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後日譚
後日譚18.聖女は満喫している
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シグニール大陸の今代の勇者は三人いる。
そのうちの一人であり、【聖女】の加護を授かっている茶木姫花は現在、ドラゴニア王国の最南端にある町ファマリアにいた。
世界樹ファマリーをぐるりと囲むように作られたその町は、町というにはとても広かった。
ファマリアの所有者であるシズトの誕生日という事で町をあげてお祝いをしている。
通りには、国際色豊かな屋台がずらりと並んでいる。ドラゴニアの首都にある転移門を通してやってきた他国の商人たちが露天商として店を構えているようだ。
中にはガレオールにある大陸間転移門を通じて遠路はるばるやってきた異大陸の商人もいるようで、珍しい品々に住人だけではなく、観光客も集まっていた。
賑わっている町中で、姫花は見覚えのある少年の像を背に立っていた。
真っ白なローブを着た彼女は退屈そうに町中を歩く奴隷の証である首輪をつけた人々を眺めていたが、何かに気づいた様子で視線を動かした。
彼女の視線の先にはいつもの大きな盾を身につけていない男性がやってきた。
彼の名はシルダー。姫花の護衛兼監視役でもある彼は、姫花の猛アタックの影響か、彼女の恋人となっていた。
「遅いわよ、シルダー」
「……時間には遅れてないはずだが?」
最近新しく建てられた時計塔に視線を向けた彼は、不思議そうに首を傾げながら姫花を見た。
「こういうのはちょっと早くきて待っているのが普通でしょ!」
「そうなのか。……そもそも、同じ場所に寝泊まりしているのだから一緒に出れば良かったんじゃないか?」
「デートをするなら待ち合わせをしたいのよ!」
「そうか」
シルダーは理解に苦しむ様子だったが、ひとまず謝罪を口にした。
姫花はそこまで怒っていなかったのか「次は気をつけてよね」と言って彼の手を取った。
「今日は大会があるから、後回しにしていた人気店を中心に回るわよ」
「………」
「なに? 文句あるの?」
「特にない」
「だったら『分かった』とか『ああ』とかでもいいから返事をしてって言ってるでしょ!」
「………」
「返事!」
「ああ」
姫花の声に怒気はない。明たちが見たら「またいつものやりとりですか」と呆れるくらいには同じようなやり取りをしていた。
そのやり取りを楽しむかのように繰り返されていたやり取りを終えた後は姫花がただひたすらしゃべり続け、シルダーは「そうか」とか「ああ」など一言で返していた。
そうしている内に目的の場所に着いたようだ。有名になりつつある食事処で、ドラゴンステーキで有名だった。
店の前には長蛇の列ができているが、姫花は驚いた様子もない。
「シズトの奴隷たちがいないだけで、他の観光客はいるわよね」
「そうだな」
彼女が言う通り、普段は今並んでいる者たちに加えて町の住人である奴隷たちが大勢並んでいる。
それと比べたらまだましな方だろう。
そう考えた姫花は列の最後尾にシルダーと一緒に並んだ。
話をしていれば時間はあっという間に過ぎていくだろう、というのが姫花の考えのようだ。
ただ、その話は普段と異なり、シズトに関する事が多かった。
「どこに行っても静人の像があるのは何だか笑っちゃうわよね」
「そうか?」
「シルダーはそうでもないだろうけど、私たちは前世からの知り合いだから、なんか像を作られていると変な感じがするのよ。シルダーの周りの人で言うと……ラックさんの像が町にある感じ、みたいな?」
「………」
「まあ、分かってもらえるとは思ってないから別にいいけど。なーんか、遠い人になっちゃったなぁ、って」
「それが分かっているんだったら、態度を改めたらどうだ?」
「だから、それが難しいんだってば。今までの関係性とかあるし、そうコロコロ態度を変えられないわよ。今まで貴族だった人が没落したら、それまでの繋がりは一気に途切れるでしょ? その逆が起きてるわけだけど…………これでも我慢してる方なんだからね?」
「………」
黙ってしまったシルダーに話したところで、話は平行線だと感じたのか彼女は話題を変えた。
「それにしても、この町はどこにいっても静人、静人、静人――静人で町おこしをするつもりかって思うくらい静人関係の商品が多いわよね」
「邪神を祓いし英雄だから当然だ。勇者様が興した国や、統治している街だとこのくらいは普通だ」
「えー、じゃあ明とか陽太がそう言う立場になっても売り出されるわけ? そうなったらマジで爆笑する未来が見えるわ。予知とか使えないけど、これは絶対断言できる」
創造しただけでも笑いが止まらないようで、姫花はニヤニヤしながらそう言った。
シルダーはやっぱり理解ができないようで、首を傾げるだけだった。
そんな感じで話をしているとあっという間に時間が過ぎていき、お昼時にやっと彼女たちの順番が回ってきた。
「このペースだと全部は回れないわね」
「大会はしばらく続くらしいから明日でもいいんじゃないか? 冒険者としての活動もしばらく休むんだろ?」
「まあ、それもそうね」
「それに、食べ過ぎると太るぞ」
「太らないわよ! 私は食べても太らないタイプだからね! それに、出産のときのためにしっかりと力を蓄えておかないといけないからこれは良いの!」
後一カ月ほど経てばシズトの第一子が生まれる予定だ。そこから出産ラッシュになる。
ドラゴニアの王妃からの命令で万が一がないように万全の状態で備えておけと言われた彼女は、最近は常にファマリアで過ごしていた。
彼女曰く「いつでも駆け付ける事ができるようにするためよ」との事だったが、シルダーからしてみると観光を楽しんでいるようにしか見えなかった。
本当にこんな状態で大丈夫だろうか、と思いつつも今日もドラン公爵に報告する内容を頭の中で考えながら姫花の話に相槌をするシルダーだった。
そのうちの一人であり、【聖女】の加護を授かっている茶木姫花は現在、ドラゴニア王国の最南端にある町ファマリアにいた。
世界樹ファマリーをぐるりと囲むように作られたその町は、町というにはとても広かった。
ファマリアの所有者であるシズトの誕生日という事で町をあげてお祝いをしている。
通りには、国際色豊かな屋台がずらりと並んでいる。ドラゴニアの首都にある転移門を通してやってきた他国の商人たちが露天商として店を構えているようだ。
中にはガレオールにある大陸間転移門を通じて遠路はるばるやってきた異大陸の商人もいるようで、珍しい品々に住人だけではなく、観光客も集まっていた。
賑わっている町中で、姫花は見覚えのある少年の像を背に立っていた。
真っ白なローブを着た彼女は退屈そうに町中を歩く奴隷の証である首輪をつけた人々を眺めていたが、何かに気づいた様子で視線を動かした。
彼女の視線の先にはいつもの大きな盾を身につけていない男性がやってきた。
彼の名はシルダー。姫花の護衛兼監視役でもある彼は、姫花の猛アタックの影響か、彼女の恋人となっていた。
「遅いわよ、シルダー」
「……時間には遅れてないはずだが?」
最近新しく建てられた時計塔に視線を向けた彼は、不思議そうに首を傾げながら姫花を見た。
「こういうのはちょっと早くきて待っているのが普通でしょ!」
「そうなのか。……そもそも、同じ場所に寝泊まりしているのだから一緒に出れば良かったんじゃないか?」
「デートをするなら待ち合わせをしたいのよ!」
「そうか」
シルダーは理解に苦しむ様子だったが、ひとまず謝罪を口にした。
姫花はそこまで怒っていなかったのか「次は気をつけてよね」と言って彼の手を取った。
「今日は大会があるから、後回しにしていた人気店を中心に回るわよ」
「………」
「なに? 文句あるの?」
「特にない」
「だったら『分かった』とか『ああ』とかでもいいから返事をしてって言ってるでしょ!」
「………」
「返事!」
「ああ」
姫花の声に怒気はない。明たちが見たら「またいつものやりとりですか」と呆れるくらいには同じようなやり取りをしていた。
そのやり取りを楽しむかのように繰り返されていたやり取りを終えた後は姫花がただひたすらしゃべり続け、シルダーは「そうか」とか「ああ」など一言で返していた。
そうしている内に目的の場所に着いたようだ。有名になりつつある食事処で、ドラゴンステーキで有名だった。
店の前には長蛇の列ができているが、姫花は驚いた様子もない。
「シズトの奴隷たちがいないだけで、他の観光客はいるわよね」
「そうだな」
彼女が言う通り、普段は今並んでいる者たちに加えて町の住人である奴隷たちが大勢並んでいる。
それと比べたらまだましな方だろう。
そう考えた姫花は列の最後尾にシルダーと一緒に並んだ。
話をしていれば時間はあっという間に過ぎていくだろう、というのが姫花の考えのようだ。
ただ、その話は普段と異なり、シズトに関する事が多かった。
「どこに行っても静人の像があるのは何だか笑っちゃうわよね」
「そうか?」
「シルダーはそうでもないだろうけど、私たちは前世からの知り合いだから、なんか像を作られていると変な感じがするのよ。シルダーの周りの人で言うと……ラックさんの像が町にある感じ、みたいな?」
「………」
「まあ、分かってもらえるとは思ってないから別にいいけど。なーんか、遠い人になっちゃったなぁ、って」
「それが分かっているんだったら、態度を改めたらどうだ?」
「だから、それが難しいんだってば。今までの関係性とかあるし、そうコロコロ態度を変えられないわよ。今まで貴族だった人が没落したら、それまでの繋がりは一気に途切れるでしょ? その逆が起きてるわけだけど…………これでも我慢してる方なんだからね?」
「………」
黙ってしまったシルダーに話したところで、話は平行線だと感じたのか彼女は話題を変えた。
「それにしても、この町はどこにいっても静人、静人、静人――静人で町おこしをするつもりかって思うくらい静人関係の商品が多いわよね」
「邪神を祓いし英雄だから当然だ。勇者様が興した国や、統治している街だとこのくらいは普通だ」
「えー、じゃあ明とか陽太がそう言う立場になっても売り出されるわけ? そうなったらマジで爆笑する未来が見えるわ。予知とか使えないけど、これは絶対断言できる」
創造しただけでも笑いが止まらないようで、姫花はニヤニヤしながらそう言った。
シルダーはやっぱり理解ができないようで、首を傾げるだけだった。
そんな感じで話をしているとあっという間に時間が過ぎていき、お昼時にやっと彼女たちの順番が回ってきた。
「このペースだと全部は回れないわね」
「大会はしばらく続くらしいから明日でもいいんじゃないか? 冒険者としての活動もしばらく休むんだろ?」
「まあ、それもそうね」
「それに、食べ過ぎると太るぞ」
「太らないわよ! 私は食べても太らないタイプだからね! それに、出産のときのためにしっかりと力を蓄えておかないといけないからこれは良いの!」
後一カ月ほど経てばシズトの第一子が生まれる予定だ。そこから出産ラッシュになる。
ドラゴニアの王妃からの命令で万が一がないように万全の状態で備えておけと言われた彼女は、最近は常にファマリアで過ごしていた。
彼女曰く「いつでも駆け付ける事ができるようにするためよ」との事だったが、シルダーからしてみると観光を楽しんでいるようにしか見えなかった。
本当にこんな状態で大丈夫だろうか、と思いつつも今日もドラン公爵に報告する内容を頭の中で考えながら姫花の話に相槌をするシルダーだった。
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