604 / 1,094
第20章 魔国を観光しながら生きていこう
405.事なかれ主義者はストライクゾーンを主張する
しおりを挟む
ランチェッタさんと披露宴を行ってから一週間ほど経ち、ドタウィッチ王国の内壁を越えて王城に行く事にした。
ノエルは先週から「すぐにでも魔道具師が欲しいっす!」とアピールしてたけど、クレストラ大陸の様子が気になったし、世界樹フソーの根元で待機してくれているホムンクルスのライデンに任せたい事も出来たから、ライデンと入れ替わりでクレストラ大陸に数日滞在した。
ライデンが対応してくれたのか、既に大国ヤマトと国境が接している四ヵ国の同盟国や友好国とは転移門で繋がっていた。転移門は分解して持ち運びしやすいようにしておいたけど、一週間ほどで行き届いたのは転移魔法の使い手や竜騎士などが活躍したらしい。
ヤマトの兵士を追い出して確保した旧市街地の南側に新しく開かれた大市場も連日大賑わいで、経済効果は大変な事になってそうだ。
大国ヤマトが何もしてこないのは、町の地面を鉄が覆っているのもあるだろうけど、商人たちと一緒に兵士たちも大勢やってきて、旧市街地を囲む城壁の外側に展開しているからだろう。今まで四ヵ国を抑え込んでいたヤマトだったけど、さすがに国が倍増したら下手に手出しできないよね。
四ヵ国同盟が八ヵ国同盟になった変化は、軍上層部にも影響を与えていて「力を合わせてヤマトを攻めよう」という意見が出てきているらしい。
ただ、その相談を受けたライデンが「シズト様は嫌がるだろうなぁ」と言って保留になっているんだとか。
うん、嫌がります。
大市場は「ヤマトが攻めてきたらおしまい」って事にしてたけど「こちらが攻めてもおしまい」にしようか悩み中だ。
ただ、僕に直接意見を求められていないので何も聞かなかった事にした。
世界樹フソーよりも北側にある残りの国々は、大市場の噂が広まりつつあるらしい。
その内、自分の国も繋げて欲しい、と申し出があるかもしれないとレヴィさんが言っていた。また転移門を作っておいた方が良いかな……。
ヤマトがこの流れに乗り遅れるのかどうかは大王様にかかっているんだけど、その大王様は僕とは相いれない思想をお持ちの方だし、どうやって現状を解決すればいいのか分からない。
大王様、変わってくれないかなぁ、とか思っている。
一週間考えても名案は思い付かなかったので、時間が解決してくれる事を祈ってシグニール大陸に帰ってきたのが昨日の事だ。
お留守番のために新しくホムンクルスも作った事だし、大丈夫だろう。
ガレオールも転移門の設置が順調に進んでいるみたいだし、今日はドタウィッチに集中する事ができそうだ。
「内壁を越えると一気に魔法の国みたいな感じになるね」
「そうですわね。内壁の外側は下民街と呼ばれている魔力があっても上手く魔法が使えない者たちが暮らしている場所ですわ。奴隷ほどではないですけれど、単純労働をするために集められた者たちで、魔法の研究の恩恵を受けられるのは一番最後の人たちですわね」
「……魔法が使えないけど、内壁に入ってもトラブルにならない?」
「そこは問題ありません。向こうが招いた側ですから」
招かれてないと問題になる、という事っすかね。
じゃあやっぱりノエルと一緒に入らなくてよかったな。
なんて事を考えながら馬車の窓から見える景色を眺めると、そこにはファンタジーな風景が広がっていた。……まあ、今更なんだけど。
空飛ぶ絨毯で移動している人もいるし、馬車を引いているのは馬じゃなくてペガサスだったりグリフォンだったりゴーレムだったりといろいろだ。
至る所に浮遊している両手に収まりそうなサイズの丸い物体もゴーレムらしいけど、あれは偵察用の物だろう、という事だった。
ジーッと目玉のような球体に見られている気がしたので見返していると別の方を向いてしまった。
「あ、そろそろ着くかな?」
「そうですわね。クーをそろそろ起こしておいた方が良いかもしれないですわ」
レヴィさんが僕の膝の上に頭を置いてスヤスヤと寝息を立てている女の子に視線を向けた。
先程から僕の膝の上で気持ちよさそうに眠っているのは、以前僕が作ったホムンクルスの内の一人であるクーだ。空のように青い髪の毛を優しく撫でると長い睫が動いた。
「ん~………すやぁ」
「狸寝入りやめようね。ほら、起きて起きて」
「………すやすや」
「寝てる人は口ですやすやなんて言わないからね」
小柄なクーは軽いので無理矢理起こす事も簡単だ。
レヴィさんと一緒に様子を見守ってくれていた侍女のセシリアさんが準備してくれた紐を受け取って、いつでも背負えるように準備をしておく。
それからしばらくすると馬車が停まった。
セシリアさんが「到着したようです」と立ち上がったので僕も立ち上がり、背中に飛びついてきたクーを紐で固定した。
最初にセシリアさんが降りて、その後にレヴィさんが続いた。
僕が最後に降りると、出迎えのために外にわざわざ出て来てくれたフランシス様が真っ白な髭を弄りながら僕たちを見た。
一瞬、僕の肩辺りを見た気がしたけど、クーを見たんだろうか。
「一週間ぶりじゃのう、シズト殿」
「そうですね、フランシス様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は無用じゃ。早速部屋に移動して話でもしようかのう」
身の丈ほどあって、先端に大きな宝石のような物がついている真っ白な杖をフランシス様が無造作に振るが、何も起きなかった。
ピクッと眉を動かしたフランシス様が視線を僕の肩にもう一度向けた。
「あーしの前で、お兄ちゃんをどこかに飛ばそうとするなんていい度胸じゃん?」
「なるほど、小さなお嫁さんだと思ったが、空間魔法の使い手か」
「クーは嫁じゃないです!」
イエス、ロリータ! ノー、タッチ! っていうし!
「シズト、今重要なのはそこじゃないと思うのですわ」
ノエルは先週から「すぐにでも魔道具師が欲しいっす!」とアピールしてたけど、クレストラ大陸の様子が気になったし、世界樹フソーの根元で待機してくれているホムンクルスのライデンに任せたい事も出来たから、ライデンと入れ替わりでクレストラ大陸に数日滞在した。
ライデンが対応してくれたのか、既に大国ヤマトと国境が接している四ヵ国の同盟国や友好国とは転移門で繋がっていた。転移門は分解して持ち運びしやすいようにしておいたけど、一週間ほどで行き届いたのは転移魔法の使い手や竜騎士などが活躍したらしい。
ヤマトの兵士を追い出して確保した旧市街地の南側に新しく開かれた大市場も連日大賑わいで、経済効果は大変な事になってそうだ。
大国ヤマトが何もしてこないのは、町の地面を鉄が覆っているのもあるだろうけど、商人たちと一緒に兵士たちも大勢やってきて、旧市街地を囲む城壁の外側に展開しているからだろう。今まで四ヵ国を抑え込んでいたヤマトだったけど、さすがに国が倍増したら下手に手出しできないよね。
四ヵ国同盟が八ヵ国同盟になった変化は、軍上層部にも影響を与えていて「力を合わせてヤマトを攻めよう」という意見が出てきているらしい。
ただ、その相談を受けたライデンが「シズト様は嫌がるだろうなぁ」と言って保留になっているんだとか。
うん、嫌がります。
大市場は「ヤマトが攻めてきたらおしまい」って事にしてたけど「こちらが攻めてもおしまい」にしようか悩み中だ。
ただ、僕に直接意見を求められていないので何も聞かなかった事にした。
世界樹フソーよりも北側にある残りの国々は、大市場の噂が広まりつつあるらしい。
その内、自分の国も繋げて欲しい、と申し出があるかもしれないとレヴィさんが言っていた。また転移門を作っておいた方が良いかな……。
ヤマトがこの流れに乗り遅れるのかどうかは大王様にかかっているんだけど、その大王様は僕とは相いれない思想をお持ちの方だし、どうやって現状を解決すればいいのか分からない。
大王様、変わってくれないかなぁ、とか思っている。
一週間考えても名案は思い付かなかったので、時間が解決してくれる事を祈ってシグニール大陸に帰ってきたのが昨日の事だ。
お留守番のために新しくホムンクルスも作った事だし、大丈夫だろう。
ガレオールも転移門の設置が順調に進んでいるみたいだし、今日はドタウィッチに集中する事ができそうだ。
「内壁を越えると一気に魔法の国みたいな感じになるね」
「そうですわね。内壁の外側は下民街と呼ばれている魔力があっても上手く魔法が使えない者たちが暮らしている場所ですわ。奴隷ほどではないですけれど、単純労働をするために集められた者たちで、魔法の研究の恩恵を受けられるのは一番最後の人たちですわね」
「……魔法が使えないけど、内壁に入ってもトラブルにならない?」
「そこは問題ありません。向こうが招いた側ですから」
招かれてないと問題になる、という事っすかね。
じゃあやっぱりノエルと一緒に入らなくてよかったな。
なんて事を考えながら馬車の窓から見える景色を眺めると、そこにはファンタジーな風景が広がっていた。……まあ、今更なんだけど。
空飛ぶ絨毯で移動している人もいるし、馬車を引いているのは馬じゃなくてペガサスだったりグリフォンだったりゴーレムだったりといろいろだ。
至る所に浮遊している両手に収まりそうなサイズの丸い物体もゴーレムらしいけど、あれは偵察用の物だろう、という事だった。
ジーッと目玉のような球体に見られている気がしたので見返していると別の方を向いてしまった。
「あ、そろそろ着くかな?」
「そうですわね。クーをそろそろ起こしておいた方が良いかもしれないですわ」
レヴィさんが僕の膝の上に頭を置いてスヤスヤと寝息を立てている女の子に視線を向けた。
先程から僕の膝の上で気持ちよさそうに眠っているのは、以前僕が作ったホムンクルスの内の一人であるクーだ。空のように青い髪の毛を優しく撫でると長い睫が動いた。
「ん~………すやぁ」
「狸寝入りやめようね。ほら、起きて起きて」
「………すやすや」
「寝てる人は口ですやすやなんて言わないからね」
小柄なクーは軽いので無理矢理起こす事も簡単だ。
レヴィさんと一緒に様子を見守ってくれていた侍女のセシリアさんが準備してくれた紐を受け取って、いつでも背負えるように準備をしておく。
それからしばらくすると馬車が停まった。
セシリアさんが「到着したようです」と立ち上がったので僕も立ち上がり、背中に飛びついてきたクーを紐で固定した。
最初にセシリアさんが降りて、その後にレヴィさんが続いた。
僕が最後に降りると、出迎えのために外にわざわざ出て来てくれたフランシス様が真っ白な髭を弄りながら僕たちを見た。
一瞬、僕の肩辺りを見た気がしたけど、クーを見たんだろうか。
「一週間ぶりじゃのう、シズト殿」
「そうですね、フランシス様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は無用じゃ。早速部屋に移動して話でもしようかのう」
身の丈ほどあって、先端に大きな宝石のような物がついている真っ白な杖をフランシス様が無造作に振るが、何も起きなかった。
ピクッと眉を動かしたフランシス様が視線を僕の肩にもう一度向けた。
「あーしの前で、お兄ちゃんをどこかに飛ばそうとするなんていい度胸じゃん?」
「なるほど、小さなお嫁さんだと思ったが、空間魔法の使い手か」
「クーは嫁じゃないです!」
イエス、ロリータ! ノー、タッチ! っていうし!
「シズト、今重要なのはそこじゃないと思うのですわ」
69
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる