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第21章 魔道具を作りながら生きていこう
幕間の物語209.代理人たちはゆっくり食べた
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シズトたちがクレストラ大陸へと行っている頃、シズトのお嫁さんの一人であるジューンは、シグニール大陸に留まっていた。
「おはようございますぅ」
「「「おはようございます、ジューン様」」」
ジューンは毎朝起きて身支度を終えるとすぐに厨房へと顔を出す。
その厨房には奴隷の証である首輪を身に着けた少女三人と、少年が一人いた。
少女三人はそれぞれのタイプの違う女の子だったが、火傷痕が酷い少年に想いを寄せているようだ。
少女たちの想いを知ってか知らずか、少年は今日も何かを言われると必ず「知らんけど」と口癖のように言いながら業務に励んでいた。
「ではぁ、今日の予定を確認しますからぁ、作業をやめてくださぁい」
「分かりました」
「ほら、バーンくん、急いで!」
バーンと呼ばれた男の子は、それまでしていた洗い物を中断すると、手を拭いてからジューンの下へと駆け寄った。
ジューンは全員が揃った事を確認すると、ゆっくりと話し始めた。
「それではぁ、今日の予定を言いますねぇ。まずぅ、朝は私とランチェッタちゃんの二人が食事をしますぅ。付き人のディアーヌちゃんは要らないそうですからぁ、二人分の用意をしてくださぁい。普段よりも量が少ないんですけどぉ、ドライアドちゃんたちがくれた食材を使う事を忘れないようにしてくださいねぇ。ランチェッタちゃんは女王陛下ですからぁ、気を引き締めて美味しい料理を作ってくださいねぇ」
「「「分かりました」」」
三人の元気のいい返事を聞いて満足そうなジューンは、視線をそのままバーンという少年に向けた。
彼は「できる限り頑張ります。知らんけど」というと、皿洗いに戻っていく。
他の三人組も、普段は一人の少年を巡って口論が絶えないのだが、幼い頃からの付き合いを活かした連携で、テキパキと料理を作って行っている。
(これなら大丈夫そうねぇ)
ジューンは踵を返して厨房を後にした。
静かな廊下を一人で歩き続け、玄関から外に出るともうすぐ日が昇る頃だった。
夜の間、畑の見回りをしていたドライアドたちが眠たそうに欠伸をしたり土の中に埋もれたりしている。
その一方で、土に埋まっていた子たちが土の中から這い出てきて大きく伸びをしたり、体についた土を払い落としたりもしていた。
「エルフさんおはよ~」
「はよはよ~」
「おはようございます」
「人間さんもおはよ~」
「おはようございます」
「おえかきするの?」
「おしゃべりするの?」
「どっちもです」
ジューンを見かけては挨拶をしてくるドライアドたちに混ざって挨拶をしたのはラピス・フォン・ドラゴニア。この国の第二王女で、現在魔国ドタウィッチに留学中の少女だ。
研究熱心な彼女は、ある事を調べ始めると満足するまで調べ続ける癖があった。
今はドライアドに夢中なのだろう。連日、早朝と授業後にやってきてはドライアドたちの様子を観察したり聞き取りを試みたりしている。
「ラピスちゃんはぁ、ご飯食べていきますかぁ?」
「私は結構です。戻って食べますから」
「そうですかぁ。残念ですぅ」
ラピスと別れた後、ジューンが向かったのは畑の中にポツンとある祠だ。
普段は別館で暮らしているエルフのジュリーンや、ダークエルフのダーリアが清掃しているが、ジューンも暇を見つけては同じ事をしていた。
一通り周囲を綺麗にし終えると、祠に向かって手を合わせ、目を瞑って祈りを捧げるジューン。
その周りにいたドライアドも、真似をするように手を合わせて遊んでいた。
「……ドライアドの模倣は、興味関心から来るものなのか、それとも個という概念が希薄だから近くの仲間がしている事と同じ事をしたがるのか。真偽は不明だがある程度関係を持った者でないと真似したがらない、と」
その様子を少し離れたところからスケッチしていたラピスは小さな声で呟きながら、絵にメモ書きを追加していた。
お祈りを済ませた頃に、転移陣を使ってガレオールの女王であるランチェッタ・ディ・ガレオールとその侍女ディアーヌが転移してきた。
ランチェッタは露出の少ないドレスを着ていた。元々暑がりだった彼女だが、肌を出す事は好きではなかったので、シズトに『適温ドレス』を作ってもらってからそればかりを好んで着ていた。
もう数点おねだりした方が良いだろうか、とディアーヌが考えるくらい毎日着ている。
「おはようございますぅ。今日もいらっしゃったんですねぇ」
「ええ。同じ人を支える妻として、仲良くなっておきたいから」
「光栄ですぅ。それではぁ、食堂に行きましょうかぁ」
ランチェッタとディアーヌが着く頃には既に食事の準備が終わっていた。
ディアーヌが料理に問題がないか魔道具を使って確認をしている間に、向かい合わせに座った二人はお互いの事について話をしていた。ただ、自分たちの事についてはある程度知っていたので、自然と話は彼女たちが好きな人についての話になっていった。
「シズトちゃんたちは元気にしてるかしらぁ」
「手紙には観光を楽しんだってあったわ。ただ、思い描いていた観光とはちょっと違ったみたいだけど」
「どういうことですかぁ?」
「なんて事ないわ。護衛を引き連れての観光だったから、緊張したし申し訳なかったって」
「立場的に、仕方がない事ですねぇ」
「向こうの国々としても、万が一自国の民が何かしでかしたらって不安になったんでしょうね」
「シズトちゃんは偉ぶらない所が良い所ですけどぉ、偉い人って雰囲気がなさ過ぎて絡まれそうですもんねぇ」
「そうね。………ジューンはシズトのそういう所が好きなの?」
「はい?」
きょとんとした表情で首を傾げたランチェッタはそわそわと視線を動かして、室内には給仕をするディアーヌ以外誰もいない事を確認すると、口を開いた。
「シズトのどこに惹かれたのかなって。レヴィから届いた手紙にはそういう話をして盛り上がったってあったから……わたくしもしてみたいな、と」
「なるほどぉ。そうですねぇ……そういう所も素敵だなぁと思いますけどぉ、きっかけはこんな私でも愛してくれた事ですねぇ。おかげさまでぇ、今では自信をもって人前に立つことが出来ますぅ」
「お食事の確認が済みました。どうぞ、お召し上がりください」
話しの区切りを見計らっていたディアーヌが二人の前に料理を並べていく。
窓の外からジーッと様子を見ていたドライアドたちは、新鮮な野菜サラダやスープの中に収穫物がたくさん含まれている事を確認すると満足そうに頷いて離れていく。その様子を観察していたラピスも、ドライアドの後について行った。
窓から覗いていた者たちがいなくなっても、ランチェッタとジューンはゆっくりと食事をとりながらシズトの好きな所を話し合った。
その様子を壁際に控えていたディアーヌは嬉しそうに見守るのだった。
「おはようございますぅ」
「「「おはようございます、ジューン様」」」
ジューンは毎朝起きて身支度を終えるとすぐに厨房へと顔を出す。
その厨房には奴隷の証である首輪を身に着けた少女三人と、少年が一人いた。
少女三人はそれぞれのタイプの違う女の子だったが、火傷痕が酷い少年に想いを寄せているようだ。
少女たちの想いを知ってか知らずか、少年は今日も何かを言われると必ず「知らんけど」と口癖のように言いながら業務に励んでいた。
「ではぁ、今日の予定を確認しますからぁ、作業をやめてくださぁい」
「分かりました」
「ほら、バーンくん、急いで!」
バーンと呼ばれた男の子は、それまでしていた洗い物を中断すると、手を拭いてからジューンの下へと駆け寄った。
ジューンは全員が揃った事を確認すると、ゆっくりと話し始めた。
「それではぁ、今日の予定を言いますねぇ。まずぅ、朝は私とランチェッタちゃんの二人が食事をしますぅ。付き人のディアーヌちゃんは要らないそうですからぁ、二人分の用意をしてくださぁい。普段よりも量が少ないんですけどぉ、ドライアドちゃんたちがくれた食材を使う事を忘れないようにしてくださいねぇ。ランチェッタちゃんは女王陛下ですからぁ、気を引き締めて美味しい料理を作ってくださいねぇ」
「「「分かりました」」」
三人の元気のいい返事を聞いて満足そうなジューンは、視線をそのままバーンという少年に向けた。
彼は「できる限り頑張ります。知らんけど」というと、皿洗いに戻っていく。
他の三人組も、普段は一人の少年を巡って口論が絶えないのだが、幼い頃からの付き合いを活かした連携で、テキパキと料理を作って行っている。
(これなら大丈夫そうねぇ)
ジューンは踵を返して厨房を後にした。
静かな廊下を一人で歩き続け、玄関から外に出るともうすぐ日が昇る頃だった。
夜の間、畑の見回りをしていたドライアドたちが眠たそうに欠伸をしたり土の中に埋もれたりしている。
その一方で、土に埋まっていた子たちが土の中から這い出てきて大きく伸びをしたり、体についた土を払い落としたりもしていた。
「エルフさんおはよ~」
「はよはよ~」
「おはようございます」
「人間さんもおはよ~」
「おはようございます」
「おえかきするの?」
「おしゃべりするの?」
「どっちもです」
ジューンを見かけては挨拶をしてくるドライアドたちに混ざって挨拶をしたのはラピス・フォン・ドラゴニア。この国の第二王女で、現在魔国ドタウィッチに留学中の少女だ。
研究熱心な彼女は、ある事を調べ始めると満足するまで調べ続ける癖があった。
今はドライアドに夢中なのだろう。連日、早朝と授業後にやってきてはドライアドたちの様子を観察したり聞き取りを試みたりしている。
「ラピスちゃんはぁ、ご飯食べていきますかぁ?」
「私は結構です。戻って食べますから」
「そうですかぁ。残念ですぅ」
ラピスと別れた後、ジューンが向かったのは畑の中にポツンとある祠だ。
普段は別館で暮らしているエルフのジュリーンや、ダークエルフのダーリアが清掃しているが、ジューンも暇を見つけては同じ事をしていた。
一通り周囲を綺麗にし終えると、祠に向かって手を合わせ、目を瞑って祈りを捧げるジューン。
その周りにいたドライアドも、真似をするように手を合わせて遊んでいた。
「……ドライアドの模倣は、興味関心から来るものなのか、それとも個という概念が希薄だから近くの仲間がしている事と同じ事をしたがるのか。真偽は不明だがある程度関係を持った者でないと真似したがらない、と」
その様子を少し離れたところからスケッチしていたラピスは小さな声で呟きながら、絵にメモ書きを追加していた。
お祈りを済ませた頃に、転移陣を使ってガレオールの女王であるランチェッタ・ディ・ガレオールとその侍女ディアーヌが転移してきた。
ランチェッタは露出の少ないドレスを着ていた。元々暑がりだった彼女だが、肌を出す事は好きではなかったので、シズトに『適温ドレス』を作ってもらってからそればかりを好んで着ていた。
もう数点おねだりした方が良いだろうか、とディアーヌが考えるくらい毎日着ている。
「おはようございますぅ。今日もいらっしゃったんですねぇ」
「ええ。同じ人を支える妻として、仲良くなっておきたいから」
「光栄ですぅ。それではぁ、食堂に行きましょうかぁ」
ランチェッタとディアーヌが着く頃には既に食事の準備が終わっていた。
ディアーヌが料理に問題がないか魔道具を使って確認をしている間に、向かい合わせに座った二人はお互いの事について話をしていた。ただ、自分たちの事についてはある程度知っていたので、自然と話は彼女たちが好きな人についての話になっていった。
「シズトちゃんたちは元気にしてるかしらぁ」
「手紙には観光を楽しんだってあったわ。ただ、思い描いていた観光とはちょっと違ったみたいだけど」
「どういうことですかぁ?」
「なんて事ないわ。護衛を引き連れての観光だったから、緊張したし申し訳なかったって」
「立場的に、仕方がない事ですねぇ」
「向こうの国々としても、万が一自国の民が何かしでかしたらって不安になったんでしょうね」
「シズトちゃんは偉ぶらない所が良い所ですけどぉ、偉い人って雰囲気がなさ過ぎて絡まれそうですもんねぇ」
「そうね。………ジューンはシズトのそういう所が好きなの?」
「はい?」
きょとんとした表情で首を傾げたランチェッタはそわそわと視線を動かして、室内には給仕をするディアーヌ以外誰もいない事を確認すると、口を開いた。
「シズトのどこに惹かれたのかなって。レヴィから届いた手紙にはそういう話をして盛り上がったってあったから……わたくしもしてみたいな、と」
「なるほどぉ。そうですねぇ……そういう所も素敵だなぁと思いますけどぉ、きっかけはこんな私でも愛してくれた事ですねぇ。おかげさまでぇ、今では自信をもって人前に立つことが出来ますぅ」
「お食事の確認が済みました。どうぞ、お召し上がりください」
話しの区切りを見計らっていたディアーヌが二人の前に料理を並べていく。
窓の外からジーッと様子を見ていたドライアドたちは、新鮮な野菜サラダやスープの中に収穫物がたくさん含まれている事を確認すると満足そうに頷いて離れていく。その様子を観察していたラピスも、ドライアドの後について行った。
窓から覗いていた者たちがいなくなっても、ランチェッタとジューンはゆっくりと食事をとりながらシズトの好きな所を話し合った。
その様子を壁際に控えていたディアーヌは嬉しそうに見守るのだった。
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