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第20章 魔国を観光しながら生きていこう

412.事なかれ主義者は手で制された

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 結局、ドラ飯というお店でラピスさんも一緒に食事をする事になった。
 お店に向かっている間に、ラピスさんがぽつりぽつりと話をした事をまとめると、ラピスさんがめちゃくちゃ素っ気なかったのは、レヴィさんの前では何も考えないようにして機械的に応対する癖をつけていたかららしい。
 その癖を身に着けたのは、幼い頃にレヴィさんに対して負の感情を向けてしまい、傷つけてしまってからだそうだ。お父さんであるリヴァイさんが嫉妬するくらいお姉ちゃんっ子だったらしいから猶更ショックが大きかったのかもしれない。
 それ以来、またふとした拍子でマイナスな気持ちを読まれてしまうかもしれないと考えた彼女は、しばらくの間レヴィさんと関わらないようにしていたんだとか。
 今では考えられないけど、レヴィさんは引きこもりがちだったらしく、ラピスさんが部屋に近づかなければ良かったから距離を取るのは楽だったらしい。

「それから王女としての教育を受けると共に、相手に感情を読ませない技を応用して身に着けたんです。それ以来、直接傷つける事は無くなったんですけど、身に着けるのに時間がかかりすぎて気づいた時には数年が経ってました」
「なるほどねぇ」

 僕たちはドラ飯という看板が掲げられていたお店にいた。
 多くの人で賑わっていたけど、貴族や商人用の個室もあって、今はそこを使わせてもらっている。宴会でもするのかと思うほど広くて、いくつかテーブルもあった。
 四人掛けのテーブルには僕とレヴィさん、それからラピスさんが座っていた。姉妹水入らずでお話をすればいいのに、と思っていたけど「近くにいるだけでいいから」と二人に言われて同じ机で食事をする事になった。
 ラオさんたちはこちらの事を気にしつつも、別のテーブルに分かれて座っていた。まあ、別と言ってもそこそこ近いから会話は聞こえていると思うけど。
 苦笑を浮かべたラピスさんは僕の正面に座っている。
 レヴィさんは僕の隣に腰かけて、指に嵌めた加護無しの指輪を触りながらラピスさんの独白を聞いていたけど、僕の方に顔を向けてきた。

「数年の月日が経ってしまったのは、私にも原因があるのですわ。すぐにラピスに心を読んでしまった事を謝りに行けばよかったのですけれど、なかなか勇気が出なかったのですわ。私の代わりに王女としての仕事も学んでいるとセシリアから聞いて、それを言い訳にして会おうとしなかったのですわ」
「そうなんだねぇ」

 さっきから僕に話す体で話してるけど、話しにくくないの?
 相槌は打つけど、料理が来たらおざなりになるかもしれないからね?

「お互い申し訳なく思っていて、昔みたいに仲良くしたいって思ってるならそれでいいんじゃない? レヴィさんは仲良くしたいって思っているんでしょう?」
「当たり前なのですわ! 可愛い妹ですわ!」

 可愛いっていうか、かっこいい系だと思うんだけど今それを言うタイミングでは……ないね。分かります。
 壁際に控えていたセシリアさんがゆっくりと首を振っていたので僕はこくりと頷いておく。
 ……なんか普通に心読まれてる気がするんですけど気のせいっすかね?

「か、可愛いと言われる事は少ないのですけど……」
「そ、そうですわね。また身長伸びたのですわ?」
「ええ。背が高くても良い事は特にありませんが。……お姉様は、何と言いますか……昔と変わらない愛らしさに加えて……その……」
「大きくなったのですわ。まあ、魔道具のおかげなのですけれど。ラピスも使うのですわ?」
「結構です」

 即答だった。
 ラピスさんの胸に視線が行きそうになったのをグッと堪える。

「大きくても不便だと聞きますし、私には不要ですから」
「殿方を夢中にさせる事もできるのですわ」
「私は研究さえできればそれでいいので」
「……そういえば、どんな研究をしているの?」
「呪いの魔法に関する研究です。ご結婚されているからご存じかと思いますが……」

 ラピスさんが意味ありげにもう一つの方のテーブルに視線を向けた。
 そちらには先にドラ飯名物のドラゴンステーキが出されていた。ってかめっちゃ良い匂いなんだけど!
 こっちのはまだっすかね! さっき悩み過ぎて頼むのが最後になっちゃったのが良くなかったっすかね!

「隠し事は無しって約束をしているから、全員知っているのですわ」
「そうですか」
「それにしても、呪いの研究をしているとは思わなかったのですわ」
「他の研究も同時並行で行ってますよ。ただ、幸運にも私には魔法の才能があったみたいで、禁書庫の立ち入りも許可されるレベルのクラスに入れましたから、ついでです」

 ラオさんとルウさんがいつもよりもめちゃくちゃゆっくり食べてる!
 まあ、高級品だもんね。味わって食べないと損だよね。
 ホムラとユキはクーのお世話を僕の代わりにしながらドラゴンの肉を堪能しているようだ。いつもみたいに口元を汚していないのはクーのお世話に手がかかるからだろうか。
 ノエルはドラゴンのお肉を食べながらこの国のお店で買った魔道具をじっと観察している。ドラゴンのお肉じゃない物を口に入れても気づかないんじゃないだろうか。

「何か成果があれば報告をしようと思っていたんです。それがあればまた自然にお話ができるかと」
「そんな物がなくても、ちゃんとお話はするのですわ」

 セシリアさんセシリアさん、涙ぐんでるところ申し訳ないんすけど、僕のドラゴンステーキはまだっすかね?
 匂いと話し声でちょっと気になりすぎるんですけど……あ、はい。大人しくしてます。
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