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第23章 呪いの対策をしながら生きていこう
幕間の物語235.侍大将は口止めした
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クレストラ大陸の元都市国家フソーには、クレストラ国際連合の本部がある。
日々、外交官たちが話し合いをしているその建物では、緊急事態の際に会議を行うための部屋もあった。
魔道具によって防音を厳重に施された部屋には円卓があり、それぞれの席に各国の代表者たちが座っていた。
ざわついていた室内だったが、何かに気付いた様子で一人、また一人と口を噤んでいった。
そうして部屋の中が静寂に包まれて少ししてから重厚な扉が開かれた。
全員が席を立ち、入ってきた人物を出迎える。
入ってきたのは黒い髪に黒い瞳が特徴的な少年だった。
この世界の人族の男性にしてはやや小柄なその少年は布地が真っ白な服を着ている。
胸元よりも上まで金色の蔦のような刺繍が伸びているその服を着る事が許されているのは、『世界樹の使徒』だけだ。
彼は愛想笑いを浮かべながら空いていた席まで歩いて行き、着席すると他の国の者たちも一拍遅れて椅子に座った。
「シズト様がご希望されたので、この度の緊急会議にはシズト様もご出席する事となったでござる。が、基本的にはいつも通り拙者が話すでござる。シズト様へ何か要望があれば、まずは拙者を通すように」
シズトと呼ばれた少年の背後に控えていた二人の男の内、左側に立っていた人族の男性が言った内容に特に文句が出る事もない。
その様子を確認して満足そうな男――ムサシは、副議長として出席しているラグナクア国の女公爵であるレスティナに視線を向けた。
「呪いが比較的軽かった者が重症化したと聞いたが、どこの国でござるか?」
「ヤマトとナウエストよ」
クレストラ大陸の最南端の国ヤマトと最北端の国ナウエストで起こった事に驚きを示したのはシズトだけだった。
今回の呪いがどのような物なのか、検証するために最も危険な役目に名乗りを上げたのが上記の二か国だったからだ。
元々人材も資材も足りないという話が出回っていたが、それは現状が数カ月続いた場合の話だった。
そのうわさ話を逆手にとって、それぞれの国で対処を変えた。
クロトーネ王国は自前で看護者を変える手段を持っていたため、ゴーレムや魔法生物だったら呪われるのかを検証し、ヤマトとナウエスト以外の国々は『身代わりのお守り』を持たせる国と持たせない国で分かれた。
最後に残ったヤマトとナウエストは、軽症者に重傷者を看護させた国だった。
先王が邪神の信奉者と繋がっていたという話から、今回の呪いとは無関係である事を証明するために引き受けた。
ナウエストに関しては世界樹があるエルフの国とは無関係ではあるが、エルフが迷惑をかけたからと今回の検証に協力したようだ。
物資が不足しているから仕方ない、と国民には納得させつつ調査をしていた事はこの部屋にいるシズト以外の者たちは知っていたからこそ驚く事はなく、思考に耽っていた。
「症状が重い人から順番にエリクサーを使っていってください」
そう主張したのは唯一慌てていたシズトだった。
その様子から、今回の検証の事を伝えられていないという事実を察していた代表者たちは、そっとムサシに視線を向けた。
ムサシは静かに首を横に振った後、シズトに話しかけた。
「そういう訳にもいかないでござるよ、主殿。呪われた者たちはそのほとんどが平民でござる。平民に優先してエリクサーを使ったとなると、貴族や大商人など上流階級のものは反発するでござる」
「それは市場に出回っている物だったら、って事でしょ? 新しく量産すればいいんじゃない?」
「そうすると価格崩壊を招きかねないでござるよ」
「それで損する人たちは僕のお金で補填する事は出来ないの? いくらあるかは知らないけど使い切れないほどのお金が溜まってるんでしょ?」
シズトとムサシのやり取りに、ヤマトの代表者であるヤマト・メグミが割って入った。
「有難い申し出ですが、どうしてそこまでしてくださるのでしょうか?」
「今回の事は転移門が悪用されている可能性もあるって話だったからだ……です。もし違ったとしても、使わずに眠っているお金が無くなるだけですから気にしないでください。そういう事だからムサシ、損失分の補填として必要なお金とか、誰から優先的に使っていくかとか確認しておいてね」
「…………はぁ。仕方ないでござるな、主殿は。わかったでござる。後の事は拙者がまとめておくでござるから、主殿はエリクサーの材料を集めてきてほしいでござる」
「いいけど、材料って? 世界樹の葉以外何があるの?」
「それはジュリウスが知っているはずでござる。ドライアドたちに協力を仰げばある程度数は揃うと思うでござるよ」
「分かった。それじゃ、後の事はお願いね」
そう言って慌てた様子で走り去っていくのを見送ったムサシはしばらくしてから口を開いた。
「さて、と……主殿も退室したでござるし、各国の状況を共有してもらうでござるよ」
「シズト殿に共有しなくてよろしかったのですか?」
レスティナが尋ねるとムサシは首を横に振った。
「主殿がいた世界では考えられない事をしているでござるからなぁ。知られたらどうなるか拙者にも分からぬでござる。くれぐれも、恩を売ろうと考えて余計な事を主殿に言わない方がいいでござるよ。自国民が助かったとしても、国の上層部に救いの手を差し伸べるかは分からないでござるから」
出席していた各国の者たちが神妙な面持ちで頷いたのを見て、ムサシは満足すると状況の確認をし始めるのだった。
日々、外交官たちが話し合いをしているその建物では、緊急事態の際に会議を行うための部屋もあった。
魔道具によって防音を厳重に施された部屋には円卓があり、それぞれの席に各国の代表者たちが座っていた。
ざわついていた室内だったが、何かに気付いた様子で一人、また一人と口を噤んでいった。
そうして部屋の中が静寂に包まれて少ししてから重厚な扉が開かれた。
全員が席を立ち、入ってきた人物を出迎える。
入ってきたのは黒い髪に黒い瞳が特徴的な少年だった。
この世界の人族の男性にしてはやや小柄なその少年は布地が真っ白な服を着ている。
胸元よりも上まで金色の蔦のような刺繍が伸びているその服を着る事が許されているのは、『世界樹の使徒』だけだ。
彼は愛想笑いを浮かべながら空いていた席まで歩いて行き、着席すると他の国の者たちも一拍遅れて椅子に座った。
「シズト様がご希望されたので、この度の緊急会議にはシズト様もご出席する事となったでござる。が、基本的にはいつも通り拙者が話すでござる。シズト様へ何か要望があれば、まずは拙者を通すように」
シズトと呼ばれた少年の背後に控えていた二人の男の内、左側に立っていた人族の男性が言った内容に特に文句が出る事もない。
その様子を確認して満足そうな男――ムサシは、副議長として出席しているラグナクア国の女公爵であるレスティナに視線を向けた。
「呪いが比較的軽かった者が重症化したと聞いたが、どこの国でござるか?」
「ヤマトとナウエストよ」
クレストラ大陸の最南端の国ヤマトと最北端の国ナウエストで起こった事に驚きを示したのはシズトだけだった。
今回の呪いがどのような物なのか、検証するために最も危険な役目に名乗りを上げたのが上記の二か国だったからだ。
元々人材も資材も足りないという話が出回っていたが、それは現状が数カ月続いた場合の話だった。
そのうわさ話を逆手にとって、それぞれの国で対処を変えた。
クロトーネ王国は自前で看護者を変える手段を持っていたため、ゴーレムや魔法生物だったら呪われるのかを検証し、ヤマトとナウエスト以外の国々は『身代わりのお守り』を持たせる国と持たせない国で分かれた。
最後に残ったヤマトとナウエストは、軽症者に重傷者を看護させた国だった。
先王が邪神の信奉者と繋がっていたという話から、今回の呪いとは無関係である事を証明するために引き受けた。
ナウエストに関しては世界樹があるエルフの国とは無関係ではあるが、エルフが迷惑をかけたからと今回の検証に協力したようだ。
物資が不足しているから仕方ない、と国民には納得させつつ調査をしていた事はこの部屋にいるシズト以外の者たちは知っていたからこそ驚く事はなく、思考に耽っていた。
「症状が重い人から順番にエリクサーを使っていってください」
そう主張したのは唯一慌てていたシズトだった。
その様子から、今回の検証の事を伝えられていないという事実を察していた代表者たちは、そっとムサシに視線を向けた。
ムサシは静かに首を横に振った後、シズトに話しかけた。
「そういう訳にもいかないでござるよ、主殿。呪われた者たちはそのほとんどが平民でござる。平民に優先してエリクサーを使ったとなると、貴族や大商人など上流階級のものは反発するでござる」
「それは市場に出回っている物だったら、って事でしょ? 新しく量産すればいいんじゃない?」
「そうすると価格崩壊を招きかねないでござるよ」
「それで損する人たちは僕のお金で補填する事は出来ないの? いくらあるかは知らないけど使い切れないほどのお金が溜まってるんでしょ?」
シズトとムサシのやり取りに、ヤマトの代表者であるヤマト・メグミが割って入った。
「有難い申し出ですが、どうしてそこまでしてくださるのでしょうか?」
「今回の事は転移門が悪用されている可能性もあるって話だったからだ……です。もし違ったとしても、使わずに眠っているお金が無くなるだけですから気にしないでください。そういう事だからムサシ、損失分の補填として必要なお金とか、誰から優先的に使っていくかとか確認しておいてね」
「…………はぁ。仕方ないでござるな、主殿は。わかったでござる。後の事は拙者がまとめておくでござるから、主殿はエリクサーの材料を集めてきてほしいでござる」
「いいけど、材料って? 世界樹の葉以外何があるの?」
「それはジュリウスが知っているはずでござる。ドライアドたちに協力を仰げばある程度数は揃うと思うでござるよ」
「分かった。それじゃ、後の事はお願いね」
そう言って慌てた様子で走り去っていくのを見送ったムサシはしばらくしてから口を開いた。
「さて、と……主殿も退室したでござるし、各国の状況を共有してもらうでござるよ」
「シズト殿に共有しなくてよろしかったのですか?」
レスティナが尋ねるとムサシは首を横に振った。
「主殿がいた世界では考えられない事をしているでござるからなぁ。知られたらどうなるか拙者にも分からぬでござる。くれぐれも、恩を売ろうと考えて余計な事を主殿に言わない方がいいでござるよ。自国民が助かったとしても、国の上層部に救いの手を差し伸べるかは分からないでござるから」
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