【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
682 / 1,094
第22章 安全第一で生きていこう

457.事なかれ主義者は改名させたい

しおりを挟む
 おっかなびっくり話しかけると、ドラゴンはのんびりと返事をした。
 フェンリルと同じく人語を理解し、念話で意思を伝えてくるタイプの魔物だった。

『好きにするといい。儂はここにいるだけだ』
「祠とかも建てたいんですけど……」
『回答は変わらん。儂がいるスペースさえあればそれでいい』

 なるほど。これはあれだ。僕たちみたいなちっぽけな存在が周りで何をしていようと気にしない感じのアレだ。
 ドライアドたちも日向ぼっこゾーンとして活用しているし、割と寛容なのかもしれない。
 っていうか、寛容じゃないと、フリーダムなドライアドたちと一緒に暮らすのは無理なのかも?
 フェンリルも魔物にしては割と周りで何が起ころうと知った事じゃないって感じで放置してる事が多いし。

『お互い、譲り合って生活できるならそれに越した事はない』

 そう言ったっきり、目を瞑って寝息を立て始めたドラゴンは置いておいて、テントの設営が始まった。
 ついて来ていた世界樹の番人たちが慣れた様子でテキパキと魔法を使いながら設営をしていく。どうやらこんな時もあるかもしれない、と練習をしていたらしい。
 一際大きなテントは僕専用という事らしい。その近くには護衛の面々用のテントが設営されていた。
 世界樹の番人たちは複数人で一つを使うみたいだ。ぶっちゃけあんなに大きくなくていいから、あの大きなテントを皆で使えばいいのに、なんて思わなくもない。
 ジュリウスに促されて、出来上がったテントの中に入る。靴は脱いで、床部分に敷き詰められたふかふかの敷物の上を歩く。

「テントの中にテントがある」
「シズト様は大部屋よりもこういう狭いお部屋をお好みのようでしたので準備させました」
「流石ジュリウス。分かってるじゃん!」
「お兄ちゃん、クーはどこで寝ればいいの?」

 ぺたぺたとテント内を散策していたクーが戻ってきて、首を傾げて聞いてきたけど、傾げたいのは僕の方だ。

「いや、クーも別のテントで寝るんじゃないの?」
「何言ってるの。一緒のテントで寝泊まりするに決まってるじゃん」

 何当たり前のことを言ってんの? と心底不思議そうに首を傾げられた。
 ジュリウスに視線を向けると、彼は分かっております、と言った感じでゆっくりと頷いた。

「そう仰るかと思いまして、クー様用のテントも準備しております」
「なんで!?」
「シズト様の安全を考えた際に、最適解でしたので」
「さすがウスウス! 分かってるじゃーん」
「お褒めに預かり光栄です」

 頭を下げたジュリウスの頭を撫でているクーは満足そうな顔だ。
 それを見ながら、まあ、クーだけならいいかな? と考えていたらそれを見たジュリウスが「防音の魔道具を設置してありますから、音漏れの心配はございませんよ」と言ってきた。

「心配しているのはそこじゃない!」



 夕食はテントの外で食べる事になった。
 日が暮れてしまったので辺りは暗く、星が綺麗に瞬いていた。
 即席で机と椅子を【加工】して作って、その上にシグニール大陸に残してきたエミリーとジューンさんが作ったであろう料理を並べていく。
 中身を共有しているアイテムバッグは時間を止める機能はないけど、どうやらシンシーラが食事の大まかな時間を伝えておいてくれたようだ。出来立てほやほやでとても美味しかった。
 サイコロステーキの匂いに釣られてか、ドラゴンがにゅっとこちらに顔を近づけて来た時はびっくりしたけど、流石に僕たちが食べている食事はドラゴンの巨体には小さすぎるので、なけなしの魔力を使って、大きなグリルっぽい物をサクッと作り、イルミンスールのエルフたちにお肉を取ってきてもらった。
 僕たちの食事が終わる頃に用意された大量のお肉をエルフたちに分担してもらって焼き、献上したらドラゴンはすべてぺろりと平らげた。

『いろいろな味があるのだな。生でもよかったが、これはこれで美味だ』

 草食っぽい見た目をしているけど、がっつりお肉も食べる事ができるようだ。
 ドラゴンが「礼だ」と呟くと、僕たちの机の上にいくつか謎の木の実っぽい物が置かれた。
 僕の頭よりも大きなそれは、所々刺々しているような見た目の真っ赤な果実だ。

「これって食べられるの?」
『儂らは食べる。お前たちは……食べる事ができるんじゃないか? 同族の者たちは、これを狙って愚かな人族共が戦いを挑みに来た事があったと言っておったからな』
「何て名前の果物なの? っていうかこれ、果物だよね?」
『果物かどうかも知らんし、名前も知らん。儂の背に生っていた物をとっただけだ』

 ドラゴンの言葉に周囲にいたイルミンスールのエルフたちがざわっとした。
 口々に「ドラゴンフルーツだ……」なんてことを言っている。
 いや、あんまり見た事も食べた事もないけど、これはドラゴンフルーツ的な見た目じゃないと思うんだけど……また過去の勇者の仕業か?
 キラリーさん曰く、食べる事ができるらしいので、とりあえず一個をカットしてもらって食べて見る事にした。
 皮は固くて食べる事は出来ないけど、中身はスプーンですくって普通に食べれた。とっても甘くておいしい。これを求めてドラゴンに挑むのも納得だ。
 ただ、大きさが大きさだったので、食べきれなかった僕の分は、ラオさんとルウさんに食べてもらった。
 ……残ったドラゴンフルーツは今日中に食べ切るのは無理だ。ラオさんとルウさんはまだまだ食べる事ができそうだけど、二人とも僕が食べないなら食べない、という事だったので、とりあえずアイテムバッグの中に入れておいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...