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第23章 呪いの対策をしながら生きていこう
幕間の物語236.元引きこもり王女は外の状況を知りたい
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クレストラ大陸でシズトが世界樹フソーの世話をしている頃、世界樹ファマリーの周囲に広がる畑で今日も歌を口ずさみながら農作業に勤しんでいる金髪の女性の姿があった。
金色の髪はいつものごとく、顔の側面辺りに縦巻きロールにされていて、日焼け防止用の魔道具『日除け麦わら帽子』を被っているその女性の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。この国の第一王女であり、異世界転移者であるシズトの第一夫人でもある。
彼女は日の出とともに寝泊まりしている三階建ての屋敷から出てくると、侍女であるセシリアと共に土いじりに励んでいた。
煌びやかな装備を身にまとった屈強な男性陣がレヴィアを守るように彼女の周りに展開していたが、彼女の掛け声とともに畑に生えた雑草を抜き始める。
魔道具によって作り出されたたい肥によって栄養満点の土には大小さまざまな雑草が毎日生えるようだ。
それを摘み取るのが王女と近衛兵たちの朝の日課だった。
「それは抜いちゃだめだよ!」
「え、そうなのか? 他の草と一緒に見えるけど」
「一緒じゃないの!」
「抜いちゃダメなの!」
「早く戻して!」
「わ、分かった。これでいいか?」
「雑!!」
「もっと丁寧に!」
レヴィアの妊娠をきっかけに増やされた近衛兵は戸惑いながらもドライアドたちによる指導を受けている。
それを先にファマリーに派遣されていた先達たちが懐かしく思いつつも見守っていた。口を挟んだら矛先が自分たちに向かうのを知っているからだ。
レヴィアは何となくふっくらしてきたような気がする下腹部を優しく撫でながらその様子を見守っていたが、ドライアドたちが転移陣の方へと集まり始めた事に気が付き、声を上げた。
「誰か来るみたいですわ」
「ほんとですわ?」
「ピカピカですわ~」
指導に夢中になっていて気付かなかったドライアドたちも、レヴィアの発した言葉に反応し、語尾を真似て「ですわですわ」と言いながら転移陣の方へと向かっていく。
残された新人は、しっかりと埋め直された草を見ながら「何が違うんだ?」としきりに首を捻っていた。
そんな彼の肩をポンポンと優しく叩く先達たちは「そのうち分かるようになる」と励ましている。
中には「怒られるのがくせにならないようにな」等と特定の誰かを見ながら注意を促す者もいたが、レヴィアは彼らを放っておいて自身も転移陣へと向かった。
レヴィアが転移陣に着く頃には、転移陣が強く光り輝いていた。
ドライアドたちの歓声と共に現れたのは褐色肌の女性が二人。
どちらも髪の色は灰色だったが、背丈や体のラインなどから見間違える事はない。
ただそれは人族であれば、という話だ。
ドライアドたちにとっては髪の色は重要な判別手段だった。
ジロジロと囲んでいたドライアドたちは頭のてっぺんからつま先の先までじろじろと見ている。
体全体を見終わった彼女たちは、手の先に視線が向かい、左手の薬指に嵌められている指輪を視認すると「人間さんの知ってる人だね」「問題なし?」「問題なし!」と口々に言い合って畑へと戻っていく。
「いつ来ても、緊張するわね」
ホッと胸をなでおろしながらそう呟いたのはランチェッタ・ディ・ガレオール。
シグニール大陸でも有数の商業が発展した国の女王だった。最近では転移門がシグニール大陸だけではなく、異大陸にもつながった事からより商業に特化しつつあった。
食後に政務があるからだろう。ランチェッタは露出の少ないドレスを着ている。
暑がりだった彼女だが、最近は他の者からの視線を疎ましく思い、シズトに魔道具化してもらったドレスを好んで着ている。それでも、レヴィアと同じくらい規格外の大きさの胸の膨らみを隠す事は出来ていないが――。
「向こうの子たちにも未だに覚えて貰えてないですから。こちらの子たちとは接点が少ないので仕方がない事かと」
ランチェッタの独白に反応したのは、彼女の側に控えていた侍女のディアーヌという女性だった。
すらりと伸びた手足に、女性らしい丸みを帯びた体つきをしている。ランチェッタと同色の髪はシニヨンでまとめていた。
ツリ目がちな灰色の目は、周囲を窺っていたが今はランチェッタを捉えていた。
「おはようなのですわ。各国から新しい情報は入ってるのですわ?」
「おはよう。昨日、ムサシから届いたっていう手紙と同じような内容だったわ。ゴーレムや魔法生物を使っているドタウィッチは療養所内での呪いの広がりは確認できていないそうよ。ガレオールは呪われている者が他の国よりも多いけど、優先的に『身代わりのお守り』を使っているおかげで看護者で呪われた者はいないわ。その代わり、『身代わりのお守り』はいくつか捨てる羽目になったけど」
「アクスファースはライデンからの連絡はまだですけれど、クレストラ大陸での事を考えると重症化する人が増えそうですわね」
「アトランティアもそうよ。昨日、エリクサーやら上級ポーションやらを回してほしいという嘆願書が届いたわ。適正な値段であればやり取りはするけれど、今のアトランティアでは継続的に支払えるか微妙な所ね。クレストラ大陸のように国際的な組織ができればそこら辺は考えずに融通し合えたかもしれないけれど……」
「向こうと違って難しいと思うのですわ。東側の小国家群がまとまるとはとても思えないのですわ」
「そうよね。今でも戦争をしている所もあるみたいだし。エンジェリア帝国が裏で糸を引いているのかもしれないけど。……他の国の状況も間諜から報告が上がっているけど、朝食の時に話せばいいかしら?」
「そうですわね。ここで話す内容ではなかったのですわ」
先程からずっとレヴィアの周囲にいたドライアドはレヴィアの表情や仕草を真似していた。
話は理解しているとは思えないが、どこで誰が聞いているか分からないので、それぞれの侍女を連れて、二人は防音設備をしっかり施してある屋敷へと向かうのだった。
金色の髪はいつものごとく、顔の側面辺りに縦巻きロールにされていて、日焼け防止用の魔道具『日除け麦わら帽子』を被っているその女性の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。この国の第一王女であり、異世界転移者であるシズトの第一夫人でもある。
彼女は日の出とともに寝泊まりしている三階建ての屋敷から出てくると、侍女であるセシリアと共に土いじりに励んでいた。
煌びやかな装備を身にまとった屈強な男性陣がレヴィアを守るように彼女の周りに展開していたが、彼女の掛け声とともに畑に生えた雑草を抜き始める。
魔道具によって作り出されたたい肥によって栄養満点の土には大小さまざまな雑草が毎日生えるようだ。
それを摘み取るのが王女と近衛兵たちの朝の日課だった。
「それは抜いちゃだめだよ!」
「え、そうなのか? 他の草と一緒に見えるけど」
「一緒じゃないの!」
「抜いちゃダメなの!」
「早く戻して!」
「わ、分かった。これでいいか?」
「雑!!」
「もっと丁寧に!」
レヴィアの妊娠をきっかけに増やされた近衛兵は戸惑いながらもドライアドたちによる指導を受けている。
それを先にファマリーに派遣されていた先達たちが懐かしく思いつつも見守っていた。口を挟んだら矛先が自分たちに向かうのを知っているからだ。
レヴィアは何となくふっくらしてきたような気がする下腹部を優しく撫でながらその様子を見守っていたが、ドライアドたちが転移陣の方へと集まり始めた事に気が付き、声を上げた。
「誰か来るみたいですわ」
「ほんとですわ?」
「ピカピカですわ~」
指導に夢中になっていて気付かなかったドライアドたちも、レヴィアの発した言葉に反応し、語尾を真似て「ですわですわ」と言いながら転移陣の方へと向かっていく。
残された新人は、しっかりと埋め直された草を見ながら「何が違うんだ?」としきりに首を捻っていた。
そんな彼の肩をポンポンと優しく叩く先達たちは「そのうち分かるようになる」と励ましている。
中には「怒られるのがくせにならないようにな」等と特定の誰かを見ながら注意を促す者もいたが、レヴィアは彼らを放っておいて自身も転移陣へと向かった。
レヴィアが転移陣に着く頃には、転移陣が強く光り輝いていた。
ドライアドたちの歓声と共に現れたのは褐色肌の女性が二人。
どちらも髪の色は灰色だったが、背丈や体のラインなどから見間違える事はない。
ただそれは人族であれば、という話だ。
ドライアドたちにとっては髪の色は重要な判別手段だった。
ジロジロと囲んでいたドライアドたちは頭のてっぺんからつま先の先までじろじろと見ている。
体全体を見終わった彼女たちは、手の先に視線が向かい、左手の薬指に嵌められている指輪を視認すると「人間さんの知ってる人だね」「問題なし?」「問題なし!」と口々に言い合って畑へと戻っていく。
「いつ来ても、緊張するわね」
ホッと胸をなでおろしながらそう呟いたのはランチェッタ・ディ・ガレオール。
シグニール大陸でも有数の商業が発展した国の女王だった。最近では転移門がシグニール大陸だけではなく、異大陸にもつながった事からより商業に特化しつつあった。
食後に政務があるからだろう。ランチェッタは露出の少ないドレスを着ている。
暑がりだった彼女だが、最近は他の者からの視線を疎ましく思い、シズトに魔道具化してもらったドレスを好んで着ている。それでも、レヴィアと同じくらい規格外の大きさの胸の膨らみを隠す事は出来ていないが――。
「向こうの子たちにも未だに覚えて貰えてないですから。こちらの子たちとは接点が少ないので仕方がない事かと」
ランチェッタの独白に反応したのは、彼女の側に控えていた侍女のディアーヌという女性だった。
すらりと伸びた手足に、女性らしい丸みを帯びた体つきをしている。ランチェッタと同色の髪はシニヨンでまとめていた。
ツリ目がちな灰色の目は、周囲を窺っていたが今はランチェッタを捉えていた。
「おはようなのですわ。各国から新しい情報は入ってるのですわ?」
「おはよう。昨日、ムサシから届いたっていう手紙と同じような内容だったわ。ゴーレムや魔法生物を使っているドタウィッチは療養所内での呪いの広がりは確認できていないそうよ。ガレオールは呪われている者が他の国よりも多いけど、優先的に『身代わりのお守り』を使っているおかげで看護者で呪われた者はいないわ。その代わり、『身代わりのお守り』はいくつか捨てる羽目になったけど」
「アクスファースはライデンからの連絡はまだですけれど、クレストラ大陸での事を考えると重症化する人が増えそうですわね」
「アトランティアもそうよ。昨日、エリクサーやら上級ポーションやらを回してほしいという嘆願書が届いたわ。適正な値段であればやり取りはするけれど、今のアトランティアでは継続的に支払えるか微妙な所ね。クレストラ大陸のように国際的な組織ができればそこら辺は考えずに融通し合えたかもしれないけれど……」
「向こうと違って難しいと思うのですわ。東側の小国家群がまとまるとはとても思えないのですわ」
「そうよね。今でも戦争をしている所もあるみたいだし。エンジェリア帝国が裏で糸を引いているのかもしれないけど。……他の国の状況も間諜から報告が上がっているけど、朝食の時に話せばいいかしら?」
「そうですわね。ここで話す内容ではなかったのですわ」
先程からずっとレヴィアの周囲にいたドライアドはレヴィアの表情や仕草を真似していた。
話は理解しているとは思えないが、どこで誰が聞いているか分からないので、それぞれの侍女を連れて、二人は防音設備をしっかり施してある屋敷へと向かうのだった。
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