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後日譚
後日譚10.事なかれ主義者はネタバレされた
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食事が終わって皆……いや、ノエル以外の奥さんたちとお腹の中の子たちに「行ってきます」と言ってから屋敷を出た。
ノエルは身籠ったとしてもいつも通りで早く食べ終わると食堂から出て行ったからいなかった。以前までは嵐のように去っていったけど、最近はゆっくりと出て行くので、お腹の中に別の命があるという自覚はあるみたいだ。
「それにしても、ギュスタン様が会いたいって、何事だろうね?」
「そこまでは確認できておりませんが、大変重要で緊急の用件だ、との事でした」
クレストラ大陸にはいくつかあって、ギュスタン様はファルニルという国の貴族のご令息だ。
アリーズ侯爵家の息子の一人で、色々あって彼が外交官としてクレストラ連合の会議に出席する事もあるらしい。
ただ、彼自身は貴族というよりは農家という言葉が似合いそうな感じの雰囲気の人で、緊張せずに話せる数少ない知り合いだ。体が大きいし、イメージ的には心優しい熊さん的な感じ。
「緊急っていうけど、他の人を連れてきてないんだよね? ……亡命とか?」
自分の畑を放っておいて亡命するような人には思えないけど。っていうか、クレストラ大陸は今までの歴史の中で一番平和な時代を謳歌しているらしいから亡命する必要性もないか。
「まあ、とりあえず会ってみれば分かるか。それじゃあ、レモンちゃん、転移陣を起動してもらってもいいかな?」
「レモン!」
屋敷の外に出てすぐによじ登ってきたレモンちゃんにお願いすると、元気よく彼女は返事をした。
ただ、肩の上から降りるつもりはないようで、引っ付いて離れない。
頭にしがみ付くレモンちゃんを引き剥がそうと悪戦苦闘している間に他のドライアドたちが転移の準備を整えてくれた。
「……はぁ……はぁ……離れないんだけど、どうしよう?」
「実力行使をしていいのであれば、問題なく引き離せますが……?」
「……まあ、連れてくか。他の子たちが集まってくる前にさっさと転移しよ」
「ガレオールを経由するのよね? わたくしたちも行くわ」
ランチェッタさんとディアーヌが僕たちが来た方向からやってきた。
小柄な彼女は、お腹を締め付けないタイプのドレスを着ている。魔道具化をしていない代物だから露出が多い。彼女は暑がりなのだ。
大きな胸の谷間に視線が向かわないようにそっと視線を背けると「別にシズトに見られるのは構わないのよ?」と悪戯っぽく微笑んだ。
「ランチェッタさんたちはガレオールに用事があるの?」
「ご懐妊されているのですから、出来ればお休みして頂くか、こちらで政務をこなしてほしいのですが……」
「相手が相手だからそうもいかないでしょ。以前と比べると関係が薄れたアトランティアだけど、それでもこれまでの付き合いとか諸々あるんだから無下にはできないし」
アトランティアは海底にある魚人族の国だったはずだ。
転移門が設置されるまでは大陸間の貿易には欠かせない存在だったらしいけど、今は転移陣があるからそもそも海路での貿易をする必要が無くなってしまったそうだ。
輸送コストも時間もかかりすぎる船よりも、安全かつ一瞬で移動できる転移門が支持されているらしい。
「恨まれてそうだし、変な事してこないといいね」
「流石に公式の会談でそんな事はしないわよ。経済的にこちらに依存している部分もあるし、過激な事はしないはずだわ。……たぶん」
「私も同席しますし、近衛兵だけでなく世界樹の番人も数名連れて行くので大丈夫です。こちらはお任せください」
「ディアーヌさんも気を付けてね」
「心得ております」
ディアーヌさんはランチェッタさん専属の侍女だ。
海洋国家ガレオール人の特徴である健康的な褐色肌に、ランチェッタさんと同色の灰色の髪をシニヨンでまとめている。
悪戯好きなのが玉に瑕だけど、仕事はしっかりとこなすらしい。
仕事にのめり込みやすいランチェッタさんのストッパー役としても頑張って欲しい。
ガレオールの実験農場に転移した後は、準備が整っていたので二人とはそこで分かれてそのままクレストラ大陸へと転移した。
「久しぶりだね、ムサシ」
「元気そうで良かったでござるよ」
出迎えてくれたのはフソーの街を任せているホムンクルス、ムサシだ。
侍大将をイメージしながら作ったのか、甲冑を身に纏っている彼は体がとても大きい。ラオさんとルウさんくらいだろうか?
そんな彼の体にはドライアドたちが引っ付いているし、彼の周りにもドライアドがわらわらいる。
ここのドライアドたちは他の所の子よりも小柄で、日本人のような肌の色をしている。
そんな彼女たちの視線はまっすぐに僕……というよりも、レモンちゃんに向かっていた。
「レモン!」
「こんにちは?」
「どこから来たの?」
「レモン!」
「この子知ってるよ。あるばいとをしてる所の方の子だよ」
「あ~、あっちの方の」
「こっちの人間さんは加護がないね」
「加護を返しちゃったんだって~」
「大変だねぇ」
「でも加護持ってる人が来てるから大丈夫じゃない?」
「確かに~」
収拾がつかないぞ、これ。お菊ちゃんはどこだ?
「お菊ちゃんはギュスタン殿と一緒にいるでござるよ。こっちでござる」
ムサシは屋敷の方へと歩き出した。
「禁足地の中に入ってもらったの?」
「そうでござるよ。ドライアドたちが連れ込んだ、の方が正しいかもしれないでござるが……そこら辺はギュスタン殿から聞いた方が早いでござる」
「フソーちゃんのお世話をしてもらったの~」
「他のお世話もしてもらいたかったけど、魔力が足りなかったんだって~」
「人間さんの方が魔力たくさんあったから、フソーちゃんも嬉しそうだったんだけどなぁ」
………ドライアドたちがネタバレかましてきたんだけど?
ムサシを見ると彼は苦笑を浮かべながら「そういう事みたいでござる」と頷いた。
一年くらいは時間がかかると思ってたけど、随分早かったなぁ。
ノエルは身籠ったとしてもいつも通りで早く食べ終わると食堂から出て行ったからいなかった。以前までは嵐のように去っていったけど、最近はゆっくりと出て行くので、お腹の中に別の命があるという自覚はあるみたいだ。
「それにしても、ギュスタン様が会いたいって、何事だろうね?」
「そこまでは確認できておりませんが、大変重要で緊急の用件だ、との事でした」
クレストラ大陸にはいくつかあって、ギュスタン様はファルニルという国の貴族のご令息だ。
アリーズ侯爵家の息子の一人で、色々あって彼が外交官としてクレストラ連合の会議に出席する事もあるらしい。
ただ、彼自身は貴族というよりは農家という言葉が似合いそうな感じの雰囲気の人で、緊張せずに話せる数少ない知り合いだ。体が大きいし、イメージ的には心優しい熊さん的な感じ。
「緊急っていうけど、他の人を連れてきてないんだよね? ……亡命とか?」
自分の畑を放っておいて亡命するような人には思えないけど。っていうか、クレストラ大陸は今までの歴史の中で一番平和な時代を謳歌しているらしいから亡命する必要性もないか。
「まあ、とりあえず会ってみれば分かるか。それじゃあ、レモンちゃん、転移陣を起動してもらってもいいかな?」
「レモン!」
屋敷の外に出てすぐによじ登ってきたレモンちゃんにお願いすると、元気よく彼女は返事をした。
ただ、肩の上から降りるつもりはないようで、引っ付いて離れない。
頭にしがみ付くレモンちゃんを引き剥がそうと悪戦苦闘している間に他のドライアドたちが転移の準備を整えてくれた。
「……はぁ……はぁ……離れないんだけど、どうしよう?」
「実力行使をしていいのであれば、問題なく引き離せますが……?」
「……まあ、連れてくか。他の子たちが集まってくる前にさっさと転移しよ」
「ガレオールを経由するのよね? わたくしたちも行くわ」
ランチェッタさんとディアーヌが僕たちが来た方向からやってきた。
小柄な彼女は、お腹を締め付けないタイプのドレスを着ている。魔道具化をしていない代物だから露出が多い。彼女は暑がりなのだ。
大きな胸の谷間に視線が向かわないようにそっと視線を背けると「別にシズトに見られるのは構わないのよ?」と悪戯っぽく微笑んだ。
「ランチェッタさんたちはガレオールに用事があるの?」
「ご懐妊されているのですから、出来ればお休みして頂くか、こちらで政務をこなしてほしいのですが……」
「相手が相手だからそうもいかないでしょ。以前と比べると関係が薄れたアトランティアだけど、それでもこれまでの付き合いとか諸々あるんだから無下にはできないし」
アトランティアは海底にある魚人族の国だったはずだ。
転移門が設置されるまでは大陸間の貿易には欠かせない存在だったらしいけど、今は転移陣があるからそもそも海路での貿易をする必要が無くなってしまったそうだ。
輸送コストも時間もかかりすぎる船よりも、安全かつ一瞬で移動できる転移門が支持されているらしい。
「恨まれてそうだし、変な事してこないといいね」
「流石に公式の会談でそんな事はしないわよ。経済的にこちらに依存している部分もあるし、過激な事はしないはずだわ。……たぶん」
「私も同席しますし、近衛兵だけでなく世界樹の番人も数名連れて行くので大丈夫です。こちらはお任せください」
「ディアーヌさんも気を付けてね」
「心得ております」
ディアーヌさんはランチェッタさん専属の侍女だ。
海洋国家ガレオール人の特徴である健康的な褐色肌に、ランチェッタさんと同色の灰色の髪をシニヨンでまとめている。
悪戯好きなのが玉に瑕だけど、仕事はしっかりとこなすらしい。
仕事にのめり込みやすいランチェッタさんのストッパー役としても頑張って欲しい。
ガレオールの実験農場に転移した後は、準備が整っていたので二人とはそこで分かれてそのままクレストラ大陸へと転移した。
「久しぶりだね、ムサシ」
「元気そうで良かったでござるよ」
出迎えてくれたのはフソーの街を任せているホムンクルス、ムサシだ。
侍大将をイメージしながら作ったのか、甲冑を身に纏っている彼は体がとても大きい。ラオさんとルウさんくらいだろうか?
そんな彼の体にはドライアドたちが引っ付いているし、彼の周りにもドライアドがわらわらいる。
ここのドライアドたちは他の所の子よりも小柄で、日本人のような肌の色をしている。
そんな彼女たちの視線はまっすぐに僕……というよりも、レモンちゃんに向かっていた。
「レモン!」
「こんにちは?」
「どこから来たの?」
「レモン!」
「この子知ってるよ。あるばいとをしてる所の方の子だよ」
「あ~、あっちの方の」
「こっちの人間さんは加護がないね」
「加護を返しちゃったんだって~」
「大変だねぇ」
「でも加護持ってる人が来てるから大丈夫じゃない?」
「確かに~」
収拾がつかないぞ、これ。お菊ちゃんはどこだ?
「お菊ちゃんはギュスタン殿と一緒にいるでござるよ。こっちでござる」
ムサシは屋敷の方へと歩き出した。
「禁足地の中に入ってもらったの?」
「そうでござるよ。ドライアドたちが連れ込んだ、の方が正しいかもしれないでござるが……そこら辺はギュスタン殿から聞いた方が早いでござる」
「フソーちゃんのお世話をしてもらったの~」
「他のお世話もしてもらいたかったけど、魔力が足りなかったんだって~」
「人間さんの方が魔力たくさんあったから、フソーちゃんも嬉しそうだったんだけどなぁ」
………ドライアドたちがネタバレかましてきたんだけど?
ムサシを見ると彼は苦笑を浮かべながら「そういう事みたいでござる」と頷いた。
一年くらいは時間がかかると思ってたけど、随分早かったなぁ。
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