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第24章 異大陸を観光しながら生きていこう

幕間の物語243.お嫁さんたちは貸衣装が気になった

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 クレストラ大陸に唯一ある世界樹フソーの根元には、世界樹の使徒とその関係者が寝泊まりできるように新しく作られた建物があった。
 ここ最近は世界樹の使徒であるシズトと、彼が作り出したホムンクルスであるムサシしか寝泊まりしていなかった。
 その結果、ドライアドたちが好き勝手出入りして室内は植木鉢に植えられた様々な植物で溢れかえっていたのだが、それらはすべて昨日の内に外に出されている。
 最初は抵抗していたドライアドたちだったが、彼女たち専用の建物を新たに建築するという事で話がまとまり、事態はいったん落ち着いている。
 ちょっとした騒動があったその建物は、日中であればいまだにドライアドたちが隙を窺っている様子も見受けられたが、夜になると静かになる。
 夜も更けている事もあり灯りがついている部屋もほとんどない。
 ただ、一部屋だけ灯りがついている部屋があった。
 その部屋は大きな円卓を置いてもまだ余裕がある大部屋だった。
 その円卓を囲んでいるのはシズトと結婚している女性たちだ。
 ただ一カ所、空席があった。そこは本日のお世話係であるモニカの場所だ。
 彼女が来るかもしれないから、としばらく待っていた女性たちだったが、モニカの魔力がシズトの魔力の隣でピタッと止まってしまったのを感じた面々がお互いに顔を見合わせた。

「どうやら眠ってしまったみたいね」
「そうなのですわ?」

 背がとても高い女性の内の一人であるルウが困った様に眉を下げながら笑うと、レヴィアは不思議そうに首を傾げた。金色のツインドリル、とシズトに思われている縦巻きロールが首の動きと連動して揺れた。
 もう一人の背の高い女性であるラオが、長い手足をグーッと伸ばしてから口を開いた。

「アタシらもさっさと終わらせて寝るか」
「そうですねぇ。良い子はもう寝る時間ですからぁ」

 金色の髪からひょこっと出ている長く尖った耳が特徴的なエルフの女性であるジューンが頬に手を当てて言うと、その場にいたほとんどの者たちの視線が一人の獣人の少女へと向かった。

「それじゃ、早速話してもらうじゃん」
「その前におやつの補充をしてほしいデス!」
「後にするじゃん」

 狼人族のシンシーラが翼人族のパメラを抑えている間に、今回の話の中心人物となるであろう少女は視線を彷徨わせた。
 赤い目があっちこっちに向けられ、白いもふもふの耳はピコピコと動いている。チャームポイントでもあるふさふさの白い尻尾は落ち着きがない。

「それじゃあ、今日会った事を話してもらうのですわ。具体的には、シズトと一緒に禁足地を出た所から話してくれると嬉しいのですわ!」
「あ、はい! えっと、ですね。禁足地を出てからはお話をしながら転移門でヤマトの首都へと転移しました。そこからは寄り道をする事もなく、目的地に迷いなく進まれていました」
「貸衣装屋ですわね」
「防具のレンタルは聞いた事あったけど、衣装……というか、服かしら? その貸し出しは聞いた事ないわね」
「古着屋で買えば済むしな」
「シズト様の前世では観光地や一部の遊ぶ場所には一定数あったそうです。シズト様は利用されたことがないとの事でしたけど……」

 言葉を濁したエミリーは、静かに座っていた女性二人に視線を向けた。
 一人はホムラという真っ黒な髪をとても長く伸ばした少女だ。紫色の目がエミリーに向けられた後、他の者たちにも向けて自分たちに問われているのだと理解した彼女はしばし考えた後、頷いた。

「はい、マスターから引き継いだ記憶には利用した様子はありません」
「ホムラよりも記憶が断片的だから確証はないけど、私も覚えていないわ。祭りのような物で何か普段着ない服を着させられていたような気もするけど……」

 気だるそうに机に伏せていたユキがホムラの後を引き継いだ。
 ホムラとは対照的に髪は白く、褐色肌の彼女はホムラと同じくシズトが作ったホムンクルスだったためある程度の知識は持っているのだが、彼女を起動したのはホムラだったため記憶が曖昧だった。

「そうですね、マスターは『学校祭』という行事で用意された衣装を着た事はありました」
「どんな服を着ていたのかとても気になるのですけれど、話がそれているから戻すのですわ。貸衣装屋に行った後、どんな事をしたのですわ?」
「あ、はい。シズト様に『ぜひこれを着て!』とお願いされて『みこふく』という衣装を着ました。狐を模したと思われるお面もセットでついて来たのでそれも着けたのですが、シズト様はとても興奮されていましたね」
「マスターの故郷のアニメ文化などによる影響でしょう。マスターは『アニメ』と呼ばれる映像を見るために深夜遅くまで起きていた事もありますから。エミリーは狐人族ですから、巫女服は絶対着てもらいたかったのでしょうね」
「種族由来の事だと考えると、私たちでは喜んでもらえないのですわ?」
「どうでしょうか……狐人族だからより興奮されていたのだと推察されますが、巫女服は非日常の服ですから、どなたが着てもお喜びになられるのではないでしょうか?」
「それは良い事を聞いたのですわ。エミリー、他に何か気になった事はあるのですわ?」
「そうですね……。着替えている間、シズト様は衣装を見て回っていたようです。獣人ですから耳は良いので聞こえてきたんですけど、『せーらー服』『すくみず』『ばにーがーる』『さんた』『ぶるま』など分からない単語もありました。ただ、なぜかそれらの中にメイド服もあったんですよね」
「メイド服を着た女性に接客をしてもらう場所があるくらい人気の非日常ですね。マスターの周りにはメイドはいませんでしたから」
「そうなのですわね。……これはあれですわね。聞いてるだけじゃ分からないから、今度行ってみたいのですわ」
「シズト様に止められると思いますよ」

 それまで静かに座っていたセシリアが言うと、レヴィアはその通りですわね、と頷いた。
 まだ新しく呪われる者は出ている事もあって、完全に安全とは言い切れない。
 邪神の信奉者以外にもシズトとその関係者を狙う者はいる可能性もある。
 そうなると真っ先に狙われるのは妊娠しているレヴィアとモニカだろう。

「という事で、ホムラにお願いするのですわ! 貸衣装屋に行って、シズトの好みの服を調べてきてほしいのですわ!」
「………」
「好みの服を買って置けば、シズトも喜ぶと思うのですわ!」
「かしこまりました」

 シズトが喜ぶのであれば、と即答したホムラ。
 そんな彼女に満足したレヴィアは「それはそれとして……」とエミリーに再び視線を向けた。
 その場にいるほとんどの者たちから視線を向けられたエミリーは役目を終えたと油断していたのか、集まった視線に驚いて尻尾を膨らませていた。

「その後の事を事細かく教えて欲しいのですわ~」

 結局、話が終わったのは日が変わった頃だった。
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