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第22章 安全第一で生きていこう

幕間の物語229.没落令嬢は聞き役に徹した

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 シズトの子どもをお腹の中に宿してから、モニカは同じ時期に妊娠したレヴィアと過ごす時間が少しずつ増えていた。
 最初は元々の身分の違いから恐縮する様子が多かった彼女だったが、一ヵ月も続くと流石に慣れてきたようだった。
 最近は気分転換兼軽い運動をするために屋敷の外に出て、レヴィアと一緒に土いじりをする事が多い。
 モニカはまだ妊娠が発覚して一ヵ月ほどしかたっていないため自覚症状はほとんどないが、念のためメイド服を着るのをやめていた。
 お腹周りに負担がかからないように、サロペットやオーバーオールと呼ばれる服を着るようにしていたのだが、今日は外で活動するという事だったのでオーバーオールを着ていた。
 嬉しそうに「お揃いなのですわ!」とひとしきりはしゃいだレヴィアは、今はドライアドに指示を出しながら作業をしている。
 自分もやるべき事をしよう、と自分用に設けられた畑にたくさん実った作物を収穫していた。
 放っておいてもドライアドが頃合いを見て収穫してくれるからしなくても良かったのだが、何かしていないと落ち着かないためドライアドたちに凝視されながら作業を再開した。
 黙々と作業をしていたモニカだったが、何やらドライアドたちが転移陣の方に集まっている事に気付いた。

「レヴィア様! お客様がいらっしゃるようです!」

 モニカは、お出迎えしなければ、と収穫物を籠に入れて転移陣の方に向かうが、ふと自分の格好を思い出して足を止めてしまった。
 そんなモニカのすぐ近くで、結構遠くから駆け寄ってきたレヴィアが話しかけた。

「どうしたのですわ? 体調不良ですわ!? セシリア!」
「お休みできる椅子をご準備しますので少々お待ちを――」
「いえ、違います! 大丈夫です、体調に問題ありません!」
「じゃあ、どうしたのですわ? お出迎えするのですわ?」
「そのつもりでしたけど……」
「ああ、なるほど。服装が気になるのですね、分かります。侍女であれば今の格好は考えられない物でしょう。ただ、今のあなたはシズト様の御子をそのお腹に宿した奥方様です。であれば、その様な格好をしていても問題ないでしょう」
「そうですわ。私もドレスなんて着てないけど気にしてないのですわ!」
「レヴィア様は少しは気にしてください」

 ギャーギャーと言い合いを始めた二人をきょとんとした表情で見ていたモニカだったが、ドライアドたちの歓声でハッと我に返った。

「転移してくるようです」
「別に出迎えなくても怒るような相手は転移してこないと思うのですけれど……」
「レヴィア様は好きなように過ごされているのですから、モニカも好きなようにさせてあげてください」

 二人のやり取りを意識から追い出して、モニカは足早に転移陣の方へと向かった。その後をレヴィアとセシリアが追いかけ、周囲を近衛兵たちが固めていた。農作業の手伝いをさせられている彼らだったが、レヴィアやモニカが転びそうになった時など、不測の事態にいつでも対応できるように神経を研ぎ澄ましていた。

「ガレオールの転移陣が起動しているようですし、おそらくランチェッタ様でしょう」

 セシリアが言った通り、転移してきたのはランチェッタ・ディ・ガレオールだった。お供としてディアーヌもついて来ている。
 二人とも灰色の髪に、ドラゴニアでは珍しい褐色の肌の持ち主だった。
 ランチェッタは政務をこなしていたのか、頭に王冠を載せたままだ。露出の少ないドレスを着ているが、規格外の胸は隠しきれていない。
 ディアーヌはいつも通りメイド服を身にまとい、ランチェッタの後ろに控えるように付き従っていた。

「何かあったのですわ?」
「あら、レヴィア。今日も農作業をしていたの?」
「当たり前なのですわ! それより、何かあったのですわ!?」
「まあ、あったとはあったんだけど……とりあえずこっちで休憩しようかなって。向こうじゃ息が詰まっちゃうわ」

 ランチェッタはそう言うと肩を自分で揉みながら屋敷の方へと歩き始めた。
 残された三人は互いの顔を見合わせた後、一先ず彼女の後を追う事にした。



 屋敷の中で普段使っていない部屋であるのに関わらず、一階の執務室と呼ばれている部屋は埃一つ落ちていなかった。それは、部屋の片隅に置かれている『埃吸い吸い箱』のおかげだ。
 ランチェッタは「やっぱり便利よね、あれ」等と言いつつソファーに腰かけて楽な姿勢で座った。

「それで、何があったのですわ?」

 正面の一人掛け用の椅子に座ったレヴィアは前のめりになりながらランチェッタに尋ねたが、お腹の事を思い出してすぐに姿勢を正した。

「別に隠すような事じゃないから言うけど……その前に、モニカ、席に座りなさい」
「いえ、私は――」
「万が一お腹の子に何かあったら悔やんでも悔やみきれないから、一先ず座って頂戴」
「……分かりました」

 同じく侍女として働いているセシリアとディアーヌが座らずにいるのを気にしているのか、しきりに視線を送っていたが、モニカは小さくため息を吐くと座った。
 モニカが座ったところで、レヴィアが再度ランチェッタに尋ねる。

「それで、何があったのですわ?」
「エンジェリアで広がっていた風邪のような流行病が、ガレオールをはじめ、他の国々でも確認されたわ。まあ、これは遅かれ早かれ起こる事だろうとシズトが予想してたけど、やっぱり防げなかったわね」

 人の移動がより簡単になった結果、感染症が流行りやすくなるのは目に見えていた事だった。
 だからこそ体調不良者は転移門の使用を断る等していたのだが、それだけでは足りなかったとランチェッタは反省していた。

「ただ、防げないだろうという事も予想できてたから、病人の隔離を迅速に行うことが出来て良かったわ」
「今後の対応はどうするのですわ?」
「転移門で繋がっている国々と連絡を取り合って、転移門の利用制限をかけるつもりよ。物資が足らない時にのみ、ゴーレム馬車を活用して国同士で薬のやり取りなどをするつもり。幸いな事に、ほとんどの人が軽い風邪みたいな症状だからメディカルポーション飲ませておけばある程度何とかなりそうだし、万が一の時は上級ポーションもエリクサーも予備があるから問題ないわ」
「クレストラ大陸のように国際連合としてまとまる事ができればもっと物資を備蓄しておくことが出来たんですけどね」

 ランチェッタの後ろで控えていたディアーヌが、やれやれ、と言った感じで肩をすくめた。

「国際連合設立に反対したエンジェリアや東の方の小国家群で病気が流行しているから、これを機に考え方を改めてくれればいいんだけど……戦争を止めようとしないあの国々には無理な事よね」
「ですわね。シズトには伝えるのですわ?」
「戻ってきてからで問題ないわ」
「じゃあどうしてお昼にこっちに来たのですわ? 仕事は大丈夫なのですわ?」
「問題ないわ。わたくしがしなくてもいい仕事は殆ど信頼できる者たちに割り振ったから」
「今回はランチェッタ様が実際にいなくても正常に動くか見極めるためにお昼休憩を取っているのです。これが上手くいけばシズト様とのお時間をより多くとれるようになります!」

 鼻息荒く主張する専属侍女の発言を否定する事もなく、ランチェッタはセシリアが淹れてくれた紅茶に口をつけた。
 伝えるべき事を伝えたランチェッタは、しばらくの間、ファマリーの根元でのんびり過ごすとの事だったので、レヴィアとモニカ、セシリアの三人はそれに付き合うのだった。
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