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第21章 魔道具を作りながら生きていこう
425.事なかれ主義者はお茶を濁した
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北にあるビッグマーケットはとても賑わっていた。
人間だけでも肌の色が異なる人々が行き交っているし、人間以外の種族もそこそこいる。エルフに獣人、ドワーフと様々だ。
空をビュンビュン飛んでいる揃いの服を身に纏った女性たちは、クロトーネという国の魔法師団の精鋭らしい。僕たちの護衛をしてくれている人たちの中にその団長と副団長がいるんだとか。
クロトーネはシグニール大陸でいうとドタウィッチみたいな所らしい。前衛職よりも後衛職の魔法使いとかが圧倒的に多いんだとか。
杖に跨って空を飛んでいる人もいれば、魔法で作った翼を使って自由自在に飛ぶ人もいた。
「……なるほど、翼を作る魔法もあるのか」
「まだ諦めてないんですか、空を飛ぶ事」
「箒と絨毯で十分じゃん?」
僕の視線を追ったエミリーとシンシーラが、呆れた様子で言うけど、一人で飛びたいんだよ。いまだに危ないからって理由で魔道具『空飛ぶ絨毯』も『空飛ぶ箒』も使わせてもらってないし。
パワースーツに浮遊機能も追加すれば浮く事はできそうだけど、推進力がないと浮くだけだし、エンジンでも搭載すればワンチャン?
首を傾げながら考える僕の前に、ズイッと串に刺さったお肉が差し出された。香辛料をふんだんに使われたそれはとても美味しそうな匂いを放っている。
それを差し出してきたのは、僕と同じく黒髪黒目の少女モニカだ。元貴族令嬢で、そういう教育をしっかり受けて来たのか歩く姿勢も佇む姿もピシッとしている。
「シズト様の好きそうな物が売られてました。冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがと、モニカ。……これって何のお肉?」
「ワイバーンの肉だそうです。ワイバーンの中では上位種の個体らしいですよ」
「高価そうなものだけど、わざわざ屋台で売ってるんだねぇ」
「屋台以外で出店する事を許可してないからじゃないでしょうか」
「あー、なるほど」
確かにこのマーケット外で店を出す事は許可してなかったな。
ここに来るまでの道で商いをしている人を見る事もなかったし。
熱いうちに、と言われたので一口サイズに切られたワイバーンの肉を頬張ると、スパイスがしっかり効いていて美味しい。まあ、ドラゴンの肉と比べたらそれほどでもないけど。
このワイバーンの肉はしっかりとした歯ごたえが特長なのだろうか。
もぐもぐと咀嚼しながら考えていると、エミリーとシンシーラは渡された肉串を既に食べ終えていた。肉食系獣人だからだろうか。
後ろからついて来るモニカを見ると、彼女はまだ手に串を持ったままだ。二本あるけど、もう片方は空を旋回しているパメラの分だろう。
「食べないの?」
「歩きながらはちょっと……」
「そっか。じゃあ道の端に寄ろうか」
店と店の間に移動して立ち止まると、頭上をくるくると飛び回っていたパメラが降りてきた。
「パメラも食べるデス!」
「どうぞ」
モニカはパメラにワイバーンの肉串を渡すと、ちびちびと自分の分も食べ始めた。
大口を開けて一気にもぎゅもぎゅと食べるパメラとは大違いだ。
二人が食べ終わったのを見ていると、隣にいたエミリーが僕の口元をハンカチで拭う。
「ありがと」
「どういたしまして」
肉汁でもついていただろうか。
自分の袖で拭ってみたけど、既に拭われた後だから何もつかなかった。
ビッグマーケットを北と南に分けたのは、単純に場所が足りないからだ。
ぐるりと北側のビッグマーケットを見てみたけど、どこもかしこも店が並んでいて、空きが一つもない。
各国で出店数を決めて制限しているようだけど、希望者が多すぎて困っているらしい。
モニカが仕入れた情報をいろいろと教えてくれるので、ついでに歩きながら相談をしている。
「広場の拡張工事も必要かな」
「もしくは、旧市街地の建物を店に変えて出店を許可するかですね」
「シズト様、次はあそこのお店行くデスよ!」
「今話し中だからもうちょっと待ってね」
さっき昼食を食べたというのに、パメラはまだ食べたりないらしい。
昼食の後、手を繋いでいたエミリーとシンシーラがそれぞれモニカとパメラを呼び寄せてポジションチェンジを提案していた。
モニカは「他の者たちが見ている前でその様な事はできません」と辞退しようとしていたけど、気にせず彼女の手を取ったらシンシーラとエミリーにグッと親指を立てられた。僕だって空気を読む時くらいあるんすよ。
ついでに左手で今にも飛び出して行きそうなパメラを捕まえて、今の状況に至る。
「残っている建物を利用するって言われても、壊れている場所もあるよ?」
「無事な建物の方が少ないでしょうね。それを修復して再利用するのか、一度壊して立て直すのかも含めて商人に任せればよろしいかと」
「なるほど」
「ただ、街を商人たちに無条件に貸し出したら根本的な解決に至らないでしょうけど。現在、希望者が殺到しているのは場所代を多少貰うだけでその他の税を取り立ててないからです。大商人も駆け出し商人も関係なく店を開いている状況ですから、何かしらの制限を設けない限り希望者は絶えないでしょうね」
「面白い店をたくさん呼び込むデス!」
「面白さという基準はどうかと思いますが、何かしら制限を設ければ数は減るでしょうね。審査をする手間は出てくるでしょうけど」
「なるほど……。ちなみに、モニカは何を基準にすればいいと思う?」
「出店をする場所の面積や立地や貸し出し期間などの条件に応じて一定額を納める事、ですね。そうすればある程度ふるいにかける事はできるでしょう」
「……それって税金みたいなものじゃない?」
「そうですね」
「……なるほど。とりあえず、ビッグマーケットの周囲の建物を取り壊して、拡張だけして様子を見ようかな」
一律でお金を取るのもいいけど、今まで出来ていた事が出来なくなったら不満を抱く人もいるだろう。
どうすれば皆が満足するのか思いつかないから、後でレヴィさんに相談してみよう。
「お話は終わったデスか? 終わったデスね! じゃあお店に行くデスよ!」
その後、ぐいぐいとパメラに引っ張られながら、街の散策を続けた。
ノエルのお土産として、ダンジョン産の魔道具をいくつか見繕う事もできたし、明日は魔道具作りを頑張ろう。
人間だけでも肌の色が異なる人々が行き交っているし、人間以外の種族もそこそこいる。エルフに獣人、ドワーフと様々だ。
空をビュンビュン飛んでいる揃いの服を身に纏った女性たちは、クロトーネという国の魔法師団の精鋭らしい。僕たちの護衛をしてくれている人たちの中にその団長と副団長がいるんだとか。
クロトーネはシグニール大陸でいうとドタウィッチみたいな所らしい。前衛職よりも後衛職の魔法使いとかが圧倒的に多いんだとか。
杖に跨って空を飛んでいる人もいれば、魔法で作った翼を使って自由自在に飛ぶ人もいた。
「……なるほど、翼を作る魔法もあるのか」
「まだ諦めてないんですか、空を飛ぶ事」
「箒と絨毯で十分じゃん?」
僕の視線を追ったエミリーとシンシーラが、呆れた様子で言うけど、一人で飛びたいんだよ。いまだに危ないからって理由で魔道具『空飛ぶ絨毯』も『空飛ぶ箒』も使わせてもらってないし。
パワースーツに浮遊機能も追加すれば浮く事はできそうだけど、推進力がないと浮くだけだし、エンジンでも搭載すればワンチャン?
首を傾げながら考える僕の前に、ズイッと串に刺さったお肉が差し出された。香辛料をふんだんに使われたそれはとても美味しそうな匂いを放っている。
それを差し出してきたのは、僕と同じく黒髪黒目の少女モニカだ。元貴族令嬢で、そういう教育をしっかり受けて来たのか歩く姿勢も佇む姿もピシッとしている。
「シズト様の好きそうな物が売られてました。冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがと、モニカ。……これって何のお肉?」
「ワイバーンの肉だそうです。ワイバーンの中では上位種の個体らしいですよ」
「高価そうなものだけど、わざわざ屋台で売ってるんだねぇ」
「屋台以外で出店する事を許可してないからじゃないでしょうか」
「あー、なるほど」
確かにこのマーケット外で店を出す事は許可してなかったな。
ここに来るまでの道で商いをしている人を見る事もなかったし。
熱いうちに、と言われたので一口サイズに切られたワイバーンの肉を頬張ると、スパイスがしっかり効いていて美味しい。まあ、ドラゴンの肉と比べたらそれほどでもないけど。
このワイバーンの肉はしっかりとした歯ごたえが特長なのだろうか。
もぐもぐと咀嚼しながら考えていると、エミリーとシンシーラは渡された肉串を既に食べ終えていた。肉食系獣人だからだろうか。
後ろからついて来るモニカを見ると、彼女はまだ手に串を持ったままだ。二本あるけど、もう片方は空を旋回しているパメラの分だろう。
「食べないの?」
「歩きながらはちょっと……」
「そっか。じゃあ道の端に寄ろうか」
店と店の間に移動して立ち止まると、頭上をくるくると飛び回っていたパメラが降りてきた。
「パメラも食べるデス!」
「どうぞ」
モニカはパメラにワイバーンの肉串を渡すと、ちびちびと自分の分も食べ始めた。
大口を開けて一気にもぎゅもぎゅと食べるパメラとは大違いだ。
二人が食べ終わったのを見ていると、隣にいたエミリーが僕の口元をハンカチで拭う。
「ありがと」
「どういたしまして」
肉汁でもついていただろうか。
自分の袖で拭ってみたけど、既に拭われた後だから何もつかなかった。
ビッグマーケットを北と南に分けたのは、単純に場所が足りないからだ。
ぐるりと北側のビッグマーケットを見てみたけど、どこもかしこも店が並んでいて、空きが一つもない。
各国で出店数を決めて制限しているようだけど、希望者が多すぎて困っているらしい。
モニカが仕入れた情報をいろいろと教えてくれるので、ついでに歩きながら相談をしている。
「広場の拡張工事も必要かな」
「もしくは、旧市街地の建物を店に変えて出店を許可するかですね」
「シズト様、次はあそこのお店行くデスよ!」
「今話し中だからもうちょっと待ってね」
さっき昼食を食べたというのに、パメラはまだ食べたりないらしい。
昼食の後、手を繋いでいたエミリーとシンシーラがそれぞれモニカとパメラを呼び寄せてポジションチェンジを提案していた。
モニカは「他の者たちが見ている前でその様な事はできません」と辞退しようとしていたけど、気にせず彼女の手を取ったらシンシーラとエミリーにグッと親指を立てられた。僕だって空気を読む時くらいあるんすよ。
ついでに左手で今にも飛び出して行きそうなパメラを捕まえて、今の状況に至る。
「残っている建物を利用するって言われても、壊れている場所もあるよ?」
「無事な建物の方が少ないでしょうね。それを修復して再利用するのか、一度壊して立て直すのかも含めて商人に任せればよろしいかと」
「なるほど」
「ただ、街を商人たちに無条件に貸し出したら根本的な解決に至らないでしょうけど。現在、希望者が殺到しているのは場所代を多少貰うだけでその他の税を取り立ててないからです。大商人も駆け出し商人も関係なく店を開いている状況ですから、何かしらの制限を設けない限り希望者は絶えないでしょうね」
「面白い店をたくさん呼び込むデス!」
「面白さという基準はどうかと思いますが、何かしら制限を設ければ数は減るでしょうね。審査をする手間は出てくるでしょうけど」
「なるほど……。ちなみに、モニカは何を基準にすればいいと思う?」
「出店をする場所の面積や立地や貸し出し期間などの条件に応じて一定額を納める事、ですね。そうすればある程度ふるいにかける事はできるでしょう」
「……それって税金みたいなものじゃない?」
「そうですね」
「……なるほど。とりあえず、ビッグマーケットの周囲の建物を取り壊して、拡張だけして様子を見ようかな」
一律でお金を取るのもいいけど、今まで出来ていた事が出来なくなったら不満を抱く人もいるだろう。
どうすれば皆が満足するのか思いつかないから、後でレヴィさんに相談してみよう。
「お話は終わったデスか? 終わったデスね! じゃあお店に行くデスよ!」
その後、ぐいぐいとパメラに引っ張られながら、街の散策を続けた。
ノエルのお土産として、ダンジョン産の魔道具をいくつか見繕う事もできたし、明日は魔道具作りを頑張ろう。
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