【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚7.賢者たちはいったん距離を置く

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 ドラゴニア王国の最南端を統治するドラン公爵の領都ドランには、前公爵が妾のために用意した屋敷がたくさん並んでいる区画がある。
 それらは代替わりしてからだんだんと主を変えていき、今も元公爵の妾やその親族が暮らしている屋敷は少ない。
 シグニール大陸に異世界転移した今代の勇者である黒川明が暮らしている屋敷も、元々愛妾屋敷だった。
 彼は自室として使っている三階の部屋の一室で目を覚ますと、身支度を整える。
 黒い髪には寝癖がついていて、濡らした方が手っ取り早そうだ、と判断した彼は部屋を出て一階へと向かった。
 脱衣所に入る前に、入り口のドアノブに掛けられた看板をひっくり返して『使用中』にしておくことを忘れない。異性が一つ屋根の下で暮らしているので面倒事を避けるためには必要な事だった。
 冒険者なんてしてたら男女がどうのと言ってられない状況の時が来る事もあるが、幸か不幸か、彼らにはまだそんな状況は訪れていなかった。

「……髪の毛だけするのも面倒ですし、いっそ朝風呂にしますか」

 服を脱いで露になった彼の体は、後衛職という事もあり筋肉は殆どついているようには見えない。
 もう少し筋肉をつけたら少しは様になるだろうか、と考えた事もあったが、筋トレをするよりも知識を身に着けた方が良い、と暇な時間は本を読んでいるからそんな体つきだった。
 体を洗った後は魔道具店で買った入浴魔石などを使い、のんびりとお湯に漬かった。
 お風呂から上がって冒険用の装備を身にまとうと彼は厨房へと向かった。
 厨房へと向かうにつれて騒がしくなっていく。
 どうやらちゃんと二人とも起きているようだ、なんて事を考えながら厨房に入ると二人の男女がいた。
 金色の髪の毛の男が金田陽太だ。転移してからすぐにエンジェリア帝国での扱いを忘れられず、それが原因でよく女性関係でトラブルを起こしていた今代の勇者の一人だった。
 数日前に今後の話し合いをしてからは当番の日は朝早くに起きて食事の用意をするくらいにはなった。

「明、起きるの遅くない?」
「寝癖が酷かったのでついでに朝風呂してたんですよ」

 明が入ってきた事に気付いて話しかけてきた茶色の髪をポニーテールにしている女の子は茶木姫花。明、陽太と同じく異世界からの転移者で今代の勇者である。
 冒険にそぐわないおしゃれをしていた彼女だったが、数日前の話し合いからは華美な装飾を控え、実用的な物しか身に着けなくなりつつある。
 それでも、髪を結っている物や手首にはアクセサリーがついているが……そのくらいなら許容範囲だろうと明は特に指摘をしていない。

「食事の準備はまだ終わらないんですか?」
「今来たばっかの奴が文句言ってんじゃねぇよ。あと少しだから待ってろ」

 食事の準備と言っても、おきっぱにされていた魔道具を使って作ったトーストと、ベーコンと卵を焼くだけの料理だった。

「こんなもんでいいだろ」
「そうですね。足りなかったら各自、マーケットで買い食いでもしてください」

 いただきます、と唱和して食事を始めたが姫花は真っ先にポーチ型のアイテムバッグの中からジャムが入った瓶を取り出した。

「なあ、俺にもそれくれよ」
「嫌よ。自分で買えば?」
「そんな金ねぇよ」
「だったら諦めればいいじゃん。明もそう思うでしょ?」
「……まあ、そうですね」
「ほら。そんな事より、今日はダンジョンの様子をちょっとのぞくだけよね?」
「そうですね。シズトと会う前にはそうだったとは言え、いきなりダンジョンで数日過ごすのは避けた方が良いでしょうし、今回は日帰りですね」
「ったく。あの持ち運び式の転移陣をシズトが俺たちに売ってくれたらこんな事になってなかったのに」
「陽太の発言のせいで関係が悪化しましたからね」
「お前らだって否定しなかっただろ? 同罪だろうが」
「……まあ、そう捉えられて現状こうなっているので、真偽がどうだろうとどうしようもないですね」

 邪神騒動の際の陽太の発言をエルフやホムンクルスであるホムラやユキに聞かれていたからか、あの出来事以降、ホムラたちと結ばれていた契約が解消されてしまっていた。
 不毛の大地にある『亡者の巣窟』は邪神が破壊してしまった事もあるが、今までお互い利用する関係だったがシズト側としては別に利用しなくても困らない相手だったので契約が打ち切られてしまったのだろう、と明は判断した。

「それに、転移陣を売ってくれたとしてもその価格を僕たちが払いきれるかどうかなんて分かりませんからね。それこそ、ローンを組んで払っていく事になったかもしれませんし。何にせよ、これからは普通の冒険者として活動する事になりますから早い内に感覚を戻さないといけません。そこら辺をしっかり自覚しておいてください」
「はぁ、面倒臭いなぁ」
「そんなに面倒なんだったら教会で働けばいいだろ。なんてったって【聖女】様なんだからよ」
「私、縛られたくないんだよねぇ。堅苦しい生活になるのは目に見えてるし、自由に外に出歩く事も出来なくなるだろうし、協会に所属して何かする事はあり得ないわ。ただまあ、静人の子どもが生まれる時は万が一の時のために控えておいて欲しいって王妃様から依頼されてるし? アンタたちよりかはまだ静人との関係の再構築はしやすいかもしれないわ」
「あ、その話は僕にも来てます。僕も回復魔法は姫花ほどではありませんが使えますから。それに、転移魔法が使えますからね。転移陣はあるとはいえ、緊急の時は転移先が固定されていない僕の転移魔法が重宝されるでしょう」

 そのためにも加護の力を使いこなせるようにならないと、と二人はやる気に満ち溢れているようだったが、ポカンと口を開けていた陽太はハッと我に返ると大きな声を出した。

「はぁ!? 聞いてねぇぞ、それ!」
「言ってませんでしたっけ?」
「陽太ってだいたい夜は出かけてるからその話をする時大概いなかったんじゃない?」
「ああ、なるほど。まあ、そういう事なので数か月後はしばらくの間、冒険者として活動できなくなるので陽太は陽太でどうにかお金をためておくか、働き口を探しておいてください」
「静人って奥さん一杯だから期間が延びるかもしれないよね。そうなったらもうパーティー解散もありじゃない? お目付け役としてラックさんがいるんだし」
「……それもありかもしれませんね」

 冗談じゃない、と騒ぐ陽太を放置して明と姫花は食事を進めるのだった。
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