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第22章 安全第一で生きていこう

455.事なかれ主義者はイルミンスールに転移した

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 世界樹フソーのお世話をしながらのんびりと過ごした平穏な日々は終わりを告げて、イルミンスールとファマリーが転移陣で通じる日になった。
 無事開通して、向こうの安全が確認できた場合は、再び一週間ほど向こうで過ごすので、朝も夜も静かな一週間が始まると言っても過言ではないかもしれない。

「シズトが戻ってきたらたくさんしてもらうってみんな言ってたのですわ」

 僕の隣で転移陣が起動するのを一緒に待っていたレヴィさんがぼそりと呟いた。
 彼女の指には『加護無しの指輪』は嵌められていない。
 僕が真顔でレヴィさんをじっと見つめたが、彼女はニコニコしながらお腹を擦っているだけだ。

「…………お手柔らかにお願いしたいです」
「私はその場にいないだろうからどうなるか分からないのですわ。向こうでもシズトが相手をするのなら帰って来てからも通常通りになるかもしれないですけれど……」
「………なるほど」

 今回一緒にイルミンスールに行くのはジュリウスだけではない。
 ホムンクルス組からはホムラとユキ、それからクーが一緒に行く。
 クーは既に僕が背負っていて、ホムラたちは居残り予定のノエルに釘を刺しに行っているからこの場にはいない。
 冒険者組からはラオさん、ルウさん、シンシーラ、パメラの四人がついて来る予定だ。
 四人共、当然のように武装しているが、手荷物はほとんどない。空間を共有しているアイテムバッグをそれぞれが身に着けているくらいだろうか。
 その他に、世界樹の番人であるエルフたちも向こうに行くそうだけど、その中にジュリーニとジュリエッタさんが含まれていた。手を振ったら各々頭を下げたり手を振ったりしてくれた。
 近衛兵さんたちはこっちに残って屋敷周辺の警戒と、レヴィさんの警護をするそうだ。
 妊娠しているレヴィさんとモニカを置いていくのはだいぶ心配だけど、向こうに連れて行くのも怖い。
 都市国家イルミンスールでは呪いが広まっているらしいから、矛先が彼女たちに向かうかもしれないと考えたら、とてもじゃないけど連れて行くという選択肢は思い浮かばなかった。

「お?」
「ひかった?」
「光ったかも!」
「ぴかぴか~」
「お~~~」

 新しく設置した転移陣に、わらわらと集まっていたドライアドたちが歓声を上げた。ドライアドたちが大量に乗っていたからよく見えなかったけど、どうやら向こうの準備も整ったようだ。
 今回は魔石の消費量よりも、安全を優先するために複数回に分けて向こうに転移する事になっている。
 最初に向こうへと向かうのはジュリウスを含めた世界樹の番人たちだ。
 向こうの安全が確認でき次第、僕たちが順次向かう事になっている。ちなみに僕とクー、ホムラ、ユキの四人は一番最後だ。

「くれぐれも無茶しないでね」
「かしこまりました」
「危なかったらすぐに逃げてね?」
「承知しております。命大事に、ですね」

 ジュリウスの口から出る言葉を信用できないのはなぜだろうか。
 彼と一緒に向こうへ向かうエルフたちも信用できないし……やっぱりジュリウスたちと一緒に誰か向かわせた方が良いんじゃないかな。
 そう思ってジュリウスに聞いてみたけど、首を横に振られた。
 レヴィさんには「諦めるのですわ」と言われた。意志はとても固いようだ。
 僕には、ジュリウスたちに何事もない事を祈りつつ見送る事しかできなかった。



 ジュリウスたちが転移してからしばらくして、アイテムバッグの中に問題ない事を伝える手紙が入っている事にレヴィさんが気づいた。

「事前に話をしていた通り、暗号も使われているのですわ」
「じゃあ、次はアタシらの番だな」
「行ってくるわね、シズトくん」
「早く向こうに行って様子を見て回りたいデス!」
「それは後回しじゃん。向こうに着いたらまずは安全確認をする事が先決じゃん」

 ラオさんたちが話をしながら転移陣に乗った。
 すぐに魔法陣が青白く輝き、彼女たちを別の場所へと転移させた。
 再びしばらく待っていると、ホムラとユキがやってくる頃にラオさんたちから手紙が届いた。

「問題ないですわね。それじゃあ、気を付けて行ってくるのですわ」
「レヴィさんとモニカもお腹は気を付けてね? 働き過ぎはダメだよ」
「分かってるのですわ」

 本当だろうか。ちょっと心配になる。
 セシリアさんとエミリーに視線を向けると二人ともゆっくりと頷いたので、彼女たちに任せよう。

「シズト様、ランチェッタ様にも同じお言葉をお願いします」

 それまで静かに僕たちの様子を見ていた褐色肌の女性ディアーヌさんが一歩進み出て口を開いた。
 今日もメイド服を完璧に着こなしていて、口元も綺麗な笑みを浮かべていた。

「え? でも、ランチェッタさんってお腹にまだ子どもは……」
「ええ、いません。ただ、仕事ばかりして倒れてしまうのではないかと不安で不安で……」
「最近は減らしてるでしょ!?」

 ディアーヌさんと同じ褐色肌の小柄な女性ランチェッタさんがディアーヌさんを下がらせた。
 それから僕を見ると一つ咳ばらいをしてから何事もなかったかのように僕の方を見た。

「レヴィの事はしっかりと見ておくわ。だから、安心して向こうの世界樹のお世話をしてきなさい」
「ありがと。ランチェッタさんも体調には気を付けてね。あんまり仕事をし過ぎないようにね?」
「分かっているわ」
「シズトが帰ってきてからたっぷりと時間を取って愛してくれるなら、調整が聞くように手配するのに……って考えてそうですわ!」
「そんな事考えてないわよ!?」

 そうだね、考えてないね。レヴィさんは『考えてそう』としか言ってないし。
 ただ、ランチェッタさんのフォローを入れていると、このままなし崩し的に帰ってきたら今まで以上にたっぷりと皆と愛し合う事になりそうだからさっさと転移する事にした。

「って、あれ!? 青バラちゃんもついてきちゃったの?」
「皆が『行く~』って言って譲りそうもなかったから、私が代表で行く事になったの~」
「…………そっか」

 話が通じる方のドライアドである青バラちゃんならまだいい……のか?
 分からないけど周囲を見ると、どうやら世界樹の根元のすぐ近くではなく、世界樹を囲うも森の中に転移したようだ。

「ジュリウス、周囲の状況は?」
「我々とイルミンスールの使節団以外、見当たりません」

 ジュリウスの視線を追うと、少し離れたところでキラリーさんが跪いていた。
 ジュリエッタさんがその近くにいて、魔道具『鑑定眼鏡』をかけている。邪神の加護を授かっていないか確認していたようだ。
 ジュリウスの側には小柄なエルフ、ジュリーニもいて周囲の索敵をしてくれていたようだけど特に問題はないらしい。

「とりあえず、世界樹まで行こうか。皆で行っても大丈夫?」

 他の国だと禁足地として指定されているみたいだけど、今回は状況が状況だし、出来ればまとまって動きたい。
 僕の問いかけを受けて、イルミンスールの使節団の代表であるキラリーさんが顔を上げて「問題ございません」と頷いた。

「ドライアドとドラゴンにも話は通してあります」

 それなら大丈夫……かな?
 安全第一で周囲の索敵をしてもらいながら進む事にした。

「空から様子を見てくるデス!」
「パメラ、ステイ! 誰か止めて!」
「仕方ないじゃん……」

 バタバタと飛び立とうとするパメラをシンシーラが小脇に抱えながら先に進むのだった。
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