596 / 1,023
第20章 魔国を観光しながら生きていこう
399.事なかれ主義者は意図的にスルーした
しおりを挟む
朝、いつもの時間に目が覚める。すっきりとした目覚めは魔道具『安眠カバー』のおかげだ。どれだけ夜更かしをしたとしても、決められた時間になると起きる事ができるからなかなか便利だ。
「おはようございます、シズト様」
「……おはようございます、ディアーヌさん」
耳元から聞こえた声にビクッとして起き上がろうとしたけど、起き上がれなかった。
柔らかな感触と共に、重みを感じて状況を理解した。
首だけ動かして右を向けば、普段は結っている灰色の髪はまだ結ばれていなくて、ところどころ寝癖がついている。
同じ専属侍女であるセシリアさんとは違って、僕が起きてもまだメイド服を着る様子はなく、僕の足に右足を絡ませていた。
笑みを浮かべたまま彼女は僕の頬に手を置くと、顔を近づけてきた。
「ほら、ランチェッタさんが起きてしまうから暴れないでください」
「もう起きてるわよ」
恥ずかしくて抵抗していると、じっと動かなかったランチェッタさんが口を開いた。
でも、解放してくれるつもりはないようだ。彼女は小さな体を精一杯僕の体に絡ませてきた。
「起きてるなら離してほしいんですけど……」
「朝の挨拶がまだだから離さないわ」
「おはようございます、ランチェッタさん。………離してくれません?」
「……ちょっと違うし、呼び捨てじゃないし、敬語だから嫌よ」
「ランチェッタ……さん、おはよう」
「……まあ、いいわ。レヴィも呼び捨てではないし。ほら、ディアーヌ。いつまでも寝てないで起きるわよ。っていうか、もう朝日が昇ってるじゃない! 早く着替えるわよ!」
ガウンを羽織ったランチェッタは、足早に部屋から出て行ってしまった。
取り残されたディアーヌさんはやれやれ、と言った感じでベッドの近くに用意していたガウンを羽織ると、立ち上がった。
「珍しくゆっくり眠っていらっしゃったのに、余計な事をしてしまいました。今度からは起きない程度にからかう事にしましょう」
「からかうのをやめてくれればそれでいいんだけどなぁ」
「それじゃあつまらないじゃないですか。……ああ、それと、私も呼び捨てで構いませんし敬語は不要ですからね。それでは、失礼します」
ディアーヌさんは小走りで部屋から出て行く。
それを見送って、扉が閉まった音を聞いてから布団から這い出て、無心で服を着た。
朝食もランチェッタさんは同席していた。メイド服に着替えたディアーヌさんはランチェッタさんの後ろに控えてニコニコしながらランチェッタさんの食事を見ている。
「あのランチェッタ様がしっかりと席に着いて食事に集中されている……ディアーヌ、感無量です」
「馬鹿な事言ってると追い出すわよ」
「ちゃんとしたご飯は食べた方が良いのですわ。毎食ここで食べるのですわ?」
「毎食は難しいわね」
「朝と夜であれば可能かと」
ディアーヌさんはランチェッタさんに睨まれてもすました顔で話を続けた。
「いつシズト様がいらっしゃってもいいように、朝から夜まで仕事を詰め込んで余裕ができるようにしてました。それを二週に一回のペースでお休みが取れるように、であれば無理のない範囲で可能かと。しばらくはシズト様とのご結婚の関係で忙しくなるかもしれませんが、次第に落ち着くでしょう」
「アトランティアが何もしてこなければ、ね」
「アトランティア?」
「魚人の国の事よ」
なるほど。アトランティスみたいな名前だしそうかなって思ったけどあってた。
過去の勇者が名付けに関係しているのか偶然なのか分からないけど、それは今はどうでもいいや。
食事を再開すると、ランチェッタさんが物憂げにため息を吐き、眉間に皺を寄せた。眼鏡をしているのに。
「式まで上げてしまったし、何かしらしてくるんじゃないかしら。アトランティアの王子とこちらの公爵派が手を結んで結婚の話が持ち上がってたけど、向こうの王がその事を黙認している以上、無関係とは思えないし、国を挙げて交易の邪魔とかはありそうね」
「ガレオールの事を見下してますもんね、アトランティアの方々は」
「海を航海するうえで長年頼り切っていたのは事実だけど、その分報酬を支払っていたはずなのに、ね。最近目に余るようになってきたのよね」
「海路だと邪魔されちゃうなら転移陣や転移門で繋げちゃおうって話もあったっけ。……クレストラ大陸と転移門で繋ぐ事も可能だけど、高ランクの魔石がいくつも必要になるかな。常に繋げ続けるのは現実的じゃないかも。国内だったらまあ、出来なくはないんじゃないかな。ほら、以前転移陣で島同士を繋げたじゃん? あんな感じで魔力量にもよるけど個人で繋げる事も可能かなって」
「今までもクレストラ大陸からの交易船が行き来するのは一カ月に一回程度だったけど、護衛料や長旅に必要な物資などの金額を考えると月に一度程度繋げる事はできるかもしれないわ。ちょっと必要な魔石の量とか算出してもらってもいいかしら?」
「いいよ。予定は特にないし、夕方頃には分かると思うから夜ご飯の時にでも口頭で教えるね」
「……まだ夜ご飯を一緒にするって言ってないんだけど?」
「あれ、そうだっけ? まあ、何にせよ、この屋敷に来るのにガレオールの魔道具店を通らないといけないと気軽に来れないだろうし、ランチェッタさんたち用の転移陣を作っておくね。ディアーヌさん、設置しておいてもらえる?」
「喜んで」
なんか言いたそうな顔でランチェッタさんが僕をジッと見てきたけど、僕は今ホムラとユキの口の周りを綺麗にするので忙しいっす。
「おはようございます、シズト様」
「……おはようございます、ディアーヌさん」
耳元から聞こえた声にビクッとして起き上がろうとしたけど、起き上がれなかった。
柔らかな感触と共に、重みを感じて状況を理解した。
首だけ動かして右を向けば、普段は結っている灰色の髪はまだ結ばれていなくて、ところどころ寝癖がついている。
同じ専属侍女であるセシリアさんとは違って、僕が起きてもまだメイド服を着る様子はなく、僕の足に右足を絡ませていた。
笑みを浮かべたまま彼女は僕の頬に手を置くと、顔を近づけてきた。
「ほら、ランチェッタさんが起きてしまうから暴れないでください」
「もう起きてるわよ」
恥ずかしくて抵抗していると、じっと動かなかったランチェッタさんが口を開いた。
でも、解放してくれるつもりはないようだ。彼女は小さな体を精一杯僕の体に絡ませてきた。
「起きてるなら離してほしいんですけど……」
「朝の挨拶がまだだから離さないわ」
「おはようございます、ランチェッタさん。………離してくれません?」
「……ちょっと違うし、呼び捨てじゃないし、敬語だから嫌よ」
「ランチェッタ……さん、おはよう」
「……まあ、いいわ。レヴィも呼び捨てではないし。ほら、ディアーヌ。いつまでも寝てないで起きるわよ。っていうか、もう朝日が昇ってるじゃない! 早く着替えるわよ!」
ガウンを羽織ったランチェッタは、足早に部屋から出て行ってしまった。
取り残されたディアーヌさんはやれやれ、と言った感じでベッドの近くに用意していたガウンを羽織ると、立ち上がった。
「珍しくゆっくり眠っていらっしゃったのに、余計な事をしてしまいました。今度からは起きない程度にからかう事にしましょう」
「からかうのをやめてくれればそれでいいんだけどなぁ」
「それじゃあつまらないじゃないですか。……ああ、それと、私も呼び捨てで構いませんし敬語は不要ですからね。それでは、失礼します」
ディアーヌさんは小走りで部屋から出て行く。
それを見送って、扉が閉まった音を聞いてから布団から這い出て、無心で服を着た。
朝食もランチェッタさんは同席していた。メイド服に着替えたディアーヌさんはランチェッタさんの後ろに控えてニコニコしながらランチェッタさんの食事を見ている。
「あのランチェッタ様がしっかりと席に着いて食事に集中されている……ディアーヌ、感無量です」
「馬鹿な事言ってると追い出すわよ」
「ちゃんとしたご飯は食べた方が良いのですわ。毎食ここで食べるのですわ?」
「毎食は難しいわね」
「朝と夜であれば可能かと」
ディアーヌさんはランチェッタさんに睨まれてもすました顔で話を続けた。
「いつシズト様がいらっしゃってもいいように、朝から夜まで仕事を詰め込んで余裕ができるようにしてました。それを二週に一回のペースでお休みが取れるように、であれば無理のない範囲で可能かと。しばらくはシズト様とのご結婚の関係で忙しくなるかもしれませんが、次第に落ち着くでしょう」
「アトランティアが何もしてこなければ、ね」
「アトランティア?」
「魚人の国の事よ」
なるほど。アトランティスみたいな名前だしそうかなって思ったけどあってた。
過去の勇者が名付けに関係しているのか偶然なのか分からないけど、それは今はどうでもいいや。
食事を再開すると、ランチェッタさんが物憂げにため息を吐き、眉間に皺を寄せた。眼鏡をしているのに。
「式まで上げてしまったし、何かしらしてくるんじゃないかしら。アトランティアの王子とこちらの公爵派が手を結んで結婚の話が持ち上がってたけど、向こうの王がその事を黙認している以上、無関係とは思えないし、国を挙げて交易の邪魔とかはありそうね」
「ガレオールの事を見下してますもんね、アトランティアの方々は」
「海を航海するうえで長年頼り切っていたのは事実だけど、その分報酬を支払っていたはずなのに、ね。最近目に余るようになってきたのよね」
「海路だと邪魔されちゃうなら転移陣や転移門で繋げちゃおうって話もあったっけ。……クレストラ大陸と転移門で繋ぐ事も可能だけど、高ランクの魔石がいくつも必要になるかな。常に繋げ続けるのは現実的じゃないかも。国内だったらまあ、出来なくはないんじゃないかな。ほら、以前転移陣で島同士を繋げたじゃん? あんな感じで魔力量にもよるけど個人で繋げる事も可能かなって」
「今までもクレストラ大陸からの交易船が行き来するのは一カ月に一回程度だったけど、護衛料や長旅に必要な物資などの金額を考えると月に一度程度繋げる事はできるかもしれないわ。ちょっと必要な魔石の量とか算出してもらってもいいかしら?」
「いいよ。予定は特にないし、夕方頃には分かると思うから夜ご飯の時にでも口頭で教えるね」
「……まだ夜ご飯を一緒にするって言ってないんだけど?」
「あれ、そうだっけ? まあ、何にせよ、この屋敷に来るのにガレオールの魔道具店を通らないといけないと気軽に来れないだろうし、ランチェッタさんたち用の転移陣を作っておくね。ディアーヌさん、設置しておいてもらえる?」
「喜んで」
なんか言いたそうな顔でランチェッタさんが僕をジッと見てきたけど、僕は今ホムラとユキの口の周りを綺麗にするので忙しいっす。
49
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる