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第19章 自衛しながら生きていこう
幕間の物語190.若き女王は邪魔された
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シグニール大陸の南西部に広がるガレオールは大小さまざまな島を保有している海洋国家だ。
その国を統治しているのはランチェッタ・ディ・ガレオール。
両親が亡くなってからずっと、彼女がこの国を支えていた。
その地位と交易から生まれる莫大な富を狙って縁談が後を絶たなかった。
両親が健在な頃は縁談を受ける余裕もあったが、最近はその時間すら執政に当てていたため、気づけば結婚適齢期を過ぎてしまっていた。
それでも、時折縁談が来るのは彼女の美貌も理由の一つだろう。
小柄な体格に不釣り合いなほど規格外の大きさの胸は、どんな服を着ていても隠し切れない。
例え、農作業用の露出が少ない恰好をしていても、だ。
ショートボブの灰色の髪の上には普段つけている豪華な王冠はなく、つばの広い麦わら帽子を被っていた。
彼女が今いるのは『実験農場』と呼ばれる王家の直轄地だ。
朝日と共に近衛兵を引き連れてやってきたランチェッタは、実験農場の様子を見ていた。
畑として耕した場所以外は自由奔放に季節感関係なく植物が生い茂っていた。
だが、畑の方は決められた作物が整然と並んで植えられている。
「順調のようね」
「そのようです。除塩杭と結界のおかげで塩害も今の所見受けられません」
ランチェッタの独り言に答えたのは彼女の側付きメイドであり幼馴染のディアーヌだった。
彼女もまた、普段着ているメイド服ではなく、長袖長ズボンだった。
二人とも作物には触ろうとせず、顔を近づけてじっと眺めているのだが、それには理由がある。
「人間さん、おはよー」
「おはよ~~~」
元気よく二人に挨拶をした者たちが勝手に触ると機嫌を損ねるかもしれないと思ったからだ。
小柄なランチェッタよりもさらに小柄なその者たちの名はドライアド。
極稀に目撃される精霊に近い存在の種族だった。
なぜか女性しかおらず、どう増えているのか、何を食べて過ごしているのか、どんな生活を送っているのか等謎に包まれた生態の彼女たちだったが、ガレオールの『実験農場』を訪れれば毎日会う事ができる。
ただ、それを知っているのはここの管理を任せている者とランチェッタを守る近衛兵、それからディアーヌくらいだった。
実験農場を囲うように背の高い樹木が乱立していて、外からは仲の様子が見辛いからだ。
ただ、バレるのも時間の問題だろう、とランチェッタは思っていた。
「おはよう。今日もよろしくお願いするわ」
「まかせてー」
「がんばる!」
「ああ、でも畑は関係ない物を生やさないようにしてね」
「は~~~い」
返事だけはとてもいいが、よく見てないと気づいた時には畑に変な物を植えているのがドライアドだ。
彼女たちの言い分としては「これも美味しいよ」という事だったが、今は他の土地でも育てられるかもしれない物を検証しているだけなので余計な物は入れないようにお願いしている。
勝手に生えてくる雑草を抜いてもらう程度にお手伝いは抑えてもらう代わりに、畑以外は自由にしていいと言ったら自重を知らないドライアドたちは見た事がない作物をたくさん育ててしまっていた。
遠く離れたクレストラ大陸から『精霊の道』と呼ばれる所を通ってやってきてくれている事から、おそらくクレストラ大陸で自生している植物なのだろう。
荷として運ばれる物は加工された状態で持ってこられるため、ランチェッタでも見た事がない植物ばかりだった。
「お菊ちゃんはいるかしら?」
「今日もいないよー」
「フクちゃんといっしょにいるのー」
「フクちゃん?」
「フクちゃんはフクちゃんだよー」
「まだまだ考え事してるから、しばらく来ないよー?」
「そう……残念ね」
どれも似たような外見のドライアドだが、知識の量には差があるようで『お菊ちゃん』とシズトが名付けたまとめ役のドライアドが一番植物に詳しかった。何より、説明もしっかりと出来るタイプの子だった。
他のドライアドたちも植物について詳しいのだが、説明は要領を得ず「美味しい物」「美味しくない物」「良い匂い」「とても大きい」など断片的な特徴しか分からない。
そのため、視察のついでに時折やってきてはお菊ちゃんがいないか確認するのだが、今日もいない事が分かるとランチェッタは実験農場を後にした。
ランチェッタは馬車で白亜の城まで戻り、早足で自室に行くとディアーヌに着替えさせられた。
暑がりのランチェッタだが、最近は露出の少ないドレスを好んで着るようになっている。それでも規格外の胸と、そこからキュッと絞られた腰回りを隠す事は出来ないが。
ヒールの高い靴を履き、麦わら帽子の代わりに豪華な王冠を被せられるといつもの格好の女王陛下がそこにいた。
自室に置いてある魔道具『速達箱』の中を開けて中に手紙が入っている事を確認すると、ランチェッタは嬉しそうに口元を綻ばせる。
いそいそと椅子に座って姿勢よく手紙を読み始めている間に、ディアーヌは部屋から出て行った。
ランチェッタが返事の手紙を書く頃には戻ってくるのだが、今日は戻ってくるのが早く返事がまだ書き途中だった。
ランチェッタは眉間に皺を寄せてディアーヌを見るが、怒っているわけではなかった。
「何かあったの?」
「……魚人の国からの使者がいらっしゃったようです。至急、お目通り願いたい、との事ですがいかがいたしましょうか」
「事前に通達はあったかしら?」
「例のごとくありませんね」
「そう……あんまり待たせても騒ぎ立てるでしょうし、話を聞きにいきましょうか」
先程まで書いていた便箋と、速達箱の中に入っていた手紙をまとめて豪華な鍵付きの箱の中に入れると彼女は立ち上がった。
先程と打って変わって不快そうな顔をしていたが、自室から出る頃には不快感を表情から消して、使者の下へと向かうのだった。
その国を統治しているのはランチェッタ・ディ・ガレオール。
両親が亡くなってからずっと、彼女がこの国を支えていた。
その地位と交易から生まれる莫大な富を狙って縁談が後を絶たなかった。
両親が健在な頃は縁談を受ける余裕もあったが、最近はその時間すら執政に当てていたため、気づけば結婚適齢期を過ぎてしまっていた。
それでも、時折縁談が来るのは彼女の美貌も理由の一つだろう。
小柄な体格に不釣り合いなほど規格外の大きさの胸は、どんな服を着ていても隠し切れない。
例え、農作業用の露出が少ない恰好をしていても、だ。
ショートボブの灰色の髪の上には普段つけている豪華な王冠はなく、つばの広い麦わら帽子を被っていた。
彼女が今いるのは『実験農場』と呼ばれる王家の直轄地だ。
朝日と共に近衛兵を引き連れてやってきたランチェッタは、実験農場の様子を見ていた。
畑として耕した場所以外は自由奔放に季節感関係なく植物が生い茂っていた。
だが、畑の方は決められた作物が整然と並んで植えられている。
「順調のようね」
「そのようです。除塩杭と結界のおかげで塩害も今の所見受けられません」
ランチェッタの独り言に答えたのは彼女の側付きメイドであり幼馴染のディアーヌだった。
彼女もまた、普段着ているメイド服ではなく、長袖長ズボンだった。
二人とも作物には触ろうとせず、顔を近づけてじっと眺めているのだが、それには理由がある。
「人間さん、おはよー」
「おはよ~~~」
元気よく二人に挨拶をした者たちが勝手に触ると機嫌を損ねるかもしれないと思ったからだ。
小柄なランチェッタよりもさらに小柄なその者たちの名はドライアド。
極稀に目撃される精霊に近い存在の種族だった。
なぜか女性しかおらず、どう増えているのか、何を食べて過ごしているのか、どんな生活を送っているのか等謎に包まれた生態の彼女たちだったが、ガレオールの『実験農場』を訪れれば毎日会う事ができる。
ただ、それを知っているのはここの管理を任せている者とランチェッタを守る近衛兵、それからディアーヌくらいだった。
実験農場を囲うように背の高い樹木が乱立していて、外からは仲の様子が見辛いからだ。
ただ、バレるのも時間の問題だろう、とランチェッタは思っていた。
「おはよう。今日もよろしくお願いするわ」
「まかせてー」
「がんばる!」
「ああ、でも畑は関係ない物を生やさないようにしてね」
「は~~~い」
返事だけはとてもいいが、よく見てないと気づいた時には畑に変な物を植えているのがドライアドだ。
彼女たちの言い分としては「これも美味しいよ」という事だったが、今は他の土地でも育てられるかもしれない物を検証しているだけなので余計な物は入れないようにお願いしている。
勝手に生えてくる雑草を抜いてもらう程度にお手伝いは抑えてもらう代わりに、畑以外は自由にしていいと言ったら自重を知らないドライアドたちは見た事がない作物をたくさん育ててしまっていた。
遠く離れたクレストラ大陸から『精霊の道』と呼ばれる所を通ってやってきてくれている事から、おそらくクレストラ大陸で自生している植物なのだろう。
荷として運ばれる物は加工された状態で持ってこられるため、ランチェッタでも見た事がない植物ばかりだった。
「お菊ちゃんはいるかしら?」
「今日もいないよー」
「フクちゃんといっしょにいるのー」
「フクちゃん?」
「フクちゃんはフクちゃんだよー」
「まだまだ考え事してるから、しばらく来ないよー?」
「そう……残念ね」
どれも似たような外見のドライアドだが、知識の量には差があるようで『お菊ちゃん』とシズトが名付けたまとめ役のドライアドが一番植物に詳しかった。何より、説明もしっかりと出来るタイプの子だった。
他のドライアドたちも植物について詳しいのだが、説明は要領を得ず「美味しい物」「美味しくない物」「良い匂い」「とても大きい」など断片的な特徴しか分からない。
そのため、視察のついでに時折やってきてはお菊ちゃんがいないか確認するのだが、今日もいない事が分かるとランチェッタは実験農場を後にした。
ランチェッタは馬車で白亜の城まで戻り、早足で自室に行くとディアーヌに着替えさせられた。
暑がりのランチェッタだが、最近は露出の少ないドレスを好んで着るようになっている。それでも規格外の胸と、そこからキュッと絞られた腰回りを隠す事は出来ないが。
ヒールの高い靴を履き、麦わら帽子の代わりに豪華な王冠を被せられるといつもの格好の女王陛下がそこにいた。
自室に置いてある魔道具『速達箱』の中を開けて中に手紙が入っている事を確認すると、ランチェッタは嬉しそうに口元を綻ばせる。
いそいそと椅子に座って姿勢よく手紙を読み始めている間に、ディアーヌは部屋から出て行った。
ランチェッタが返事の手紙を書く頃には戻ってくるのだが、今日は戻ってくるのが早く返事がまだ書き途中だった。
ランチェッタは眉間に皺を寄せてディアーヌを見るが、怒っているわけではなかった。
「何かあったの?」
「……魚人の国からの使者がいらっしゃったようです。至急、お目通り願いたい、との事ですがいかがいたしましょうか」
「事前に通達はあったかしら?」
「例のごとくありませんね」
「そう……あんまり待たせても騒ぎ立てるでしょうし、話を聞きにいきましょうか」
先程まで書いていた便箋と、速達箱の中に入っていた手紙をまとめて豪華な鍵付きの箱の中に入れると彼女は立ち上がった。
先程と打って変わって不快そうな顔をしていたが、自室から出る頃には不快感を表情から消して、使者の下へと向かうのだった。
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