上 下
584 / 1,023
第19章 自衛しながら生きていこう

391.事なかれ主義者は詫びの品を選定する

しおりを挟む
 世界樹の世話をするために数日間、シグニール大陸に戻っていたら、その間に世界樹フソーの周りが騒がしくなっているそうだ。

「森に被害が出てドライアドたちが騒いでしょうがねぇんだけどよ、シズト様、どうするんだ?」
「どうするって言われてもねぇ。向こうの状況が分からないけど、僕が行くわけにも行かないし……ああ、アレがあった」

 視界の先にはUFOみたいなフォルムをした円盤が地面に置いてあった。
 こっちに放置していたそれは『ドローンゴーレム』と名付けた遠隔操作系のゴーレムだ。
 コントローラーだけはアイテムバッグに入れて保管していたので、ホムラとユキにスクリーンや魔動投影機の準備をしてもらって、ドローンゴーレムを起動してみた。
 ドローンゴーレムに搭載された『魔動カメラ』が写したその映像は、リアルタイムで『魔動投影機』と同期してスクリーンに投影されている。

「これでちょっと偵察してみようか。アダマンタイト製だから壊れる心配もないし」
「動かしてみたいのですわ!」
「別にいいよ。……あ、でも偵察ってなると音とかも拾えた方が良いか」

 ドローンゴーレムには集音マイクみたいなものは付けてないし、投影機にはスピーカーがない。
 偵察ならばありとあらゆる情報があった方が良いだろうし、その方がドローンぽいからつけられるならつけてみたいんだけど……うん、できそうだ。
 ドローンゴーレムや魔動投影機に【付与】をしている時に、ラオさんの視線をとても感じたけれど、ため息を一つ吐かれただけで特に止められなかった。
 止めないの? と尋ねるルウさんには「しっかりとこっちで管理すればいいだろ」と言っていた。

「……ちょっと魔力消費激しいかも」
「大丈夫なのですわ! 魔力量には自信があるのですわ~」

 確かにレヴィさん、ずっと身体強化をしつつ魔道具を使っても倒れた事ないもんね。
 レヴィさんがコントローラーに魔力を流すと、ドローンゴーレムが起動した。
 スクリーンに僕たちが映し出される。

「音声機能はどうかな? ちょっとドーラさん、小さな声で何か言ってもらえる?」
「ん」

 ドローンゴーレムの後ろに回り込んで観察をしていたドーラさんが、レヴィさんに操縦されて近寄ってきたドローンゴーレムを両手で軽く挟むと小さな口を開いた。

『おなかすいた』
「……偵察しながらおやつにしようか」
『ん』
「レヴィさんはおやつどうする?」
「シズトに食べさせてもらうから大丈夫ですわ~」
「僕が大丈夫じゃない気がするんですけど?」
「身内だけだからいいと思うのですわ?」
「ちっちゃい子たちが見てるでしょ?」
「じゃあ建物の中に移動するのですわ!」

 そういうとレヴィさんはコントローラーを持ったまま建物へと向かって行ってしまった。
 ラオさんは苦笑を浮かべて魔動投影機を抱えて歩き始め、ルウさんは「私はシズトくんにあーんしてあげたいなぁ」とか返答に困る事を言いつつスクリーンを持って追いかけて行った。

「……とりあえず、ドーラさんもそれ放っておいていいからいこっか」
「ん」

 聞こえる程度の大きさで短く返事をすると、ドーラさんはドローンゴーレムを離して駆け寄ってきた。
 ジュリウスは建物の外で警戒するらしいし、ホムラとユキはライデンともう少し話をするようだったので、ドーラさんと仲良く並んで建物へと歩いて向かった。



 世界樹フソーの根元にあった建物は、先代の世界樹の使徒が使っていた事もありいろいろ大きかった。
 こんなにも大きな建物の中で一人で生活をするのは僕は無理だな。部屋はもっと狭くていいし、こんなにあっても掃除が大変だし……ああ、今はもう埃吸い吸い箱とか色々あるから掃除の心配はしなくてもいいのか。
 どうでもいい事を考えている間にスクリーンや魔動投影機の準備は終わって、レヴィさんがコントローラーに魔力を流した。
 スクリーンに映像が移り、スピーカーからは音が聞こえる。

「それじゃあ動かすのですわ~」
「くれぐれも安全飛行でお願いね」

 スピードを出しすぎて木にぶつかるとドライアドたちから抗議が入るだろうから。前回がそうだったし。
 室内に置かれていた高そうな革張りのソファーに腰かけていると、ポテトチップスが山盛りになったお皿を持ったドーラさんが僕の隣に腰かけた。
 建物内という事で護衛はおしまい、と全身鎧を脱いだドーラさんの重みで少しソファーが沈む。
 ポリポリと食べるのにつられて僕も食べ始めると、今度はレヴィさんが操作しながら椅子から立ち上がってボクの隣にやってきた。
 勢い良く座ったから結構揺れた。
 視線を逸らしていると、ドーラさんが僕の膝の上にポテチの入ったお皿を置いて、そこから取って食べ始めた。

「私も欲しいのですわ~」
「好きに取ればいいんじゃない?」
「手が塞がっているのですわ! 食べさせて欲しいのですわ」
「だって、ドーラさん」
「忙しい」

 パリパリパリパリと食べ続けるドーラさんは助け舟を出してくれなかったので周囲を見回したけど、皆スクリーンを見ながらくつろいでいた。
 ……誰も見ていないならいいか。
 口を大きく開けたレヴィさんの口の中にせっせとポテチを入れていく。
 お皿の中にポテチがなくなると「追加」と呟いたドーラさんがアイテムバッグから取り出したポテチが入った皿と僕の膝の上に乗った皿を取り換えた。
 ラオさんとルウさんはスクリーンの方をジッと見て何か話をしている様だったけど、声が小さすぎて聞こえない。

「……そろそろみたいですわね」

 スクリーンには森の中を進む様子が映し出されていたけど、ちらほらとドライアドたちが映るようになってきた。どうやら日中は彼女たちが見回りをしているらしい。外からの攻撃で怪我をしないように離れたところから植物たちの様子を見ている彼女たちは、ドローンゴーレムに気付いた様子だったけど、状況を理解しているのか、追いかけてくる事はなかった。
 ドローンゴーレムが森を抜けだしたようで、周囲が一気に開けた――と思ったのも束の間、勢い良く後退したのか景色が一気に戻っていく。

「レヴィさん?」
「私じゃないのですわ!」
「吹き飛ばされたみてぇだな」
「タイミングが悪かったのかしら」
「暢気な事を言ってる場合じゃないよ!? ほら、ドライアドたちが集まってきた! 謝らないと!」
「……こっちの声は向こうに届かないのに、どうやって謝るのですわ?」
「…………そうっすね」

 格子の向こう側の人と話をするためにもその機能はつけとかなくちゃいけなかった。
 レヴィさんにはドローンゴーレムを操作してもらって、来た道を戻ってもらう。
 僕はその間に、ドライアドたちに対してどう詫びるのか考えるのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

処理中です...