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第23章 呪いの対策をしながら生きていこう

486.事なかれ主義者は切り札を手に入れた

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 エリクサーやら上級ポーションやらを手に入れたらすぐにでも使いたいだろうと思って、タカノリさんには治療を優先するように促した。
 最初は躊躇っている様子だったけど、僕がアイテムバッグからせっせとティータイムの準備をし始めるのを見ると苦笑して「ありがとうございます」と言って部屋から出て行った。
 走っていく足音を聞きながら「慌て過ぎて落とさないといいんだけどね」と呟くと、ジュリウスが無言で頷いた。
 三時のおやつにはだいぶ早いけど、紅茶と一緒に何かつまみたいなと思ったらジュリウスが色々出してくれた。

「お兄ちゃん、あーしはポテチが食べたい」
「はいはい」

 机の上に並べられた物の中からポテトチップスをつまむと、椅子から身を乗り出してこちらに顔を近づけてきていたクーの口の中に入れると、彼女は小さな口をもごもごと動かして咀嚼している。
 その間にジュリウスが魔道具を使って淹れてくれた紅茶を一口飲む。

「いやぁ……高い物だと思ってたけど、想像以上だったなぁ」
「一部の国では死者ですら生き返らせるのではないか、と噂される秘薬ですから」
「そりゃ高くなるね。……実際、死んだ人に使ったら生き返るの?」
「いえ、生き返りませんね。死体の傷が治る事もありません。あくまで、生きている者限定に効くようです」
「なるほどなぁ」

 ポーションもエリクサーも不思議な液体だな。
 仕組みどうなってんだろう?
 …………魔法の薬だから考えるだけ無駄か。なんかいい感じに魔力で治すんだろうな。
 飲み込んだらすぐにパカッと口を開けて催促してきたクーの口の中にもう一度ポテトチップスを放り込む。
 僕はどれを食べようかな、と品定めをしている間もクーの口にポテチを運ぶのを忘れない。
 名称がよく分かんない焼き菓子を食べながらクーの口にお菓子を運んでいると、扉がノックされた。
 僕が返事をすると、扉が開かれてタカノリさんが戻ってきた。

「もういいの?」
「はい。しばらく経過観察しますが、大丈夫でしょう。あ、ありがとうございます」

 ジュリウスがタカノリさんの前に置かれたティーカップに紅茶を注ぐと、タカノリさんは会釈をしながら礼を言った。

「良かったら食べてください。……あ、毒見とか必要ですか?」
「いえ、今の私にはそれほどの価値はありませんから。有難くいただきます」

 タカノリさんは自嘲的に言うと、焼き菓子を一枚口に含んだ。

「……価値がないっていうのは、加護がなくなっているのと関係があるんですか?」

 僕がそう尋ねると、タカノリさんは一瞬固まったけど、すぐに口元に笑みを浮かべた。

「はい。神様から授かった加護がなくなった勇者は不要ですから。シズト様のおかげで、今まで通りの業務をこなそうと思えばこなせるんですけどね。ほら、『鑑定眼鏡』」

 僕が首を傾げていると彼は僕がかけている眼鏡を示した。
 確かに、これがあれば鑑定の加護がなくても相手の事を知る事はできる。

「それにはとても期待しているんです。今まで『鑑定』の加護持ちの勇者やその子孫は『邪教徒狩り』に加わる定めでしたから。でも、これが広まれば、それも必要なくなるかもしれません。私の息子たちの世代では間に合わないかもしれませんけど、孫の世代ならもしかしたら……ってね」

 邪教徒狩りの最後はあんまりいい物ではないらしい。
 邪神の信奉者に普通の人よりも狙われやすくなるし、そもそも呪いと関わる事が一般の人よりも多くなるからそれだけ呪われやすい。
 なりたいという者がいないから、神託を使って『鑑定』の加護持ちに押し付けられているのが現状なんだとか。

「加護による戦闘力の強化が期待できなくて、基本的に護衛がついてくれるから、寂しくはないんですけどね」

 タカノリさんは笑ってそういうけど、家族を残して転々としなければいけないのはいろいろと思う所があるんじゃないだろうか。

「まあ、それもこれからはしなくてよくなりそうですけど」
「加護がなくなったから、ですか?」
「はい。もしも『鑑定眼鏡』を使って邪神の信奉者を探す事になったとしても、下級魔法しか使えない私なんかよりもっと適任者がいますからお役御免になるでしょう」

 タカノリさんは紅茶に口を付けてから居住まいを正した。

「今回、話し合いの場を設けていただいたのは、私が加護を失った……いえ、手放した事に関してお伝えするためです」
「手放した……?」
「はい。これは知識神の教会に所属する一部の者にしか知らされない事ですが、きっとシズト様には必要な事でしょうからお伝えします」
「……神様に怒られない?」
「大丈夫ですよ、もう縁が切れてしまいましたから、直接お話しする事も、夢枕に立たれる事もありません」

 ……大丈夫なのか、それ?
 タカノリさんは紅茶を飲み干すと、先程まで浮かべていた営業スマイルのような笑みを消して、真剣な表情で僕を真っすぐに見てくる。

「私たちが複数の邪神の信奉者に襲われた、という話は聞いてますね?」
「はい」
「数は護衛よりもはるかに多く、邪神から複数の加護を授かっている者もいました。そんな相手を撃退し、ここまで戻ってくる事ができたのは、直接神々と会って話ができる勇者にのみ許された技を使ったからです。その技の名は『神降ろし』。自身を依り代とし、神を下界に顕現させる御業です。その代償として払うのは、授かった加護と神様との縁。加護を神に返還し、今後一切の関わりを断つ事を条件に使える切り札です。『鑑定』という戦闘に直接影響のない加護を授かった私が邪神の信奉者を撃退し、ここまで転移する事ができたのは、知識の神がその力を振るったからです。神々にもそれ相応の代償があるようなので、やり方を知っていても必ず神降ろしができるとは限りませんが、切り札はあった方が良いと思います。方法をお伝えしましょう」

 緊張した面持ちで聞いていた僕を安心させるためか、タカノリさんはふっと笑って「といっても、簡単な方法なんですけどね」と付け足した。
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