【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
761 / 1,098
第24章 異大陸を観光しながら生きていこう

510.事なかれ主義者はリベンジしたい

しおりを挟む
 ボルトナムの首都にはいくつかマーケットがある。
 他の国々のように、いろいろなものを露天商人たちが売っているけど、他の国と違うのは、ゴロゴロとたくさんの石が入っている箱を並べている人がいる事だろうか。
 彼らは商人ではなく鉱夫だったり、その関係者だったりするようだ。
 値打ちがそこまでつきそうにない原石は、庶民用の原石としてこうして市場に並べられるらしい。
 ただ、遥か昔にいた勇者がそれだけだと面白くないからと、屑石の中に貴族にも売れるレベルのものを混ぜたらいいんじゃないか、と売り始めてそれが定着したんだとか。

「これぞまさしく、玉石混合ってやつだね。宝探しみたいで面白いね」
「そうですね」
「セシリアさんはどれが当たりの石かわかるの?」
「原石の種類は知識として知っておりますが、どのような物が価値の高いのか分かりません」

 僕が屈んでせっせと箱の中を漁っているのをセシリアさんが後ろから覗き込んでいるが、これっぽい! って思う物を提示しても首を傾げられるだけだった。

「兄ちゃん、もうすぐ時間切れだよ。キープしたものの中からどれにするか絞った方がいいんじゃないかい?」

 店主のおばちゃんが言うとおり、砂時計の中の砂はもうほとんど落ちてしまっていた。
 慌ててキープしていた数十個の石の中から気に入ったものを一個選ぶ。

「はい、終了。惜しかったね。あと少しで見つけられただろうに」

 店主のおばちゃんの合図とともに、箱を持ち上げて奥へと移動させてしまった。あれだけ石がたくさん入っていても軽々と持ち上げられるのは、やはり身体強化を使っているおかげなのだろうか。

「それで、どうすんだい? まだ続けるのかい?」
「…………まだ時間あるよね?」
「はい。そろそろお昼の時間ですが、帰る時間までは十分すぎるほどありますね」
「じゃあもう一回だけ!」
「先ほどもそう申しておりましたが、いいんじゃないでしょうか」
「ほんとにこれで最後だから! おばちゃん、もう一箱!」
「はいよ」

 ドン、と置かれた箱の中にはゴロゴロと石が入っている。
 こうやって見るとキラキラとしていて綺麗なものばかりなんだけど、これでもほとんどが庶民向けらしい。

「それじゃあ、準備はいいかい?」
「大丈夫です!」

 最後の最後まで取っておいた作戦を今こそする時だろう。
 僕は開始と同時に手を奥深くに突っ込んで、下の方に入っている石を探った。
 こういうのって、取り辛い所に入れられている事が多いって誰かが言ってたからね!



「すべて合わせて金貨一枚です」

 マーケットの入り口辺りで宝石の鑑定と買取をしている商人がいたので、集めた石を全部見せてみたけど、一個当たりだいたい銀貨一枚の値段だった。
 輝きとか、傷とか、含有量とか、大きさとか――よく分からないけどいろいろあるらしい。

「赤字ですね」
「はい……」

 セシリアさんは事実を述べただけだと思うんだけど、なんだか責められている気がする。
 しょんぼりとしている僕を見て、クスッと笑った商人のお姉さんが「買取をご希望ですか?」と尋ねてきた。

「いえ、持って帰ります……」
「持って帰るのですか?」
「まあ、パメラが気に入るかもしれないし……」
「作戦を変えずに上から探していけばよかったですね」
「それは言わない約束でしょ!」

 店主のおばちゃん曰く、何度も挑戦する商人の跡取りなどのボンボン相手には損をしないように細工がされていたらしい。
 挑戦する度に箱の中にある価値の高い石がどんどん増えて行っていたそうなんだけど、僕は悉く外してしまったようだ。
 おばちゃんは苦笑交じりに「上の方にたくさん置くように指示しておいたんだけどねぇ」と言っていた。
 やっぱり鑑定眼鏡を使うべきだっただろうか……なんて事を考えながらマーケットから離れてムサシにオススメされたお店を目指す。

「セシリアさんも一緒に食べるんだよね? レヴィさんもいないし」
「はい」
「食べられない物はある?」
「特にありません」
「好きな物は?」
「そうですね……辛い物が特に好きです」
「なるほど?」

 辛い物か。カレーとかくらいしかパッと思いつかないな。あとは麻婆豆腐とか?
 台湾ラーメンとかは流石にこっちの世界にはない気もする。
 ……いや、勇者が広めている可能性もあるか。それこそニホン連合とか、ヤマトのどこかに伝わってたりしてそうだし、探しておいてもらおう。
 そんな事を考えながらついたお店は、貴族や大商人も御用達の格式高いお店だった。

「入らないのですか?」
「いや、ちょっと服とか問題あるかなって……」

 こういう所に来ると想定していなかったのでいつものラフな格好だった。
 お店に入っていった人を何人か見送ったけど、ビシッと着飾っていたし、僕も着替えてくるべきかなぁ。
 そんな事を悩みつつどうした物か、と店の近くで立ち止まっていると、お店の人が出てきた。

「なんかこっちに来てない? 逃げた方がよくない?」

 やっぱり場違いな格好だったからか、店から出てくる人も、入っていく人も僕たちに視線を向けてきてたしなぁ。
 やっぱり露店とかで軽く済ませた方がよかったかもしれない。

「なぜですか?」
「いや、ほら恰好的にさ? 場違い感半端ないしさ?」
「大丈夫だと思いますが……シズト様がお望みであれば場所を変えましょうか」
「じゃあ、そうしよ! 辛い物とか露天商で売ってそうだし、探しに行こ!」

 踵を返して早歩きで進むと、セシリアさんも歩調を合わせてついて来てくれた。
 そっと後ろを振り向くと、店員さんがきょとんとした表情で立ち止まっていたけど、そわそわと周囲を見渡した後、慌てた様子で店に戻っていった。
 追いかけられると思っていたけど、問題なかったようだ。
 セシリアさんも歩き辛そうだし、歩く速度を緩め、のんびりと来た道を戻る。

「マーケットにわざわざ行かなくても、そこら辺に飲食店はありますが………原石探しをしたいからマーケットに行く、という訳ではないですよね?」
「そんな事ないよ。露天商だったら匂いとかで客を呼び込むために辛い物とか用意してそうって思っただけだよ」
「シズト様? 目を見て話していただけますか?」
「前を見て歩かないと危ないでしょ?」
「先程まで目を合わせて話しながら歩いていたと思いますが?」
「たまたまだよ」

 そう、たまたま。たまたまだけど、食べ歩きをしている時に原石探しのお店を見つけたら挑戦してみてもいいよね?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...