【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第19章 自衛しながら生きていこう

幕間の物語188.聖女たちはもっと稼ぎたい

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 シグニール大陸に転移した勇者である茶木姫花は悩んでいた。
 不毛の大地に生えた世界樹を中心に拡がり続ける町ファマリアを生活の拠点としようと考えていた彼女だったが、高位冒険者向けの仕事がギルドになかったのだ。
 町の外にでればアンデッド系の魔物がわらわらと湧いて出てくるが、出てくるのはゾンビやレイス等の低ランクの魔物ばかりだった。
 魔石の値段が上がっているため宿代を稼ぐ事は出来ていたが、引退後の貯蓄や、自分の好きな物を買い漁るための娯楽費を稼ぐ事はできていなかった。
 耐えがたい悪臭を放つ魔石の回収作業をするのも気持ちが萎える原因だった。
 フェンリルが町の近くに湧いたアンデッド系の魔物を一掃した後に、我先にと取りに行く首輪付きの子どもたちやその後をゆっくりと見守りながらついて行く中年冒険者たちはどうして気にならないのだろう、と不思議だった。

「アンデッド系の魔物相手だと二人でも無双できますが、魔石を拾ったり取り出したりする作業で時間がかかりますし、思うように稼げないのが現実のようですね。ホムラさんがひたすら魔石を買い集めているようなので、しばらくの間は値崩れの心配はありませんけど、不毛の大地と言えども魔物が無限に湧くわけではないので、一日だけの探索でこれ以上稼ぐのは厳しそうです」

 定宿としている『子猫の宿』で夕食のポトフを食べている姫花にそういったのは、黒川明。同じ勇者として異世界転移してきた中性的な少年だった。
 彼は知識の神から【全魔法】という加護を授かっており、姫花が得意とする光魔法や町をすっぽりと覆っている神聖魔法も扱う事ができたので、姫花と同じく周囲のアンデッドを倒して生活をしようと考えていたようだった。
 ただ、高ランク冒険者として活動していた頃は一回のクエストで大金貨以上を当たり前のように貰っていた。
 それと比べると少ない収入に思う所があるようだ。
 端正な顔立ちが若干曇っている。
 その様子を、食事が終わって爪楊枝で歯に挟まった物を取っていた金田陽太は見ていた。
 髪は金色に染めているが、目の色を変える事は出来ておらず、焦げ茶色の瞳だ。
 冒険を通して引き締まった体を見せびらかすようなラフな格好をしていた。
 姫花や明と違って今日ものんびりと過ごししていた彼は歯に挟まった物が取れたのか、爪楊枝を空になった皿の上に捨てた。

「だからドランに行こうって言ってんじゃねぇか。向こうには高ランク冒険者向けのダンジョンがすぐ近くにあるんだぜ? 大金貨どころか、白金貨すら稼げるだろ」
「その反面、探索のために事前に準備する物が多すぎるんですよ。死と隣り合わせの冒険ですし、日帰りの冒険になるわけがないので、事前準備を怠るわけにはいきません。武器や防具はより良いものにする必要はありますし、手入れも入念にしなければなりません。回復系のポーションなども姫花や僕がいるとはいえ、魔力は無尽蔵ではありませんから大量に必要ですし、支出が多くなりすぎるんですよ」
「でもここで手に入る稼ぎよりは残る利益は三等分してもデカいだろ?」
「まぁ、そうなんですけどね……」
「何日もダンジョンの中で過ごすの、もう嫌なんですけど~。ご飯はアイテムバッグのおかげで多少マシになったけど、お風呂は入れないし、ふかふかのベッドで眠れないじゃん。聖女として行動すれば安全な所でたくさんお金貰えるしわざわざそんな所に行く必要ないし~。明も治癒系の魔法使えるんだからそういう仕事受ければいいじゃん」

 ドラゴニアに向かうまでの道中でも、姫花はオフの日に小遣い稼ぎとして【聖女】の加護を使って金を稼いでいた。
 明がしなかったのは、旅の途中で出会う魔物や盗賊たちを相手にするだけである程度のお金が懐に入っていたからだ。オフの日を潰してまで仕事をする必要性が明にはなかった。
 ただ、目的地について周辺には強い魔物もおらず、ダンジョンも近くにはないとなると、そっちに手を出すのもありかもしれない、と考え始めたところだった。
 ただ、そうなると今まで旅を共にしてきた仲間である陽太をどうするか問題が浮上するのだ。
 神様から【剣聖】の加護を授かった彼は、戦いの中でしかお金を稼ぐ手段がないだろう。
 剣術の指南役もありかもしれないが、エンジェリア帝国での出来事のせいで、女が絡むと問題が起きてしまう。
 また、誰かに何かを教えるようなタイプでは元々なかったのもある。
 明はいろいろ考えた上で、聞いてみる事にした。

「仮に、僕も姫花のように癒しの力で生計を立てるとして、陽太はどうするつもりなんですか?」
「ソロでもパーティーでもいいから冒険続けてればいいんじゃない? それくらいしか使い道ないでしょ、陽太の加護って」

 日頃の行動を見ているからか、陽太に対する姫花の態度は冷たかった。
 陽太は眉間に皺を寄せて姫花を睨むが、姫花はそっぽを向くだけで何も言わない。

「……まあ、ファマリアにいる以上そのような事で生計を立てるのは難しいでしょうけどね。そういう力で稼ぐんだったら結局ドランとか王都に行った方が稼げますし。ただ、お互い別々の所で活動するとなると、間違いなく囲い込まれるでしょうね」
「だよな。ニホン連合でも姫花を特に狙ってた様子だったしな」
「なんて言ったって【聖女】の加護持ちで女性ですからね。狙われるのは当然です。無論、僕や陽太もですけど……話が進まないのでまず譲れない条件を確認しましょう。僕はファマリアを活動の拠点にするつもりです。静人と懇意になっておいた方が良いでしょうからね。姫花はどうですか?」
「姫花は何日も冒険なんて絶対嫌。毎日お風呂に入って暖かい布団で寝るって決めたの。場所はどこでもいいけど、陽太と一緒よりかは明との方が安全そうだし」
「どういう意味だコラ!」
「そういう意味よバカ!」
「ほらほら、周りの注目を集めちゃうんで、騒がないでくださいね。……それで? 陽太はどうなんですか?」
「チッ。……俺は金が稼げて、相手がいればどこでもいいな。この町じゃ店がないし下手に手も出せねぇし」
「なるほど。そうなると陽太だけがドランに行く事になりそうですね。ただ、そうすると色々心配ですし、やっぱり三人で引き続き稼ぐ事ができる方法をちょっと考えましょう」
「ドランに行くんだったら一緒に活動なんて無理じゃない?」
「いえ、出来ますよ。この町に戻ってきたら転移で陽太を送ればいいだけですから。ドランには一度行った事がありますし、国境を越える訳じゃないから文句も言われないでしょう。念のため確認は取りますけどね。後の問題は日帰りで割のいい仕事が見つかるか、ですが……ドラン公爵や国王陛下にも相談してみましょう」

 まあそんな仕事は他の者に既に取られているでしょうけど、という言葉は口には出さず、食事を終えた明は席を立って泊っている部屋に戻っていった。
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