【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
566 / 1,094
第19章 自衛しながら生きていこう

379.事なかれ主義者は触るのを我慢した

しおりを挟む
 世界樹フソー周辺を覆うほどの巨大な鳥籠もどきを作り、シグニール大陸に戻ってきた翌日。
 安眠カバーのおかげで今日もすっきりと目を覚ます事ができた。
 昨日のお世話係だったモニカは既にメイド服に着替えていて、ベッドの傍に立って僕を見ていた。

「おはようございます、シズト様」
「おはよう、モニカ」

 綺麗なお辞儀をしたモニカは「着替えはそちらにご用意しております」と言って畳まれている服を示した後、部屋から出て行った。
 クレストラ大陸で過ごす間は夫婦の営みとかは全くなかったからか、昨日も夜遅くまでしちゃったけど疲れた様子が見えないのはすごい。
 僕は安眠カバーがなかったらきっと寝不足だったと思う。
 用意されていた服は動きやすいラフな物だった。
 甚兵衛からさっさとそれに着替えて立ち上がったタイミングで、部屋の扉がノックされた。

「シズト様、お着替えはお済でしょうか」
「もう終わったよ」

 答えながら声がした方の扉へと足を向ける。
 扉を開いた先にはメイド服を着た狐人族の少女エミリーが立っていた。
 彼女の赤い瞳が僕を映すと、「おはようございます」と言いながらぺこりと頭を下げられた。
 白い髪とふさふさの狐耳が目に映る。
 触りたくなる衝動を抑えながら挨拶を返すと、僕の考えを見透かしているかのようにフフッと笑って「触ってもいいんですよ?」とエミリーが頭頂部をスッと近づけてくる。
 いい香りがしたし、ふさふさの耳がピコピコ動いているけど、グッと堪えて歩き出すと、後ろからまたくすくすと笑う声が聞こえてきた。

「朝ご飯はもうできてるの?」
「はい。もう準備を終えております」

 後から追いかけてきて腕と腕が触れ合うほどの近さで並んだエミリーが僕を見上げながら答えた。
 仕事の話をする時は真面目な顔をするエミリーだけど、彼女の自慢の白い尻尾はブンブンと荒ぶっており、僕の体にモフッモフッとあたる。

「……当ててるんですよ?」
「ですよね」
「シズト様は耳と尻尾がお気に入りの様ですから」
「否定はできないなぁ」

 なんであんなに魅力的なんだろうなぁ、と考えながら階段を下りて食堂に向かうと、既に皆揃っていた。
 席に座って食事の前の挨拶を唱和すると、食事が始まる。
 いつものごとくラオさんとルウさんはすぐに食べ終えてしまった。
 量は二人の方が多いはずなんだけどなぁ。

「ラオさんたちは今日、どこかでかけるの?」
「冒険者ギルドにちょっとな」
「ベラちゃんからお願いされた仕事があるから受けてくるわ。しばらく依頼をしないとランクが下がっちゃうからそれを心配して手配してくれたみたいだし、ご厚意に甘えようかなって」
「まあ、冒険者じゃなくなっても別にいいんだけどな。ただ、高ランクの魔石を取りに行くってなると、ダンジョンに潜った方が確実だから冒険者のままの方が何かと都合がいいからな」
「ふーん。……ダンジョンだったら出てくる魔物も基本的に同じだもんね」
「そういう事だ。……町のチビ共がある程度力をつけたら低ランクの魔石は大量に出回るようになるだろうな」

 町の子たちの希望者には、ガレオール国内にある離れ小島のダンジョンを探索してもらっている。
 ガレオールから貰った小さな島にはダンジョンがあったので、そのダンジョンのすぐ近くとファマリーを転移陣で繋いでいるのだ。
 町の子たちが探索をするようになってからだいぶ経っているけど、今の所けが人が出たという報告は受けていない。
 些細な怪我は報告をしないようにしているのかもしれないけど、冒険者の些細な怪我と僕の些細な怪我は多分乖離があると思うから、もうそろそろ様子を見に行こうと思っている。
 モシャモシャとサラダを食べていると窓の外から感じていた視線がなくなった。
 そちらに視線を向けると、遠くへと散り散りに去っていくドライアドたちの背中が見える。

「やっぱりクレストラ大陸にいるドライアドたちの気配を感じてるのかな? いつもよりも覗いている子たちが多かったけど」
「そうかもしれないですわね。今日も早朝に畑を耕していたらいつも以上に集まってきてジロジロと観察されたのですわ」

 今日のプレゼント攻撃は激しい物になりそうだな、と思いつつ咀嚼し終えたサラダを飲み込むと、口をパンパンに膨らませたノエルが何やら言いながら足早に部屋から出て行った。
 たぶん「ごちそうさまでした」って言おうとしたんだろうけど、口に物が詰まりすぎていて聞き取れなかった。
 転移門の観察のために疎かにしていた分、大量のノルマが課せられたから必死なのかも?
 ノルマを課したホムラとユキはいつものように口元を汚しながら食事をしていたので、二人用に用意していた布を使って口の周りを拭ってやる。

「二人は今日も店番? 店を任せる人を探しているって話はどんな感じ?」
「知識奴隷は既に購入しております、マスター」
「奴隷契約に加えて、誓文も交わしているわ、ご主人様。今は私たちの代わりに仕事をしてもらっているけれど、まだまだだから今日も店番に行くわ」
「そうなんだ。よろしくね。……ジューンさんは?」

 二人の口の周りを拭き終わったので、布を近くに置いてからジューンさんに視線を向けると彼女は首を傾げて考えていた。
 腕を組んで考えると、エルフらしからぬ胸が強調されるんですけど……。
 今日は蔦の刺繍がされたエルフの正装を着ていないのでエルフの国には行く予定がないのだろうと予想して聞いてみたけど、予想は当たっていたようだ。

「特に予定はありませんからぁ、エミリーちゃんと一緒にぃ、厨房の子たちに料理を教えようかと思いますぅ」
「厨房で働き始めてそこそこ経っている気がするけど、順調?」
「順調ですよぉ。関係はちょっと複雑ですけどぉ、仲は悪くなさそうですしぃ、問題ないかとぉ」
「それならよかった」

 全然厨房の子たちと話す時間がないからどういう子なのか掴み切れてない。
 今度時間を作って様子を見に行ってみよう。

「シズトは午前中何をするのですわ?」
「とりあえずトネリコのお世話かな。その後は特に決めてないけど、たぶんこっちで時間を潰すと思う」
「分かったのですわ~。それまでは畑の手入れでもしているのですわ!」

 セシリアさんが後ろでため息をついているけど、ドレス姿で農作業をするのはもう止められないんじゃないかなぁ。
 そんな事を思いながら、食事を進めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...