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第20章 魔国を観光しながら生きていこう
幕間の物語198.若き女王はしばらく任せる事にした
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ランチェッタとディアーヌが転移したのは日が暮れた直後だった。
世界樹の根元にはフェンリルが丸まって眠っており白い大きな毛玉となっている。
世界樹の周囲に広がる畑のあちらこちらには、眠たそうに目を擦ったり欠伸をしたりしながら見回りをしているドライアドたちがいた。
転移した二人に声をかけたのもドライアドだった。ランチェッタたちがよく見る褐色肌のドライアドではなく、肌が白いドライアドだった。
眠たそうに目を半分閉じてはいたが、転移してきた二人をジッと見つめる。
「………人間さん、こんばんはぁ~」
「こんばんは。……屋敷に行ってもいいかしら?」
「畑に入らないでねぇ」
「気を付けるわ。ディアーヌ」
「はい」
声をかけられたディアーヌは転移する前から持っていた浮遊ランプに魔力を込めて起動した。
見回りや転移陣の見張りをしていないドライアドたちは眠ろうとしている様子を見て、ディアーヌは周囲をほんのりと照らす程度の明るさに留めたが、それでも屋敷へと続く道は分かる。
ランチェッタはディアーヌの半歩後ろをついて歩きながら首元にかけていた丸眼鏡を装着すると、ほんのりと照らされている畑の様子を見る。
「……流石に暗くてよく分からないわね」
「朝ご飯の後にしっかりとご覧になればよかったじゃないですか」
「しょうがないでしょ。城の様子が気になったんだから」
ランチェッタは今までほとんどの仕事を自力でこなしてきた。
式を挙げるためとはいえ、他の者に託し、一日城を空けた事はほとんどなかった。
そのため、何か問題が起きてないか気が気ではなかったので、朝はシズトと食事をとった後、急いでガレオールへと戻っていた。
結局、いつも通り何事も問題は起こっていなかったのだが、しばらくは朝に畑を見る余裕はないだろうな、とランチェッタは独り言ちた。
「余裕が出たら畑の見学でもさせてもらいましょう。実験農場のヒントになるかもしれないわ」
「そうですね。ついでに、シズト様と過ごす事ができますし、一石二鳥ですね」
「………ついでってわけじゃないけど、そうね」
「明日は槍が降るなど、何かとんでもない事が起こるかもしれません」
「どういう意味よ」
「別に特に意図は……って、勝手に灯りがつきましたね」
「誰かいるのかしら?」
屋敷の入り口の近くに設置されていた明かりが人が近づいた事に反応して点いた。
その様子を立ち止まって見上げていた二人だったが、しばらくしても誰もやって来なかったので、ディアーヌは言われていた通り扉を開けてランチェッタと共に中に入った。
窓から漏れ出ていた光から二人とも察していたが、室内は明かりがついていて、昼間のような明るさを維持していた。
調度品がいくつも飾られたエントランスを通り過ぎ、話し声が聞こえてくる方へと進んでいく。
廊下は薄暗かったが、近づいて行くとランプが勝手に点いて廊下を照らす。
奥の方の部屋の扉が開いていて、話し声はそこから聞こえていた。
ランチェッタたちが部屋に入ると既にほとんどの人が席に着いてそれぞれ話していたが、それぞれがランチェッタたちに挨拶をしていた。
しっかりと「こんばんは」や「お疲れ様ですわ!」と挨拶する者もいれば、軽く手を挙げるだけの者や、頷くだけの者もいた。
挨拶を返しながら昨日の昼の話し合いで決められた席に座ると、正面に座っていた女性が話しかけてきた。
「予定よりも遅かったですけれど、厄介事でもあったのですわ?」
金色の縦巻きロールを弄りながら心配そうな顔つきでランチェッタに話しかけたのはレヴィア・フォン・ドラゴニア。ドラゴニア王国の第一王女である。
シズトからプレゼントされた魔道具『加護無しの指輪』は、今は指に嵌めていた。
「いえ、特に何もなかったわよ。何事もなくお順調に披露宴の準備は進んでいるわ」
「今回遅れてしまったのは、物思いに耽って仕事どころではなかっただけです」
「ディアーヌ」
「おっと、口が滑ってしまいました」
「フフフッ。気持ちは分かるのですわ~。私も……あ、ノエルが引っ張られてきたみたいなのですわ」
レヴィアが視線を向けた先にはホムラに引きずられたノエルが部屋に入ってくるところだった。
本日分のノルマが終わっていないのか、引き摺られながらも片手で魔石に魔力を付与してはもう片方の手に持っているアイテムバッグの中に突っ込んでいる。それからまた魔石をアイテムバッグから取り出して魔法を付与していた。
ホムラが席に座り、ノエルが椅子に座らされた所で食事が始まった。
様々な身分の者が同じ食卓に座っている事やシズトがマナーについてよく知らない事もあり、屋敷での食事の時にはマナーを気にせずに食べる事が決まりとなっていた。
ランチェッタがレヴィアと話をしながら食事をしている背後では楽しそうに食事をしているランチェッタを温かい目で見守っているディアーヌがいたのだが、ランチェッタは視線を無視して食事を楽しんだ。
食後、シズトと別れたシズトの妻たちは、二階の談話室に集まっていた。
「……今日の当番はパメラだったはずですわね? 彼女がいないのは当然ですけれど、ノエルはどうしたのですわ?」
「ノルマが終わってないからと部屋に戻っていきました」
淡々とホムラが答えると、レヴィアは「今日の話を聞いておきたかったのですわ……」と肩を落とした。
ただ、いないものは仕方がない。ノエルが不参加なのは時々ある事だから他の者たちも気にしていなかった。後から共有すればいいだけの事だ。
気を取り直したレヴィアは改めて部屋に置かれた円卓を囲んでいる面々を見回した。
「ランチェッタは二回目の参加ですわね。前回はあなたにシズトの事を教える事がメインだったからひたすら話を聞いてもらいましたけれど、普段は各々の情報を出し合って共有する事が話し合いのメインテーマなのですわ」
「情報というと、どんなものかしら?」
「そうですわね。各々共有しておきたい自分の事を話したり、今日のシズトはどういう事をしていたかを話したり……は、ノエルがいないから今日はあんまりできないですわね」
「ご主人様から内壁の外側にある街を見て回った、と聞いているわ。その区画に住む者たち向けの食事だったから他の街とあまり変わらなかった、とは言ってたわね」
食事をする前の時間にシズトの近くで話をしていたユキがそう言うと、レヴィは記憶をたどるように視線を上に向けてから口を開いた。
「………確か、内壁の内側はいろいろな国の料理を出すお店がたくさんあるってお父様たちが言っていたのですわ。内壁の外側に関してはまた後日ノエルに報告してもらうとして……あとはシズトと夜、どう過ごしてどんな反応だったのか共有し合っているのですわ」
「やっぱり、話すのね」
前回の話し合いの際にその手の話が多かったのは初夜のためだとランチェッタは思っていたが、それにしては話す者たちが慣れた様子だったのが気になっていた。
ただ、実際は普段から共有していて、それが当たり前の事だと思っていればこその事だったのだ。
どんな事を何回して、シズトの様子がどうだったのかまで鮮明に覚えているランチェッタだったが、流石に夫婦の営みを話すのにはまだ抵抗があった。
結局、ランチェッタはあまり話す事はなかった。
ただ、ディアーヌがペラペラと話したため、どういう事をしたか細部まで共有される事になったのだが、ランチェッタはディアーヌを止める事はなかった。
ディアーヌが事細かに話をし終えた後はお互いの今日の出来事や明日の予定などを共有してお開きとなった。
ランチェッタはガレオールの自室に帰るために屋敷を後にし、浮遊ランプの明かりを頼りに進むディアーヌの背中を見る。
「……今後も、あなたに頼る事になりそうだわ」
「万事お任せください」
「揶揄う事を止めてくれるなら万事任せてもいいのだけれど?」
「それは無理ですね」
そうよね、とため息を吐くランチェッタとくすくすと笑うディアーヌは、転移陣を使ってその場を後にするのだった。
世界樹の根元にはフェンリルが丸まって眠っており白い大きな毛玉となっている。
世界樹の周囲に広がる畑のあちらこちらには、眠たそうに目を擦ったり欠伸をしたりしながら見回りをしているドライアドたちがいた。
転移した二人に声をかけたのもドライアドだった。ランチェッタたちがよく見る褐色肌のドライアドではなく、肌が白いドライアドだった。
眠たそうに目を半分閉じてはいたが、転移してきた二人をジッと見つめる。
「………人間さん、こんばんはぁ~」
「こんばんは。……屋敷に行ってもいいかしら?」
「畑に入らないでねぇ」
「気を付けるわ。ディアーヌ」
「はい」
声をかけられたディアーヌは転移する前から持っていた浮遊ランプに魔力を込めて起動した。
見回りや転移陣の見張りをしていないドライアドたちは眠ろうとしている様子を見て、ディアーヌは周囲をほんのりと照らす程度の明るさに留めたが、それでも屋敷へと続く道は分かる。
ランチェッタはディアーヌの半歩後ろをついて歩きながら首元にかけていた丸眼鏡を装着すると、ほんのりと照らされている畑の様子を見る。
「……流石に暗くてよく分からないわね」
「朝ご飯の後にしっかりとご覧になればよかったじゃないですか」
「しょうがないでしょ。城の様子が気になったんだから」
ランチェッタは今までほとんどの仕事を自力でこなしてきた。
式を挙げるためとはいえ、他の者に託し、一日城を空けた事はほとんどなかった。
そのため、何か問題が起きてないか気が気ではなかったので、朝はシズトと食事をとった後、急いでガレオールへと戻っていた。
結局、いつも通り何事も問題は起こっていなかったのだが、しばらくは朝に畑を見る余裕はないだろうな、とランチェッタは独り言ちた。
「余裕が出たら畑の見学でもさせてもらいましょう。実験農場のヒントになるかもしれないわ」
「そうですね。ついでに、シズト様と過ごす事ができますし、一石二鳥ですね」
「………ついでってわけじゃないけど、そうね」
「明日は槍が降るなど、何かとんでもない事が起こるかもしれません」
「どういう意味よ」
「別に特に意図は……って、勝手に灯りがつきましたね」
「誰かいるのかしら?」
屋敷の入り口の近くに設置されていた明かりが人が近づいた事に反応して点いた。
その様子を立ち止まって見上げていた二人だったが、しばらくしても誰もやって来なかったので、ディアーヌは言われていた通り扉を開けてランチェッタと共に中に入った。
窓から漏れ出ていた光から二人とも察していたが、室内は明かりがついていて、昼間のような明るさを維持していた。
調度品がいくつも飾られたエントランスを通り過ぎ、話し声が聞こえてくる方へと進んでいく。
廊下は薄暗かったが、近づいて行くとランプが勝手に点いて廊下を照らす。
奥の方の部屋の扉が開いていて、話し声はそこから聞こえていた。
ランチェッタたちが部屋に入ると既にほとんどの人が席に着いてそれぞれ話していたが、それぞれがランチェッタたちに挨拶をしていた。
しっかりと「こんばんは」や「お疲れ様ですわ!」と挨拶する者もいれば、軽く手を挙げるだけの者や、頷くだけの者もいた。
挨拶を返しながら昨日の昼の話し合いで決められた席に座ると、正面に座っていた女性が話しかけてきた。
「予定よりも遅かったですけれど、厄介事でもあったのですわ?」
金色の縦巻きロールを弄りながら心配そうな顔つきでランチェッタに話しかけたのはレヴィア・フォン・ドラゴニア。ドラゴニア王国の第一王女である。
シズトからプレゼントされた魔道具『加護無しの指輪』は、今は指に嵌めていた。
「いえ、特に何もなかったわよ。何事もなくお順調に披露宴の準備は進んでいるわ」
「今回遅れてしまったのは、物思いに耽って仕事どころではなかっただけです」
「ディアーヌ」
「おっと、口が滑ってしまいました」
「フフフッ。気持ちは分かるのですわ~。私も……あ、ノエルが引っ張られてきたみたいなのですわ」
レヴィアが視線を向けた先にはホムラに引きずられたノエルが部屋に入ってくるところだった。
本日分のノルマが終わっていないのか、引き摺られながらも片手で魔石に魔力を付与してはもう片方の手に持っているアイテムバッグの中に突っ込んでいる。それからまた魔石をアイテムバッグから取り出して魔法を付与していた。
ホムラが席に座り、ノエルが椅子に座らされた所で食事が始まった。
様々な身分の者が同じ食卓に座っている事やシズトがマナーについてよく知らない事もあり、屋敷での食事の時にはマナーを気にせずに食べる事が決まりとなっていた。
ランチェッタがレヴィアと話をしながら食事をしている背後では楽しそうに食事をしているランチェッタを温かい目で見守っているディアーヌがいたのだが、ランチェッタは視線を無視して食事を楽しんだ。
食後、シズトと別れたシズトの妻たちは、二階の談話室に集まっていた。
「……今日の当番はパメラだったはずですわね? 彼女がいないのは当然ですけれど、ノエルはどうしたのですわ?」
「ノルマが終わってないからと部屋に戻っていきました」
淡々とホムラが答えると、レヴィアは「今日の話を聞いておきたかったのですわ……」と肩を落とした。
ただ、いないものは仕方がない。ノエルが不参加なのは時々ある事だから他の者たちも気にしていなかった。後から共有すればいいだけの事だ。
気を取り直したレヴィアは改めて部屋に置かれた円卓を囲んでいる面々を見回した。
「ランチェッタは二回目の参加ですわね。前回はあなたにシズトの事を教える事がメインだったからひたすら話を聞いてもらいましたけれど、普段は各々の情報を出し合って共有する事が話し合いのメインテーマなのですわ」
「情報というと、どんなものかしら?」
「そうですわね。各々共有しておきたい自分の事を話したり、今日のシズトはどういう事をしていたかを話したり……は、ノエルがいないから今日はあんまりできないですわね」
「ご主人様から内壁の外側にある街を見て回った、と聞いているわ。その区画に住む者たち向けの食事だったから他の街とあまり変わらなかった、とは言ってたわね」
食事をする前の時間にシズトの近くで話をしていたユキがそう言うと、レヴィは記憶をたどるように視線を上に向けてから口を開いた。
「………確か、内壁の内側はいろいろな国の料理を出すお店がたくさんあるってお父様たちが言っていたのですわ。内壁の外側に関してはまた後日ノエルに報告してもらうとして……あとはシズトと夜、どう過ごしてどんな反応だったのか共有し合っているのですわ」
「やっぱり、話すのね」
前回の話し合いの際にその手の話が多かったのは初夜のためだとランチェッタは思っていたが、それにしては話す者たちが慣れた様子だったのが気になっていた。
ただ、実際は普段から共有していて、それが当たり前の事だと思っていればこその事だったのだ。
どんな事を何回して、シズトの様子がどうだったのかまで鮮明に覚えているランチェッタだったが、流石に夫婦の営みを話すのにはまだ抵抗があった。
結局、ランチェッタはあまり話す事はなかった。
ただ、ディアーヌがペラペラと話したため、どういう事をしたか細部まで共有される事になったのだが、ランチェッタはディアーヌを止める事はなかった。
ディアーヌが事細かに話をし終えた後はお互いの今日の出来事や明日の予定などを共有してお開きとなった。
ランチェッタはガレオールの自室に帰るために屋敷を後にし、浮遊ランプの明かりを頼りに進むディアーヌの背中を見る。
「……今後も、あなたに頼る事になりそうだわ」
「万事お任せください」
「揶揄う事を止めてくれるなら万事任せてもいいのだけれど?」
「それは無理ですね」
そうよね、とため息を吐くランチェッタとくすくすと笑うディアーヌは、転移陣を使ってその場を後にするのだった。
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