738 / 1,023
第24章 異大陸を観光しながら生きていこう
幕間の物語243.お嫁さんたちは貸衣装が気になった
しおりを挟む
クレストラ大陸に唯一ある世界樹フソーの根元には、世界樹の使徒とその関係者が寝泊まりできるように新しく作られた建物があった。
ここ最近は世界樹の使徒であるシズトと、彼が作り出したホムンクルスであるムサシしか寝泊まりしていなかった。
その結果、ドライアドたちが好き勝手出入りして室内は植木鉢に植えられた様々な植物で溢れかえっていたのだが、それらはすべて昨日の内に外に出されている。
最初は抵抗していたドライアドたちだったが、彼女たち専用の建物を新たに建築するという事で話がまとまり、事態はいったん落ち着いている。
ちょっとした騒動があったその建物は、日中であればいまだにドライアドたちが隙を窺っている様子も見受けられたが、夜になると静かになる。
夜も更けている事もあり灯りがついている部屋もほとんどない。
ただ、一部屋だけ灯りがついている部屋があった。
その部屋は大きな円卓を置いてもまだ余裕がある大部屋だった。
その円卓を囲んでいるのはシズトと結婚している女性たちだ。
ただ一カ所、空席があった。そこは本日のお世話係であるモニカの場所だ。
彼女が来るかもしれないから、としばらく待っていた女性たちだったが、モニカの魔力がシズトの魔力の隣でピタッと止まってしまったのを感じた面々がお互いに顔を見合わせた。
「どうやら眠ってしまったみたいね」
「そうなのですわ?」
背がとても高い女性の内の一人であるルウが困った様に眉を下げながら笑うと、レヴィアは不思議そうに首を傾げた。金色のツインドリル、とシズトに思われている縦巻きロールが首の動きと連動して揺れた。
もう一人の背の高い女性であるラオが、長い手足をグーッと伸ばしてから口を開いた。
「アタシらもさっさと終わらせて寝るか」
「そうですねぇ。良い子はもう寝る時間ですからぁ」
金色の髪からひょこっと出ている長く尖った耳が特徴的なエルフの女性であるジューンが頬に手を当てて言うと、その場にいたほとんどの者たちの視線が一人の獣人の少女へと向かった。
「それじゃ、早速話してもらうじゃん」
「その前におやつの補充をしてほしいデス!」
「後にするじゃん」
狼人族のシンシーラが翼人族のパメラを抑えている間に、今回の話の中心人物となるであろう少女は視線を彷徨わせた。
赤い目があっちこっちに向けられ、白いもふもふの耳はピコピコと動いている。チャームポイントでもあるふさふさの白い尻尾は落ち着きがない。
「それじゃあ、今日会った事を話してもらうのですわ。具体的には、シズトと一緒に禁足地を出た所から話してくれると嬉しいのですわ!」
「あ、はい! えっと、ですね。禁足地を出てからはお話をしながら転移門でヤマトの首都へと転移しました。そこからは寄り道をする事もなく、目的地に迷いなく進まれていました」
「貸衣装屋ですわね」
「防具のレンタルは聞いた事あったけど、衣装……というか、服かしら? その貸し出しは聞いた事ないわね」
「古着屋で買えば済むしな」
「シズト様の前世では観光地や一部の遊ぶ場所には一定数あったそうです。シズト様は利用されたことがないとの事でしたけど……」
言葉を濁したエミリーは、静かに座っていた女性二人に視線を向けた。
一人はホムラという真っ黒な髪をとても長く伸ばした少女だ。紫色の目がエミリーに向けられた後、他の者たちにも向けて自分たちに問われているのだと理解した彼女はしばし考えた後、頷いた。
「はい、マスターから引き継いだ記憶には利用した様子はありません」
「ホムラよりも記憶が断片的だから確証はないけど、私も覚えていないわ。祭りのような物で何か普段着ない服を着させられていたような気もするけど……」
気だるそうに机に伏せていたユキがホムラの後を引き継いだ。
ホムラとは対照的に髪は白く、褐色肌の彼女はホムラと同じくシズトが作ったホムンクルスだったためある程度の知識は持っているのだが、彼女を起動したのはホムラだったため記憶が曖昧だった。
「そうですね、マスターは『学校祭』という行事で用意された衣装を着た事はありました」
「どんな服を着ていたのかとても気になるのですけれど、話がそれているから戻すのですわ。貸衣装屋に行った後、どんな事をしたのですわ?」
「あ、はい。シズト様に『ぜひこれを着て!』とお願いされて『みこふく』という衣装を着ました。狐を模したと思われるお面もセットでついて来たのでそれも着けたのですが、シズト様はとても興奮されていましたね」
「マスターの故郷のアニメ文化などによる影響でしょう。マスターは『アニメ』と呼ばれる映像を見るために深夜遅くまで起きていた事もありますから。エミリーは狐人族ですから、巫女服は絶対着てもらいたかったのでしょうね」
「種族由来の事だと考えると、私たちでは喜んでもらえないのですわ?」
「どうでしょうか……狐人族だからより興奮されていたのだと推察されますが、巫女服は非日常の服ですから、どなたが着てもお喜びになられるのではないでしょうか?」
「それは良い事を聞いたのですわ。エミリー、他に何か気になった事はあるのですわ?」
「そうですね……。着替えている間、シズト様は衣装を見て回っていたようです。獣人ですから耳は良いので聞こえてきたんですけど、『せーらー服』『すくみず』『ばにーがーる』『さんた』『ぶるま』など分からない単語もありました。ただ、なぜかそれらの中にメイド服もあったんですよね」
「メイド服を着た女性に接客をしてもらう場所があるくらい人気の非日常ですね。マスターの周りにはメイドはいませんでしたから」
「そうなのですわね。……これはあれですわね。聞いてるだけじゃ分からないから、今度行ってみたいのですわ」
「シズト様に止められると思いますよ」
それまで静かに座っていたセシリアが言うと、レヴィアはその通りですわね、と頷いた。
まだ新しく呪われる者は出ている事もあって、完全に安全とは言い切れない。
邪神の信奉者以外にもシズトとその関係者を狙う者はいる可能性もある。
そうなると真っ先に狙われるのは妊娠しているレヴィアとモニカだろう。
「という事で、ホムラにお願いするのですわ! 貸衣装屋に行って、シズトの好みの服を調べてきてほしいのですわ!」
「………」
「好みの服を買って置けば、シズトも喜ぶと思うのですわ!」
「かしこまりました」
シズトが喜ぶのであれば、と即答したホムラ。
そんな彼女に満足したレヴィアは「それはそれとして……」とエミリーに再び視線を向けた。
その場にいるほとんどの者たちから視線を向けられたエミリーは役目を終えたと油断していたのか、集まった視線に驚いて尻尾を膨らませていた。
「その後の事を事細かく教えて欲しいのですわ~」
結局、話が終わったのは日が変わった頃だった。
ここ最近は世界樹の使徒であるシズトと、彼が作り出したホムンクルスであるムサシしか寝泊まりしていなかった。
その結果、ドライアドたちが好き勝手出入りして室内は植木鉢に植えられた様々な植物で溢れかえっていたのだが、それらはすべて昨日の内に外に出されている。
最初は抵抗していたドライアドたちだったが、彼女たち専用の建物を新たに建築するという事で話がまとまり、事態はいったん落ち着いている。
ちょっとした騒動があったその建物は、日中であればいまだにドライアドたちが隙を窺っている様子も見受けられたが、夜になると静かになる。
夜も更けている事もあり灯りがついている部屋もほとんどない。
ただ、一部屋だけ灯りがついている部屋があった。
その部屋は大きな円卓を置いてもまだ余裕がある大部屋だった。
その円卓を囲んでいるのはシズトと結婚している女性たちだ。
ただ一カ所、空席があった。そこは本日のお世話係であるモニカの場所だ。
彼女が来るかもしれないから、としばらく待っていた女性たちだったが、モニカの魔力がシズトの魔力の隣でピタッと止まってしまったのを感じた面々がお互いに顔を見合わせた。
「どうやら眠ってしまったみたいね」
「そうなのですわ?」
背がとても高い女性の内の一人であるルウが困った様に眉を下げながら笑うと、レヴィアは不思議そうに首を傾げた。金色のツインドリル、とシズトに思われている縦巻きロールが首の動きと連動して揺れた。
もう一人の背の高い女性であるラオが、長い手足をグーッと伸ばしてから口を開いた。
「アタシらもさっさと終わらせて寝るか」
「そうですねぇ。良い子はもう寝る時間ですからぁ」
金色の髪からひょこっと出ている長く尖った耳が特徴的なエルフの女性であるジューンが頬に手を当てて言うと、その場にいたほとんどの者たちの視線が一人の獣人の少女へと向かった。
「それじゃ、早速話してもらうじゃん」
「その前におやつの補充をしてほしいデス!」
「後にするじゃん」
狼人族のシンシーラが翼人族のパメラを抑えている間に、今回の話の中心人物となるであろう少女は視線を彷徨わせた。
赤い目があっちこっちに向けられ、白いもふもふの耳はピコピコと動いている。チャームポイントでもあるふさふさの白い尻尾は落ち着きがない。
「それじゃあ、今日会った事を話してもらうのですわ。具体的には、シズトと一緒に禁足地を出た所から話してくれると嬉しいのですわ!」
「あ、はい! えっと、ですね。禁足地を出てからはお話をしながら転移門でヤマトの首都へと転移しました。そこからは寄り道をする事もなく、目的地に迷いなく進まれていました」
「貸衣装屋ですわね」
「防具のレンタルは聞いた事あったけど、衣装……というか、服かしら? その貸し出しは聞いた事ないわね」
「古着屋で買えば済むしな」
「シズト様の前世では観光地や一部の遊ぶ場所には一定数あったそうです。シズト様は利用されたことがないとの事でしたけど……」
言葉を濁したエミリーは、静かに座っていた女性二人に視線を向けた。
一人はホムラという真っ黒な髪をとても長く伸ばした少女だ。紫色の目がエミリーに向けられた後、他の者たちにも向けて自分たちに問われているのだと理解した彼女はしばし考えた後、頷いた。
「はい、マスターから引き継いだ記憶には利用した様子はありません」
「ホムラよりも記憶が断片的だから確証はないけど、私も覚えていないわ。祭りのような物で何か普段着ない服を着させられていたような気もするけど……」
気だるそうに机に伏せていたユキがホムラの後を引き継いだ。
ホムラとは対照的に髪は白く、褐色肌の彼女はホムラと同じくシズトが作ったホムンクルスだったためある程度の知識は持っているのだが、彼女を起動したのはホムラだったため記憶が曖昧だった。
「そうですね、マスターは『学校祭』という行事で用意された衣装を着た事はありました」
「どんな服を着ていたのかとても気になるのですけれど、話がそれているから戻すのですわ。貸衣装屋に行った後、どんな事をしたのですわ?」
「あ、はい。シズト様に『ぜひこれを着て!』とお願いされて『みこふく』という衣装を着ました。狐を模したと思われるお面もセットでついて来たのでそれも着けたのですが、シズト様はとても興奮されていましたね」
「マスターの故郷のアニメ文化などによる影響でしょう。マスターは『アニメ』と呼ばれる映像を見るために深夜遅くまで起きていた事もありますから。エミリーは狐人族ですから、巫女服は絶対着てもらいたかったのでしょうね」
「種族由来の事だと考えると、私たちでは喜んでもらえないのですわ?」
「どうでしょうか……狐人族だからより興奮されていたのだと推察されますが、巫女服は非日常の服ですから、どなたが着てもお喜びになられるのではないでしょうか?」
「それは良い事を聞いたのですわ。エミリー、他に何か気になった事はあるのですわ?」
「そうですね……。着替えている間、シズト様は衣装を見て回っていたようです。獣人ですから耳は良いので聞こえてきたんですけど、『せーらー服』『すくみず』『ばにーがーる』『さんた』『ぶるま』など分からない単語もありました。ただ、なぜかそれらの中にメイド服もあったんですよね」
「メイド服を着た女性に接客をしてもらう場所があるくらい人気の非日常ですね。マスターの周りにはメイドはいませんでしたから」
「そうなのですわね。……これはあれですわね。聞いてるだけじゃ分からないから、今度行ってみたいのですわ」
「シズト様に止められると思いますよ」
それまで静かに座っていたセシリアが言うと、レヴィアはその通りですわね、と頷いた。
まだ新しく呪われる者は出ている事もあって、完全に安全とは言い切れない。
邪神の信奉者以外にもシズトとその関係者を狙う者はいる可能性もある。
そうなると真っ先に狙われるのは妊娠しているレヴィアとモニカだろう。
「という事で、ホムラにお願いするのですわ! 貸衣装屋に行って、シズトの好みの服を調べてきてほしいのですわ!」
「………」
「好みの服を買って置けば、シズトも喜ぶと思うのですわ!」
「かしこまりました」
シズトが喜ぶのであれば、と即答したホムラ。
そんな彼女に満足したレヴィアは「それはそれとして……」とエミリーに再び視線を向けた。
その場にいるほとんどの者たちから視線を向けられたエミリーは役目を終えたと油断していたのか、集まった視線に驚いて尻尾を膨らませていた。
「その後の事を事細かく教えて欲しいのですわ~」
結局、話が終わったのは日が変わった頃だった。
48
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる