった。
「モニカと相談して『千与』っていう名前にしだんた」
「チヨ……エント様の加護である『付与』からもじっているんですね?」
狐人族のエミリーが尻尾をパタパタと振りながら僕の隣に立って覗き込んでいるエミリーが聞いてきたので頷く。
「うん。事前に授かっているって事は分かってたからね」
「いいと思うじゃん。呼びやすさ大事じゃん」
略称で呼ばれる事が多いシンシーラはうんうんと頷いている。
日本人の感覚で名付けると短めになっちゃうだけで、呼びやすさとかはあんまり考えてなかった。
その後は真夜中だけど起きていた皆が順番に赤ん坊を一度抱いてお開きとなった。
お開きとなったらそのまま皆でぞろぞろと移動して、セシリアさんがいる部屋をそっと開け――ようとしたらセシリアさんが内側から扉を静かに少しだけ開けた。
「眠ってます」
「あ、はい」
起こしてはダメだから入るのは諦めよう、とみんな再びぞろぞろと移動を始めた。
僕も移動するか、と思ったけどまだ扉を少しだけ開けてセシリアさんがこっちを見ていた事に気付いた。
「育生は大丈夫?」
「はい。乳母もいますから大丈夫です」
「セシリアさんは? 休めてる?」
「はい。乳母がいますから。そろそろよろしいでしょうか?」
「うん。無理しないようにね。なんかあったらすぐ変わるから」
セシリアさんは黙って微笑むと、そっと扉を閉めた。
子育てで寝不足、も覚悟していたけど義母であるパールさんが選定し派遣してくれた乳母のおかげで僕とレヴィさんは夜はすやすやと眠ることが出来ている。
僕は最初、抵抗があったけどレヴィさんに「これから生まれてくる子全員をシズトが頑張って面倒を見るのは無理ですわ」と言われたのでそういうものなんだろうと無理矢理納得した。
ただ、気が付いたら父親であると認識してもらえなくなってしまった、という状況にはなりたくないので朝の日課を済ませたらできるだけ育生の近くにいるようにしている。
セシリアさんや乳母の女性には時々「そわそわするなら出て行ってください」と追い出される事もあるけど……。
「……あれ、皆も談話室行くの?」
「モニカの様子が気になるからここで待機するのですわ」
「レヴィアは寝た方が良いんじゃないかしら?」
「それはランチェッタ様にも言える事ですよ」
「あら、私はまだ産んでないわよ?」
ディアーヌさんの指摘にランチェッタさんは不思議そうに首を傾げた。
ランチェッタさんの出産時期はまだまだ先だけど、それでも妊娠しているのだから生活リズムには気を付けて欲しい。
その思いはランチェッタさんの付き人であるディアーヌさんも同じようで、早く寝るように促していた。
ただ結局、モニカの事が心配だから、と談話室で過ごす事になった。
「一日くらい徹夜しても大丈夫よ」
「その分政務の時間を削りますからね。寝不足で倒れられてお腹の子にもしもの事があったら悔やんでも悔やみきれません」
「…………仕方ないわね」
…………皆も寝不足だと危ないし、お昼寝させよう。
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