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第23章 呪いの対策をしながら生きていこう
幕間の物語237.知の勇者は護送中
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ミスティア大陸に転移した勇者タカノリは、知識神から【鑑定】の加護を授かっていた事もあり、ウィズダム魔法王国に保護された後は知識神の教会に在籍していた。
転移当初は王侯貴族相手に【鑑定】を使う部署に配属されていたのだが、子どもが生まれてしばらく経つと各地を回って邪神の信奉者を探す『邪教徒狩り』と呼ばれる部署に移動させられた。
子どもが無事に神の加護を授かっている事が分かったのも大きいのだろう。
彼はいつかそうなると察していたので特に抵抗する事もなく、各地を転々と旅する仕事に就いた。
そんな彼の楽しみはというと、教会を通じて届く子どもからの手紙だった。
「タカノリ、また変な顔してる」
彼の護衛として雇われた冒険者の内の一人である猫人族の女性が、締まりのない顔をしているタカノリを呆れた様子で見ていた。
「タカノリは子どもの事を溺愛しているからなぁ」
安全第一と書かれたヘルメットを被り、ツルハシを担いでいた黒髪の男がいつもの事だと猫人族の女性――ミーアにいい加減慣れろという。
黒い髪に黒い瞳と勇者の特徴を色濃く受け継いでいる男は勇者ではないが、勇者の子孫でもなかった。異世界から転移した者でトシゾーと呼ばれている。
彼にはまだ子どもはいないが、彼と一緒に冒険をしている仲間とは男女の仲になっているので時間の問題だろう。
もし子どもが出来たら諸国を渡り歩きながらする冒険はやめて、どこかに定住しようと考えている。
「ミーアもトシゾーとの子どもが出来たら分かりますよ」
「そうかなぁ。私はあなたみたいにはならないと思うけど」
表情をキリッとさせて、子どもの愛らしさを訴えるタカノリと、それを懐疑的に聞くミーア。
これもタカノリを護衛するようになってからよくある事の一つだった。
そんな話をしている彼らは、ウィズダム魔法王国へ移動している最中だった。
護衛対象であるタカノリが、トシゾーたちと一緒に歩いているのは彼が乗っていた馬車にある積み荷が積まれているからだ。
御者をしている鬼人族の女性に、犬人族の女性が話しかけた。
「マルガト、『身代わりのお守り』に異変はない?」
「問題ない。『加護封じの手枷』の効果は絶大」
「これもとんでもない物だったけど、手枷まで作れちゃうなんてほんとやばいね、シグニールの異世界転移者様は」
犬人族の女性――ラブラが『これ』と呼んだのは、彼女の手の中にある魔道具『加護封じの流星錘』だ。それを歩きながら振り回しているラブラをミーアが咎めた。
「ラブラ、危ないからそれを振り回して遊ぶのはやめなよ」
「遊んでないよ。練習してるんだよ。これ結構扱うの難しいんだからね? タカノリだってそう思うでしょ?」
「一理ありますけど、借り物だから壊したり無くしたりしないように気を付けてくださいね。じゃないとあなたの貯金が吹き飛んでもおかしくないですから」
タカノリに脅されたラブラだったが、それでも振り回すのはやめなかった。
今回、ドワーフの国でルンベルクに出現した邪神の信奉者を誰も呪われる事なく捕らえる事ができたのは『加護封じの流星錘』のおかげもあったからだ。
今回の邪神の信奉者は目が合ったものを呪う【呪眼】を授かっているという話だったが、囚われる間近にタカノリに触れて高らかに「これでお前も呪われた!」と言った事から【呪躰】の加護も授かっているだろうと考えられている。
体に触れて呪う加護を発動する前に、『加護封じの流星錘』で拘束されていた事もあり不発に終わったが、戦闘後に確認された『身代わりのお守り』は殆ど黒く染まっていてギリギリだったことが窺えた。
今後も邪神の信奉者との戦闘は短期決戦に持ち込む必要があると再認識したトシゾーは、ラブラを諫める事はせずに彼女の好きにさせている。近いうちに必要になるだろうと感じているからだ。
トシゾーは低くなってきている太陽を見て、それから周囲を見渡してからタカノリに視線を向けた。
「そろそろ野営の準備をするぞ」
「今日も野営ですか。街に泊まりたいですけど、仕方ありませんね」
「邪神の信奉者を連れ込む事なんてできないもんね」
しょんぼりと尻尾が垂れているミーアもタカノリに同意した。
ラブラはお金が節約できていいや、と前向きにとらえているしマルガトに関しては特に何も思っていないようで馬車から荷物を下ろしてせっせと野営の準備を進めている。
次々と出てくる魔道具の数々を見て、ラブラは慌てた様子で「これは今回使わなくていいでしょ」と魔道具をしまっていく。
「着火が楽」
「そうだけど、タカノリだって簡単な魔法だったら使えるし任せればいいじゃん」
「魔力の温存は必要」
「そうだけど、消耗品の節約も冒険には必要でしょ!」
「じゃあこれらも使わない?」
マルガトが新しく出したのは魔石に魔法が付与された物だ。
それを見てラブラは眉間に皺を寄せた。
「あー……うーん……それはまあ、安物だったし良いと思う。マルガトだってお風呂入りたいでしょ?」
「別にいい。消耗品は節約」
「ダメ! トシゾーに臭いって思われたくないし」
「人間の嗅覚はそこまで鋭敏じゃない。それに私はトシゾーだったらちょっとくらい臭い方が好き」
言い合いをしている二人を放っておいて、タカノリは『身代わりのお守り』をポケットから出すと状態を確認してから再び大事に懐にしまった。
「それでは食事を与えてきます」
「やっぱり俺がやろうか?」
「いえ、戦闘要員として雇っている方にお任せするわけにはいきません。それに、この魔道具のおかげで呪われる心配もありませんし、なにより死にたくないみたいですし食事の間は大人しくしててくれますから」
タカノリはトシゾーの申し出を断ると、干し肉やら固いパンなどを持って馬車の中に乗り込んでいった。
その様子を心配そうにトシゾーが見ていたが、今日もまた特に問題が起きる事はなかった。
転移当初は王侯貴族相手に【鑑定】を使う部署に配属されていたのだが、子どもが生まれてしばらく経つと各地を回って邪神の信奉者を探す『邪教徒狩り』と呼ばれる部署に移動させられた。
子どもが無事に神の加護を授かっている事が分かったのも大きいのだろう。
彼はいつかそうなると察していたので特に抵抗する事もなく、各地を転々と旅する仕事に就いた。
そんな彼の楽しみはというと、教会を通じて届く子どもからの手紙だった。
「タカノリ、また変な顔してる」
彼の護衛として雇われた冒険者の内の一人である猫人族の女性が、締まりのない顔をしているタカノリを呆れた様子で見ていた。
「タカノリは子どもの事を溺愛しているからなぁ」
安全第一と書かれたヘルメットを被り、ツルハシを担いでいた黒髪の男がいつもの事だと猫人族の女性――ミーアにいい加減慣れろという。
黒い髪に黒い瞳と勇者の特徴を色濃く受け継いでいる男は勇者ではないが、勇者の子孫でもなかった。異世界から転移した者でトシゾーと呼ばれている。
彼にはまだ子どもはいないが、彼と一緒に冒険をしている仲間とは男女の仲になっているので時間の問題だろう。
もし子どもが出来たら諸国を渡り歩きながらする冒険はやめて、どこかに定住しようと考えている。
「ミーアもトシゾーとの子どもが出来たら分かりますよ」
「そうかなぁ。私はあなたみたいにはならないと思うけど」
表情をキリッとさせて、子どもの愛らしさを訴えるタカノリと、それを懐疑的に聞くミーア。
これもタカノリを護衛するようになってからよくある事の一つだった。
そんな話をしている彼らは、ウィズダム魔法王国へ移動している最中だった。
護衛対象であるタカノリが、トシゾーたちと一緒に歩いているのは彼が乗っていた馬車にある積み荷が積まれているからだ。
御者をしている鬼人族の女性に、犬人族の女性が話しかけた。
「マルガト、『身代わりのお守り』に異変はない?」
「問題ない。『加護封じの手枷』の効果は絶大」
「これもとんでもない物だったけど、手枷まで作れちゃうなんてほんとやばいね、シグニールの異世界転移者様は」
犬人族の女性――ラブラが『これ』と呼んだのは、彼女の手の中にある魔道具『加護封じの流星錘』だ。それを歩きながら振り回しているラブラをミーアが咎めた。
「ラブラ、危ないからそれを振り回して遊ぶのはやめなよ」
「遊んでないよ。練習してるんだよ。これ結構扱うの難しいんだからね? タカノリだってそう思うでしょ?」
「一理ありますけど、借り物だから壊したり無くしたりしないように気を付けてくださいね。じゃないとあなたの貯金が吹き飛んでもおかしくないですから」
タカノリに脅されたラブラだったが、それでも振り回すのはやめなかった。
今回、ドワーフの国でルンベルクに出現した邪神の信奉者を誰も呪われる事なく捕らえる事ができたのは『加護封じの流星錘』のおかげもあったからだ。
今回の邪神の信奉者は目が合ったものを呪う【呪眼】を授かっているという話だったが、囚われる間近にタカノリに触れて高らかに「これでお前も呪われた!」と言った事から【呪躰】の加護も授かっているだろうと考えられている。
体に触れて呪う加護を発動する前に、『加護封じの流星錘』で拘束されていた事もあり不発に終わったが、戦闘後に確認された『身代わりのお守り』は殆ど黒く染まっていてギリギリだったことが窺えた。
今後も邪神の信奉者との戦闘は短期決戦に持ち込む必要があると再認識したトシゾーは、ラブラを諫める事はせずに彼女の好きにさせている。近いうちに必要になるだろうと感じているからだ。
トシゾーは低くなってきている太陽を見て、それから周囲を見渡してからタカノリに視線を向けた。
「そろそろ野営の準備をするぞ」
「今日も野営ですか。街に泊まりたいですけど、仕方ありませんね」
「邪神の信奉者を連れ込む事なんてできないもんね」
しょんぼりと尻尾が垂れているミーアもタカノリに同意した。
ラブラはお金が節約できていいや、と前向きにとらえているしマルガトに関しては特に何も思っていないようで馬車から荷物を下ろしてせっせと野営の準備を進めている。
次々と出てくる魔道具の数々を見て、ラブラは慌てた様子で「これは今回使わなくていいでしょ」と魔道具をしまっていく。
「着火が楽」
「そうだけど、タカノリだって簡単な魔法だったら使えるし任せればいいじゃん」
「魔力の温存は必要」
「そうだけど、消耗品の節約も冒険には必要でしょ!」
「じゃあこれらも使わない?」
マルガトが新しく出したのは魔石に魔法が付与された物だ。
それを見てラブラは眉間に皺を寄せた。
「あー……うーん……それはまあ、安物だったし良いと思う。マルガトだってお風呂入りたいでしょ?」
「別にいい。消耗品は節約」
「ダメ! トシゾーに臭いって思われたくないし」
「人間の嗅覚はそこまで鋭敏じゃない。それに私はトシゾーだったらちょっとくらい臭い方が好き」
言い合いをしている二人を放っておいて、タカノリは『身代わりのお守り』をポケットから出すと状態を確認してから再び大事に懐にしまった。
「それでは食事を与えてきます」
「やっぱり俺がやろうか?」
「いえ、戦闘要員として雇っている方にお任せするわけにはいきません。それに、この魔道具のおかげで呪われる心配もありませんし、なにより死にたくないみたいですし食事の間は大人しくしててくれますから」
タカノリはトシゾーの申し出を断ると、干し肉やら固いパンなどを持って馬車の中に乗り込んでいった。
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