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後日譚

後日譚8.エルフたちは法を考える

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 世界樹の番人とは元々、世界樹の使徒と呼ばれていたエルフの王と世界樹を守るために作られた組織だった。
 才能のあるエルフたちは世界樹の番人の候補として選ばれ、教育という名のふるいにかけられた。残った一部のエルフたちだけが番人となれる。
 ジュリウスはそんな世界樹の番人の中でも実力はずば抜けていた事もあり、ユグドラシルでは世界樹の番人のリーダーとして働いていた。
 今は世界樹の使徒だったシズトの身辺警護をしている。たとえ加護を失おうと、彼が世界樹の使徒だったことには変わりはない。他国で言うところの先王のような物である。それを守るのは当然の事、とジュリウスは主張している。
 それに対して特に不満の声は上がっていない。
 他の都市国家で組織されていた世界樹の番人の中でもジュリウスの実力が抜きん出ていた事もあるだろうが、それまでのシズトの働きを見て、加護を失ったからといって手のひらを返すような真似ができるエルフはいなかった。
 今後もしばらくの間はエルフの実質の王はシズトで変わらないだろう。
 ただ、そうなると問題が一つ生じてしまう。

「今後、現れるだろう『生育』の加護持ちをどう扱うかが今回の議題だ」

 室内には金色の髪に緑色の瞳の者たちしかいなかった。
 耳は細長く、肌は陶磁器のように白く美しい。顔立ちも整っており、シズトたちの世界で言うとモデル体型の者たちばかりである。それが、エルフという種族の特徴だった。
 金色の髪を刈り上げているのはジュリウスだ。ユグドラシルの世界樹の番人のリーダーでありながら、その実力を買われ、番人のリーダーのまとめ役も兼任していた。

「だが、本題に入る前に各国での活動の共有を行う。まずはフソーの状況だが……ここは世界樹の番人もいないため私が代わりに話す。邪神騒動後の布教活動によって確実に信者を伸ばしつつある、とムサシ様から報告があった。吟遊詩人や劇団員によるシズト様と三柱の雄姿を広める活動の影響もあるだろう。次はリリアーヌ、報告を」
「ハッ! 報告させていただきます!」

 ジュリウスに名指しされたベリーショートの髪に目つきが鋭い女性が勢いよく立ち上がって資料を片手に報告を始めた。
 その声はとても大きいが、現在使われているファマリアの迎賓館の部屋にはそれぞれ防音の魔道具が設置されているので外の者に話を声が聞こえる事はないだろう。

「トネリコでも布教活動を行っておりますが、なかなか思うような成果を上げる事ができていません! ニホン連合にはそれぞれ国教がありますから! ですが、ガレオールの民には広がりを見せているようです! これは私の行動の結果ではなく、奥方様のおかげでしょう! 不甲斐ない自分が恨めしいです!」

 直立不動で言いたい事を言い終わると着席したリリアーヌはしょんぼりとうなだれている。
 やる気が空回りしているのだろう。いくつかジュリウスの耳にもトラブルの報告が届いていた。

「とりあえずトネリコに関しては現状維持で構わん。シグニール大陸で信仰がそう簡単に拡がるとは思っていないからな。その代わり、信者として獲得できている民衆に働きかけ続けろ」
「はい! 身命を賭して民衆の信仰を深める事ができるように動いて行きます!」

 しょんぼりとしていたリリアーヌは背筋を伸ばし、姿勢よく座って返事をした。
 切り替えが早いのは彼女の長所なのかもしれない。

「キラリー、イルミンスールの方はどうだ」

 指名されたのはこれまたエルフの女性だ。
 シグニール大陸から北に進んだところにあるミスティア大陸の一国、イルミンスールで世界樹の真実を知り、革命軍のリーダーとして活動していた女性だ。

「はい。こちらはまだ他国との繋がりが完全には回復していないので、まずは民衆に邪神との戦いの顛末や、ファマ様の布教活動を行っています。ウィズダム魔法王国からやってくる商人たちにもその情報は入っているのでしょう。邪神討伐に関する話を聞きたいと、後日使節団の方がいらっしゃる予定です」
「そうか。ドローンの記録映像が必要であれば持っていけ。チャンスを逃さず、布教を続けよ」
「かしこまりました」

 本当に邪神を討伐したのか、そもそもそんな存在がいたのかと疑う者が多いが、幸か不幸か邪神が出現してからいなくなるまでの様子が音声とともに記録された魔道具があり、それに偶然記録する事ができていた。これを使わない手はないだろう。
 見る事によって呪われてしまう可能性があるかも、と不安がる者たちのために自身への攻撃などを肩代わりする魔道具『身代わりのお守り』とセットで布教活動に一役買っていた。

「他に報告があるものがいないのであれば本題に入る。今後の世界樹の使徒の扱いについてだ。現在、生育の加護を授かっているものがいない状況だ。世界樹を育む事ができるものが使徒となるのであれば、順当に行けば数ヶ月後に生まれるシズト様の御子様がなるだろう。だが、信仰の広まり続けている現状、他の生育の加護を授かった者が現れるのは確実だ。そして、シズト様が仰るには、その未来は遠くはない」
「そうなると世界樹の使徒が二人存在する事になってしまいますな!」
「ファマ様の意思を尊重するのであれば今後授けられるであろう生育の加護を持つ者たちを邪険に扱う事はできない。だが、シズト様の御子様が不利益を被る事も避けなければならん」
「国のあり方を変える必要がありそうですね」

 キラリーが顎に手を添えながら呟いた。
 その呟きにジュリウスもその通りだ、と頷く。

「代理人であるジューン様の権限を強くするのはどうでしょうか」
「それは考えたがジューン様には断られた。世界樹の使徒が国を統治するべきで、あくまで自分はシズト様の代理人にすぎない、と」
「シズト様は……もう加護がないから、新たに加護を授かっている者が出てきた際に納得しない者も現れるかもしれませんね」
「その通りだ。最悪の事態にもなりかねん。争い事を嫌うシズト様がそれに気づかないわけがない。辞退されるだろうな」
「であるならば! やはり、シズト様の御子様に有利な状況を作るしかありませんな!」
「勇者の子は加護を授かりやすく、その能力も優れている事が多いという点を踏まえると反対意見は出にくいと思うが……引き続き布教活動と共にシズト様と邪神の戦いの様子について伝えていくのは各国で続けるように」

 そこからはどういう法を作って行くのか話し合いが行われた。
 ジュリウスはそれに耳を傾けつつも、可能であればシズトと友好的な関係を結べる相手に加護が授けられる事を祈るのだった。
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