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第20章 魔国を観光しながら生きていこう
400.事なかれ主義者は抱き留められた
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世界樹トネリコのお世話はサクッと終わった。
お世話のついでに、褐色肌のドライアドたちにこちらで何か問題がなかったか確認したけど、何事も起きてないようだった。時折エルフが森の中に入ってくるそうだけど、それは世界樹の番人たちらしい。
都市国家トネリコの治安の維持と、世界樹の使徒の代理人としてたまにこっちに来るジューンさんの護衛や補佐をしてくれているエルフたちだ。
そのリーダー格であるリリアーヌさんという声の大きな女性も、街中にも少しずつ緑が戻りつつある、と言っていた。
恐らく呪いの影響で草木が枯れてしまっていたけど、徐々に戻っているようで何よりだ。
完全に回復するまではしばらく時間がかかるとの事だったけど……エルフやドライアドたちの言うしばらくってどのくらいなんだろう?
首を傾げてどうでもいい事を考えていると、生育の加護を使い終わったのを見計らってジュリウスが話しかけてきた。
都市国家ユグドラシルの世界樹の番人だった彼は、今は僕の専属護衛みたいな形でいつも一緒にいる。
「この後はいかがなさいますか?」
「転移門の必要な魔石がいくつになりそうかちょっと計算するつもり。転移陣は距離に比例して必要な魔力が増えてたから門もそうだと思うんだけどね」
ドライアドたちに別れを告げて歩き始めると、ジュリウスもついてきて隣に並んだ。
普段は後ろか前を歩く事が多い彼だけど、他に人がいない時はこうして並んで歩く事もあった。
転移陣に乗ってファマリーの根元に戻ってくると、眼前に畑が広がっている。世界樹フソーの周辺も順調に畑化が進んでいるけど、周囲に森が広がっているからここみたいに広大な畑にはならないだろう。
その広大な畑を管理、維持をしてくれているのは肌が白いドライアドたちだ。元々ユグドラシルにいたドライアドたちだったけど一部がこちらに移住してきて共に生活をしている。
魔道具『魔動散水機』や『魔動耕耘機』など、魔道具に頼れば自分たちで管理できるけど、植物の専門家であるドライアドたちに任せた方が上手くいきそうだし、魔石の節約になるからレヴィさんがドライアドたちに仕事としてお願いしていた。
世界樹ファマリーの根元で共に生活しているのはドライアドだけじゃない。
世界樹の地表に露出している根っこと根っこの間にすっぽりと収まるように丸まって眠っているのは毛が白い大きなフェンリルだ。
基本的に寝ている事が多い彼……彼女? だけど、町の周囲にアンデッドが貯まる頃になるとおもむろに起き上がって今のように城壁を飛び越えて魔物退治にいってくれる。その引き換えとして、一定量の酒と肉を報酬として渡している。これもレヴィさんが依頼した仕事だった。
「……フェンリル用の転移系の魔道具作った方が良いかな?」
「今の所町で問題は起きてませんからそこまでしなくてよろしいかと。それに、外と中心を繋いでしまうと悪用されてしまう可能性もありますから」
「そっか。……フェンリルに守ってもらえばその問題も解決しそうだけど、わざわざ面倒事が起きるかもしれない火種を作る必要はないか。……でも一応、フェンリルのせいで誰か怪我人が出たら教えて」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げたジュリウスに満足して、僕は屋敷に戻った。
魔道具について考えるのならばやっぱり自分の部屋じゃなくてノエルの部屋の方が良いよね、と思ってノエルの部屋にやってきた。
ハーフエルフのノエルは一心不乱に魔道具作りをしていた。
ノエルの弟子というか部下? として働いているのは人族のエイロンという男性と、エルヴィスというドワーフの女性だ。
普段は別館で暮らしている二人は、随分作業に慣れて来たのかお喋りをしながら魔道具を作っていた。
僕が部屋に入るとしばらくは静かになるんだけど、時間が経つとお喋りが再開されるのはいつもの事だ。
その話を聞き流しながら転移門や転移陣について考えを巡らせていると、ジュリウスが部屋に入ってきた。
普段は屋敷の中には入らずに周辺の警護をしているけど、何かあったんだろうか。
近くまでやってきたジュリウスは、僕の視線を受けて一度頷くと口を開いた。
「大した事ではありませんが、先程、ジュリーニから魔国ドタウィッチ王国の首都に到着したと連絡がありました。食事の時に報告しても良かったのですが、魔法で有名なドタウィッチに行けば何かしら魔道具に関するヒントを得られるのではないかと愚考し、報告させていただきました」
「ドタウィッチってどんなところだったっけ?」
「そうですね。話で聞いた限りでは国民の殆どが魔法を使えるとの事です。また、首都には魔法学校があり、魔法の研究が盛んなのだとか。いかがなさいますか?」
「んー、そうだね。必要になりそうな魔石は何となくわかったし、ちょっと気分転換しに行ってみようかな」
「かしこまりました。準備は既に終わっておりますので参りましょう」
ジュリウスについて行こうと席を立ち、歩き始めたところで後ろからガバッと誰かに抱き着かれた。
「ボクも行くっす!!」
振り向くとすぐ近くに興奮した様子のノエルの顔があり、彼女が先程まで座っていた椅子が音を立てて倒れ、山積みになっていた付与済みの魔石の山が崩れて床に散らばった。
お世話のついでに、褐色肌のドライアドたちにこちらで何か問題がなかったか確認したけど、何事も起きてないようだった。時折エルフが森の中に入ってくるそうだけど、それは世界樹の番人たちらしい。
都市国家トネリコの治安の維持と、世界樹の使徒の代理人としてたまにこっちに来るジューンさんの護衛や補佐をしてくれているエルフたちだ。
そのリーダー格であるリリアーヌさんという声の大きな女性も、街中にも少しずつ緑が戻りつつある、と言っていた。
恐らく呪いの影響で草木が枯れてしまっていたけど、徐々に戻っているようで何よりだ。
完全に回復するまではしばらく時間がかかるとの事だったけど……エルフやドライアドたちの言うしばらくってどのくらいなんだろう?
首を傾げてどうでもいい事を考えていると、生育の加護を使い終わったのを見計らってジュリウスが話しかけてきた。
都市国家ユグドラシルの世界樹の番人だった彼は、今は僕の専属護衛みたいな形でいつも一緒にいる。
「この後はいかがなさいますか?」
「転移門の必要な魔石がいくつになりそうかちょっと計算するつもり。転移陣は距離に比例して必要な魔力が増えてたから門もそうだと思うんだけどね」
ドライアドたちに別れを告げて歩き始めると、ジュリウスもついてきて隣に並んだ。
普段は後ろか前を歩く事が多い彼だけど、他に人がいない時はこうして並んで歩く事もあった。
転移陣に乗ってファマリーの根元に戻ってくると、眼前に畑が広がっている。世界樹フソーの周辺も順調に畑化が進んでいるけど、周囲に森が広がっているからここみたいに広大な畑にはならないだろう。
その広大な畑を管理、維持をしてくれているのは肌が白いドライアドたちだ。元々ユグドラシルにいたドライアドたちだったけど一部がこちらに移住してきて共に生活をしている。
魔道具『魔動散水機』や『魔動耕耘機』など、魔道具に頼れば自分たちで管理できるけど、植物の専門家であるドライアドたちに任せた方が上手くいきそうだし、魔石の節約になるからレヴィさんがドライアドたちに仕事としてお願いしていた。
世界樹ファマリーの根元で共に生活しているのはドライアドだけじゃない。
世界樹の地表に露出している根っこと根っこの間にすっぽりと収まるように丸まって眠っているのは毛が白い大きなフェンリルだ。
基本的に寝ている事が多い彼……彼女? だけど、町の周囲にアンデッドが貯まる頃になるとおもむろに起き上がって今のように城壁を飛び越えて魔物退治にいってくれる。その引き換えとして、一定量の酒と肉を報酬として渡している。これもレヴィさんが依頼した仕事だった。
「……フェンリル用の転移系の魔道具作った方が良いかな?」
「今の所町で問題は起きてませんからそこまでしなくてよろしいかと。それに、外と中心を繋いでしまうと悪用されてしまう可能性もありますから」
「そっか。……フェンリルに守ってもらえばその問題も解決しそうだけど、わざわざ面倒事が起きるかもしれない火種を作る必要はないか。……でも一応、フェンリルのせいで誰か怪我人が出たら教えて」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げたジュリウスに満足して、僕は屋敷に戻った。
魔道具について考えるのならばやっぱり自分の部屋じゃなくてノエルの部屋の方が良いよね、と思ってノエルの部屋にやってきた。
ハーフエルフのノエルは一心不乱に魔道具作りをしていた。
ノエルの弟子というか部下? として働いているのは人族のエイロンという男性と、エルヴィスというドワーフの女性だ。
普段は別館で暮らしている二人は、随分作業に慣れて来たのかお喋りをしながら魔道具を作っていた。
僕が部屋に入るとしばらくは静かになるんだけど、時間が経つとお喋りが再開されるのはいつもの事だ。
その話を聞き流しながら転移門や転移陣について考えを巡らせていると、ジュリウスが部屋に入ってきた。
普段は屋敷の中には入らずに周辺の警護をしているけど、何かあったんだろうか。
近くまでやってきたジュリウスは、僕の視線を受けて一度頷くと口を開いた。
「大した事ではありませんが、先程、ジュリーニから魔国ドタウィッチ王国の首都に到着したと連絡がありました。食事の時に報告しても良かったのですが、魔法で有名なドタウィッチに行けば何かしら魔道具に関するヒントを得られるのではないかと愚考し、報告させていただきました」
「ドタウィッチってどんなところだったっけ?」
「そうですね。話で聞いた限りでは国民の殆どが魔法を使えるとの事です。また、首都には魔法学校があり、魔法の研究が盛んなのだとか。いかがなさいますか?」
「んー、そうだね。必要になりそうな魔石は何となくわかったし、ちょっと気分転換しに行ってみようかな」
「かしこまりました。準備は既に終わっておりますので参りましょう」
ジュリウスについて行こうと席を立ち、歩き始めたところで後ろからガバッと誰かに抱き着かれた。
「ボクも行くっす!!」
振り向くとすぐ近くに興奮した様子のノエルの顔があり、彼女が先程まで座っていた椅子が音を立てて倒れ、山積みになっていた付与済みの魔石の山が崩れて床に散らばった。
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