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第25章 片手間にサポートしながら生きていこう
幕間の物語263.賢者たちはフロアボスを調べる
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ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地はどんな植物も芽吹かない荒れた土地だった。
不毛の大地で植物が育たないのは、遥か昔に大きな戦があった影響ではないか、という者もいれば、何かしら神の怒りに触れて神罰が下った影響ではないか、という者もいた。
記録がないため真偽は定かではない。ただ、アンデッド系の魔物が大量に湧く事から大きな戦があったのではないか、という意見が主流だった。
そんな不毛の大地にも『亡者の巣窟』と呼ばれているダンジョンがあるのは流石、シグニール大陸有数のダンジョン国家であるドラゴニア王国というべきか。
数年前まで不毛の大地も領地に含まれていたドラン公爵の常備軍が間引きのために一カ月に一度程度訪れていたが、最近は常に人の出入りがあった。ミスリルが採掘できる階層まで一気に転移ができるようになったからだ。
他の階層にもある程度自由に行き来できるようになったため魔物の間引きも効率的になった事もあり、以前よりも意欲的に行われている。
ダンジョン内で活動した際にこびりついた悪臭は、ダンジョンの出入り口付近に設置された魔道具を使えば取れるようになったため、武器や防具、インナーの手入れも必要最低限で十分になった。
ダンジョン内で仕事をしている時だけ臭いを我慢すればよかったのだが、それもここ最近、改善されるのではないか、と下っ端の兵士たちが噂している。
その理由は最近亡者の巣窟を探検するようになった冒険者一行の装備が理由だった。
その冒険者たちはお揃いのローブとマスクを一様に着用している。
先頭集団は少し前までドラゴニアでは人気が低かった勇者ヨウタ一行だ。
利用されたとはいえ、世界樹騒動で本物の世界樹の使徒に盗人の濡れ衣を着せようとしたとして白い目で見られる事が多かった。
だが、それは既に解決した事だからと濡れ衣を着せられそうになった張本人が言ったので、以前よりは風当たりは弱くなっていた。
その後ろを数歩離れてついて行くのは彼らの監視役兼護衛役でもあるラック、カレン、シールダーの三人だった。
元々ドラン軍で働いていたため、周囲の兵士は彼らの事を当然知っていたし、ある程度交流があった者もいた。
その者たちがラックから聞き出した事を吹聴し、もしかしたら労働環境がさらによくなるのかも、と思っているようだ。
だが、そんな期待の視線を気にした様子もなく、六人組は亡者の巣窟に入っていった。
昨日まで資金稼ぎのためにミスリル採掘をしていた彼らだったが、今日のダンジョン探索の目的は違った。
それを再確認するために、一番前を歩いていた陽太が、後ろをついて歩いている明の方に視線を向けた。
「今日はフロアボスの所まで一気に行く、でいいよな?」
「はい。自動探知地図もフル活用して最短距離を突き進みます。罠があるかもしれませんので魔道具を先行させます。勝手に進まないように気を付けてください」
「わーってるよ」
ヨウタの投げやりの返事の後、明の隣を歩いていたカレンが口を開いた。
「道中で魔物と接敵した時は?」
「基本的に無視しましょう。素通りできない場合はカレンさんとラックさん、それから陽太で蹴散らしてください。魔石の回収は必要最低限で」
「分かった」
「分かりました」
ラックとカレンのそれぞれの返事を聞いた明は、他の皆を引き連れて出入り口付近に設置された転移陣で三十五階層の奥にあるセーフティーエリアへと転移した。それからすぐに次の階層に続く階段を下って三十六階層へと移動する。
階段の周囲にいたスケルトンたちを陽太がサクッと殲滅している間に魔道具『自動探知地図』を取り出した明はルートを確認するとカレンに視線を送った。
カレンは何も言われずとも明のアイテムバッグの中に手を突っ込むと、両手で収まるくらいの大きさの黄金の球体を取り出した。
カレンはその球体の上下をしっかりと持つと、くるくると回し、パカッと開けた。
中は空っぽで何も入っていなかったが、明はアイテムバッグから取り出した魔石に魔力を込めるとそれをカレンが二つに割った球体の片方に入れた。
音を立ててボウルのような物の中に転がった魔石はしばらくすると光に包まれて形を変えていく。
そうして出来上がったのは齧歯類のような見た目の魔法生物だった。
「指示通りに動いてください」
「チュッ!」
短く返事した齧歯類型の魔法生物は、カレンによって球体の中に閉じ込められた。
球体自体も魔道具で、魔法生物が閉じ込められても呼吸できるように魔法が付与されていた。また、真っ暗にならないようにもなっているらしい。
齧歯類型の魔法生物が入った黄金の球体が勝手に転がりだす。中で魔法生物がせっせと走り始めたのだろう。
その後について集団の戦闘はラックと陽太だ。
普段は女の事しか考えていない陽太だったが、流石にダンジョンの中では真面目な表情で周囲を警戒していた。
「……やっぱり今日は二人指名するか? いや、でも時間を延ばすのもありな気も……」
否、冒険の後のお楽しみについて真剣に考えているだけだった。
「弱い魔物しか出ないからって余計な事を考えていると魔道具と一緒にトラップに引っかかりますよ」
「うっせぇなぁ。周囲に魔物の反応なんてないんだからいいだろうが」
「そういう油断が危険なんですって」
「たいちょ……ラックも気を付けてくださいね。ただでさえ運が悪いんですから」
「いや、流石にアレと一緒にトラップに引っかかる事はないよ? ……たぶん」
他の階層で魔道具を使って探索している最中も危ない場面はいくつかあったが、先行している黄金の球体が先に罠に引っかかるため難を逃れていた。
今回の探索でも、球体の中に入った魔法生物に反応したトラップが黄金の球体を襲うが、アダマンタイトに守られているため中の魔法生物は無傷だった。
ミスリル鉱脈を見つけてもスルーしてサクサクと進み続けた明たちは、昼前には四十階層に辿り着いた。
「初手に罠がある可能性も捨てきれません。変わらず、『モルモットくん』に先行してもらいましょう」
「戦闘の時はどうすんだよ」
「戦闘力はないそうですが、アダマンタイトの中にいるのですし、こちらが配慮する必要はないでしょう。フロアボスにもよりますが、陽太は僕と姫花を守る事を最優先で動いてください」
「わーったよ」
「しっかり働いてよね!」
「でもまぁ、三十五階層はジャイアントスケルトンキングだったし、きっとスケルトン系の魔物の上位種程度だよ。油断しなければきっと大丈夫さ」
「……なんかすごく嫌な予感がします。ラックがああ言う時ってだいたい何か想定外の事が起きるんですよね、シールダー」
「ああ」
「そんな事ないと思うよ!?」
ラックが二人に抗議をしようとしたが明が咳ばらいをすると、不満そうだったが前を見た。
彼らの前には巨大な扉があった。フロアボスの間に続くその扉は重厚で、大人一人が押したところでびくともしなさそうな見た目だ。
陽太は警戒をしつつも扉に触れると、魔力に反応した扉がゆっくりと音を立てて開いていく。
これまでの階層は坑道のような見た目の狭い通路だったが、今回は大きな広間だった。明かりがないため薄暗く、靄のような物が空気中に漂っているため先があまり見通せない。
六人共が扉の奥へと入っていくと、勢いよく扉が閉まった。
最後尾にいたシールダーと姫花が背後の警戒をしたが特に問題はなかったので、陽太とラックを先頭に歩を進める六人組。
彼らは立ち込める腐臭と、有毒なガスに気付いた様子もなく広間の中央まで歩くと、姫花と明を囲むように円陣を組んだ。
広間は静寂に包まれていた。だが、次の瞬間には大音量の咆哮が広間に響き渡った。
咆哮によって靄が吹き飛ばされ、一瞬視界がクリアになる。
陽太たちを挟み撃ちするような形で、巨大な体躯が二つ、向かい合っていた。
片方は体から腐臭を、口からは毒ガスを吐き出しているドラゴンゾンビだった。体は腐っていて所々に鱗が剝がれていて腐った肉が見えている。
もう片方は息遣いも何も感じられない骨だけになったスケルトンドラゴンだった。スケルトン系の上位種、というよりも龍種の内の一つとして数えられているSランクの魔物だった。
「だから言ったじゃないですか」
「……ごめん」
カレンの責めるような声音に、ラックは冷や汗を垂らしながら謝る事しかできなかった。
不毛の大地で植物が育たないのは、遥か昔に大きな戦があった影響ではないか、という者もいれば、何かしら神の怒りに触れて神罰が下った影響ではないか、という者もいた。
記録がないため真偽は定かではない。ただ、アンデッド系の魔物が大量に湧く事から大きな戦があったのではないか、という意見が主流だった。
そんな不毛の大地にも『亡者の巣窟』と呼ばれているダンジョンがあるのは流石、シグニール大陸有数のダンジョン国家であるドラゴニア王国というべきか。
数年前まで不毛の大地も領地に含まれていたドラン公爵の常備軍が間引きのために一カ月に一度程度訪れていたが、最近は常に人の出入りがあった。ミスリルが採掘できる階層まで一気に転移ができるようになったからだ。
他の階層にもある程度自由に行き来できるようになったため魔物の間引きも効率的になった事もあり、以前よりも意欲的に行われている。
ダンジョン内で活動した際にこびりついた悪臭は、ダンジョンの出入り口付近に設置された魔道具を使えば取れるようになったため、武器や防具、インナーの手入れも必要最低限で十分になった。
ダンジョン内で仕事をしている時だけ臭いを我慢すればよかったのだが、それもここ最近、改善されるのではないか、と下っ端の兵士たちが噂している。
その理由は最近亡者の巣窟を探検するようになった冒険者一行の装備が理由だった。
その冒険者たちはお揃いのローブとマスクを一様に着用している。
先頭集団は少し前までドラゴニアでは人気が低かった勇者ヨウタ一行だ。
利用されたとはいえ、世界樹騒動で本物の世界樹の使徒に盗人の濡れ衣を着せようとしたとして白い目で見られる事が多かった。
だが、それは既に解決した事だからと濡れ衣を着せられそうになった張本人が言ったので、以前よりは風当たりは弱くなっていた。
その後ろを数歩離れてついて行くのは彼らの監視役兼護衛役でもあるラック、カレン、シールダーの三人だった。
元々ドラン軍で働いていたため、周囲の兵士は彼らの事を当然知っていたし、ある程度交流があった者もいた。
その者たちがラックから聞き出した事を吹聴し、もしかしたら労働環境がさらによくなるのかも、と思っているようだ。
だが、そんな期待の視線を気にした様子もなく、六人組は亡者の巣窟に入っていった。
昨日まで資金稼ぎのためにミスリル採掘をしていた彼らだったが、今日のダンジョン探索の目的は違った。
それを再確認するために、一番前を歩いていた陽太が、後ろをついて歩いている明の方に視線を向けた。
「今日はフロアボスの所まで一気に行く、でいいよな?」
「はい。自動探知地図もフル活用して最短距離を突き進みます。罠があるかもしれませんので魔道具を先行させます。勝手に進まないように気を付けてください」
「わーってるよ」
ヨウタの投げやりの返事の後、明の隣を歩いていたカレンが口を開いた。
「道中で魔物と接敵した時は?」
「基本的に無視しましょう。素通りできない場合はカレンさんとラックさん、それから陽太で蹴散らしてください。魔石の回収は必要最低限で」
「分かった」
「分かりました」
ラックとカレンのそれぞれの返事を聞いた明は、他の皆を引き連れて出入り口付近に設置された転移陣で三十五階層の奥にあるセーフティーエリアへと転移した。それからすぐに次の階層に続く階段を下って三十六階層へと移動する。
階段の周囲にいたスケルトンたちを陽太がサクッと殲滅している間に魔道具『自動探知地図』を取り出した明はルートを確認するとカレンに視線を送った。
カレンは何も言われずとも明のアイテムバッグの中に手を突っ込むと、両手で収まるくらいの大きさの黄金の球体を取り出した。
カレンはその球体の上下をしっかりと持つと、くるくると回し、パカッと開けた。
中は空っぽで何も入っていなかったが、明はアイテムバッグから取り出した魔石に魔力を込めるとそれをカレンが二つに割った球体の片方に入れた。
音を立ててボウルのような物の中に転がった魔石はしばらくすると光に包まれて形を変えていく。
そうして出来上がったのは齧歯類のような見た目の魔法生物だった。
「指示通りに動いてください」
「チュッ!」
短く返事した齧歯類型の魔法生物は、カレンによって球体の中に閉じ込められた。
球体自体も魔道具で、魔法生物が閉じ込められても呼吸できるように魔法が付与されていた。また、真っ暗にならないようにもなっているらしい。
齧歯類型の魔法生物が入った黄金の球体が勝手に転がりだす。中で魔法生物がせっせと走り始めたのだろう。
その後について集団の戦闘はラックと陽太だ。
普段は女の事しか考えていない陽太だったが、流石にダンジョンの中では真面目な表情で周囲を警戒していた。
「……やっぱり今日は二人指名するか? いや、でも時間を延ばすのもありな気も……」
否、冒険の後のお楽しみについて真剣に考えているだけだった。
「弱い魔物しか出ないからって余計な事を考えていると魔道具と一緒にトラップに引っかかりますよ」
「うっせぇなぁ。周囲に魔物の反応なんてないんだからいいだろうが」
「そういう油断が危険なんですって」
「たいちょ……ラックも気を付けてくださいね。ただでさえ運が悪いんですから」
「いや、流石にアレと一緒にトラップに引っかかる事はないよ? ……たぶん」
他の階層で魔道具を使って探索している最中も危ない場面はいくつかあったが、先行している黄金の球体が先に罠に引っかかるため難を逃れていた。
今回の探索でも、球体の中に入った魔法生物に反応したトラップが黄金の球体を襲うが、アダマンタイトに守られているため中の魔法生物は無傷だった。
ミスリル鉱脈を見つけてもスルーしてサクサクと進み続けた明たちは、昼前には四十階層に辿り着いた。
「初手に罠がある可能性も捨てきれません。変わらず、『モルモットくん』に先行してもらいましょう」
「戦闘の時はどうすんだよ」
「戦闘力はないそうですが、アダマンタイトの中にいるのですし、こちらが配慮する必要はないでしょう。フロアボスにもよりますが、陽太は僕と姫花を守る事を最優先で動いてください」
「わーったよ」
「しっかり働いてよね!」
「でもまぁ、三十五階層はジャイアントスケルトンキングだったし、きっとスケルトン系の魔物の上位種程度だよ。油断しなければきっと大丈夫さ」
「……なんかすごく嫌な予感がします。ラックがああ言う時ってだいたい何か想定外の事が起きるんですよね、シールダー」
「ああ」
「そんな事ないと思うよ!?」
ラックが二人に抗議をしようとしたが明が咳ばらいをすると、不満そうだったが前を見た。
彼らの前には巨大な扉があった。フロアボスの間に続くその扉は重厚で、大人一人が押したところでびくともしなさそうな見た目だ。
陽太は警戒をしつつも扉に触れると、魔力に反応した扉がゆっくりと音を立てて開いていく。
これまでの階層は坑道のような見た目の狭い通路だったが、今回は大きな広間だった。明かりがないため薄暗く、靄のような物が空気中に漂っているため先があまり見通せない。
六人共が扉の奥へと入っていくと、勢いよく扉が閉まった。
最後尾にいたシールダーと姫花が背後の警戒をしたが特に問題はなかったので、陽太とラックを先頭に歩を進める六人組。
彼らは立ち込める腐臭と、有毒なガスに気付いた様子もなく広間の中央まで歩くと、姫花と明を囲むように円陣を組んだ。
広間は静寂に包まれていた。だが、次の瞬間には大音量の咆哮が広間に響き渡った。
咆哮によって靄が吹き飛ばされ、一瞬視界がクリアになる。
陽太たちを挟み撃ちするような形で、巨大な体躯が二つ、向かい合っていた。
片方は体から腐臭を、口からは毒ガスを吐き出しているドラゴンゾンビだった。体は腐っていて所々に鱗が剝がれていて腐った肉が見えている。
もう片方は息遣いも何も感じられない骨だけになったスケルトンドラゴンだった。スケルトン系の上位種、というよりも龍種の内の一つとして数えられているSランクの魔物だった。
「だから言ったじゃないですか」
「……ごめん」
カレンの責めるような声音に、ラックは冷や汗を垂らしながら謝る事しかできなかった。
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