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第21章 魔道具を作りながら生きていこう
幕間の物語214.指揮官たちは上手くいきすぎて不安
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ヤマト・タケルが夜伽の相手を待つために寝具に寝転がってから一時間ほど経った頃、彼の子どもであるメグミとサトリは彼の部屋でベッドの上で横たわっている父親を呆然とした様子で見ていた。
「……驚くほど上手くいったな。夢かと思うくらいだ」
「現実だよ、姉さん。……やっぱり、今回使われた魔道具、量産できないか解析した方が良いんじゃないか?」
「私に死ねと言っているのか?」
二人の会話に反応する事なく、彼女たちの父親は横になったまま動かない。彼の右手には『加護無しの腕輪』という魔道具が嵌められている。
そして、彼の枕は普段使っている枕カバーと『安眠カバー』と呼ばれる魔道具がすり替えられていた。
先程までは敷布団と枕の隙間から淡い光が漏れ出ていたのだが、今はもう魔法陣は光っていない。
それもそのはず、ヤマト・タケルは既にメグミによって心臓を剣で貫かれ、殺されていたからだ。胸元から突き立てられていた剣は既に抜かれていて、タケルを中心にシーツが赤く染まっていた。
魔道具『安眠カバー』の効果によって強制入眠させられて無防備となっていた父親を、そのまま拘束して幽閉する事も考えていたが、不安材料が多すぎるという事で父親は実の子に暗殺されたのだった。
魔道具によって眠らされたまま亡くなったタケルの表情は安らぎに満ちており、普段厳つい表情しか見ていなかったメグミは、サトリのくだらない提案をバッサリと切り捨てながら「こんな顔もできるんだな」とどうでもいい事を考えていた。
「ちょっとくらいならバレないんじゃね?」
「お前と同じ加護を持った者があのお方の側にいるのを忘れているわけじゃないよな?」
「………」
「返却をする時はまず間違いなく彼女が同席するだろう。その場合、どれだけ取り繕ってもバレる」
「じゃあ姉さんに報せず、誰かにやらせようか?」
「私に今話している時点でそれはもう無理だな。それに、監視がついていたらどうするんだ。この話でさえ聞かれている可能性だってゼロではない。ただでさえヤマトの状況は危ういんだ。これ以上悪い印象を与えたくない。この二つの魔道具だけは私が責任を持って預かり、返却する」
ヤマトの大王という地位から父親を引きずり下ろすために貸与された魔道具はタケルの注意をそらすため様々な物があったが、特に取扱注意と言われた『加護無しの腕輪』と『安眠カバー』だけは厳重に管理しよう、と決意を固めたメグミは、まだ温かい父親の体から『加護無しの腕輪』を外した。
それから、父親の頭の下にあった枕を引っ張って抜くと、枕カバーを外し、貸し出されたアイテムバッグの中にしまった。
「お前だってそれが一番ヤマトのためだと分かっているのだろう?」
「……まあね。姉さんが余計な事を考えないか、ちょっとカマをかけただけさ。亡国の王子になんてなりたくないからね。しかも四ヵ国からはだいぶ恨みを買っている国の王子様だ。その後の人生はお先真っ暗だろ? まあ、国が滅びなくても俺たちの未来は暗いかもだけど。頼みの綱だったメグミ姉さんも、見事に振られちゃったからなぁ」
「どうにかしてあのお方の後ろ盾が欲しい所だが……」
「あのお方は戦嫌いだから不興を買いたくない他の国々が攻め込んでくる事はまずないだろうけど、このままだと和平後のヤマトの立場が弱くなるだろうからな。敵対しちゃってるし」
魔道具の作成者であり世界樹を育む加護も持っているシズトという転移者の身内となれば国内外問わずメグミが大王になる事に異議を唱える者はいなかっただろう。
だが、肝心のシズトはというと、これ以上相手を増やしたくない、という固い意思があったとサトリはメグミに伝えていた。
メグミとしても心休まる日が来ないかもしれない、と覚悟をしていたため、心のどこかでホッとしていたが、それだとシズトの後ろ盾がないという事でヤマトの立場は弱くなるだろう。
「邪神の信奉者とのつながりがあった、とも言われているから猶更だな。ヤマトの上層部であればお父様と邪神の信奉者が何らかの方法で連絡を取り合い協力関係にあった、という事は知っているが、私を含め、お父様以外はあの者たちを避けていたからな。どこが拠点なのかすら分からん」
「それが分かったら手土産になったんだろうけどね。……やっぱすぐに殺すのはまずかったんじゃない?」
「加護無しの腕輪のおかげで加護を使う事は封じられるが、実際に試した時、魔法は封じる事ができなかっただろう? お父様であれば、加護が使えなかったとしても私たちでは到底敵う相手ではなかったんだ。目が覚めた時に魔法を使って逃げられでもしたら、それこそ取り返しのつかない事態になっていただろう」
「最善ではないけど、最悪でもない、か」
メグミは一度頷くと「さっさと片付けるぞ」とサトリを促し、二人で大王の遺体を運ぶのだった。
その後、アイテムバッグや水を生み出す魔道具など高価な物を着服しようとした愚か者もいたが、メグミ率いる憲兵に捕縛され、処罰された。
アイテムバッグの中に貸与された魔道具が全てある事を確認したメグミは、サトリを道連れにして、まっすぐに世界樹フソーを目指すのだった。
「……驚くほど上手くいったな。夢かと思うくらいだ」
「現実だよ、姉さん。……やっぱり、今回使われた魔道具、量産できないか解析した方が良いんじゃないか?」
「私に死ねと言っているのか?」
二人の会話に反応する事なく、彼女たちの父親は横になったまま動かない。彼の右手には『加護無しの腕輪』という魔道具が嵌められている。
そして、彼の枕は普段使っている枕カバーと『安眠カバー』と呼ばれる魔道具がすり替えられていた。
先程までは敷布団と枕の隙間から淡い光が漏れ出ていたのだが、今はもう魔法陣は光っていない。
それもそのはず、ヤマト・タケルは既にメグミによって心臓を剣で貫かれ、殺されていたからだ。胸元から突き立てられていた剣は既に抜かれていて、タケルを中心にシーツが赤く染まっていた。
魔道具『安眠カバー』の効果によって強制入眠させられて無防備となっていた父親を、そのまま拘束して幽閉する事も考えていたが、不安材料が多すぎるという事で父親は実の子に暗殺されたのだった。
魔道具によって眠らされたまま亡くなったタケルの表情は安らぎに満ちており、普段厳つい表情しか見ていなかったメグミは、サトリのくだらない提案をバッサリと切り捨てながら「こんな顔もできるんだな」とどうでもいい事を考えていた。
「ちょっとくらいならバレないんじゃね?」
「お前と同じ加護を持った者があのお方の側にいるのを忘れているわけじゃないよな?」
「………」
「返却をする時はまず間違いなく彼女が同席するだろう。その場合、どれだけ取り繕ってもバレる」
「じゃあ姉さんに報せず、誰かにやらせようか?」
「私に今話している時点でそれはもう無理だな。それに、監視がついていたらどうするんだ。この話でさえ聞かれている可能性だってゼロではない。ただでさえヤマトの状況は危ういんだ。これ以上悪い印象を与えたくない。この二つの魔道具だけは私が責任を持って預かり、返却する」
ヤマトの大王という地位から父親を引きずり下ろすために貸与された魔道具はタケルの注意をそらすため様々な物があったが、特に取扱注意と言われた『加護無しの腕輪』と『安眠カバー』だけは厳重に管理しよう、と決意を固めたメグミは、まだ温かい父親の体から『加護無しの腕輪』を外した。
それから、父親の頭の下にあった枕を引っ張って抜くと、枕カバーを外し、貸し出されたアイテムバッグの中にしまった。
「お前だってそれが一番ヤマトのためだと分かっているのだろう?」
「……まあね。姉さんが余計な事を考えないか、ちょっとカマをかけただけさ。亡国の王子になんてなりたくないからね。しかも四ヵ国からはだいぶ恨みを買っている国の王子様だ。その後の人生はお先真っ暗だろ? まあ、国が滅びなくても俺たちの未来は暗いかもだけど。頼みの綱だったメグミ姉さんも、見事に振られちゃったからなぁ」
「どうにかしてあのお方の後ろ盾が欲しい所だが……」
「あのお方は戦嫌いだから不興を買いたくない他の国々が攻め込んでくる事はまずないだろうけど、このままだと和平後のヤマトの立場が弱くなるだろうからな。敵対しちゃってるし」
魔道具の作成者であり世界樹を育む加護も持っているシズトという転移者の身内となれば国内外問わずメグミが大王になる事に異議を唱える者はいなかっただろう。
だが、肝心のシズトはというと、これ以上相手を増やしたくない、という固い意思があったとサトリはメグミに伝えていた。
メグミとしても心休まる日が来ないかもしれない、と覚悟をしていたため、心のどこかでホッとしていたが、それだとシズトの後ろ盾がないという事でヤマトの立場は弱くなるだろう。
「邪神の信奉者とのつながりがあった、とも言われているから猶更だな。ヤマトの上層部であればお父様と邪神の信奉者が何らかの方法で連絡を取り合い協力関係にあった、という事は知っているが、私を含め、お父様以外はあの者たちを避けていたからな。どこが拠点なのかすら分からん」
「それが分かったら手土産になったんだろうけどね。……やっぱすぐに殺すのはまずかったんじゃない?」
「加護無しの腕輪のおかげで加護を使う事は封じられるが、実際に試した時、魔法は封じる事ができなかっただろう? お父様であれば、加護が使えなかったとしても私たちでは到底敵う相手ではなかったんだ。目が覚めた時に魔法を使って逃げられでもしたら、それこそ取り返しのつかない事態になっていただろう」
「最善ではないけど、最悪でもない、か」
メグミは一度頷くと「さっさと片付けるぞ」とサトリを促し、二人で大王の遺体を運ぶのだった。
その後、アイテムバッグや水を生み出す魔道具など高価な物を着服しようとした愚か者もいたが、メグミ率いる憲兵に捕縛され、処罰された。
アイテムバッグの中に貸与された魔道具が全てある事を確認したメグミは、サトリを道連れにして、まっすぐに世界樹フソーを目指すのだった。
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