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第19章 自衛しながら生きていこう
386.事なかれ主義者は顔合わせをさせた
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迎賓館で働いているメイドさんに案内された部屋には、見慣れた三人組がいた。
明はまっすぐにこちらを見て深くお辞儀をして出迎えてくれたけど、姫花は軽く会釈しただけだし、陽太に至っては片手をあげて「よっ!」と言っただけだった。
僕は全然構わないんだけど、一緒について来たレヴィさんのこめかみに青筋が浮かんでいる気がするんだけど気のせいっすかね。
明が二人の頭を押さえつけて無理矢理挨拶をさせると、明が口元に笑みを浮かべながら感謝を述べてきた。
「来てくれてありがとうございます。会ったばかりだったので断られるかと思いましたが、お願いしたい事がありましたので。しばらくしたら数日留守にすると前回の話の時に仰っていた事を思い出したので急いで連絡しました」
「お願い、ねぇ」
「ああ、以前までのお願いではないですよ。立場が逆転してますし、今まで通りの要求をしたらすぐに追い出される事くらい理解しています」
「ふーん。……とりあえず、座ろうか」
折角ふかふかの椅子があるんだし。
明は「ありがとうございます!」と先程よりも嬉しそうな笑みを浮かべながら席に着いた。
「まだお願いを聞くとは言ってないよ?」
「分かってます。ただ、静人にも損のない話じゃないかと思いますよ。最近、高ランクの魔石を安定的に手に入れたいと仰っていましたよね?」
「まあ、言ったけど……それがなに?」
「僕たちを雇いませんか?」
「単刀直入だねぇ」
「駆け引きなんてお隣の王女殿下に見破られて酷い目に遭うだけですから」
まあ、確かに?
隣に座っているレヴィさんに視線を向けると、我関せずといった感じでセシリアさんが淹れた紅茶を飲んでいた。
交渉事であればレヴィさんにお願いしたいんだけど。
「シズト個人に対するお願いも私が対応した方が良いですわ?」
「……あー、まあ、僕が対応しようかな」
「じゃあのんびり紅茶でも飲んでるのですわ。……まあ、シズトに不利益な事があったら口出しはさせてもらうのですわ。努々お忘れなきように……」
「心得ております」
鷹揚に頷いたレヴィさんは、セシリアさんが用意した焼き菓子を食べ始めた。
チラッとしかそのお菓子を見ていないのにセシリアさんにはお見通しのようで、僕の前にちょっと多めに盛られた物が置かれた。
ポリポリと食べながら視線を明に移す。
「………」
「………」
「シズトに言いたい事が終わった事は伝わってないですわよ」
「終わったの?」
「終わったみたいですわ」
「雇わないかって言われただけなんだけど?」
「そうですわね。魔石を取ってくるように指名依頼を今後出せばそれでおしまい……が、普通ですけれど、その程度の事であればわざわざシズトを頼らないでしょう? どうしてシズトを頼ったのか……なるほど、アキラはこの町を拠点にしたくて、ヒメカは日帰りの仕事が良いようですわね。ヨウタはドランで暮らすようですけれど……ああ、転移魔法でアキラが送り迎えするみたいですわね。三人の希望を聞いたうえで、仕事の斡旋をしてほしい、と言ったところが本題のようですわ。駆け引き無しでするのであればその辺りもしっかりと伝えないとダメですわ」
「そうでしたね、申し訳ありません」
「なんか察しが悪い男扱いしてない?」
「そんな事ないのですわ」
ほんとかな。それにしては姫花が吹き出して笑ったし、明は視線を逸らしてるし、レヴィさんはいつも以上におすまし顔なんですけど?
まあ、雇ってほしいってだけで意図を汲み取るのは無理――「雇ってほしいと言われたら条件は? って聞けばよかったのですわ」あ、はい。そうなんですね。次があったらそうしますね。
レヴィさんは話したい事は話し終えたとまた紅茶を一口飲んだ。
「静人を頼ったのは、この町で暮らしている奴隷たちがダンジョンで活動していると聞いたからです。そこは静人が管理しているのでしょう? しかも日帰りで探索する子もいると聞きました」
「あー、離れ小島のダンジョンの方かな?」
確か町の子たちの中で一番深い所を探索している子は途中から再開できるように転移陣を携帯させていたはずだ。
戻ってきている間はエルフたちにお願いして転移陣の警護をしてもらっているので、探索を再開するために転移した瞬間魔物に囲まれている、なんて事はない。
「でもあそこ、確かランクの低い魔物しかまだでてきてないよ? ……だよね?」
「そうですわね。普通に探索したら実入りは少ないと思うのですわ。ただ、最深部の調査はしていないのですわ。ラオやルウが冒険者ギルドと一緒に合間合間に調査しているはずですけれど、シズトの護衛が優先ですからこの三人に任せてもいいかもしれないですわね」
後ろにいたラオさんとルウさんに視線を送ると、ルウさんは頷いて、ラオさんは僕の頭を鷲掴みにすると前を向くように動かされた。
細かい条件とかは依頼する側が決めていいとの事だったので明日にでもギルドに行って依頼を出そう。
「ただ、その前に三人にはやってもらわないといけない事があるんだよね」
「誓文ですか? 内容によりますが、構いませんよ」
「あー、それもそうだね? それもそうなんだけど……まずは顔合わせかな」
しておかないとお互い嫌な思いをする事になるだろうからね。
ここではできないからと、明たちを連れて迎賓館を後にした。
世界樹の根元まで案内したら、真っ白な毛玉に警戒している様だったけど、そっちよりもこっちのちっちゃい子たちに挨拶してほしいなぁ。
明はまっすぐにこちらを見て深くお辞儀をして出迎えてくれたけど、姫花は軽く会釈しただけだし、陽太に至っては片手をあげて「よっ!」と言っただけだった。
僕は全然構わないんだけど、一緒について来たレヴィさんのこめかみに青筋が浮かんでいる気がするんだけど気のせいっすかね。
明が二人の頭を押さえつけて無理矢理挨拶をさせると、明が口元に笑みを浮かべながら感謝を述べてきた。
「来てくれてありがとうございます。会ったばかりだったので断られるかと思いましたが、お願いしたい事がありましたので。しばらくしたら数日留守にすると前回の話の時に仰っていた事を思い出したので急いで連絡しました」
「お願い、ねぇ」
「ああ、以前までのお願いではないですよ。立場が逆転してますし、今まで通りの要求をしたらすぐに追い出される事くらい理解しています」
「ふーん。……とりあえず、座ろうか」
折角ふかふかの椅子があるんだし。
明は「ありがとうございます!」と先程よりも嬉しそうな笑みを浮かべながら席に着いた。
「まだお願いを聞くとは言ってないよ?」
「分かってます。ただ、静人にも損のない話じゃないかと思いますよ。最近、高ランクの魔石を安定的に手に入れたいと仰っていましたよね?」
「まあ、言ったけど……それがなに?」
「僕たちを雇いませんか?」
「単刀直入だねぇ」
「駆け引きなんてお隣の王女殿下に見破られて酷い目に遭うだけですから」
まあ、確かに?
隣に座っているレヴィさんに視線を向けると、我関せずといった感じでセシリアさんが淹れた紅茶を飲んでいた。
交渉事であればレヴィさんにお願いしたいんだけど。
「シズト個人に対するお願いも私が対応した方が良いですわ?」
「……あー、まあ、僕が対応しようかな」
「じゃあのんびり紅茶でも飲んでるのですわ。……まあ、シズトに不利益な事があったら口出しはさせてもらうのですわ。努々お忘れなきように……」
「心得ております」
鷹揚に頷いたレヴィさんは、セシリアさんが用意した焼き菓子を食べ始めた。
チラッとしかそのお菓子を見ていないのにセシリアさんにはお見通しのようで、僕の前にちょっと多めに盛られた物が置かれた。
ポリポリと食べながら視線を明に移す。
「………」
「………」
「シズトに言いたい事が終わった事は伝わってないですわよ」
「終わったの?」
「終わったみたいですわ」
「雇わないかって言われただけなんだけど?」
「そうですわね。魔石を取ってくるように指名依頼を今後出せばそれでおしまい……が、普通ですけれど、その程度の事であればわざわざシズトを頼らないでしょう? どうしてシズトを頼ったのか……なるほど、アキラはこの町を拠点にしたくて、ヒメカは日帰りの仕事が良いようですわね。ヨウタはドランで暮らすようですけれど……ああ、転移魔法でアキラが送り迎えするみたいですわね。三人の希望を聞いたうえで、仕事の斡旋をしてほしい、と言ったところが本題のようですわ。駆け引き無しでするのであればその辺りもしっかりと伝えないとダメですわ」
「そうでしたね、申し訳ありません」
「なんか察しが悪い男扱いしてない?」
「そんな事ないのですわ」
ほんとかな。それにしては姫花が吹き出して笑ったし、明は視線を逸らしてるし、レヴィさんはいつも以上におすまし顔なんですけど?
まあ、雇ってほしいってだけで意図を汲み取るのは無理――「雇ってほしいと言われたら条件は? って聞けばよかったのですわ」あ、はい。そうなんですね。次があったらそうしますね。
レヴィさんは話したい事は話し終えたとまた紅茶を一口飲んだ。
「静人を頼ったのは、この町で暮らしている奴隷たちがダンジョンで活動していると聞いたからです。そこは静人が管理しているのでしょう? しかも日帰りで探索する子もいると聞きました」
「あー、離れ小島のダンジョンの方かな?」
確か町の子たちの中で一番深い所を探索している子は途中から再開できるように転移陣を携帯させていたはずだ。
戻ってきている間はエルフたちにお願いして転移陣の警護をしてもらっているので、探索を再開するために転移した瞬間魔物に囲まれている、なんて事はない。
「でもあそこ、確かランクの低い魔物しかまだでてきてないよ? ……だよね?」
「そうですわね。普通に探索したら実入りは少ないと思うのですわ。ただ、最深部の調査はしていないのですわ。ラオやルウが冒険者ギルドと一緒に合間合間に調査しているはずですけれど、シズトの護衛が優先ですからこの三人に任せてもいいかもしれないですわね」
後ろにいたラオさんとルウさんに視線を送ると、ルウさんは頷いて、ラオさんは僕の頭を鷲掴みにすると前を向くように動かされた。
細かい条件とかは依頼する側が決めていいとの事だったので明日にでもギルドに行って依頼を出そう。
「ただ、その前に三人にはやってもらわないといけない事があるんだよね」
「誓文ですか? 内容によりますが、構いませんよ」
「あー、それもそうだね? それもそうなんだけど……まずは顔合わせかな」
しておかないとお互い嫌な思いをする事になるだろうからね。
ここではできないからと、明たちを連れて迎賓館を後にした。
世界樹の根元まで案内したら、真っ白な毛玉に警戒している様だったけど、そっちよりもこっちのちっちゃい子たちに挨拶してほしいなぁ。
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