【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第25章 片手間にサポートしながら生きていこう

幕間の物語265.賢者たちは立て籠もった

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 見た瞬間、六人共が悟った。アレには勝てない、と。
 冒険者はある程度の実力を身に着けると、相手が魔物であろうとその力を何となく感じる事ができるようになるのだが、視線の先にいる生き物の力を推し量る事ができなかったからだ。
 強い事は分かる。だが、相手がどれくらい強いのか、分からなかった。
 魔力を読み取る事に長けている明は特にそうだ。自分とは比較にならない程の莫大な魔力を目の当たりにして、悟ってしまった。

(全滅する)

 逃げなければ、と明も姫花も後ずさっていた。
 冷や汗をかきながらも武器を構えているのは陽太くらいだ。
 陽太たちの監視役兼護衛役である三人は、どう動くべきか判断できず固まっていた。
 幸いな事に彼らが入ってきたのにも関わらず、フロアボスらしき生き物は動く気配がなかった。
 だが、それもほんの少しの間だけだった。六人が通ってきた扉が音を立てて閉まった瞬間、侵入者に気付いた様子でのそりとその巨体を持ち上げた。
 広間の半分以上を占める蛇の部分は下半身だったようで、上半身は人間のような見た目をしている。だが、大きさも見た目も普通ではなかった。
 それぞれが意志を持つ蛇が髪の毛の代わりに生えている。中性的で端正な顔立ちをしているが、明たちを見て不快そうに歪んだ口元は裂けていた。
 上半身は所々が蛇のような鱗で覆われていて、巨大な腕は途中から獣のような毛に覆われている。

「……せっかくいい所だったのに………はぁ。何でこんな所に人間がいるのかなぁ?」

 発せられた言葉は、耳当てのような見た目の魔道具を付けた明たちに届く事はなかった。

「目障りだから、死んでくれる?」

 告げた言葉はやはり明たちには届いていない。
 しばらく間があったが、明たちがもだえ苦しむ様子もなく平然と立っているのを見て不思議そうに首を傾げるフロアボスと思しき何か。
 陽太たちはフロアボスに意識を向けつつも、どのタイミングで逃げ出すか考えていた。

「っていうか、僕を見ても何ともないってそもそもおかしくない? その目に着けているやつに何か細工してあるのかな? ちょっと気になるから、見せてよ」
『今です!』

 フロアボスが近づいて来ようとした瞬間、『念話』を使って明が合図を送ると、全員が指に嵌めていた魔道具『帰還の指輪』に魔力を流した。
 背に腹は代えられない。どれだけ高価な使い切りの魔道具でも、使わずに死んでしまっては意味がない。
 無事に転移ができた事にホッとしつつも、明は緊張から解放されて一安心してしまった。
 その場にへたり込んで荒々しく息をしていると、近くで膝に手をついて、前かがみの姿勢になった状態で息を整えていたカレンが「え!?」と驚きの声を上げた。

「どうか、しましたか?」
「『身代わりのお守り』が……」
「……アレも、邪神の信奉者、という事ですか?」

 魔道具『身代わりのお守り』はその大部分が真っ黒になってしまっていた。あと少し遅かったら呪われてしまっていた事だろう。
 だが、どうやって呪われたのだろうか? 疑問に思ったが、後で見返して静人に対策を考えて貰えばいいか、と考えるのをやめた。
 体中の至る所から嫌な汗が出ている明は、震える体を押さえつけて、一先ず立ち上がろうとした。
 それを助けたのは亡者の巣窟の一階層目でサポートをしてくれていた少年シズトだった。

「すみません、助かります……」
「いや、別にこのくらい……それより、『鑑定眼鏡』は上手く機能しなかったの?」
「はい。何も読み取れませんでした。その場に存在しない幻影かと錯覚してしまうくらい、何も読み取れませんでした」
「そっか……なんでだろうね? 魔道具の故障、ってわけでもなさそうだし…………って、なんか揺れてない?」

 首を傾げてシズトが気づいた頃には揺れが一段と大きくなり、シズトは立っている事ができずに後ろに倒れそうになった。が、それを近くにいた小柄な少女ドーラが支えていた。

「何か変。外に出る」
「あーしじゃ無理! ドラドラ、お願い!」
「ん!」

 その小柄な体でシズトを持ち上げると揺れが激しくなっている通路を駆けるドーラ。
 彼女の周囲にはエルフだけではなく、鎧武者のような恰好をしたムサシや、特に武装をしていない縦にも横にも大きな巨漢ライデン、魔法使い然とした格好をしたホムラとユキもいた。
 明たちも体の震えが収まらないからと弱音を吐いている場合ではない、と自分たちを奮い立たせて、着の身着のままダンジョンの外へと急いだ。

「なんかとんでもねぇ魔力量の何かが下にいるような感じがするんだけど!?」
「分かってますよ! ゴチャゴチャ言ってないでさっさと逃げますよ、陽太! あと、全員『身代わりのお守り』を予備に切り替えてください!」
「分かってるわよ!」
「ほら、ゴチャゴチャ言ってないでさっさと逃げるぞ!」
「これもラックのせいじゃないですよね!?」
「あり得る」
「流石にこれは違うと言いたいなぁ」

 軽口を叩いて気持ちに余裕を意図的に作ろうとしている三人も明たちの後に続く。
 一本道で幅も狭かったが階層の出入り口のすぐに陣取っていたため、外に出るのにそう時間はかからなかった。
 だが、外に出ても揺れが収まる気配はない。
 シズトの背中に引っ付いていたクーが「転移できないんだけど!?」と焦りを感じさせる声を上げた。

「走って逃げますか」
「いや、なんかすごく嫌な予感がする! ジュリウス、少し離れた所にアダマンタイトを出せるだけ出して!」
「かしこまりました」

 シズトを抱えて一気にダンジョンの出入り口から離れたジュリウスは、シズトをそっと地面に下ろすとアイテムバッグからどんどんとアダマンタイトのインゴットを出していく。

「加工しやすいようにインゴットにしておいてよかった。ここにシェルター作るから皆も早くこっち来て!」

 静人に言われるがまま、震える足を叱咤して明たちは走った。
 静人がアダマンタイト製の巨大な立方体を作り上げるのと、轟音と共にダンジョンの入り口が壊れ、地面から巨大なナニカが現われたのは同時だった。
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