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第22章 安全第一で生きていこう

470.事なかれ主義者は拒否できない

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 魔道具作りは世界樹のお世話をした後という事もあって長くは続かなかった。
 お昼前には魔力切れギリギリになったので、どう過ごそうか考えていたところ、シンシーラが「二人でデートするじゃん!」と言ってきた。
 八時間もの長い時間をどう過ごすのか悩み続けていた彼女だったけど、どうやら決まったらしい。

「お酒を飲みに行くじゃん!」
「僕は飲まないからね?」
「分かってるじゃん!」

 シンシーラと一緒に転移陣を使って南の街の近くに転移した際に釘を刺しておく。
 この世界だとお酒は二十歳から、という訳じゃないらしいので飲もうと思えば飲む事ができるんだけど、若いうちから飲んだら体に悪そうだし、二十歳になるまで飲まない事にしている。
 …………まあ、なんかあったらエリクサーとか飲めばいいんだろうけど。
 ブンブンと尻尾を振って上機嫌のシンシーラに腕を組まれながら歩き、乗合馬車……というかタクシー? に乗って移動した所は、メインストリート沿いのバーだった。
 薄暗い店内で周りを気にしなくても良かったから、隣に腰かけたシンシーラとのんびり過ごす事ができた。

「シンシーラ、大丈夫?」
「ぜんぜんだいじょーぶじゃん! しずとさまこそ、おかねだいじょーぶじゃん?」
「それは全然大丈夫だよ」

 キラリーさんというか、イルミンスールの方々からお金は十分すぎるほど貰っている。
 だからシンシーラがどんどん果実酒の瓶を空にしても問題ないんだけど、さっきシンシーラの首に着けられている『酔い覚ましの首輪』が起動していたから結構やばいんじゃないだろうか?
 あの魔道具が発動する度に着用者はほろ酔い位に落ち着くはずなんだけど、シンシーラはテンションが高くスキンシップも徐々に増えている感がする。
 一通りの果実酒を飲んだからと一軒目を後にする際に払ったお金は結構な額だった。財布の中身はまだまだ余裕だけど、シンシーラの体調がちょっと心配だ。
 僕たちがお店を出ると、一台の乗合馬車が停まっていた。先程よりも大きな馬車の中には誰一人乗っていない。

「シズト様、早く乗るじゃん!」
「貸し切り状態だね」
「運がいいじゃん!」

 本当に運がいいだけなんだろうか。他の人に迷惑が掛かってないといいんだけど……。
 そんな事を思いつつも馬車は進んでいく。
 今度の行き先はメインストリートから少し外れた場所にあるらしい。
 狭い路地に入って何度か曲がった後、店の前で馬車が停まった。
 住宅街の中にひっそりとある居酒屋っぽい雰囲気のそのお店の中からは音楽とともに話し声が聞こえる。
 ただ、そのどちらもシンシーラが扉を開けて僕を連れて一緒に入るとピタッと止まってしまった。
 そりゃ、こういうお店に見慣れない狼人族と人族が入ってきたらじろじろ見られるよね。
 店長っぽい人が慌てた様子で音楽家っぽい楽器を持った人たちに演奏を再開するように指示を出し、その音に我に返った様子のエプロンを着けたエルフの女性が近づいてきた。

「な、何名様でしょうか」
「二名じゃん。席は空いてるじゃん?」
「少々お待ちを!」

 店員さんがきょろきょろと辺りを見渡したけれど、席は常連っぽい人たちでいっぱいだ。

「別のお店にする?」
「シズト様のお昼ごはん用に選んだ店だったじゃん。調べたお店の中で他の所はお酒がメインだから、おつまみ系しかないじゃん。できればここがいいじゃん」
「大丈夫だよ、おつまみでもお腹は膨れるし」
「い、今しばらくお待ちを!」

 僕がこそっと耳打ちしたのにシンシーラの声は大きかった。
 僕の声は聞こえていなかったと思うけど、慌てた様子で店長さんと店員さんがお客さんたちに席の移動をお願いして回っていた。
 常連客っぽいし、仲もいいのかもしれない。お客さんたちは言われるがまま素直に言う事を聞いている。むしろ机の上に並んだ料理を自分たちで運んだり机を拭いたりと協力的だった。

「お、お待たせしました!」
「なんかすみません……」
「いえ、全然!」

 取れちゃうんじゃないかと思うほど激しく首を横に振って否定した店員さんに案内された席は一番奥の席だった。
 シンシーラに押される形で奥のソファーに腰かけると、正面の一人用の椅子に座らず、シンシーラが隣に腰かけた。

「奥に詰めて欲しいじゃん」

 ぐいぐいと大きなお尻を僕に押し付ける感じで押してくるシンシーラ。
 こういう時って正面に向かい合って座るもんじゃないのかな、なんて疑問に思いつつも奥に詰めた。

「それじゃ、お昼ご飯を食べるじゃん。シズト様は何にするじゃん?」
「んー……ランチセットなんてあるんだ? これにしようかな。シンシーラは?」
「私は蜂蜜酒にするじゃん」
「ご飯食べないの?」
「まだまだお店を回るし、おつまみでちょっとずつ食べてくから大丈夫じゃん」

 そう言うとシンシーラは店員さんを呼んで手早く注文した。
 料理を待つ間は他愛もない話をして過ごしたんだけど、一つ気になる事がある。

「……ちょっとスキンシップ多くない?」
「このくらい普通じゃん。ほら、シズト様の大好きな尻尾じゃん。しっかりモフるといいじゃん」
「……まあ、モフるけどさぁ」

 シンシーラの手によって、彼女の太ももの上に置かれた尻尾に右手を誘導されたので当然触った。
 毎日しっかりと手入れしているというだけあって、手触りは心地良い。
 肩を組まれて触れる柔らかな感触とか、漂ってくるなんか甘い匂いとかを意識から追いやって、料理が来るまで無心でモフモフし続けた。
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