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第20章 魔国を観光しながら生きていこう

399.事なかれ主義者は意図的にスルーした

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 朝、いつもの時間に目が覚める。すっきりとした目覚めは魔道具『安眠カバー』のおかげだ。どれだけ夜更かしをしたとしても、決められた時間になると起きる事ができるからなかなか便利だ。

「おはようございます、シズト様」
「……おはようございます、ディアーヌさん」

 耳元から聞こえた声にビクッとして起き上がろうとしたけど、起き上がれなかった。
 柔らかな感触と共に、重みを感じて状況を理解した。
 首だけ動かして右を向けば、普段は結っている灰色の髪はまだ結ばれていなくて、ところどころ寝癖がついている。
 同じ専属侍女であるセシリアさんとは違って、僕が起きてもまだメイド服を着る様子はなく、僕の足に右足を絡ませていた。
 笑みを浮かべたまま彼女は僕の頬に手を置くと、顔を近づけてきた。

「ほら、ランチェッタさんが起きてしまうから暴れないでください」
「もう起きてるわよ」

 恥ずかしくて抵抗していると、じっと動かなかったランチェッタさんが口を開いた。
 でも、解放してくれるつもりはないようだ。彼女は小さな体を精一杯僕の体に絡ませてきた。

「起きてるなら離してほしいんですけど……」
「朝の挨拶がまだだから離さないわ」
「おはようございます、ランチェッタさん。………離してくれません?」
「……ちょっと違うし、呼び捨てじゃないし、敬語だから嫌よ」
「ランチェッタ……さん、おはよう」
「……まあ、いいわ。レヴィも呼び捨てではないし。ほら、ディアーヌ。いつまでも寝てないで起きるわよ。っていうか、もう朝日が昇ってるじゃない! 早く着替えるわよ!」

 ガウンを羽織ったランチェッタは、足早に部屋から出て行ってしまった。
 取り残されたディアーヌさんはやれやれ、と言った感じでベッドの近くに用意していたガウンを羽織ると、立ち上がった。

「珍しくゆっくり眠っていらっしゃったのに、余計な事をしてしまいました。今度からは起きない程度にからかう事にしましょう」
「からかうのをやめてくれればそれでいいんだけどなぁ」
「それじゃあつまらないじゃないですか。……ああ、それと、私も呼び捨てで構いませんし敬語は不要ですからね。それでは、失礼します」

 ディアーヌさんは小走りで部屋から出て行く。
 それを見送って、扉が閉まった音を聞いてから布団から這い出て、無心で服を着た。



 朝食もランチェッタさんは同席していた。メイド服に着替えたディアーヌさんはランチェッタさんの後ろに控えてニコニコしながらランチェッタさんの食事を見ている。

「あのランチェッタ様がしっかりと席に着いて食事に集中されている……ディアーヌ、感無量です」
「馬鹿な事言ってると追い出すわよ」
「ちゃんとしたご飯は食べた方が良いのですわ。毎食ここで食べるのですわ?」
「毎食は難しいわね」
「朝と夜であれば可能かと」

 ディアーヌさんはランチェッタさんに睨まれてもすました顔で話を続けた。

「いつシズト様がいらっしゃってもいいように、朝から夜まで仕事を詰め込んで余裕ができるようにしてました。それを二週に一回のペースでお休みが取れるように、であれば無理のない範囲で可能かと。しばらくはシズト様とのご結婚の関係で忙しくなるかもしれませんが、次第に落ち着くでしょう」
「アトランティアが何もしてこなければ、ね」
「アトランティア?」
「魚人の国の事よ」

 なるほど。アトランティスみたいな名前だしそうかなって思ったけどあってた。
 過去の勇者が名付けに関係しているのか偶然なのか分からないけど、それは今はどうでもいいや。
 食事を再開すると、ランチェッタさんが物憂げにため息を吐き、眉間に皺を寄せた。眼鏡をしているのに。

「式まで上げてしまったし、何かしらしてくるんじゃないかしら。アトランティアの王子とこちらの公爵派が手を結んで結婚の話が持ち上がってたけど、向こうの王がその事を黙認している以上、無関係とは思えないし、国を挙げて交易の邪魔とかはありそうね」
「ガレオールの事を見下してますもんね、アトランティアの方々は」
「海を航海するうえで長年頼り切っていたのは事実だけど、その分報酬を支払っていたはずなのに、ね。最近目に余るようになってきたのよね」
「海路だと邪魔されちゃうなら転移陣や転移門で繋げちゃおうって話もあったっけ。……クレストラ大陸と転移門で繋ぐ事も可能だけど、高ランクの魔石がいくつも必要になるかな。常に繋げ続けるのは現実的じゃないかも。国内だったらまあ、出来なくはないんじゃないかな。ほら、以前転移陣で島同士を繋げたじゃん? あんな感じで魔力量にもよるけど個人で繋げる事も可能かなって」
「今までもクレストラ大陸からの交易船が行き来するのは一カ月に一回程度だったけど、護衛料や長旅に必要な物資などの金額を考えると月に一度程度繋げる事はできるかもしれないわ。ちょっと必要な魔石の量とか算出してもらってもいいかしら?」
「いいよ。予定は特にないし、夕方頃には分かると思うから夜ご飯の時にでも口頭で教えるね」
「……まだ夜ご飯を一緒にするって言ってないんだけど?」
「あれ、そうだっけ? まあ、何にせよ、この屋敷に来るのにガレオールの魔道具店を通らないといけないと気軽に来れないだろうし、ランチェッタさんたち用の転移陣を作っておくね。ディアーヌさん、設置しておいてもらえる?」
「喜んで」

 なんか言いたそうな顔でランチェッタさんが僕をジッと見てきたけど、僕は今ホムラとユキの口の周りを綺麗にするので忙しいっす。
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